ベーゼ・ハイエンスの失敗
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そのため、内容が変更になっています。
蛇足と言われてしまわないか心配の回です。
こちらも性的描写があります。
後少しで学園を卒業するという頃に、第二王女のキャリーに見初められた。
第二王女の護衛なら楽ができていいと思った私は、ダメ押しとばかりに王女ににっこりと微笑みかけておいた。
代々騎士爵を継いできたハイエンス家だったが、一人息子だった父は騎士の才はなく、文官にならざるを得なかった。
祖父は我が子にがっかりし、祖父が死ぬまでになんとしても騎士になれる子を作れと言われたが私しか生まれなかった。
体を動かす事が好きだった私は学園で騎士科を選択した。
祖父は大層喜び、私が騎士科に入った時、両親を仲の良かった伯爵の領地へ送ってしまった。
その仕打ちに腹を立てた両親は私のことまで気にかけなくなってしまった。
祖父は私が第二王女付きになることに決まった時、満足してあっさり逝ってしまう。
両親を呼び戻そうとしたが、父の腹立ちはまだ収まっていず、私の声かけに返答はなかった。
正直、私に怒りの矛先を向けられても困る。冷却期間を置くしかないかと諦めた。
陛下に、祖父の後の騎士爵を継ぐか尋ねられ「継がせていただきたい」と私は答えた。
第二王女付きになることもあって、陛下と祖父に心酔していた騎士が後見人となって、卒業と同時に騎士爵を継いだ。
ミランダとの婚約は子供の頃、私が祖父に強請って成立してもらった。
祖父に命を助けられたことがあったペンス家は拒否できず、ミランダと子供の頃に仲が良かったのををいいことに力技で婚約が整った。
私は人より見た目がいいという自覚が子供の頃からあった。
ミランダは可愛い見た目に、いつも人に囲まれる彼女を側に置くことは、私にとって優位に働くだろうと子供ながらに考えた。
伯爵以上の婚約者を求めるのは騎士爵では無理だということも知っていた。
結婚までに私が武功を立てられた時はまたその時考えればいい。
ミランダは私の見た目にはあまり興味がないのか、連れて歩いて喜ぶようなところはなく、一緒に居られることが楽しいと、言葉と行動で示していた。
ミランダはいつも人に囲まれているだけあって、人を楽しませるのが上手で、お茶会や、園遊会で側に立つと私にも注目が集まり、気分が良かった。
「いい婚約者を得た」と祖父と両親も喜んでいた。
家族や親類も、私が王女の護衛騎士になることを自慢に思っていた。
第二王女は少し我儘に育っていると聞いているが、王女が嫁ぐまでの四年程の我慢だ。
なんとか上手く立ち回ろうとこの時は思っていた。
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第二王女に付いたその日に思ったのは、まだ子供で、若くて見た目のいい者が好きらしい。ということだった。
初顔合わせの時、顔で護衛を選んだと分かる者ばかりが集められていて、二十五歳を越える者はいなかった。
「六人の護衛騎士が、どれだけ護衛任務を理解しているのか分からない」と護衛任務を経験した人達に心配されてしまった。
実際、私自身が護衛のなんたるかを理解しているかと言われると、学園で習ったことしかわからないとしか言いようがなかった。
王女は護衛の立ち位置にまで口を出し、私の腕を取る。
「護衛任務に差し支えるので手を離してください」とお願いしても、聞いてはくれず、護衛騎士同士で顔を見合わせため息をついた。
護衛騎士が王女に譲る形で、私が王女の側に侍ることに決まってしまった。
王女の我儘を一身で引き受けることになり、私は何度も溜息を呑み込んだ。
王女の私室では「私の側にいて!!」と部屋に招き入れられ、私達護衛は本当に困ってしまった。
「ヒルトとアスラトが外で付いていますから心配は要りませんよ」
「そんなことを言ってるんじゃないわ!ベーゼに側にいてほしいの!!」
王女にそう言われて内心優越感と王女のお気に入りになったことににやけていたが、表には出すような真似はしなかった。
相手は王女様である。気に入らないことがあれば、不敬でいつ首をはねられるか分からない。
私は仕方なく、向かいの王女の護衛詰め所となっている一室で夜を明かし、朝一番から王女に付く。そんな生活になっていった。
王女はまるで私の恋人のように振る舞い、護衛中にも関わらず私の右腕をとり、胸を押し付けた。
キャリーは私室の中に私を入れたがり、私と二人きりになりたがった。
さすがにこの状況はまずいと思って侍女の入室を望んだが、王女は聞き入れてくれなかった。
王女の部屋から立ち去ろうとすると泣き出したり、腰に抱きついたりして帰らせてくれない。
王女に付いて、初めての休日は婚約者のミランダと会う約束をしていたので、なんとしても帰ろうとすると、私を脅しにかかった。
「側にいてくれないなら護衛騎士から外すからね!!そしてお父様にベーゼは役に立たないと言うんだから!!」
さすがに同僚の護衛騎士達に気の毒がられてしまった。
当初、羨ましがられていた仕事ではないことに、護衛騎士全員が溜息を呑み込んだ。
「分かりました。何処にも行きませんので、少し手紙を書く時間を下さい」
「絶対よ!!」
「約束します」
ミランダに王女の我儘で休日がキャンセルになったと詫びて、他に書くことがなかったので第二王女を褒めておいた。その後、仕事のことにも少し触れるべきだと思い、護衛の仕事について無難なことだけ手紙を書いて、見かけた商人からプレゼントを買ってミランダに贈った。
その間もずっと王女は私のどこかに触れていた。
側から離れようとしない。美少女の王女に特別扱いをされ、喜ぶ部分もあるにはある。
抱きつかれ、ちょっと体が反応してしまうのは冷や汗が出るが、私が反応すれば王女は喜んだ。
私が反応していることに気が付いたキャリーはにっこり微笑んだ。
その日は休みだったこともあり、王女と散歩を楽しみ、私の分のランチとディナーを王女が用意してくれた。
また少し優越感を感じた。
寝る前「少し屈んで」と言われ、屈むとキャリーからキスをされた。
それは触れるだけのものではなく、息が上がるほどのキスだ。
この王女、どこでこんなキスを覚えてきたんだ?
驚いたものの王女のキスにしてはいけない満足をしてしまった。
ミランダは正しく貴族なので、エスコート以外では触れさせてはくれず、キスやあれこれを試してみたいという欲望を私は抑え込んでいたからだった。
美少女と言える王女とのキスは何度も試したいと思えるものだった。
一度キスすると王女は二人きりになると、キスをせがみ、私の手を取り、胸に手を当てた。
「ねぇ、愛して・・・」
頬を赤らめ、恥ずかしそうに言う王女が婀娜っぽく感じ、鏡の前の椅子を置き、鏡の方に体を向かせ、膝の上に座らせ、王女が満足するまで触れてやった。
私は着衣のままのなので、だからどうということはないが、王女は鏡に映る自分に喜んでいた。
「どうして鏡の前なの?」
息を切らしながら王女が聞いてくる。
「ご自分でも見られるでしょう?」
「ふっふっ・・・私、綺麗かしら?」
「ご自分で見てどうですか?」
王女が満足するまで付き合った。
それからの進度は早く、次の日には素肌に触れることを望まれ、その次はもっと先へ、その次はもっと、もっとと先に進むことを望まれた。
このままでは不味いことになると思った私は、上司に第二王女付きを辞めたいと伝えたが、王女が「何があってもベーゼだけは側に置く」と伝えているらしく、逃げ道を塞がれた。
最後の一線は流石にまずいと思って私の着衣は乱さなかったが、ベッドに押し倒され「愛してちょうだい」と私の上に乗った。
本当にどこでこんなことを覚えてきたんだ?!
「ベーゼ、愛して・・・」
ここまでするってことは既に経験があるのかもしれないと一瞬考えてしまい、王女の誘いにのってしまった。
やっぱりまずかったか?と途中で止めようとすると「もっと愛して」と誘われた。
夢中で王女の体を貪っていたけれど、冷静な部分もあって、このまま突き進むのは不味いと何度も思っていた。
シーツの上に赤いシミができていてこんなに驚いたことはなかった。
まずい!!これはとんでもなく不味いことをした!!
どうしたらいい?!
経験のない女がここまでするものなのか?!
自分の保身のことで頭が一杯になったとき「ねぇ、もっと愛して!楽しみましょうよ」そう言って私をまたベッドに押し倒し、私の上に乗った。
王女が楽しんでいる間も私の頭の中は不味い!まずい!マズイ!!どうしたらいい?!で占領されていた。
この王女が憎たらしくて仕方なかった。
遅かれ早かれ俺の首は胴体と離れる運命へと突き進んでいることだけはもうどうしようもないことだと理解した。
私はきっちりと騎士の服を着込み、知らぬ顔で入り口に立っていたが、なるべく乱れていないようにベッド周りを整えたが、確かな証拠があるので、チラリと私を見る側近の視線に冷や汗が背筋を伝った。
その日から私は王女のペットか何かになった。
人前での接触を強く拒否すると不機嫌になり、侍女達を部屋に入れるのを嫌がるようになって、私と二人になることを優先した。
王女の相手に手を焼いた私は、他の護衛をなんとかこちら側に引き入れられないか考えた。
罪を問われる時、私一人より分散される方が軽くなるんじゃないかと考えた。
慎ましいミランダに会いたいと思ったが、王女は私を側から離さない。
手紙やプレゼントを送れたのも数回だけで、私が離れると王女は手がつけられないほどに悋気を起こし、その後の機嫌を取ることが大変で、側を離れるのを早々に諦めることにした。
私は王女のベッドで眠ることを強要され、学園に付いていき、学園の中まで伴を望まれた。
昼も夜も愛してくれと迫られ、私一人ではとてもじゃないけど相手しきれないと王女に伝えた。
嫌がるかと思ったが、王女は意外にも乗り気で、カインとアベルに王女自らも声を掛けていた。
私が見ていると興がのるようで「私を見て」と王女はいつもより喜んでいた。
「愛してる」と言いたがり、言われたがる。
「キャリー」と私から呼ばれることを望み「キャリーだけだよ」と体を繋いでいるときに伝えるとそれだけで震えて喜んでいた。
王女という立場を利用して私に迫ってきて、愛なんてあるわけ無いと思っているが、王女が望むならば望みの言葉を言うぐらい安いものだ。
キャリーの言う愛とは何なんだろうか?
学園の中でも私と遊びたがるのには流石に困ってしまった。誰に見られるか分からないのに。
こんな人目がある所でキャリーに手を出すなんてことはできない。
キャリーを見る目があからさまに違う三人を見つけ、目星をつけた。
学園では何があっても手を出さないと何度も言い聞かせると「ならいいわ。私、もっと色んな人と試したいわ」と言った。
使わない机等が置かれている教室に、保健室のベッドの予備があったのできれいなシーツだけ用意して、侯爵家のベリアルを呼び出した。
後はキャリーが好きにするだろう。
私はドアから数歩離れ中と外の両方が見えるように立ち、護衛の任務を全うした。
王女が嫌がる相手は近付けていないのだから護衛任務したことになる、と思っておこう。
直ぐにベリアルだけでは物足りなくなったキャリーは、また私にいたずらするようになり、慌てて公爵家のマスティマとアザゼルにも声を掛けた。
子供には刺激が強かったようで、遊びでは済まない馬鹿もいたが、キャリー曰く「抜かりはないわ」とのことだった。
多分、妊娠しないような薬でもあるのだろう。
昼に満足すると、夜に私が遊び相手を務めなくてもカインとアベルに任せられるようになってほっとした。けれど、キャリーは私に見られたがり、昼にあれだけ男を受け入れているにも関わらず、私を求めてくる。
キャリーが他の誰かと遊んでいるのを見せて何が楽しいのか知らないが、私は辟易としていた。
私が相手をしない日が増えているとキャリーが気が付いた。そうするともっと私を側に置きたがり、キャリーの遊びに参加しないときでも私をベッドの上に誘い、私に奉仕するようになった。
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「明日結婚式なのにどうするのか?!」とミランダの父親が怒鳴り込んできた。私は愕然とした。
明日が結婚式だと?!
なんでもっと早く知らせが来ていないんだ?!
ミランダから連絡が来なくても家からの連絡はあるはず。
「申し訳ありません。何処からも連絡が入っていませんでした。多分、第二王女が握りつぶしていたのだと思います」
「お前と王女はどうなっているんだ!!」
「王女のお気に入りなだけで・・・離してもらえないのです」
胡乱げなペンス伯爵の目に何もかも見通されそうで、目を見返せない。
「そんな状態で明日は来られるのか?」
「必ず行きます。手紙をミランダに渡していただけますか?待っててほしいと伝えて下さい」
『ミランダへ
君の気持ちは重く受け止めた
私の気持ちは何も変わっていない
愛している
明日の結婚式を楽しみにしている
ベーゼ・ハイエンス』
手早く書いた手紙をミランダに渡して欲しいと、ペンス伯爵に託した。
愛していると書いておけばキャリーみたいにミランダも満足するだろうか?
この時、ミランダに一年近く会っていないことにも、手紙もプレゼントも渡していないことに私は重きを置いていなかった。
キャリーに今まで私に届いた手紙を握り潰したのかと聞くと「だって私ベーゼは私のものでしょう?外からの連絡なんて必要ないじゃない」と悪びれなく言った。
「今まで私宛に届いた手紙を出してください!!
「そんなもの必要ないから直ぐ捨てさせているわよ」
「中を確認もせず捨てたのですか?!」
「そうよ!」
「屋敷からの手紙もですか?」
「初めはハイエンスからの手紙は渡していたけどある時、ミランダからの手紙が交ざっていたのよ!」
「それからは全て握りつぶしたと?」
「そうよ!」
「私は明日結婚式なんですよ!!そんな大事な連絡まで私に届かないなんてっ!!」
「ベーゼは私のものよ。誰にも渡さないわ!!」
話にならないと思った。
今夜、眠ったところを抜け出さないと明日はきっと部屋から出してもらえない。
夕食後、あまりの睡魔に耐えられず、ベッドに倒れ込んだ。
この睡魔はあまりにもおかしい・・・。
目が覚めると、陽が大分高くなっていて、私の両手両足は縄でベッドに縛られていた。
「キャリー!!どういうことだ?!」
「結婚式になんて行かせないわ」
「だからといってこれは!やりすぎだろう!!」
「ごめんなさい。でも愛しているの。だから私を愛して」
「勿論キャリーを愛しているさ!だが結婚式なんだぞ!!」
「お父様に話すから!!」
「なに?」
「私と愛し合っていることお父様に言うからね!!」
「・・・・・・」
キャリーをいっそ殺してやろうかと思ってしまった。
「うそよ。言ったりしないから、そんな怖い顔をしないで。私だけを愛して」
あぁ・・・何もかも終わりだ。
キャリーが私に奉仕してくるがさすがにいつものようには反応しない。
「本当に嘘よ。誰にも言ったりしないわ」
隣国の王子との結婚など、破棄されるがいい!!心の中でキャリーのことを罵り続けた。
「私がキャリーの行いを陛下に進言しましょう」
「ベーゼ!!」
「お前が私を脅したんだ。私もお前を脅しておくよ。一人で死んだりはしない」
「死ぬってどういう事?」
「簡単なことだ。私がキャリーにしたことがバレたら私は陛下に殺されるさ」
「そんなことにはならないわ!私がベーゼを守るもの!」
「そう信じていましたが、キャリーは私からの信頼を失いました」
「本当にさっきのはベーゼに私を愛していてほしかっただけなの」
「ふんっ!何とでも言えばいい。お楽しみの時間はもう終わりだ」
「ベーゼ!!ごめんなさい。本当に私が悪かったわ許して!・・・ねぇ、お願い。許して」
何度も謝られ、赦しを請われたが私の心は冷えたままだった。ただ、面倒で謝罪を聞き入れただけだった。
また私に奉仕してきて、キャリー一人が楽しんだ。
「一通だけ手紙を書かせてくれ」と頼むと「手紙を書く間も愛してくれたままなら書いてもいいわよ」と手元の縄を解かれた。
また、上からものを言われて腹立たしい。
一度体を離し、椅子に座ってキャリーに手を差し出してやる。
嬉しそうに私の手をとり、私の上に座った。
「手紙を書いている間は動くな」
煩く色々言っていたが、私の怒りを感じ取ったのか、暫くすると大人しくなった。
手紙の最後に『愛している』と書いたのを見られ、キャリーはよくそれだけ文句が出るなと感心するほど文句を言っていた。
相手にしたくない。
アベルしか居なくてアベルにキャリーを任せた。
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「ベーゼが、ベーゼの結婚式を欠席したとはどういうことだ」と陛下から問い正された。
キャリーはずっと拗ねて怒って詰るを一日に何度も繰り返し、カインとアベルを呼んだが、ご機嫌はなかなか直らなかったが、私が部屋を出ていくと慌てて追いかけてきて謝っていた。
結婚式の日からもう、どうとでもなれと考えていた。
陛下にバラすと言われたら、私は何もできない。
今までだって黙ってキャリーの望むままの人形だった。
キャリーの望むままの言葉を何でも言ってやり、嬉しがることを言ってやった。
簡単に機嫌が良くなり、私に纏わり付いている。
女が嫌いになりそうだ。
ミランダもこんなふうになるのだろうか?
キャリーは娼婦がお似合いだと思った。
結婚式からどれくらい経っただろう?
陛下から直ぐにサインして戻すようにと婚姻届が私の元に届いた。
私は一縷の望みを抱いた。
キャリーに破かれる前にサインして直ぐに陛下に届けてもらうように頼む。
キャリーが煩くなったので、ちょっと相手をしてやった。
ミランダ、サインして婚姻届を出してくれ。
神にこんなに祈ったのは初めてだ。
キャリーの相手をするのに皆が飽きてきていた。新しい誰かを用意しないと不味いかもしれない。
残りの護衛騎士に声を掛けたが、王女相手にそんな事はできないと強く拒否された。
こんなに毎日、朝も昼も夜もやっていてもキャリーは満足しない。
尽くす愛を何度も何度も望まれれば、こちらは枯れていく一方だ。
私はキャリーが誰かとしているのを見ても、日常のことすぎて反応を示さなくなった。
伝令が「陛下からのお言葉だ。ペンス家が婚姻届は出したので、仕事帰りにミランダ嬢を迎えに行くように」と私に言った。
やった!!
一つ私の逃げ道が出来た!
さすがミランダ!!私の女神だよ!!
ここからなんとしても逃げ出さなくては。
キャリーが何か言っていたが、適当にいなした。
それからも私の囲い込みは激しかったが、適当にあしらい、満足させていた。
キャリーの護衛仲間のビルダーに「第二王女の身辺が調査されている」と言われた。
この日がいつか来ると思っていたが、実際に来たらとても恐ろしかった。
処刑されるのか、ペンス家との婚姻が私の守り神になり生き残れるのか、どちらだろうとその日は考えた。
ペンス家がせめて侯爵家だったら強力な守り神になっただろうが、伯爵家だと少々心もとない。
ミランダ!私を守ってくれ!!
今日は少しどうかしていた。
最近はもう、キャリーの相手などしないのに、刺激されて、はぐらかされ、奉仕されて、キャリーが私の上に乗るのを許してしまった。
カインがいたから相手にする必要なんてなかったのに。
部屋の扉が開き、陛下、王妃、側妃が入ってきた。
誰かの叫び声が聞こえ、カインがベッドから落とされる。
キャリーもベッドから出され、私は服を着た。
「ベーゼ、カインどういうことだ」
「はっ。申し訳ありません」
キャリーを愛していると言ったほうが印象が良いのか?それとも強要されたと言うのがいいのか?
「謝って許されるようなことではないぞ!ベーゼは婚姻届にサインして妻を迎えたばかりではないのか?」
「私はキャリー様を愛しております」
愛しているを選んでしまった。
「お前、殺すよ」
失敗した!!陛下の怒気に私とカインは震えた。
アベルも部屋に連れてこられ、三人一緒に一般地下牢に放り込まれた。
毎日取り調べは行なわれたが、私は順を追って今まであったことを話し、キャリーを愛している。とそれだけ嘘をついた。
一度、陛下が来られた時「子供を作れない処理をして、東棟の最上階に閉じ込められる生活を選ぶか?」と言われ、私はそれ以降キャリーを愛しているとは言わないと自分に誓った。
一週間経っても、二週間経っても牢から出されず不安ばかりが募る。
食事はまともなものが出ていたし、ペンス家の守り神は効いているような気がした。
体を痩せさせないように地下牢の中で出来る運動を続けるしかなかった。
どれくらい経ったのか、鉄格子が開けられ、カインとアベルと一緒に地上に出ることが出来た。
「反省したか」と陛下に尋ねられ「はい。申し訳ありませんでした」と答えた。
「二週間の休暇という名の謹慎処分だ」
「ありがとうございます」
「その後、私の護衛につける。だが、長く牢にいたために勘も鈍っているだろう。三ヶ月、訓練に励め」
「ありがとうございます。二度と裏切ったりいたしません」
陛下の温情に涙が出た。
「陛下の御温情に報いたいと思います」
家の紋章がついた馬車を見て、私は生き残ったと改めて思った。
久しぶりに見た家の者達に涙が出そうになった。
風呂に入り、汚れを落とす。
何度も湯を取り替え、やっと綺麗になってゆっくり湯に浸かる。
生き残った。
俺は生き残ったぞ!!
キャリーのせいで酷い目に遭った!!
少し質素な食事に不満を漏らすと「粗食が続いている時にいきなり豪勢なものを食べると胃が驚いてしまうので、体が馴染むまでしばらく我慢して下さい」と家令に言われた。
就寝した私は二日ほど目を覚まさず、眠り続けたらしかった。
両親が来て結婚式のことやら、王女との噂などについて「どうなっているんだ」と責め立てられたが「王家のことなので話せません」で貫き通した。
「ミランダとはどうするの?」
「婚姻届は出されたと陛下から聞いていますが?」
「それはないと思うけど・・・」
母が頬に手を当て首を傾げた。
「ミランダを迎えに行くようとも陛下に言われてますので、迎えに行きます」
「そう・・・?」
「ペンス家には結婚式と披露宴の費用、迷惑料を請求されて支払ってある」
どうしてそんなものを支払っているんだろう?
「そうなんですか?」
両親が首肯いた。
ゆっくりとした時間を堪能し、体を鍛え上げた。
面倒だと考えたが、明日から仕事だという日の午後、迎えに行かないわけにはいかず、ミランダを迎えに行った。
自分を守るためだ。
妻が居るのと居ないのとでは陛下の温情も変わるかもしれない。
久しぶりに見るミランダは大人びていて、眩しいくらいに美しかった。
キャリーにはない凛とした美しさだ。
ミランダなら私の萎えた心を起こしてくれるかもしれない。
「長い間待たせて済まなかった。ハイエンス邸へ帰ろう」
「どうしてわたくしがハイエンス邸に帰るのですか?」
何を言っているんだ?
「えっ?」
「わたくしの方が、えっ?と言いたいのですが」
ペンス家の家令が私のサインの入った婚姻届を目の前に置く。
「わたくしとベーゼ様は結婚しておりません。陛下に婚約破棄をずっとお願いしているのですが、中々通らずに困っておりました」
婚約破棄届が婚姻届の上に置かれる。
婚約破棄を望んでいたってどういうことなんだ?
「婚約破棄届に署名をお願いいたします」
「ちょっと待ってくれ。陛下から婚姻届は提出されたと伺っているのだが・・・」
「その日の内に迎えに行くようにとも陛下から言われていると思うのですが、それから何ヶ月が経ったと思われます?」
痛い所を突かれる。私はそれどころではなかったんだよ!
私が書いた一通の手紙が差し出される。
「結婚式を楽しみにしていらしたベーゼ様は、一通の手紙で結婚式を欠席されました」
二通目の手紙を広げて見せられ、ミランダはコロコロと笑う。
「わたくしも欠席いたしましたが」
式を執り行ったのではないのか?
「待ってくれ、私は仕事で・・・」
「お仕事、ですものね。馬車でたった二十分の場所に二年以上会いにも来れず、手紙もプレゼントも送れないお仕事ですものね」
「いや、あの、本当に仕事が忙しくて・・・」
「はい。どうぞお仕事頑張ってください。この婚約破棄届に署名お願い致します」
ミランダは本気なんだと思った。
「待ってくれ。私はミランダを愛しているんだ」
「わたくしはベーゼ様に興味がございません。署名を」
私に興味がないだと?信じられない。
ペンを差し出される。
「ミランダと婚約破棄したら私はどうなる?」
「わたくしの知るところではないと思われます。署名を」
「愛しているんだ」
こう言えばキャリーは満足していた。
「では、愛しているわたくしのお願いを聞いてくださいませ、署名を」
これは不味い!本当に不味い!!
「一旦頭を冷やそう。私は一度帰らせてもらう」
私はこの場からなんとか逃げなくてはと思い、慌てて立ち上がる。
「署名してからお帰りください」
家令が扉の前に立ちふさがる。
「嫌だ。私は署名しないぞ」
「解りました、では、こうしましょう。今日は一旦婚約破棄届けに署名していただいて、愛があるのならその熱意でわたくしを口説き落としてくださいませ。その熱意に打たれたならば今度は婚約をせずとも結婚いたしましょう」
「えっ?」
「口説いてくださるのでしょう?」
「勿論だ」
「では署名を」
「わ、わかった」
絶対に婚約破棄届にサインしてはいけないと思っているのに、ミランダの勢いに負けてサインしてしまった。
帰りの馬車の中で、守り神を失ったことに呆然とした。
陛下に謹慎明けの挨拶をして、訓練場に向かう。
生きるためには体を作り込んで、陛下に認めてもらえるよう人より頑張らなければならない。
休日の午後のお茶の時間にミランダに会いにいくが、何時もミランダは居ない。
朝から行けばいいとは分かっているが、女に振り回されるのはもう嫌だった。
会えないまま一ヶ月以上が経ってしまっている。私は焦っていた。
ミランダという守り神を、心を取り戻さなくてはいけないのに。
今日こそはミランダに会えるまで待つことを決心してペンス家のノッカーを叩いた。
いつもの家令が出てきて「今日もミランダを口説きに来た」と伝えると、冷たい顔をした家令が答えた。
「今日は、お嬢様の結婚式でございます」
「へ?・・・うそだ・・・」
「本当でございます」
「誰と?」
「答える必要を感じません」
「答えられないということは嘘なんだろう?」
「どうとでも思って下さい。もう、こちらに来られてもお嬢様はおられませんので」
「・・・・・・」
「お帰りを」
目の前でバタンと扉を閉じられて、私は瞬いた。
嘘だろう?!
私はどうなるんだ?!
未来が真っ黒に塗りつぶされていくのを感じた。
頭を抱え込んだ私に家令が「どうされました?」と訊ねてくる。
「私の婚姻相手を見つけられるか?」
「・・・難しいと思われます」
「だよな・・・。ミランダが今日誰かと結婚したと言うんだが・・・」
「左様でございますか」
「知っていたのか?」
「いいえ、我が家はまだ機能不全を起こしております」
「正常に戻せ」
「坊ちゃまの噂が静まるまでもうしばらく・・・」
「そう、か。下がっていい」
仕事への張りを失った気がする。
いや、キャリーの相手をするようになってからは仕事に張りなどなかった。
愛だの恋だのキャリーを知ってから面倒だと考えていたが、私はミランダという存在に支えられていた。
そんなことを埒もなく考え続けている。
両親に結婚相手を探してくれるよう頼んだが「難しい」と返ってきた。
ミランダ・・・私を助けてくれ。
剣を交えている時についミランダのことを考えていた。
すっと首元を刃がかすめ、薄らと血が滲む。
「すまん!!」
相手に謝られて、私こそ気を抜いてすまなかったと言おうとして体がしびれて言葉にならなかった。
ベーゼのクズっぷりはどうでしたでしょうか?
リンクがベーゼに言った
「こちらに来られてもお嬢様はおられませんので」
と言うセリフが次のお話であれ?と思うかもしれません。
本編を書いていた頃は、ベーゼは王女を愛していたのですが、こんな王女に惚れたりしないと思って方向修正になってしまいました。
最終話、ドルガン・パーシにとってのミランダ・ペンスです。
作風が、コロリと変わります。お子様が呼んでも安心ですwww