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5 呼ばれた者


 自分の名を刻んだ柄を握りしめながら未だ体に纏わりつく火に気を取られてるアンデットウルフに飛びかかった。


「うおおおお〜!!」


 ダンッと音を立てて剣で殴りつけた。錆びた剣では切ることなんて出来ないと判断した俺は、剣をただの鉄棒として相手の頭を殴ったのだ。


「ギャンッ」


 剣といえばかっこいいが要は重い鉄の塊。その約5キロの重さはある鉄の棒で殴りつけたんだ、さらに防御の弱体化もまだ効果中だからダメージはあったはず。

 とはいえ相手はアンデットだ物理攻撃はあまり効果は無い。次の一手を考えなければと考えてたところ、まだ纏わりつく火が嫌なのかアンデットウルフは一歩二歩と下がり踵を返して走り去っていった。


「引いてくれた…… のか?」


 ふっと膝の力が抜けたと思うとドサっとその場に座り込んだ。まだ火を灯しながら走り去って行く奴が見えなくなったのを確認したら緊張の糸が切れたようだ。

 だけど周りへの配慮は忘れない。前世はこの気の緩みの時に命を落としたからな。

 ふうーと胸の中の息を吐いて体に力を入れなおす。


「マジで戻ってきたんだな。 ってか、此処に俺がうまってるのかな?」


 俺は再度剣の柄の名をたしかめ、側にある×印が付いた木の根元をみた。突然召喚されていきなり魔物に襲われて息つく暇もなかったからなのか、戻ってきたんだという感慨深さは感じられずにただ現実を受け止めるに至った。

 ただ木の横にあるお墓は気になる。レオンの剣が立ててあるということは多分そうなのだろうが今ここに以前の自分の亡骸があるというのは不思議というか現実味が湧かない。

 もしかすると俺が此処にいる時点で亡骸は無いのではと思う。剣の錆具合や×印の傷具合から時間の流れを感じるに、レオンの体は既に土の栄養になっているのではないだろうか。


「まいっか」


 そこを考えるのは放棄しよう。ただの憶測だし、墓を掘って確認する気もないので異世界不思議の一つとして頭の隅に置いておくことにしよう。


「さて、これからどうするかな」


 それよりもこれからの事だ。それにまだ問題は色々とある。

 まず今の時代がいつなのか。これに関しては剣の錆具合からレオンが亡くなってからそんなに長くは経っていないと思う。異世界小説のように五百年後とか二千年後とかではないだろう。

 つぎに何故召喚されたのか。そもそもこの世界では勇者召喚とか異世界召喚などの話は聞いた事がない。パルマのようにサモナーが契約した魔物を召喚させるくらいだ。

 もちろん俺が聞いた事がないというだけなのかもしれないが、あったとしても俺が呼ばれた理由がわからない。

 更に次、なぜ俺が火魔法を使えたのか。これもこの世界ではあり得ないこと。俺のスキルは弱体化で火属性魔法使いではない。

 もしかしてあれか、召喚によってチート能力が与えられるという異世界小説では定番のやつ。


「でも、神様に会ったりしてないしなぁ。 もう、だれか説明してくれー」


 そう叫んだところで分からない物は分からない事は分かってる。ただもやもやする気持ちを晴らしたくて叫んでみただけだ。

 あっ、大きい声出したらまた魔物来ちゃうかな。


「うーん、うるさいなぁ。 眠いよーあと五分だけー」


「うわっ!!」


 突然×印の付いた木の反対側から声が聞こえた、ほんの先程まで気配なんか感じなっかったぞ。まるで今この瞬間に現れたかのように気配が膨らんでいた。


「とりあえず魔物では無いよな。えっとそこに誰か居るんですかぁ」


「………」


 恐る恐る声かけてみるが返事は無く、寝返りを打つようなガサゴソという音が聞こえてくるのみ。もしかして寝てるのだろうか、あと五分とか言ってたし。

 おれは四つん這いの姿勢でゆっくりと木の幹に沿って反対側へと移動して、あとわずかの所で首を伸ばして覗き込んでみた。


「あのー」


「はにゃぁ」


 そこにはこちらに背を向けた人がいて、寝ぼけているのか変な声で返事をしながら覗き込む俺の方に丁度良いタイミングでゴロンとこちらに寝返りを打った。うっすらと開きかけた目が俺をとらえ、俺も彼女の顔を捉える。


「横山さん!!」


 そこにいたのは俺が召喚されたときに一緒に歩いていた横山絵美だった。なぜここに居るのか、まさか俺の召還に巻き込まれたのか。


「あー、高橋君だぁー」


 まだ完全に目が覚めてないのだろう目が合った横山さんはにへらと笑みを浮かべ、指をさしながら俺の名を告げた。


「だ、大丈夫か? 何処か怪我とかしてないか?」


「………? んんっ? あっ!!」


 なんと声を掛けたら良いのか分からない俺はありきたりのセリフを述べるしか出来なかったが、お陰で横山さんは完全に目が覚めたようだ。

 がばっと体を起こした彼女はキョロキョロとあたりを見渡し、そして何かを納得した顔でじっとこちらを見た。


「やっぱり巻き込まれた人って高橋君だったんだね」


「え? 巻き込まれた? 俺が?」


 何のことだ。横山さんじゃなくて俺が巻き込まれたという意味なんだろうか。


「うん。あのね、私異世界召還されたみたい。実はあの時びっくりして咄嗟に高橋君の腕を掴んじゃったの、多分そのせいで高橋君も一緒に来てしまったんだろうって言ってた」


「言ってたって、誰が?」


「女神さま」


「………」


 もう訳が分からん!


 


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