3 転移先
たかが初級ランクの魔物に命の灯火を消された情け無さと悔しさに、その魂は身悶えた。
(まだ何もできていない! 俺は……俺はあいつらに見返して……違う! あいつらに並ぶくらい強く……)
真っ暗な先に小さな灯りが見える。それは針の穴より小さく瞬き一つで見失うほど小さな光。
それでもその魂はそれを掴みたいと願った。強く、強く。
(俺はまだ……俺は!!)
* * *
「まだーー!!」
自分お大きな叫び声にによって目が覚めた。仰向けに寝た状態で、俺の右手は木々の隙間から覗く太陽を掴もうとするかのように伸ばされている。
息が荒くそれに合わせるかのように速く脈を打つ身体が生存を知らせてくれてた。
「生き……てる? あっ、傷!!」
俺はガバっと体を起こし胸の傷を確かめた。だがそこに傷など無く、手に触れる生地は見慣れない服だが見慣れた学生服だった。
レオンと比呂の記憶がごちゃ混ぜになってる。リアルすぎる夢は現実との区別がつき辛いんだ。
「夢……か。久しぶりに見たな、あの時以来か」
同じ夢を見たことがあった。十三歳の時事故で死にかけたあの日この夢を見て、それをきっかけに前世の記憶が蘇ったんだ。
また何か思い出すのかと思いつつ荒くなってた息を落ち着かせながら周りを見た。あたり一面は木と草ばかり。
「森? なんで?」
そう、森だった、なんとなく懐かしい気もするが森の風景など同じようなものか。それで何が起きたのか、取り敢えず先ほどの事を思い出す事にする。状況確認は大事だ。
あの時光に包まれ足元には魔法陣らしきものが伺えた。それは見た事のない陣だったけど魔法が絡んでることは間違いないだろうと思う。
「テンプレなら転移か召喚ってとこか? となると、ここが何処なのかだな…… お墓?」
もう一度よく辺りを見渡していると一本の木が気になって、その横には土が盛られているのが目に付いた。しかも土の上には錆びた剣が刺さっている。ここで誰かが命を落としたのだろう、日本でのマンガやアニメでよく見たお墓のそれだ。
だがそれよりも、やはり木の方が気になる。
何だろう?既視感というか呼ばれてるというか、うまく言えないけどその木を確認したい気がするんだ。
とりあえず立ち上がりその木へと歩みだしたときだった。
「グルウゥゥゥ」
獣が唸る声がした、それもすごく近くで。当然俺の首はぎゅんとその方向へと捻じれてしまう。
ガサガサと茂みを分けながらゆっくりと姿を現したそれは汚れた体毛の四つ足歩行の獣だった。体毛のあちこちは剝がれていてその下の皮膚は溶けているように見えて、まるで狼のゾンビだ。――ってかゾンビだ。
「魔物? アンデットウルフか!!」
レオンは何度も対戦した事がある。正確には[ニケウイング]はであるが。しかし、
「何故森にいる? お前はダンジョン内の魔物だろ」
いやいやそれよりも、アンデットウルフ?ダンジョン?
コイツは前世にいた魔物でダンジョンの上層部によく現れた魔物だ。
ということは此処は?目が覚めた時の疑問の一つのヒントが与えられたかもしれない。
あ、そんな事を考えてるうちにアンデットウルフと目が合ってしまった。やばい、やばいよ。今の俺はレオンじゃなくて、ただの日本の高校生だぞ。
「ガルッ ガアアアアァァ」
「うわぁーっ!!」
アンデットウルフに敵認定されたようだ。唸りながら身を沈めた途端ものすごいスピードでこちらへと突進してきた。 腐ってもウルフ、その速さはその辺の野良犬の比ではない。
避けれない。避けれないけど体は生存本能でそれを行なう。
「えっ? 何でウルフが下を?」
気が付けば俺は左斜め後方へと飛んでいた、それも有り得ないはずの高さで。
数字にするなら二メートル程だろうか。プロのバスケット選手やバレーボーラーなら可能な人も居るかもしれないけど、一介の高校生が軽く飛べる高さじゃない。
当然のように勢いのついたアンデットウルフは俺の下を走り過ぎていくが、何が起こっているのか俺には訳が分からない。
「ちょっ、まっ、っと…… ぐはっ!!」
アンデットウルフの突撃を避けられたのはいいがこの高さにジャンプなどしたことない俺が体制を整える事など出来るはずもなく、しかもそこそこに勢いもある。
果たして俺は一本の木に背中から激突という形を取ることになってしまった。
「痛てー、なんなんだよこれ。まあ、ウルフの攻撃受けるよりはまし……これは!!」
背中の痛みを何とか堪えながら立ち上がろうとしたとき、ぶつかった木に目が行った。それは先ほどから何故か気になっていていた木だった。
そしてその根元にある傷。だいぶ時間が過ぎているであろうそれは傷というより印だった。
おれはその印をつい先ほど見たことがある、あのリアルすぎるレオンの時の夢に出てきた×印だ。
「ここは…… そうか、レオンが死んだ場所なのか……」
まだ確かめることいくつもあるが、ここがそうなのだと、なんとなくだが確信があった。
「ガアアアアァァ!!」
だが、落ち着いて考える暇を与えず、アンデットウルフはすぐに反転しその牙を俺に向けて飛びかかっていた。