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10 ⦅あるある⦆があった


 声の雰囲気から誰かが襲われてるだろうと分かった。俺と絵美は声のする方へと駆け出し数メートル手前で足を止めて木の陰から覗き見ると、そこには十匹のアンデットウルに囲まれた六人の人間がいた。


「こんな所までにもアンデットウルフだと!! いったい何故?」

「どうする、助けるの?」


 森の入口付近にまでダンジョン内の魔物が居る事に驚愕を覚えた俺に、絵美が戸惑いつつ聞いてくる。


「少しだけ様子を見る、もしかしたら素材集めか依頼で討伐に来てるのかもしれないから。その場合手柄の横取りで揉める事があるからな」


 ここで俺達が魔物を倒すと仕事の邪魔をしたと訴えられる事がある。迂闊に人の戦闘に割って入るのは得策ではない。


「……でも、これって絶対ヤバイ場面じゃないの?」


 確かに絵美の言う通りだと思う。入口付近なんて初級冒険者が沢山居る場所だ、そこにダンジョン内の魔物が相手なんてバリヤバだ。

 人間たちを見ると一人は豪華な鎧を着ていて、五人の騎士らしき者達がそれを守るかのような布陣を取っているところを見ると冒険者という感じではない。しかし、その騎士も三人が膝を着いていて、残り二人も息が荒く劣勢なのが見て取れる。


 さてどうするか。加勢するにしてもアンデットウルフ十匹に俺が役に立つのか?絵美は戦闘経験なんて無いだろうし。


「あのね、マジックバックの中にスキルの簡単な説明を書いたメモがあったから私は大丈夫だと思う……よ」


 俺の心配事を感じたのか、若干自信無さそうに絵美が言ってくる。


「スキルってチートの? どんなスキルなんだ?」

「えとね……」


 そこで彼女は簡潔にスキル説明をした。こちらに来る前に女神様がメモを用意してくれてたようで、昨晩寝る前に気付いて読んでたそうだ。


「マジかよ…… 貰ったスキルって…… 分かった、彼等の加勢しよう。ただし無理はしない事、まずは自分の命優先だからな」

「うん。見捨てるのは寝覚め悪くなりそうだけど、いざとなったらそうする」


 女神様が無茶しなければ生きていけると与えたスキルの意味が分かった。

 とは言え、正直言って絵美を巻き込むのは気が進まない。気が進まないのだが、入り口も近いことだし最悪二人で逃げに徹すれば何とかなるかもしれないとも思っている。


「じゃ、行くぞ。まずは確認をとる。いいか、絶対にヤバイと判断したら逃げるからな」

「わかった」


 俺は小型の剣を握りしめて足を前に進めた、錆びた剣は革袋の中だ。

 三、二、一とカウントを取り絵美と二人で飛び出す。


「加勢は居るか!?」


 飛び出すと同時にまだ立っている騎士らしき者に大声で尋ねる。


「何者!! いや、頼めるか?」

「デバフスピード!! デバフ、デバフ」


 騎士の返事を受け立て続けにデバフをかける。範囲魔法を持ってないので一匹ずつ掛けなきゃいけないのが面倒だ。


「ガルッ?」

「ナノファイア、ナノファイア、ナノファイアーー」


 身体の異変に戸惑ったアンデットウルフに初級火魔法を打ちまくる。もちろんこれで倒せ無いのは分かってる、だが怯ませて動きを止めるくらいは出来るはずだ。


「動きを鈍らせた!! 今だ!!」

「オ、オオォォーー」


 まだ動ける騎士二人が飛び出し剣を振るう。剣には淡い光が纏っており何かしらの魔法が付与されているのが分かる。

 アンデットに物理攻撃は効かない。だが魔法付与の剣ならそれは当てはまらない。


「ギャン!!」


 振った剣は見事に魔物にダメージを与える事に成功した。そして俺はひたすら火魔法を当て続けて足止めに徹する。


「よし、更に一匹!!」


 四匹、五匹と騎士の剣はアンデットを屠る。よく訓練されてるな、剣といい良い所の騎士なんだろうな。アンデットウルフの数さえ無ければ劣勢に成る事も無かったのかもしれない。

 だが、数が多いのは事実。六匹目を倒したとき、三分が経ってしまった。


「しまった!!」

 

 やはり疲れが溜まっているせいか、俊敏さを取り戻した一匹が騎士の横をすり抜けた。後ろにはケガで膝を着いた騎士、先に弱った相手を襲うのは鉄則だ。


「やらせん!!」


 そこに豪華な鎧の男が立ち塞がり横薙ぎに剣を振った。彼もしっかり鍛錬を積んでいるな、体幹がしっかりしている。だが、護衛の騎士より劣っているのだろう、実戦の経験が少なそうだ。


「ガアァァァァ」

「ぐあっ!!」


 アンデットウルフはワンステップで剣を躱し、次のステップで体当たりした。


「殿下!! 駄目です下がってください!!」


 前線で戦う騎士が叫ぶも時すでに遅し、アンデットウルフは体勢を崩し尻餅を着いた男の喉元目掛けて自身の牙を光らせていた。

 男はただ眼を見開き自分の未来を思い描いていたかもしれない。怖くて目を閉じたりしないのは訓練の賜物なのだろうか。


 で、その時俺は何してるのかと言うと、ただ見てるだけでした。何故なら……


「セイントシールド!!」

「ギャ、ギャン」


 いつの間にか後ろの方へ滑り込んでいた絵美の魔法の準備が終わっていたからだ。

 彼女のスキルは上級の聖魔法、幸いというかアンデットにとっては天敵の魔法だ。


 彼女が放ったドーム状のシールド魔法がアンデットウルフを弾き飛ばし、似合わないかわいい声を上げさせる。更に、シールドにぶつかった範囲はジュウジュウと音を立てて溶け始めていた。


「まだよ!! ホーリーレイン!!」

「その前に、デバフ ディフェンス」


 攻撃はまだ続く。残りの魔物達に防御力低下のデバフを掛け、そこに浄化の作用をもつ光のシャワーが降り注ぐ。

 途端にアンデット達は体中を溶けさせ始める。

 

「今です、止めを!!」

「……っ」


 騎士二人はすぐに行動を起こして二匹ずつに止めを刺しに行く。さすが良い反応だな、戦いに慣れてる。

 すでに瀕死状態だった魔物達の討伐は簡単だった。騎士たちの剣により十匹全てが動きを止めて、戦いが終わったことを知らせていた。


「殿下、お怪我はありませんか?」

「た、助かったのか?」

「はい、彼等の加勢により全員生きております」

「そうか……」


 豪華な鎧の男が周りを確認し、俺と絵美を順番に見た後に息を一つ吐いた。

 今回は絵美の御蔭だな。彼女のスキルが無ければ俺達が加勢することなんて出来なかっただろう。

 

 さて、どうしよう。あの男[殿下]って呼ばれてるよな。[殿下]ってあれだよな、王族の人ってことだよなぁ。

 街道で馬車がとかでは無かったけど、絵美のフラグが立ってたよ。

 ⦅異世界小説あるある⦆がホントにあったよ。

 



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