1 転生先
初の投稿です。実験的な行動で見切り発車。プロットなんかも無くどうなるのか?少しでも楽しめる作品ができればいいなぁと思ってます。
十三歳の時前世の記憶が蘇った。最初は戸惑ったけど、なんとなく転生したんだと納得もした。今世での知識と情報のせいだな。
ただ残念なのは、ここは魔法の無い世界。
--ここでも俺は役立たずって事だ--
* * *
「追放された奴が実はパーティーを支えてて、追放したパーティーはその後衰退するとか本当の役立たずはどっちなんだってんだよな。でも、そのザマァがいいんだけどね。比呂はどう思う?」
来年の大学受験の為に勉強漬けであるはずの高校二年生なのに、クラスメイトの渡一也は今日も異世界小説の話に夢中だ。まあコイツは剣道と空手が優秀で既に推薦が決まってるから気楽なもんだ。
今日はバイトで疲れてるんだ、この昼休みは仮眠したかったので俺に話を振らないでほしかった。
「まあ、その小説だと追放される主人公がダメダメなんじゃないかな」
「なぜに?」
「まず、自分の能力がすごいことが分かってない。自分の力が周りと比べてどの程度なのか知ることは大切な事だろ。それを怠れば連携なんてとれたもんじゃないし、主人公の凄さを知らないんだから頭悪いメンバーが『おれtueee』って勘違いしても仕方ない。私はこんな力があり私はこんなことをやってますって伝えれば済むことなのにそれを怠って、追放された後で活躍してあいつらザマァとか言う奴のほうがダメダメだよ」
「うわ、辛辣」
一也がジト目で俺を見てくるが、男からのジト目は嬉しくない。
「でも、高橋君の言うことも一理ありかも。100歩譲って本当に力不足での追放ならまだ分かるけど、自分の能力確認不足で回りに勘違いさせたあげく追放されて恨むのはダメダメだねぇ」
横の席に座ってる横田絵美はニコニコしながら話に入ってきた。彼女もまた異世界小説にハマってる一人で、いつの間にかこうして俺たちと話す仲になっている。クラスでは友達も多くいつも元気なイメージがある子だ。
「というか高橋君って追放みたいな経験ある? なんか言葉に重みがあるんだけど」
「は? あ、あるわけないじゃんそんな事。追放とか小説の中の出来事が現代であるのか?」
「だよねー。高橋君って話しやすいし頭も良いし優しいし、ハブられるとか無さそうだもんね」
「なんだそれ、俺はそんなに大したもんじゃないぞ。俺は役立たずで……いや、何でもない」
言えない。俺、高橋比呂は前世で役立たずとして追放された事があるなんて。
前世での俺の名はレオン。十七歳の冒険者だった。
レオンは支援職のデバッファーとしてあるパーティーに居たが突然追放され、その後なんとか一人で活動していたが魔物に襲われ命を落とした。そして現代日本に転生した俺は、十三歳の時の家族旅行で事故に遭ったことで前世の記憶が蘇ってしまった。
記憶が戻ってもそれは追放された辛い記憶。そして転生したところで魔法が無いこの世界ではデバッファーとしての記憶は何も役に立たない。『足手まといだ』と、ともに高みを目指そうと誓った仲間であり幼馴染だったメリルに言われた言葉が重く圧し掛かる。
役立たずは簡単に捨てられる。信じていた仲間からも捨てられる。蘇ったのは辛い記憶、仲間を恨み森の中で一人で死んだ記憶。記憶が蘇ったとき、それを切っ掛けにレオンこと比呂は人を信じなくなった。
* * *
「そんじゃ俺こっちだから、比呂はこれからバイトなんだろ体壊すなよー」
「おう、一也も週末だからって遅くまで小説読んで風邪とかひくなよ」
「渡君バイバーイ」
放課後の帰り道、途中まで三人で歩き、一也は本屋へ行き俺はこれからバイトだ。
「高橋君って一人暮らしなんでしょ? それでバイト?」
「うん」
「何で一人暮らしなの?」
「内緒。秘密がある男ってかっこいいだろ?」
いつものように軽い言葉で返したがいつもニコニコ顔の横田さんの顔が曇る。
「どうかした?」
「高橋君って話しやすくて良い人のイメージだけど、時々壁があるっていうか影があるっていうか……」
「そうか? 影がある男もかっこいいだろ?」
「その軽口がなんか距離ある気がするんだよねぇ」
今度はぷんすか顔だ。しかし鋭いな、なんかスキルでも持ってるのか?
近付きすぎれば捨てられたときに傷つく、かと言って人は一人では生きられないから離れすぎることも出来ない。付かず離れずの八方美人、それが今世での俺の立ち振る舞いだ。これなら人を信じる事もしなくていい。
「まいっか、高橋君が良い人だってことは知ってるし」
「なにそれ? 何か知ってるって顔だな」
「内緒。秘密がある女ってかっこいいでしょ?」
「うわ、やられた」
次ににぱぁと笑う横田さんは可愛いと思う。高二の男子としてはちょっとドキドキしても許されるだろう。
「じゃあ、一つだけ俺の秘密教えてやろうか?」
「お、なになに? 教えて」
「実は俺、異世界からの転生者なんだ」
「うん、十五点。 高橋君にしてはキレがないボケだね」
「あはは、じゃあ俺バイト行くね」
「うん、じゃあまた月曜日に。きゃっ? なにこれ」
バイトの店に向かうために挨拶をした時、突然足元から強烈な光が俺たちを照らした。
「なんだこれ……」
足元には見た事のない模様が描かれていた。だけど、似たものは見た事があった。
「これは、魔法陣?」
光はさらに強くなり周りが見えない程になったとき、体が揺れ、捻じれた感覚に襲われて、俺の意識は途切れた。