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兄の話


暖かな日差しに誘われるように窓に手を掛け開ければ、


街中に溢れる歓喜の声、賑やかな音楽が風に乗ってここまで届いた。


今日は王女の結婚式が行われる。


祝いの気持ちを込めた祈り、窓の外を見ていれば視界の端に4頭引きの馬車が見えた。


まさか。


信じられない気持ちで馬車を見つめれば、馬車はスピードを落としたので注意深く視線を送ると白いドレスを着た女性と黒色の礼服を纏った男性が見え


そんな事があって良いはずは無い。


自分が過去に犯した事を考えれば、目の前に広がる光景を見る事は許されない。


それでも、目を離す事ができず眺めていれば仲睦まじい雰囲気が見て取れ、嬉しい気持ちと寂しさが溢れた。


幼き頃に手を繋ぎ歩き笑い合い、時に叱る事もした。


年齢を重ねれば、我儘を言う様になったが、誰かを困らせるよな事を言うわけでは無く、つい、


それぐらいなら。


と許してしまう小さなことで我儘と言うほどでは無かった。


甘やかしていた自覚はある。


時に婚約者だった令嬢より優先する事もあった。


だからだろう婚約者が似ているから選ばれたという噂が出回り


「似ているから君と婚約したと噂があるが違う」


頃合いを見計らい告げた言葉に、微笑みながらか小さく頷いてくれたので


「はっきり言えば髪色の瞳の色も君と似ているだけで全く違う。それに君は僕とは夫婦になるのであって兄妹になるわけでは無いだろう?」


少しでも気持ちが伝わればとテーブルを挟みながらも真剣な表情で伝え続け、時に


「君は嫌いな野菜を皿の端に避けたりはしない」


冗談混じえつつ気持ちを伝えれば、どこか安心した雰囲気を出したのを悟り、


「私自身が君が良いと選んだんだ。これからも一緒に歩んで欲しい」


そう伝え互いに気持ちを育んできた。







繊細で癖のない文字で書かれた人物の生い立ちを探る仕事が回され調べあげた人物は、


自分よりも年上で、穏やかで優しく器量良し。


領民を第1に考え行動し判断力もある人物だった。


敢えて言うのならば、彼は次男で長男夫婦が跡取りを産むまで婚約者どころか恋人すら作らずいた事。


社交会に姿を見せる事は少なく、同性が好きなのではと噂もあったが、


領民からは評判良い人物は、


仕事が好きで遊ぶより仕事をしたいのだと、両親や兄夫婦に豪語したらしい。


親である国王と王妃が厳選し、貴族会議で激論され、妹本人の意思で婚約者候補から始まり、


恐れ多いと逃げ道を探す彼を、懇願し、時に口説き婚約者となり


今日の結婚式を迎えたのだ。


万感の思い。


そう言えれば良いが、兄としてはとても複雑でそれでも妹が選んだと言うならばと眺めていれば、顔を上げた妹と目が合い、幼子の頃に見た笑顔の後か何事もなかった様に馬車は走り去ってしまった。


なんて幸せ者なのだろう。


嬉しさ共に過去の行いが蘇り目を閉じた。



妹が生まれたと聞いた時も顔合わせをした時も特に何も思うことは無かった。


ただ、周りが兄になるのだからしっかりしないといけない。


会う皆に言われ、言葉に意味も理解できずに話に合わせる為に頷き、その場の空気を読み可愛い妹ができて嬉しいと言い続けた。


何度も口にしていれば本当に可愛く思えてくるもので、喋りもできない妹が小さな手を伸ばされ相手をすれば無垢な笑顔が向けられる度に愛おしさが増し、


「にぃー」


母や父よりも早く名前を呼ばれたことに誇らしく、その日はずっと一緒にいた。


妹が笑えば嬉しくて、泣き出せば原因がわからず王太子としてあるまじき程に慌てふためき、


腰が据われば、妹を連れ庭にピクニックをし、偶然見れた捕まり立ちや最初の1歩が見れ、高揚した気持ちのまま両親に報告をすれば、悔しそうにしながらも


「唯一の兄妹だ。末長く仲良くしてほしい」


父の言葉に


「ですが、あまり甘やかすのはいけませんよ」


母からも言葉を貰い


「僕の全てを賭けて守り通して見せます」


両親の前で誓った。


嘘偽り無い誓い。


1年。また1年と過ごせば互いの生活が出来上がり、王太子として勉強や武術に側近候補との交流と妹と会う時間が作れずにいたが、


「おにいさま」


小さな体を忙しなく動かし遠くから走ってくる姿に、側近候補には身を潜めて貰い


「こら。淑女が走ってはダメだろう」


優しい言葉とできるだけ柔らかい声を作り注意をすれば、悪い事をした自覚があるが怒られた事に納得がいかないらしく、拗ね唇を尖らせ


「久しぶりにお兄様に会えたのに」


小さな声で紡ぐ言葉に、そこまで会いたかったのかと嬉しく思うも、ここで甘やかしては兄としてはいけないと緩む顔に力を入れ黙って見つめれば、チラチラと視線を向け自分の態度を伺っていたが


「ごめんなさい」


本気で怒っているのだと判断したらしく謝りの言葉に、膝を付き視線を合わせ


「自分の非を認める事は中々でき事ではない。それができるソフィは凄いな」


小さな頭を撫ぜ褒めてやれば悲しそうな表情が瞬間消え去り、嬉しそうにはにかむ姿に思わず天を仰ぎそうになるもグッと堪え、


「何かあったのか?」


呼び止められた理由を聞けば、驚い表情をした後に左右忙しなく視線を彷徨わせる姿に


ただ、会いたかったのだと察するも困っている姿が一段と可愛く、見つめれば首を左右動かし何かを確認した後


「お兄様。抱っこしてください」


恥ずかしそうに視線を逸らし頬を染めながらも両手を伸ばしてくる妹が、世界中の誰よりも可愛く


「もちろんだとも」


体を抱きしめ持ち上げれば嬉しそうに小さな声で歓声を上げ、首に腕を回したかと思うと耳元に顔を近づけてくるので、聞く体制に入れば


「お兄様、大好きです」


秘事を話すように小声で伝えられた言葉に身体中が歓喜に満ち溢れ、


「私も大好きだよ」


同じ様に妹の耳元で自分の感情を告げれば、満遍の笑みを浮かべ首に抱きついてくれた。


後に、影から見ていた側近達が自分を妹の婚約者候補にして欲しいと家を通して告げてきたが


「まだ、早いんじゃないかな」


初めて己の立場を利用し、力を使いこの言葉と共に綺麗に聞かなかった事にした。


その後も隙をついて会いに来てくれる妹はよく授業の時間に表れては、


「数字が解けないのです」


涙を溜めながらやってくる事もあり、教師陣と苦笑しながら受け入れよく聞けば妹が習うには早い箇所であり、さらに聞けば


お兄様を沢山手助けをしたいから勉強しているの。


涙を堪え、恥ずかしそうに俯き頬を赤くし嬉しい事を言ってくれる妹に絆され、細かく説明すれば理解ができたのか途端に笑顔になり、嬉しそうに体を揺らし出した。


淑女として、また国の代表としての行動ではないが自分の前ぐらいは良いだろうと思い顔を顰める教師陣に黙認させれば、理由があれば来ても怒られない思ったのか


明らかに理解しているであろう問題を聞かれていると分かるも黙って見守り、時に眠たそうに船を漕ぎ出したので抱き上げ、背中を優しく叩けば


勢い良く払われ、


初めて拒否された事に驚き、愕然としながら妹の顔を見れば


寝たくない妹と眠気との壮絶な戦いが繰り広げられているようで、したないと態度に表すも心の中でも可愛い姿に満たされて照れば、自分の服を強く握り絶対に離さないと言わんばかりの握力に、わざとため息を落とし、授業の続行をするように指示をした。


立場に甘える事は無く、勤勉で愛くるしい妹と自分の婚約者との対面もすぐに仲良くしてくれると思っていたものの、


目尻を上げ、頬を膨らませ全身で怒っているのだと伝えてくる妹に、驚き戸惑っていると


「お兄様を独り占めしないで」


ぽろぽろと涙を流しながら大きな声で言う妹に、


「そのような事は断じていたしません」


婚約者であるオリビア嬢は驚いただろうに、そんな態度も表情も出さずにれ微笑みながらの言葉に妹は


「だったら、どうしてわたくしとも遊んでくれないの」


地団駄を踏む姿に、オリビア嬢にどう妹の行動には悪意は無いのだと告げようか2人に視線を彷徨わせるも、オリビア嬢から伺うように向けられたので、


「勉強で忙しいのは理解している。申し訳ないが少しでも良い、時間を作ってやって欲しい」


本来は妹の行動を諌めなければならないはずが、無意識にオリビア嬢に無理を言ってしまい別れ際に謝りを入れれば


「お2人の仲は聞き及んでおりました。この目でお姿を拝見でき、お言葉をいただけとても嬉しかったです」


嬉しそうの微笑んでくれたオリビア嬢に心の中で安堵の息を落とし、その後、妹にも誤りの手紙を出すように告げた。


オリビア嬢との関係も良好に進み、時折、妹の勉強になればと3人でお茶会をすればいつの間にか


「お兄様、お義姉様との時間を邪魔しないでくださいませ」


邪魔者だと追い払うように告げてくる妹に内心、兄離れをしてゆく姿にショックを感じるもオリビア嬢の前だと気持ちを無理やり整え、呆れていると様に見せ


「寂しことを言わないでくれ。何よりリアは僕の婚約者だ」


必死になって紡いだ言葉に


「まぁ。愛称で呼べるからとオリビアお義姉様を独り占めして良いとは言いませんわ」


早々にお義姉様と呼び、自分は歓迎をしているのだと伝えてくる妹と共に、オリビア嬢は必死に隠していた自分の気持ちに気づいた様で戸惑い、心配の色を宿した視線を自分と妹に向けるので


帰り際に、


「女性は成長が早いと聞く。寂しことだな」


心の内を告げれば、微笑まれ


「まだまだ殿下に甘えたくも淑女として扱って欲しいのだと思いますわ」


慰めてくれるオリビア嬢に深く感謝をし、次に会あった時は


「いつまでも仲の良いままでいてくださいね」


微笑まれ見守られるようになり、妹はますます慕い本当の姉のように接し出した。


互いに交流を深め、互いの苦手な所を助け合い、時に妹とのやり取りを姉の様に見守ってくれたオリビア嬢と側近候補達と王立の学園に入学をし切磋琢磨しながら日々を過ごす中、


最高学年となり、生徒会の仕事として新入学生が困っていないかと見回っていたその時に、慌てた様に走るも砂に足を滑らせて様で派手に転んだ姿に、手を差し出すのは紳士として常識であり当たり前の行動だった。


転けた姿を見て居ないふりをし手を差し伸べ、話を聞けば新入学生だと告げるので、講堂まで案内をしそのまま入学式と代表者としての挨拶を終え、教室へ帰ると急に呼び止められた。


学園は基本、立場を関係なく平等を謳っているが、それば自分の様な上位の立場から教師陣を守る為でもある。


本当に平等なら、生徒会メンバーに下位貴族が入ってくる。が、この学園は創立以来上位の貴族が生徒会を回している。


貴族の家に生まれれば、自分の家の立場と関係性を学ぶが、親の目を離れた学園では目を瞑る事はままある。


それでも超えてはらないラインと言うものはある。


それを越えてきた少女に驚きながらも、立場上避けることも、紳士として邪険に扱う事もできずにいた。


何度もそれとなく伝えてきたが、返事ので変わらぬ状態と女生徒の雰囲気にオリビア嬢が言葉を選び告げるも、


「気を付けます」


その言葉で終わらせ、気が付けば


「私も悪い所があるのは分かっています。ですが、苛めてくるのです」


「クラスの皆が話を聞いてくれず、目を合わせてくれなくて」


聞かされる言葉に、生徒をまとめ上げる立場として対策をする事を告げるも


教科書を破られた。


足を引っ掛けられた。


など、段々エスカレートする話に危機感を募らせ


ついには噴水近くで全身を濡らし泣いている姿に、少女の言葉が正しいのでないかと思い、改めて話を聞くためにランチの時間を使い話を聞いた。


オリビア嬢の名前は声に出さないものの、それとなく匂わし告げる言葉に自分の中の信頼が揺らぎだし、


誘ってもいないが毎日ランチの時間に話してくるので、少女の話が本当なのではないかと思い接すれば、


不意に誰がを思いださせ、手が離れてしまった寂しさを埋めるように少女と関わりを持った。


勿論、オリビア嬢からも言葉があったが次第に苦言に嫌気がさし、少女から聞いていた言葉と重なり酷い言葉と態度で返す様になった。


コロコロ変わる表情は可愛く、無垢に礼を告げる姿が眩しく見え出した頃


「お兄様、しっかりしてくださいませ」


妹主催茶会時に告げられた言葉、オリビア嬢が言付け自分に注意する様に告げらのだと思い、


なんて卑怯な。


沸々と怒りが湧きがり、自分達だけの問題に妹まで巻き込む卑怯さに嫌気が刺し


「お前までもが、マリーを見下すのか」


感情を隠す事なく告げると、


「違います。男爵令嬢の為を思ってつげているのです」


オリビア嬢から告げられた言葉の後に


「お兄様や側近候補のお立場を考えれば、学園では許されますが貴族社会では許される事ではありません」


マリーの虐められている原因とも言える言葉に頭に血が昇り、


「学園には身分は関係ない。お前も今そう言ったではないか」


息を飲み驚き怯えた妹に荒んだ感情は制御する事なく


「お前もオリビアも一緒で自分より地位の下を見下すのだな」


乱暴な言葉で吐き捨てる様に言いカップに紅茶を残したまま席から立ちその場を離れた。


今思い出せば、この時点で冷静さを欠け視野が極端に狭くなり言葉も態度も王太子としてしてはならないもので、国王と王妃からは自分がどう動くのかを試されていたのだろう。


この後からマリーと街へ行き、買い物を楽しみ歓喜の声や言葉を嬉しそうに告げるマリーに心をときめかせ、

今まで街へ行くときは決めたれたルートと護衛がついていたが、


マリーと側近候補達だけという気安さと初めて平民達の会話や購入時の駆け引きなどが新鮮で机で学ぶ事が馬鹿げた事なのだとさえ思った。


平民の生活が知れることは良い事だと言い訳をし学園終了後に街へゆき、買い物や観劇など楽しむ中、時折廊下で会う妹からは


「お兄様このままでは男爵令嬢が間違ったマナーを覚えてしまいます」


「ご本人が平民上がりと言うならば、なおさらマナーの勉強をせねば、卒業後に社交界で生きて行けませんわ」


口煩く告げてくるので、妹の顔を合わせると顔を顰めるようになり、態度を崩さない自分についには


「お兄様。わたくし、オリビアお義姉様しか認めませんわよ」


目尻を上げ怒り叫んだ言葉に妹は慌て唇に手を当てる姿に、オリビア嬢が妹にアレコレを吹き込んでいるのだと思い、


「アレは極悪非道な人間だ。会うことはまかりならん」


怒りのまま告げれば、


「その言葉、撤回してくださいませ」


悲鳴を上げる様に慌て撤回を求める姿を無視し自室に戻り従者へ妹とオリビア嬢を合わせないように指示を出した。


最愛の妹を悲しませたい訳ではない。


だが、なぜ分かってくれないのか。


どうして自分ではなくオリビア嬢の味方をするのか。


苛立ちで判断は良くない事は机の上歴史から学び理解していたはずなのに、言葉にできない感情はもどかしき少しの事でも苛立ちを倍増させ爆発させる。


このままではダメだ。


心を抑えようとするも上手くいかず、もどかしい日々はマリーの労りの言葉と優しい態度で癒され満たされる。


少しでもマリーが悲しそうに眉を下げれば側近候補と励まし、笑顔を見れば心が温かくなる。


寝ても覚めてもマリーのことを考え頭も心も締めるようになれば、


これが恋というものなのか。


オリビア嬢の時とは違う気持ちに


「真実の愛かも知れませんね」


秘事を伝えれくれる様に耳元で告げたマリーの言葉に、心が歓喜しじんわりと身体中に染み渡った。


側近候補達と会う中、時折、隠れのようにマリーと2人きりになりいつ側近候補達に見つかるか分からない緊張感と彼らへの背徳感。


1度知って仕舞えば抜け出せない妙薬の様でついマリーに期待してしまう。


勿論、マリーに心変わりされない様に言葉で表し花や宝石にドレスもこまめに送り、夢に見ているといった夜会にも参加しパートナーを務めた。


自分がマリーの中で1番でないと許せなかった。


今、思い出せば、とてもくだらない自己満足と達成感だった。


それでもあの時は幸せだったのだ。


卒業まで後数日となった日、隣国へと公務に度立つ両親を見送り、マリーに一刻も早く会いたくて何が言いたげな妹を無視し城を出た。


その日は卒業を祝う為の祝いの品をマリーと側近候補達と街へ買い物に行く約束をしてるのだ。


マリーに合う宝石はあるだろうか。


できれば自分の色の宝石を選んで欲しい。


胸を躍らせ買い物を楽しみ休憩をとカフェにはり一息ついた時に話は始まった。


「卒業すると皆と会う事ができなくなるのが寂しいです」


寂しそうに笑いながらのマリーの言葉に衝撃を受けよくよく話を聞けば、自分達には婚約者が居て自分達には婚約者がいる。


「一緒に居たくても、無理なのだと理解しています」


瞼に涙を溜め、泣くことを我慢しながら笑うマリーの姿に心が苦しくなり、


どうにかしなければ。


あの場に居た全員が思い、各自知恵を出し合った。


誰かのきっかけでオリビア嬢をマリーの虐めた事への責任を取らせるという話に纏まり卒業パーティの場で婚約破棄とマリーとの婚約発表をする事で話が決まり、


当日、着飾った卒業生が集まる中、


「オリビア。マリイラにした非道な行動は王妃として認められない。よってここで婚約の破棄を宣言する」


今まで和気藹々と卒業を祝いと名残を惜しんでいた中での出来事に、驚き視線を視線を向けるものが多くいる中、淑女の微笑みと共に


「理由をお伺いしても?」


冷静に返すオリビア嬢に苛立ち


「マリーに対し男爵という地位の低さで見下すだけでは無く、教科書を破り捨て、噴水に突き落とす」


これまでマリーが泣きながら訴えてきた事を告げるも、オリビア嬢は顔色を変える事はなく微笑んだ姿に


「それだけではありません。大階段から突き落とされました」


瞼に涙を溜め、恐怖を訴えるように声を振るわし勇気を出し訴えるマリーに庇護欲を抱き、安心させるように肩に手を置く。


学園正面にある大階段での出来事にさすがに態度を崩すかと思い眺めるも


「わたくしがですが押したとでも?」


悠然と微笑み一呼吸分の間を置いてから


「この1年、わたくしは1人で行動をしておりませんの。証人として人を呼びますわ」


堂々と言い切ったオリビア嬢に言葉を詰まらせれば、


「証人居てもいくらでも嘘をつけます。大事にしたいのではありません。オリビアさんが謝ってくれれば私は許します」


自分達と違い、震えながらの今までの行動を謝りの言葉だけで許すというマリーの寛大さに心を打たれていたその時、


「あら。オリビア様の証人であるわたくしを信じられないと言う事かしら?」


ゆっくりと、優雅にそして品良くオリビア嬢へと向かい守るように横に立った妹の目が合えば交戦的な表情をしており、思わず不愉快思い眉を顰め、


「オリビアを庇うつもりか?」


憎々しげに出た言葉にも動じず、ゆっくりと扇を広げ目から下を隠すも余裕ある微笑みを感じさせ、


「わたくし、国王と王妃から名代とご指名をいただき、この場におりますの」


卒業生ではあるが生徒ある自分と、最上位である国王と王妃からの指名で公務としている自分とは立場が違う。


そう告げる妹に呆然とししていれば


「次期王妃であるオリビア様には、友人方が常にご一緒だったのは報告書で拝見しておりますわ」


妹の言葉に驚き体を揺らしてしまうも、自分にも婚約者となったオリビア嬢にも護衛と高王へ報告が挙げられている事を思い出すも自分達は何1つ悪い事をしているわけではないので、堂々を振る舞うと


「でも、報告書なら嘘も書けますよ?」


マリーの言葉に驚きまじまじと顔を見ていると、


「国王であるお父様に偽りの報告は大罪ですよ」


年下に真実を教えるように伝える妹にマリーは馬鹿にされたのだと受け取り


「子供は引っ込んでなさいよ」


怒りに満ちた言葉と表情とは対照に妹は微笑み余裕を見せつけ


「王と王妃の名代できておりますの」


改めて、自分の立場を言葉にした事でこのままでは話にならないと判断したようで


「祝いの場に相応しくない人達が紛れ込んでいるわね」


自分の立場で判断をし壁に控えていた護衛の騎士達に自分達を捉える様に命を出し


「各自、謹慎とします。その者達を連れて行きなさい」


全員に聞こえるように大きな声で告げ、自分達を強制的に退場をさせた。


騎士に腕を掴まれたまま宮に送られ自室へと入れられたが、幸に使用人達の目に触れずに帰れたのは運が良かった。


驚きと戸惑いを隠しきれない従者へ1人にして欲しいと頼み、外に出てもらう。


作戦の半分は遂行できたが、婚約破棄の了承を貰えなかった事が気になるも、破棄をする理由は告げる事ができた。


了承をする国王が不在だがこれで破棄をする事へ有利に持っていける。


納得いかない気持ちを抑え、数日、自室で謹慎をすると国王から事情が聞きたいと従者を通して面会の要請がきたので、意気込み国王と王妃へ礼をし


「この度はこの様な場を設けていただきありがとうございます」


王太子としての学んだ最高の礼をし告げれば、頭を上げるように言われたので視線を正し改めて部屋にいる人物を見ると、マリーとその両親。側近候補とオリビア嬢は分かるが、なぜか妹もおり


あの場で名代としていたからだと納得し、国王の質問に答えてゆく。


マリーから伝えられたオリビア嬢の行いを告げ、


「マリーとは真実の愛で結ばれております」


仲を許して貰うために告げた自分の気持ちに国王が眉間に深く皺を寄せ、王妃は扇で目から下を隠し微笑んでいたが、目の奥は笑っておらず、


身分の問題が引っかかっているのだと思い、口を開きかけるが、


「真実の愛か。ならば、お前の地位は邪魔になるな」


重く響いた言葉に、理解ができず返事が返せずにいると


「王太子であっては男爵家に婿入りはできないだろう」


聞こえてきた言葉は想像もしていなかった言葉に思考が止まると


「国王様、発言の許可をいただけますか」


マリーの父親の声に国王は頷き返すと


「恐れながら、娘は間も無く貴族籍から抜けます」


さらに驚く言葉が返ってくるも


「そうだったな。ならば平民となり愛を続けるのもまた一興か?」


頷き1つと共に告げられた言葉に、何度も思い描いた出来事が叶い礼を告げようとするも


「贅沢ができると思って媚を売っていたのに、価値のない男は要らないわ」


エリーの聞いた事の無い低い声と睨みつける表情に驚きと言葉の意味を理解する事を拒否していれば


「申し訳ございませんが我が家の家訓は、然るべき時にお金を惜しまず出す為に、倹約しろ。ですのよ」


妹の言葉にようやくエリーの言葉の理解ができ、


そうか。

王太子という地位と王室という場所と金が目的だったのだと分かり、落胆する中


「さて、ミランダ嬢。この者が払う慰謝料に希望額はあるか?」


国王の言葉と


「なんでよ。勝手にあっちが恋人ごっこをして貢いできただけで私は欲しいなんて一言も言ってないわ」


エリーの怒鳴る声に、自分の浅はかさが表面に浮き彫りになり情けなさと悔しさが心を占めた。


間も無く貴族ではなくなるエリーに支払い能力は薄く、その話し合いが気がつけば終わり


「王位継承権を剥奪し離宮に幽閉とする」


全員で1つの塔で過ごす事となり皆が同じ表情をし1つのテーブルを囲んだ。


言いたい事は山程ある。


だが口に出せば醜く罵る言葉もあるので意地と貴族だった誇りでできなかった。


貴族籍は抜かれ鬼籍に入れられるのだろう。


生きながらの価値も存在の無い状態。


いや。生まれてきた事すら無い事にされるのだろう。


それだけの事をした。


その気持ちと


それだけしかしていないのになぜ。


この気持ちがせめぎ合うも日にちが過ぎれば気持ちも冷静になり、ポッリポッリと皆が己の気持ちを語り整理をしてゆく。


話せば分かる。


エリーは愛しているとも好きとも物が欲しいとは言って無い。


自分達が一方的にに愛し、喜んで欲しくて贈り物をしていたにすぎない。


ミランダ嬢の名前も、今まで匂わせていただけで名前を出した事は1度も無い。


全て自分達が間違った判断し、今がある。


「ハニートラップというやつだな」


乾いた笑と共に出した言葉は一層自分を惨めにした。


お互いが情けなく反省が素直にでき、何かできる事はないかと考え出す日々の中、


夜も深け、皆で何かできないかと案を出し合っていた時に聞こえたノック音に聞き間違いかと思うも立ち上がり出迎えの体制を取れば、


開いた扉から見えた人物はマントに身を隠した人物に警戒をするも、2度と姿を見る事も声を聞く事も無いと思った妹の姿に驚いていると


「お兄様」


声を振るわし目尻から一粒の涙が溢れた後に次々に流れ落ちる涙と、下を向いてしまった妹の姿に後悔が湧き起こる。


大事に見守り、時に心を鬼にし叱りもした大切な妹を悲しませ、人前で泣かせてしまった。


ジクジクと痛む心に改めて自分の行いの愚かさが分かり、


「すまなかった」


小さな肩を震わし泣いている妹に詫びと共にゆっくりと抱きしめ


「心配をし助言をくれたのに申し訳なかった」


助言をし必死に止めようとしてくれた妹が愛おしくて腕に力を込め抱き締めると、さらに泣き出してしまい


「なぜ。どうして」


震える声で、言いたい言葉が沢山あるが言葉にできない様で


「浮かれ、視野が狭くなり自分達が正しいと思い込んでいたんだ」


穏やかに聞こえるように意識しながら伝えると


「あれ程、言ったのに」


当たり前だが妹も言いたい事は沢山ある様で、震えながらの言葉に


「そうだな。言葉を沢山くれたな」


その言葉に耳を貸さなかったのは自分だ。


もっと怒っても良いのに抑え込んでいる妹にさらに心が痛み、頬をつたっている涙を拭う事ができずに居ると妹から抱きしめ返され


「お兄様の、おにいさまの」


胸元で、くぐもりながら聞こえた言葉が嬉しくて愛おしくて


「私も同じ気持ちだよ」


小さな頭を撫ぜ2人だけに聞こえる様に告げしばらく抱き合っていると妹の気持ちが落ち着いたのか、背中に回されていた腕が名残惜しそうに離れるので、同じ様に背中に回していた腕を解くと1歩後ろへ離れ


深呼吸をし背筋を伸ばし、己の立場を表すように威厳を放つ妹に息を飲めば


「わたくし、ソフィア・トゥール・ルヴァニューはこの度、王位継承権第一位の命を受け、これを承諾したしました」


告げられた言葉が信じられず絶句する。


なぜ?


妹は直系で正当な血筋ではあるものの女性だ。


王位に着くことはできないはずで、選ばれるなら王弟の辺境伯かその子息なはずだ。


なぜだ?どうして妹が王位に着かなければならないのだ。


受け入れる事ができずにいる中、


「初の女王が諸外国に見下されぬ様に、王弟である辺境伯は守りを強固にする為にその地で留まるとの事」


自分の考えなどお見通しだと告げる妹に


自分が背負うはずだった責任を妹が背負うことになってしまい、後悔で立っていられない程に体から力が抜けそうになるも


「あなた方には、表に出ない仕事を補っていただきます」


淡々と告げる妹の言葉に、自分達が生きる意味をくれたのだと理解ができた。


王位に着くという事は綺麗事ばかりではいられない。


手を汚す判断を下し事はするが、綺麗なまま存在しなければならない。


平民が憧れ、敬う象徴であらねばならない。


御旗に汚れがあってはいけないのだ。


その為に動いてほしいと言う妹の覚悟を理解し


「最新の情報がものを必要でしょうから外出は許します。逃亡しても構いませんわ」


その時は命が消えるだけだと匂わし、


「ここにいる間は衣食住の補償はいたします」


上位貴族特有の物言わせぬ微笑みをし、


「お好きな方を選びなさい」


自分が行う王政にその身を、学んだ知識を、習得した武力を使うようにと告げてくる。


見知らぬ妹の姿に魅入ってしまうも、


妹を守ると両親に誓ったこの身


迷う事なく1歩近づき、両膝を着き両手を床につけ、小さなヒールより出ている足の甲に唇を近づけ


「殿下へ忠誠と服従を誓います」


足の甲へ唇を告げた。


驚いたのか体を揺らした反動が唇から伝わり、必死に背伸びをしている妹が可愛く口端を上げていれば


「そう、働きを期待しているわ」


腹に力を入れている様で少し低く緊張したのか硬い声にを了承と受け取り妹から離れると、皆も同じ様に足の甲にキスをし働く事を決めてくれた。


1度は婚約者として妹を求め、将来国政に就く為に学んだ身。


誰1人迷う事はなかった様で、次の日から運ばれた書類に書物、体術などの教師が派遣され妹からの仕事がそれぞれに振られた。


宰相の子息であった者には書物と経済学を勉強させ


騎士団長へ婿入りする予定だった者には武術と変装に暗殺まで学ばせ


外務省長の息子は引き続き国外の語学に情勢と風習を学ばせ


全員が体の暗器や毒、手練手管を学び、子孫を残さない為に薬を服用する中、


自分は王太子の時同様に学び時に彼らの統括をするようになった。


手始めに渡された仕事はとある領の密猟と密売


表では中々掴めない情報を言葉巧みに接触し情報を得、売人を闇に葬り爵位持ちの関係者は表で裁かれた。


顔が知れ渡っているので暗部になれないこの身を若燕の様に振る舞い近づき情報を貰う。


自分達にはマリイラを真似する事でなんとかこなし初仕事を終えれば、


マリイラの言葉巧みに人の心を操る高等技術に驚かされ、自分達の無知と警戒心の無さを痛感した。


だが、要領を得れば、次に任された仕事は初めての時より時間も短縮できた。


時に、ギルトへの登録無しの冒険者として治安を守り、秘境へと薬草を取りに行き、時に国外へ行き内情の精査や頼まれた菓子も買う事などもあった。


仕事に慣れた頃は油断もあり住処を暴かれそうになる時も、命を絶つ程の大怪我もしたがなんとか生きながらえ、今日いう日を迎えた。


これから先、王女として立つ日がきて、子を産み母となり、いつか王位を譲る日が来るだろう。


できればこの命尽きるまで。


その時までこの身を生かし役に立てる事を胸に誓い、教会へ向かう馬車を見送った。


国を上げての祝いに晩餐はいつもより豪華で品も多く、歪な形の菓子が多めに届き


幸せのお裾分けです。


直筆で書かれたメッセージカードを指先で撫ぜ、ソフィの幸せを祈った。



兄編でした。

勘違いが全ての原因です。言葉巧みにこられるとその気になりますよね。

買い物とか窓口の手続きとか。

言うなれば恋も勘違いから始まる事もありますのであながち間違ってないのかも知れませんね。


次はお義姉様のお話です。

書き上がりましたら掲載しますのでお待ちいただければ嬉しいです。


お読みいただきありがとうございます。

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