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妹の話


見慣れてた風景が急に違和感に感じ、


隣で手を繋いでくれた兄が、見知らぬ人に感じ


自分が自分ではない、


自分の中に誰かが居るのではないかという感覚と気持ち悪さ


戸惑い


拒絶


理解ができずに見ていた空が遠くへと離れていく視野






「なるほど。異世界転生をしたのね」


鈍く動く体とは反対に冴え冴えとした脳が導き出した答えを言葉にし、改めて目を動かし見える範囲を観察せれば


四方を囲むように白色のベットカーテンが掛けられから、窓辺からは日差しが優しく降り注ぐ。


反対側を見れば、黒色に見えた扉は目を凝らしてみればダークブラウンのようで、記憶にある部屋とは違う事にため息を落とした。


倒れる前に見ていた風景は自分の家に庭


手を繋いでいた兄は6つ離れた実兄


自分はこの国の姫なのだと訴えてくる。


嘘だと言って。


記憶の片隅にある自分は、ごく一般家庭で過ごし、平凡を絵に描いたように県内の大学卒業し、地元企業で働き、時おり趣味の食べ歩きを楽しみ写真に撮りSNSに上げたりと、


どこにでもいる人間だった。


「それがどうして、こうなった?」


独り言での声はとても幼く、鈍い体を動かし両手を視界に入るように上げると、紅葉の様に小さくぷくぷくした手に表情が消え


自分の髪を一房つまみ上げれば艶やかな金色の髪に、両手で顔を覆った。


小説で流行った転生なの?


まさか自分が?


なぜ?


どうして?


頭の片隅で頭を抱えた苦悩している自分と、幼いながらも家族が好きで特に兄が大好きなのだと伝えてくる自分に、


可愛い幼子が嬉しそうに兄と手を繋ぎ、時に抱っこを恥ずかしそうに強請る姿と慈愛に満ち微笑みながらも快く抱き上げてくれる兄の姿に


大人の自分が白旗を上げるしか無かった。


受け入れてしまえば、ノックの後に入室してきたクラッシックメイドの格好をした人物の名前も無意識出てくるし、


普段より早足で自分に向かってくる兄に心配をかけた事への罪悪感がじわりと心を侵食し、


「ごめんなさい。お兄様」


小さな手を伸ばし謝罪をすれば、


「意識が戻って良かった」


重い息と共に告げられた言葉と両手で握ってくれた温かさに微睡がやってくるが必死に瞼を上げようと頑張るも


「お兄様はここに居るから、ゆっくりおやすみ」


優しく柔らかな声に遠くに聞きながら眠りに身を任せた。



前世と、今世との折り合いをつければ意識は今世に引っ張られながらも、マナーや帝王学などの必死に学ぶも


「お兄さま」


理解ができず学ぶ事が嫌になり兄の元へ逃げる。


勉強中の兄も教鞭を奮っている教師も自分がいけば仕方ないとばかりに受け入れてくれ、


「どこが分からなかったんだい?」


涙をいっぱい溜めた目にハンカチを優しく当て頭を撫ぜながら訪ねてくれる兄に


「数字が解けないのです」


そう伝えれば、兄と兄の教師が詳しく解説してくれ理解ができ問題を解くと大袈裟だと思えるぐらいに褒めてくれる。


時折、構って欲しくて邪魔をしたり


寂しくなり、知っている問題を解らないふりをし兄の元へ行けば、仕方ないという態度をしながらも優しく受け入れてくれた。


自分についている教師が悪いのではない。


自習をしている自分が勝手に先を学び進めているので、国王である父や母である王妃にはその旨を伝え教師陣部は咎めが行かないようにお願いもした。


暖かくなれば花々が咲き誇る庭園で兄とお茶を楽しみ、時に手を繋ぎ散歩をし抱っこを強請った。


幸せで楽しい日々は、1人の少女がカーテシーをし名前を告げた時から3人となった。


王位継承権第一位である兄に相応しい令嬢が突然現れた事に大変戸惑い、心の整理ができず


「お兄さまを独り占めしないで」


涙ながらに淑女をしてはあるまじき大きな声と仁王立ちで伝えれば、


「そのような事は断じていたしません」


微笑ましそうに優しい色を持ちながら真剣な表情で伝えてくるので、


「だったら、どうしてわたくしとも遊んでくれないの」


地団駄を踏みながらの言葉に、兄の戸惑い右往左往している姿に罪悪感を感じるも、自分の感情を優先してしまう自分にも悪いことをしているのは分かっているが、


人形の様に、綺麗な令嬢と仲良くなりたかったのだ。


その気持ちを上手に言葉にできないのだと察した令嬢が戸惑いながら兄に伺うように視線を向ければ、


「勉強で忙しいのは理解している。申し訳無いが少しでも良い、時間を作ってやって欲しい」


苦笑混じりの兄の言葉に、令嬢が頷いてくれ交流が始まった。


令嬢がマナーができ、勉強面もできるのに心優しく、試すように告げたワガママも優しく叶えてくれ、時に言った本人が忘れていた願いまでも叶えてくれれば


「お兄様、お義姉様との時間を邪魔しないでくださいませ」


同じ塔に住む兄と、帰ってしまう令嬢とでは対応が変わり


「寂しいことを言わないでくれ。何よりリアは僕の婚約者だ」


「まぁ。愛称で呼べるからとオリビアお義姉様を独り占めして良いとは言いませんわ」


早々にお義姉と呼び、歓迎を伝え兄と取り合うように言い合いをすれば、最初は戸惑いどう対応すれば良いのか解らずにいて、とても可愛い姿を兄と楽しんでいたが


最近では、


「いつまで仲の良いままで居てくださいね」


と、微笑みながら見守られる様になってしまい本当の姉のように慕っていた。


それなのに、兄もお義姉も学園に通う様になりお義姉様のお友達や学園の話を聞き2年は良かったが、


最終学年となった頃から不穏な空気を纏い出した。


様々な伝手や、お茶会の時に親切に教えてくれる令嬢の話を集め、まとめれば


どうやら、1人の男爵令嬢が絡んでいるらしく


「お兄様。しっかりなさってください」


久しぶりのお茶会にもお義姉様の姿は無く、兄と2人なので前振りなしで容赦無く告げれば、

鬱陶しそうに顔を顰め、


「お前までもが、マリーを見下すのか」


憎々しげに告げる兄に、


「違います。男爵令嬢の為を思って告げているのです」


ゆっくり首を振りなるべく冷静に言葉を選び告げるも、


「お兄様や側近候補のお立場を考えれば、学園では許されますが貴族社会では許される事ではありません」


この言葉に兄は癇に障ったようで、


「学園には身分は関係無い。お前も今そう言ったではないか」


聞いた事無い乱暴で吐き捨てるような声に、息を飲み身を固め驚いていると


「お前もオリビアと一緒で自分より地位の下を見下すのだな」


勢いよく席を立ち、紅茶も残ったままだというのに去った兄の様子に慌て自室に戻り、義理姉に手紙を出せば、王妃教育の間の時間に会いに来てくれ、


「ご迷惑をおかけし申し訳ございません」


謝らなければいけないのは自分の方だと告げ、席を進め、改めて話を聞けば


「お兄様が本当にごめんなさい」


頭を下げ謝罪をする。


聞けば聞くほど義姉様は悪くない。


学園だからこそ目を瞑られいる事で、本来は許される事は無い行動に重い息を吐き出し、


「お兄様が浮気をするだなんて」


信じたくない気持ちと心の底では分かっている気持ちが混じり、震えた声で溢すと


「私がお心を留めておけないばかりに申し訳ございません」


再び謝罪が返り、


「いいえ。お義姉様は悪くありませんわ」


なんとしても兄を止めなかれば。出なければ兄が小説の様になってしまう。


お義姉様には1人で行動をしない事を約束して貰い、


なんとしても回避をせねばと、兄に会えば


「お兄様このままでは男爵令嬢が間違ったマナーを覚えてしまいます」


「ご本人が平民上がりと言うならば、なおさらマナーの勉強をせねば、卒業後に社交界で生きて行けませんわ」


口煩く告げているからか、兄の態度も顔見れば顰めるようになり、


つい、


「お兄様。わたくし、オリビアお義姉様しか認めませんわよ」


兄の態度に怒りを覚え言ってしまった言葉に、慌て唇に手を当てるも、


「アレは極悪非道な人間だ。会うことはまかりならん」


睨み、威圧的告げられた言葉に


「その言葉、撤回してくださいませ」


悲鳴を上げる様に慌て告げるも取り消されることは無く、会うことを禁じられ兄にも義姉様にも会えぬまま、危機感だけを募らせ、


何か良い方法を考えなければ。


お義姉様には手紙や花を送り続け、時に側近候補の婚約者達にも手紙を送り注意を促し


母である王妃と面会の際にそれとなく兄の事を伝えるも、扇で口元を隠し微笑むだけで助言は貰えず、


父である国王になんとか時間を作って貰い兄と義姉の事と自分の考えを伝えれば、


「そうか」


その一言で切られ違う話題に移ってしまった。


報告と聞こえてくる兄とお義姉様との関係は悪化の一途をたどり、お義姉様に一目でもと見える場所に移動し目があえば、悲しげに微笑まれ、


修復は無理かもしれない。


諦めの言葉が頭を掠める気落ちをしている中、国王と王妃に呼ばれ


「予定通り来月、隣国へ行く事になった。数週間は帰って来れないゆえ学園の卒業パーティに名代として出ように」


なんでも立太子だった方が国王となる祝いの席に招待を受けたとの事。


大事な招待に行かないでとは言えず、


「謹んでお受けいたします」


ため息をと小説通りに進む恐怖に身を揺るわし、


名代として参加するのでドレスの新調や祝いの言葉などの準備を行いつつ


兄と共に両親を見送るも兄は声をかける暇もなくどこかへ行ってしまった。


大切な2人が傷つけ合うのを見る事しか出来ず、1人枕を涙で濡らす日々に次第に諦めと覚悟が芽生えてくる。


小説通りに進むならば、兄は廃嫡後に平民として生きてゆく。


そうなれば、王位継承権第一位は直系である自分。


上手く現場をまとめ鎮れば


兄は助ける事ができる。はず。


問題はお義姉様。


兄の一言でお義姉様の対応が変わってくる。


国外追放ならこちらも対応ができる。


できれば良くあるヒロインが断罪する側へ変えられればいい。


「証拠を探さなきゃ。無実の証拠を」


そこからはあっと言う間に時間が過ぎ両親の名代として卒業パーティーに参加をすれば、


「オリビア。マリイラにした非道な行動は王妃として認められない。よってここで婚約の破棄を宣言する」


今まで和気藹々と卒業を祝いと名残を惜しんでいた中での出来事に、呆然とするも背筋を伸ばし凜とした姿の義理姉は


「理由をお伺いしても?」


正面に立ち品良く微笑み対応をしており、飛び出したい気持ちをグッと抑え扇を握り見守れば


「マリーに対し男爵という地位の低さで見下すだけでは無く、教科書を破り捨て、噴水に突き落とす」


小説そのままの言葉に顔を顰めてしまいそうになるも、周りに居る人達から視線を感じているので微笑みを崩さないように頬に力を入れ耐えていれば、


「それだけではありません。大階段から突き落とされました」


瞼に涙を溜め、恐怖を訴えるように声を振るわし庇護欲を抱かせる様に告げる言葉に、


大階段ですか。お体が丈夫なようでお怪我がなくて良かったですわね。


心の中で吐き捨てるように告げ、お義姉様の対応を見守れば、


「わたくしがですが押したとでも?」


悠然と微笑み一呼吸分の間を置いてから


「この1年、わたくしは1人で行動をしておりませんの。証人として人を呼びますわ」


堂々と言い切ったお義姉様に心の中で拍手喝采と応援し、熱い視線を送れば、


「証人居てもいくらでも嘘をつけます。大事にしたいのではありません。オリビアさんが謝ってくれれば私は許します」


兄の隣にいる男爵令嬢に言葉に、苛立ちが抑えきれず、


「あら。オリビア様の証人であるわたくしを信じられないと言う事かしら?」


ワザとゆっくりと、優雅にそして品良く見える様に義姉様の横に立ち兄を見上げれば、不愉快そうに眉を顰め、


「オリビアを庇うつもりか?」


憎々しげにつぶやく言葉に、扇で目から下を隠しつつも余裕ある微笑みを作り、


「わたくし、国王と王妃から名代とご指名をいただき、この場におりますの」


卒業生ではあるが生徒ある兄とは、最上位である国王と王妃からの指名で公務としている自分とは立場が違う。


怯む兄と側近候補達とは違い言葉の意味が解らない様で、不思議そうにしている男爵令嬢に


「次期王妃であるオリビア様には、友人方が常にご一緒だったのは報告書で拝見しておりますわ」


お義姉様の無罪の証拠を探す為に自分付きのメイドに相談した所、毎日、父に報告書が届られていると聞き、我儘を言い貸り読み込んできた。


当然、兄の行動も報告書が挙げられており、一応全てに目を通したものの眉を顰める報告だった。


自分の先程の言葉に立場の危うさを理解できた兄と側近候補に


まだ、冷静に判断できる部分はあるのですね。


少しだけ安堵の息を吐くも


「でも、報告書なら嘘も書けますよ?」


年下と判断しどこか馬鹿にしてくる様に揶揄しながらの言葉に、お義姉様が動こうとするも、


「国王であるお父様に偽りの報告は大罪ですよ」


そんなことも知らないのかと意味を含め告れば、苛立ったのか目を吊り上げ、


「子供は引っ込んでなさいよ」


怒りに満ちた言葉と態度に表情も対応も変えず、


「王と王妃の名代で来ておりますの」


余裕を見せつけるように微笑み告げると、怒りを全身に出し何か言わんとするが


「祝いの場に相応しくない人達が紛れ込んでいるわね」


王家の権限を使用し、壁に控えていた騎士達に命を出せばあっという間に捕まり


「各自、謹慎とします。その者達を連れて行きなさい」


言葉意味を理解してしない人物との言い争いとこれ以上場を悪くるするのは良くないと強制退場させれば、場の雰囲気は騒然とする中、振り向きお互いに目を合わせると


「お義姉様」


小さな声で漏れてしまし、会場は鎮まり返ってしまった。


好奇心の視線と今後の動向を見極める為の視線。様々な視線を受ける中、


そうしても伝えたい言葉は立場上伝えるべきでは無いと理解しているも、


「オリビア様。この度は兄が大変申し訳ございません。オリビア様のご希望に沿うように国王へ進言いたしますので、ご遠慮なく仰ってください」


ゆっくりと頭を下げ名代では無く自分の気持ちを言葉に伝えれば、周囲にいた人々の騒めきが聞こえるも


「お顔をお上げください。今すぐとは難しく、お時間をいただければ幸いにございます」


お義姉様の一言で、顔を上げると見慣れた優しい表情と慈愛の瞳に鼻の奥が痛くなるも、


「わたくしの事をいつもご心配していただき、励まし助言をいただけた事は大変嬉しく思っております」


ありがとうございます。


体が揺らぐことのない綺麗なカーテシーを貰い、いつまでもこのままではいけないと気持ちを切り替え、


細く深呼吸し、


「顔を上げて。このままではいつまでたっても卒業パーティーが始められないわ」


先程の出来事は無かった事とし告げれば綺麗に微笑まれ、端にいた給仕に視線を送りグラスを貰うと、周りにいた人達も給仕からグラスを受け取り


「皆、卒業おめでとう。3年間苦楽があった事かと思いますが、良い経験ができたと思いこれからの人生に役立てて欲しいわ」


言葉止め、グラスを上げれば全員が同じ動きをし、


「皆が進む道に幸あらん事を」


本来、最高位の祝賀の席でしか行わない乾杯を名代として始まりの挨拶に変えれば、


音楽が奏でられ、瞬間に華やかな雰囲気に変わった。


なんとか雰囲気を変えられた事に心の中で安堵の息を吐き、近くにいた給仕に花瓶に飾れている薔薇を数本持って来させ、1輪受け取り、


談笑をしているお義姉様の元へ行き、


「オリビア様、ご卒業おめでとうございます」


祝いの言葉と共にバラを差し出せば、微笑みながら受け取ってくれたので周りにいた公爵令嬢達にも同様に言葉とバラを差し出せば微笑みながら受け取ってくれた。


皆、側近候補の婚約者で今回の被害者でもある。


王の名代で来ている自分の行動は被害者となった令嬢へ詫びの準備をしている事を皆に示し、冷遇することのない様に示し、


「このバラは、王妃様自ら育ているバラなのですよ」


周りに聴こえる様に大きめな声で告げれば、公爵令嬢達も聞き耳を立てていた周りも瞬時に自分の考えを察したのか、自分が離れた後には遠巻きで見ていた令嬢達が話しかける姿が見られた。


対応が間違っていなかった事への心の中で安堵の息を落とし、挨拶に来る親子に微笑みながら対応をしパーティを終えた。


その後は、隣国から帰ってきた国王と王妃を交え、パーティーでの報告とお願いをし兄と側近達そして男爵令嬢の対応に追われる中、


互いに言い分を聞き、真実ならば地位は要らないだろうと匂わせ出すと


男爵令嬢の


「贅沢ができると思って媚びを売っていたのに、価値の無い男は要らないわ」


この一言に、兄をはじめ男性陣が驚き愕然としていたとは反対に、


そっちのパターンかぁ


扇で顔を隠しつつ呆れ、あまりにも兄を侮辱する物言いに


「申し訳ございませんが我が家の家訓は、然るべき時にお金を惜しまず出す為に、倹約しろ。ですのよ」


つい男爵令嬢に当てつければ、睨まれるも余裕の笑みで返した。


そんな中、下された処分は


「王位継承権を剥奪し離宮へと幽閉する」


願いを叶えて貰った処分の内心安堵し、側近候補だった彼らも外に出しては利用されては危ないと判断し1箇所に集められ共同生活をする事となった。


これも願い出た通りに叶えて貰えた数日後


「お兄様」


黒いマントに身を包み夜の暗さに身を隠し案内された宮の、開けられた扉の向こうには


記憶よりほっそりとした兄の姿に思わず言葉と共に涙がこぼれ、下を向いて泣いていると、


「すまなかった」


詫びの言葉と共に抱きしめられ、


「心配をし助言をくれていたのに申し訳なかった」


さらに力強く抱きしめてくれるも、涙は止まらず、


「なぜ。どうして」


意味も無い言葉が口から漏れるも


「浮かれ、視野が狭くなり自分達が正しいと思い込んでいたんだ」


優しく、悔しそうに告げられる言葉に


「あれ程、言ったのに」


震えながらの涙声に


「そうだな。言葉を沢山くれたな」


顔を見なくても後悔している事がわかり、


「お兄様の、おにいさまの」


強く抱きしめ返しながら伝えて言葉はくぐもりながらも本人には伝わったようで


「私も同じ気持ちだよ」


大きな手で優しく頭を撫ぜてくれた。


暫くすれば涙も出きったの様で自然と止まり離れ難くあるものの、いつまでも居られ無い事も理解しており、ゆっくり腕から力を抜くと、兄も大丈夫だと思った様で互いに体を離れる、


半歩後ろに下がり深呼吸をし背筋を伸ばし、真剣な表情を兄と周りにいる元側近候補者達に向ければ、


兄と元側近候補達が息をみの、体を硬らせる中


「わたくし、ソフィア・トゥール・ルヴァニューはこの度、王位継承権第一位の命を受け、これを承諾したしました」


今まで震えていた声が嘘のように固い声と言葉に、兄と元側近候補達が驚き絶句している中、


「初の女王が諸外国に見下されぬ様に、王弟である辺境伯は守りを強固にする為にその地で留まるとの事」


兄が背負うはずだった重みを家族である自分が背負う。


生まれた家と環境で心積もりはしていたが、いざ自分の口に出して告げれば言葉だけでも重みを感じる。


「あなた方には、表に出ない仕事を補っていただきます」


表があれば裏がある。


光があれば闇がある。


某病気の様な言葉の王家や貴族には日常で、時に言いがかりを付けることもある。


白を黒にする言も黒を白に事もする。


それをお行うのだと告げ、


「最新の情報がものを必要でしょうから外出は許します。逃亡しても構いませんわ」


その時は身元不明が出てくるだけ。


「ここにいる間は衣食住の補償はいたします」


にっこり微笑み、


「お好きな方を選びなさい」


強気に告げれば、呆然としていた兄が言葉の理解ができたのか、1歩近づき、両膝をついたかと思うと、両手を床につけ、


「殿下へ忠誠と服従を誓います」


足の甲へ唇を告げた。


内心驚き、声が出かけるも喉に力を入れ、


「そう、働きを期待しているわ」


声を震わせないように気を付けながら伝えれば、元側近候補者も同じ様に足の甲にキスをし働く事を決めてくれた。


予想外の服従に眩暈を起こすも、ここで倒れては見栄も威厳も無くなってしまうので、ぐっと腹と足に力を入れ、


「明日からよろしくね」


震える足を叱咤し兄に微笑み、宮を出て早足で自室に戻り人払いをし誰もいない事を確認した後、枕に顔を押し付け、心の中で言葉にできない衝動に叫んだ。


眠れるはずも無く、次の日から王女となる教育で精魂尽きてベットに倒れ眠る日々が続く中、なんとか時間と作り書いた手紙の人物達と会え、


「お久しぶりでございます。この度はご招待をいただき、ありがとうございます」


久しぶりに会ったオリビア様を始め、バラを贈った令嬢達をお茶会へ招待する事ができた。


「こちらこそ、来ていただけて嬉しいわ」


オリビアにとっては来たくない場所かもしれないと思い、普段使用しない部屋に準備をし迎えたが気分を害した感じは無く、


「最近はいかがお過ごしですの?」


騒ぎを消し去る為の王位継承と初の王女誕生を祝うパーティーを盛大に行い王家の不審を払拭している中ではあったが、どうしても会いたくて招待したのだ。


勿論、令嬢達の行動は把握しているが、文字で見ると本人から聞くとでは大いに違う。


率先して話しかければ、


「メイドとして殿下のお側に居たいとお父様と話をしている所なのです」


オリビアの言葉に驚き、まじまじと顔を見れば微笑まれ、


「わたくし、王妃教育を受けておりました。お役に立てると思うのです」


告げられた言葉に、


「それは嬉しい事だけれども」


素直に喜ぶ事ができずにいれば、


「ここにいる皆、殿下の助言と励ましに支えられました。お仕えするのはこのお方だと思っております」


オリビアと仲の良いと聞いている令嬢は側近候補であった宰相の子息と婚約をしていた令嬢で、


「手紙をいただき、心折れそうな時にはいつも殿下の言葉を胸に乗り切って参りましたの」


次に言葉をくれたのは外交長の子息と婚約をしていた才女と名高い令嬢で、


「あの日、婚約者の事で親に見限られそうになったのをお助けいただきました。御恩は一生忘れません」


騎士団長のご息女の言葉に、咄嗟の思い付きだったがやって良かったと思うも


騎士団長へ苦言を申す事を頭の片すみに覚えた。


口々に嬉しい事を言ってくれるが、1人だけ口を閉ざしたままの令嬢に視線を向け、


「ここにはわたくし達しかおりません。言いたい事を言って良いのですよ」


できる限り優しく伝えれば、ポロリと涙をこぼし


「わたくしも殿下のそばでお役に立ちたいです」


震えながらの言葉に、令嬢だけ侯爵で遠慮をしているのだと思い、そっと周りを見ればオリビアに小さく頷かれ、


「ありがとう。わたくし初の王女なる身。貴方が作る美味しいお菓子をいただけると思うと仕事も頑張れそうだわ」


令嬢の特技を言葉にすれば、勢い良く顔を上げたかと思うとくしゃりと顔を歪ませ、


「精一杯、心を込めてお作りいたします」


ハンカチーフに顔を埋め告げられた言葉に、肩を撫ぜ、


「嬉しいわ。わたくしスコーンとクッキーと内緒だけれどもフラップクジャックが大好きなのよ」


勿論これは令嬢の得意とするお菓子でありつつも自分の好きな菓子も混ぜ少しでも気が楽になればとおどけた様に告げれば、


「フラップジャックはとても甘く太りやすいお菓子ですもの、目を光らせないといけませんわね」


オリビアも乗り掛かりおどけながらの言葉に、


「まぁ、オリビア様が止められるとは思いませんから、ここはわたくしの出番ですわ」


「そうですわね。オリビア様は殿下に甘いですもの。わたくし達がきっちり管理いたしませんね」


コロコロ笑いながらの言葉に、


「まぁ、皆様酷いですわ」


少し大袈裟に拗ねたように見せた後


「見つからないようにこっそり作って渡して頂戴ね」


密約をするために小声で伝えれば、泣いていた顔に笑顔が戻り


「はい。お約束いたします」


顔をハンカチーフから上げ笑顔で告げれてくれた言葉に微笑み返し、それぞれの進路を聞きその日は終わった。


ああは言ってくれたが、それぞれが身分があり格式高く歴史ある家。


王女になる為の励ましだと思い、日々勉強に身を費やし兄を教訓に婚約者は作らず学園を入学し卒業をした。


同時に側近候補として当てがわれた人物はオリビア嬢を始めその時に名乗り上げてくれた人物もおり、


「王女様へ忠義と服従をお誓い申します」


憚らず兄と同じ言葉に懐かしさを感じつつ変わらず綺麗なカーテシーを披露してくれたオリビア達に


「こちらこそよろしくね」


微笑み、早速密約通りにひっそり渡してくれたフラップジャックを笑顔で受け取り小言を貰いながらも、


重圧に負けそうになりながらも政務をこなす。


数年後には結婚し子を授かり、度々出産の為に政務から抜けるも王配である夫が代わりを務めてくれ


王女として、この国に纏め諸外国とも良好な関係を続ける事ができた。


側近として心身を支えてくれたオリビア様や令嬢達。


影から支えてくれた兄と元側近候補。


自分だけでは到底できない政務を滞る事なくできたのは、主力を尽くしてくれた皆のお陰と感謝し、健康で元気なうちに息子に王位を渡した。


後は生涯を終えるまで好きな事をし満喫をした。


先逝く人を見送り、時に号泣し、自分の番になった時に


子供や孫に囲まれ、夢現のまま子供の頃からの出来事を思い出す。


色々あったが、


良い一生だった。


そう思い瞼を閉じた。




フッと思い浮かんだ仲の良い兄妹の話を書きました。

兄の失脚後は残された家族が頑張る話しを書きたかったのですが、足らない所は兄、お義姉様、夫へで書いていきます。


不定期なりますがお付き合いいただけると嬉しいです。


22/10/23 題名の変更を行いました『お兄様のなんて!お兄様なんて・・・大好きですわ。』


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