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将棋千一夜  作者: 秋月しろう
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第六夜 二歩

  第六夜 二歩



「この歩はもらっとく」と言うが早いか、オッサンの手がやおら伸びて、私の打ったばかりの歩を摘まみ上げ、自分の駒台の上にピシリと置いた。

 ――『取られる歩ではないのだ』

 抗議しようとする私を前に、オッサンの目は『何も言わさんぞ』と威圧的である。奇妙な沈黙が一瞬二人を包んだだろうか。

 しかし、次の瞬間、私はオッサンのその行為を理解できた。私は二歩を打ったのだ。

 抗議しようとした自分に恥ずかしさを感じたが、一方、盤を前にコップ酒をチビチビやっているオッサンのその人を小馬鹿にしたような態度に何とも言えぬ憤りを覚え、投げるに投げられぬ心境になった。

『クソ、今に見ておれ。本来なら投げる将棋だが、そっちがその気ならこの将棋、勝ってオッサンの鼻を明かしたろうやないかい!』

 かくして、決して棋譜には残せぬ私の一歩損のケッタイな勝負が始まった。

 棋力の差はあまりない。しかし、頭にカッと来ている私の指し手は乱れ、またもやオッサンに(今度は黙って)歩を摘まみ上げられる羽目になる。それでも悔しさを噛み殺して頑張ったが、遂に頭金までのミジメな負け方……。

 帰る途中、何度もあの時の悔しさを噛み締めていた。

 以後、そのオッサンと指す時は細心の注意を払って歩を打つことにしている。

 もし、相手が二歩を打ったら今度は私が歩を摘まみ上げてやろうと心に誓いながら……。



     (了)


 この話も実話である。まるで二歩を打てば、相手に取られるという将棋のルールがあるかように、当然の如く摘まみ上げられたのが今でも記憶に残っている。

 そして、今思えば、対局しながら食事が出来たことも、考えてみれば懐かしい。私も時折、ラーメンを啜りながら、行儀悪く指したこともあった。

 ただ、このオッサンのように日本酒を飲みながら将棋を指す人間はあまり見たことがなかった。(ビールはたまに見かけたが)

 将棋クラブにはもう二十年以上足を運んでいない私なので、今はどうなっているのか分からないが、このご時世、禁煙の所が大部分であろうし、まして食事や飲酒は禁止ではないかと思う。

 愛煙家には将棋を指す時、禁煙は辛いものがあると思う。これについてはまた書くことがあるかも知れない。


 作品として、最後の(くだり)は何とも情けない。もう少し書きようがあっただろうにと、顔を赤らめている。


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