第二夜 駒柱
第二夜 駒柱
駒柱――盤上に駒が縦一列に並ぶこと。その将棋を指した後、不吉なことが起こると言われている。
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「馬鹿だなぁ、そんなの迷信に決まってるじゃないか」Kは笑い飛ばした。歳は若いが、Kはその道ではちょっとは名の知れた真剣師である。種々の事情でプロにはなれなかったが、将棋でメシを喰っていけるだけの力は十分持っていた。
当時、Kは一人の女性を巡り張り合っている男がいた。男の名はY。サラリーマンであるが、学生時代名うての強豪でならした男である。
ひょんなことから、二人は一人の女性を奪い合うようになった。女性もKとYのどちらとも決めかねて苦しんでいたそうである。結局将棋で勝者となったものが彼女と結ばれるという結論を出した。将棋で文字通り勝負をつけるというそのやり方に、最初反対していた彼女も悩み抜いた末、ついにOKした。
Kが先手であった。得意の三間飛車に変則美濃囲いという布陣にYも容易に手が出せず、形勢はジリジリとKに傾いていった。終盤近く、Yは二枚替え覚悟で飛車を手に入れ、6九へ飛車を打ち下ろした。王手であった。間入れずKは4九へ歩を合いしたが、その瞬間勝負はついた。Kは二歩を打ってしまったのだ。
Kは顔面蒼白になっている。立ち会っていた彼女も思わず目を覆った。Yも何も言えず、ただ盤上を見つめているだけだった。薄ぼんやりとした意識の中でKは見た。4九の地点からずっと上まで駒柱が出来上がっているのを……。
(了)
この頃、将棋に関するショートショートを書くべく、無い知恵をしぼり絞りストーリーを考えていた。「駒柱」がどんなものか、知る人は知っているだろうが、案外知らない人もいるかも知れない、そう思いついてこの話を書いた。しかし、いずれにしても、今から見ると、何とも拍子抜けのする、安っぽい、最初から答えが透けたような内容である。B4一枚ものの職場の組合機関誌で、字数制限があったとはいえ、どうしようもないストーリーだ。この文章はほんの『あらすじ』にしかなっていない。今ならもう少しマシなものが書ける……かと言えば、書けないだろう。こんな話は一ひねり、二ひねりしなければ面白くないに決まっている。