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三日目

 翌朝、グレートデンは朝食を食べるとすぐにアメショー公爵家へと向かった。昨日同様敷地内にすら入れなかったが、コリーの署名が入った婚約破棄の申請用紙を門番から受け取った。


 城に着き番号札を取る。相変わらず人は多く、出遅れたグレートデンの持つ番号札の番号が呼ばれたのは午後になってからであった。

 今日も長く待たされたグレートデンであったが、それも今日で終わりだと思うと余裕を持てた。手続きが終わり、公爵となれば自分で事務手続きをする事など無くなる。珍しい体験をしたと思えばよいと、自分を誤魔化していた。


「コリーの署名を貰ってきた。早急に手続きをせよ」


 番号を呼ばれたグレートデンは、相変わらずの上から目線で命令する。職員はそれを無視すると、渡された書類に目を落とした。


「これは受理出来ませんね。お返しします」


「ふざけるな、ちゃんと署名されている筈だ!」


 コリーの署名が必要と言われ、行きたくもないアメショー家に二度も行って来たのだ。そこまてやって用意した書類を受け取れないと言われ、グレートデンは激昂した。


「これは歴とした公的書類です。虚偽の記載をされた物を受理すれば、提出したあなただけでなく私まで罪に問われるのです。犯罪の片棒を担ぐつもりはありません」


「どこに虚偽が書かれている、言い掛かりをつけていないで、さっさと手続きをしないか!」


 尚も叫ぶグレートデン。職員は盛大にため息をつくと、指で書類を叩き見る事を促した。


「ここです。あからさまな嘘が記載されているでしょう」


「嘘などないではないか。お前、頭が弱いのか?」


 職員が問題にしたのは、婚約破棄の理由を記載する箇所だった。その内容に対する認識が、グレートデンと職員で決定的に違ったのであった。


「理由が悪辣な女を王太子妃にしないため?あなたが別の女に惚れて、邪魔になったコリー様に無実の罪を着せようとしたのは全国民が知っていますよ」


 グレートデンの主観では書類に記した理由が正しくとも、グレートデンとマラミュート以外の国民は職員が語った理由が正しいと認識している。

 そして、それをドーベルマン国王が認めている為、少なくともこの国の中ではそれが正しい理由となるのであった。


「くっ、間違いは必ず正される。コリーの悪逆さが広まれば、俺が正しかったと皆も思い知るだろう。そこを直せば手続きをするのだな?」


「記載された内容に誤りが無ければ受理されますよ」


 それを聞いたグレートデンは、理由の欄に書いた内容を二本線で消す。苦渋に満ちた表情で、私情にて。と空いているスペースに書き足した。


「これで良かろう、早くやれ」


「出来ません」


 投げ遣りに出した書類は、またしても受理されずに突き返された。矛盾する言動に、グレートデンの声は大きく荒くなる。


「先ほど書き直せば受理すると言っただろうが!だからお前の言う事実を書いたのだろうが。それを受理しないとは、貴様殺されたいか!」


 腐っても元王太子である。幼い頃から行っていた武術の訓練は、女に溺れ稽古をサボる元王太子にも常人を怯ませる程度の殺気を振り撒く事を可能とした。

 剣呑な雰囲気を察知した騎士がグレートデンを遠巻きにするも、具体的に手出しをしていない為取り抑えはしなかった。


「もう一度、新しい書類に書き直して下さい。そんな訂正をされて書類を受理出来るとなると、改竄し放題になるのですよ」


 一ヶ所間違えたら丸ごと書き直せという職員の要求は横暴に思えるが、そうしないと出された書類を後で勝手に書き直すという事が可能となってしまう。

 夫の浮気で離婚したのに、妻の浮気で離婚したと書き換えられればそれが公に事実として認められてしまうのだ。


「理由なんて、皆が知っているのだろう?ならば構わないではないか」


「そんな理由で特例を認めれば、次々と特例が発生してしまいます。なので認められません。新しい用紙をどうぞ。794番の札の方!」


 職員は新しい用紙をグレートデンに渡すと、次の申請者を呼んで手続きを始めてしまった。今日も手続きが終わらず、またアメショー家に行かなければならないという事実にグレートデンは重くなった足を引き摺り馬車へと歩いて行った。


「また来たのですか」


「俺だって来たくなどない。頭の固い職員のせいだ」


 アメショー家の門番がグレートデンから渡されたのは、今朝グレートデンが回収した筈の婚約破棄申請書。それのまっ更な状態のものであった。


「少しの訂正も認めないという融通のきかなさで、書き直しが必要となったのだ。コリーに署名させてくれ」


 今は平民のグレートデンが公爵令嬢たるコリーを呼び捨てにしたのを聞き、門番のこめかみに数条の青筋が浮かんだ。

 しかしグレートデンが平民といえど暴力を振るえば公爵家に過失が生まれる為手は出せない。

 手を出したくても出せない為親の敵のように睨む門番の様子にも気付かず、グレートデンはマラミュートの待つ邸へと帰っていった。

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