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一日目 午前

 翌日、城に戻れなくなったグレートデンはミケ元男爵家が王都の所有する屋敷に転がり込んでいた。

 グレートデンは仕事をしていなかったので爵位を貰えなかった。なので、婚約破棄の手続きを完了させるという仕事をこなせば通例通り公爵位を貰えると夢想していた。


「手続きをしてくるよ。平民ですらやれる仕事だ。王子の俺にかかればすぐに終わるさ」


「そうしたら公爵様ね。ついでに、私との婚姻手続きも済ませない?」


「いや、マラミュートとの結婚は、正式に公爵となってからにしたい。君は身分などどうでもいいと言ってくれるが、これは俺の意地なんだ」


 ディープキスを長々と交わした王子は、待たせた馭者に一言も詫びずにミケ家が所有する馬車に乗り込んだ。


 馬車は快調に王城への道を走り、外壁を潜る一つ目の門を越えた。しかし、二つ目の門に差し掛かろうという所で衛兵によって通行を妨げられた。


「ここから先は、馬車での通行は出来ぬ。馬車を降り徒歩で行くがよい」


「嘘をつくな、そんな話は聞いたことなどなかったぞ!」


 馬車の窓から顔を出して反論するグレートデン。しかし、衛兵はあからさまにバカにした態度で言い返す。


「ここから先も馬車で通行出来るのは貴族様だけだ。平民は徒歩で行くのが決まりとなっている。そんな事も知らないのか」


 次期国王だと自惚れ、尊大な態度をとっていたグレートデンへの下の者の印象はすこぶる悪い。これが平民となったのがコリー嬢であったなら丁重な案内をされていたであろう。


「くっ、元王子であり、すぐに公爵位を賜る俺になんて言い草をするんだ。無礼討ちにするぞ」


「現状ではただの平民が、寝言を言わないでほしいですな。衛兵に対する業務妨害で牢に叩きこみましょうか?」


 剣の柄に手をかけた衛兵を見て、本気だと悟ったグレートデンは大人しく馬車を降りた。馬車は別の衛兵に誘導され、遠く離れた平民用の待機場に向かった。


「おらっ、邪魔なんだよ。そんな所で座ってたら迷惑だ!」


 三十分以上も歩き、漸く平民用の入り口に着いたグレートデンは安心してか座り込んだ。しかし、入り口を塞ぐ形となっていたので怒鳴られた直後に蹴り飛ばされた。


「な、何で俺がこんな目に……」


 理不尽な運命に弱音を吐くグレートデン。それは婚約破棄なんぞやらかした自身が原因なので、甘んじて受け入れてほしい。


「お、おい。婚約破棄の手続きに来たのだが……」


「婚約破棄ですね。この通路を真っ直ぐ行って、四本目の角を右に。次の角を左に曲がって・・・」


 グレートデンには、どこでどのような処理をしているのかなど知っていないし知ろうとした事もない。なので、通りかかった事務員の制服を来た者を捕まえて聞き出す事に成功した。


「何だってこんなに遠いんだ。こんな城を設計した奴に文句を言ってやる」


 城の設計を行った者に呪詛を吐きながら歩くグレートデン。城の設計者はすでに三途の川を渡っていると思うのだが、呪詛は届くのであろうか。


 二十分程も歩いて、教えられた窓口に到着したグレートデン。さっさと事を終わらせようと窓口に座る中年男性に話しかけた。


「婚約破棄の手続きに来たのだが・・・」


「そこの番号札を取ってお待ち下さい」


 中年男性は顔も上げずに番号札を取るように指示した。それがグレートデンには気にくわなかった。


「婚約破棄の」


「番号札を取ってお待ち下さい」


「貴様、俺を」


「番号札を取ってお待ち下さい」


 セリフを言い終わる前に被せられ、何を言っても無駄だと悟ったグレートデンは番号札を取って近くの椅子に腰かけた。


 一時間程経ったであろうか。番号札665番の者が窓口に呼ばれ、呼ばれた者は少しのやり取りをして去っていった。長く待たされたグレートデンは、やっと自分の番だと腰を浮かせた。

 しかし、666番は呼ばれる事はなく窓口の男性は椅子から立ちいずこかへと行こうとしていた。


「ちょっと待て、次は俺の番なのに何処へ行こうというのだ」


「昼休みなので、続きの業務は午後からですよ」


「ふっ、ふざけるな!俺の婚約破棄だけはやって行け!」


 叫んだグレートデンに対し、甲冑で身を固めブロードソードを装備した騎士が周囲を取り囲んだ。


「城の者の業務を妨害なさるおつもりですか?」


「昨日までは王族でも、今は平民。騒ぎを起こせば地下牢に入ってもらいますぞ?」


 屈強な騎士に囲まれて牢に入れるぞと脅されれば、現在平民のグレートデンは引き下がるしかなかった。

 すごすごと座っていた椅子に座り直す。昼になって腹が空いてはいたが、城から出て食事を取ろうにもまたあの距離を歩く事となる。

 時間的にも往復だけで一時間ほどかかるため、グレートデンは椅子に座りひたすら時間が過ぎるのを待った。


 一時間後、昼休みが終わり業務は再開された。当然ながら、一番に呼ばれたのは666番。グレートデンの札である。


「コリーとの婚約破棄をやってくれ。今すぐだ」


 番号札を投げ付けるように渡し、要件を尊大に伝えるグレートデン。しかし、窓口の男性からの返答は予想の斜め上をいくものであった。


「ここは貴族用の窓口です。平民は平民用の窓口で手続きをして下さい」


 空腹な上に気力も抜けたグレートデンは、その場に崩れ落ちたのだった。

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