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不良品

作者: ディア

 ここは『不良市民更生センター』。

 この国では、"不良市民"と認定された人間を更生するという名目で一箇所に集められ、一般社会と切り離して集団生活を行わせるという法律があり、ここはその不良市民を収監する一種の隔離施設だ。


 不良市民というのは、マフィアやテロリストのような反社会的勢力の人や、無差別殺人を犯したサイコパス犯罪者の他、自殺願望の強い人、精神的に情緒不安定な人、思想や行動に犯罪のきらいがある人といった、単なる重犯罪者だけでなく将来的に重犯罪を犯す可能性が高いと判断された社会の敵、つまり"社会人の不良品"のことを指している。

 他にも国家権力に強く楯突いた人や、著名人の(めかけ)の子、死んだことにしないと色々まずいという表には出せない類いの人まで収監されているらしいが、どれも本人達からの証言だけなのでどこまで本当かはわからないし、それをいちいち詮索する人もいない。


 そして、私もここで"不良品"のレッテルを貼られながら長年暮らしている。


 別に犯罪を犯した訳でもないし、大きな犯罪を企てた訳でもない。

 ただ幼い頃、たまたま手にとった本やゲーム、玩具のいくつかが、過去に町で出現した凶悪犯罪者の好きだったものと一致し、さらに名前も顔も知らない遠い親戚が犯罪者となったのが決め手となって『将来的に重犯罪を犯す可能性の高い不良市民』と認定されてしまったのだと聞かされた。


 その当時の記憶はもう曖昧になっているが、ある日、家に警察官が来て事情を説明したあと、親から向けられた犯罪者を見るかのような視線は目の奥に焼きついて忘れることができず、今でもその日のことを夢に見る。

 それから私はこのセンターに入れられ、死ぬような思いも何度か体験しながらも何とか生き延びてここに居る。もう20年は経つだろうか。


 遠い他国の人から見れば信じられないことに思えるかもしれないが、これはこの国の法律の下で行われる正しい行為であり、そしてこの法律が施行されてから重犯罪の発生率が大きく下がっているのは紛れもない事実だ。

 だから、私自身がここに入れられたことに不幸や悲しみを思うことはあっても、国や社会に対して怒りや憎しみといった思いは抱いたことはない。


 『そういう怒りや憎しみを他者に向けてはいけない』と、このセンターで強く教えられたということもあったが、私自身もこのセンターに入れられるような事をする人の方が悪いと思うし、そして、実際にこのセンター内で出会う人々は(大きな声では言えないが……)とても社会に出て良い連中じゃないことはよく知っていた。


 私のセンターに対する認識は世間一般でも概ね同じだそうで、ときおり見ることのできるテレビや雑誌などでもセンターに入所している人達へのバッシングは苛烈を極めており、「二度と外に出すな」といった意見はまだかわいいもので、「皆殺しにしろ」だとか、「見せしめに民衆の手で殺させろ」だとか、およそ人間扱いされていないことがうかがえる。


 だが、それでも私はここから出ることを諦めてはいなかった。

 ここに入所してから今まで出所できた人は見たことがなく、ここから外に出ることがあるとすれば死体になったときだけだと気づいたときには心が折れそうになったこともあったが、ある話を聞いてから私は出所する日のことを心待ちにしながら生活していた。


 それはなんと、この国で近々恩赦(おんしゃ)が出るとのお話だった!

 国王様が代替わりするのだと聞いたが、実に数十年ぶりの恩赦で、しかも私達にも恩赦が適用されることが既に決まっている。顔も名前もおぼろげで大変申し訳ない気持ちになるが、国王様には感謝の念しか無い。


 ……と言っても、ここにいる全員が恩赦対象になるわけではなく、『不良ではない』と認められた者が監視付きで出所するそうで、更生官と呼ばれるこのセンターの職員が誰を恩赦にするのか選定しているとの噂だ。


 私が必ず恩赦に選ばれるという保証はまだ無い。だが、他の人よりは選ばれやすいだろうという自信はあった。

 私はここに来てから私自身が不良品でないことを証明するために、常により良い人間になるよう努めていた。

 人より多く働き、人より多く学び、人より多く助け、人より多く優しくなるよう心がけて行動し、時にはその心がけのせいで周りから酷い目に遭うこともあったが、それでもめげずに続けた。

 その成果もあってか、私は不良市民達の中だけでなく職員からも慕われており、私は"私自身が良品だ"と自信を持って言えるくらいには良い人を努めることができていたのであった。



 この長年の努力が報われるのかどうかはわからないが、その結果がわかる運命の日が、とうとうやって来た──。


 私は普段どおり与えられた業務をしていると、突然後ろから呼び止められ、奥の部屋に来るよう指示された。

 指示された理由はわかっている。更生官から恩赦の判定結果が伝えて貰えるんだ。高まる鼓動と気持ちを抑え、奥の部屋へと向かう。


 奥の部屋に着くと警備員が立っており、私が近づくと黙って扉を開けた。扉の向こう側は会議室のようになっており、奥に座っている更生官の姿が見えると私の鼓動は更に早まっていくのを感じた。


 私は警備員に軽く会釈してから部屋の中に入ると、更生官は私の顔をじっと見つめ、そして座るように目配せをする。

 私がおずおずと座ると、更生官は机に置かれていた書類を手に取って中を見始めた。決してゆっくりと見ている様子はなかったが、1秒が何秒もあるかのような感覚に襲われる。


「あなたは──……」


 更生官が話し出すと、時間がさらに遅く感じるようになっていく。頭はどんどん真っ白になっていったが、その時、ふと両親の顔が思い浮かんだ。


 あの睨みつけるような表情とは違う、私を見て微笑んでいるような表情だった。そうだ、もしここから出所したら、まずは両親に会いに行こう。

 そして胸を張って伝えてあげたい。『父さん、母さん。私は"不良品"じゃなかったよ』と。


 両親のことを考えているうちに私はどんどんと落ち着きを取り戻していき、頭もはっきりして更生官の声もよく聞こえるようになっていた。


「恩赦不適ですね。所定の場所に戻って労働を続けてください」











「…………え?」


 思わず声が出た。

 聞き間違えたのかとも思ったが、目の前の更生官は落ち着いた様子で既に次の書類に目を移している。とても祝ってくれているような様子はなかった。

 しばらく放心していた私であったが、警備員に肩を叩かれて我を取り戻すと、無我夢中で叫んだ。


「ま、待ってください! どうして私は出所できないんですか!?」


 私は前のめりになって更生官に食って掛かり、そしてすぐに後ろから警備員に取り押さえられてしまったが、それでも納得することができず、叫び続けた。


「私は外の人達と同じように法を遵守し、一通りの知識を身につけ、他者を助け、また助けられたときは礼を欠かさず、そして今日までなるべく誰にも迷惑をかけないよう過ごしてきました!

 外に出られたとしても決して犯罪は犯さないと誓います。この国の発展に尽力することも誓います。それでも……それでも、ここから出られないとしたら、せめてその理由を聞かせてください……!」


 更生官は少しうっとおしそうな顔をしながら書類をめくって目を通し、そして答えた。


「確かに、あなたは素行良好でセンター内で非行の記録も無し、言葉の受け答えや身体的な部分でも問題は無く、思想チェックも一般人のそれとは極端な違いが見られず、出所後も普通に一般生活が送れると判定も出ています。端的に言えば完璧ですね……だからこそ、恩赦は認められません」

「だ、だから、それは何故!?」


 更生官は深い溜め息を吐きながら、「もういい」と言わんばかりに手を振り、そして私は警備員によって部屋から強制的に退出させられた。



──


 しばらくして、先ほどの不良市民を運び終えた警備員が部屋に戻ってきていた。

 彼は少しムッとした表情で黙っていたが、更生官の顔を見て堪えきれなくなったのか、率直な質問を更生官に投げかけた。


「よろしかったんですかね、アイツをここから出さないなんて判断をして」

「ん、君もさっきの不良市民のファンだったのか?」

「……えぇ、アイツとは何度か会話したこともありましたが、良い奴でしたよ」

「まぁ、そうだろうね。皆の話を聞いた限りでも、あの不良市民は非の打ち所の無い完璧な人間なんだろう。でもね──」

「……」


 黙って耳を傾ける警備員に対し、更生官は言葉を続けた。


「もし、そんな"完璧な人間"が世に溢れてしまったらどうなると思う? 今度は私達のような"何でもない一般人"が、"不良品"だと後ろ指さされるようになってしまうよ?」

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