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汝は我を何と呼ぶ?

作者: ケシゴム

 自分自身ではそれなりに文法は出来ていると思っていますが、ほとんど小説など読んでこなかったため、色々と不備があると思います。まだまだ勉強不足のため自分では悪いところが全く見えていませんので、もし宜しければアドバイス等を頂ければ幸いです。

僕には悩みがある。それは、学校でウンコができない事だ。

もし僕が学校でウンコをすると、みんなは僕のことをウンコマンと呼んで馬鹿にするだろう。僕はそれが嫌で学校でウンコができない。ほかの友達もそうだ。

でも学校でどうしてもウンコがしたいときはある。そんなときはみんなに隠れて、先生のトイレでウンコをする。僕は悪いことをしていない。でも隠れてウンコをしなくては、みんなにウンコマンと呼ばれてしまう。


本当はみんなだって学校でウンコをしたいはずだ!


そう思うと僕は気づいた。悪いのは学校でウンコをすることじゃなくて、学校でウンコをすることを馬鹿にする悪者のせいなんだと。

だから僕は、学校で堂々とウンコをできる強い男になるため、修行することにした。


強い男になるためには、きっと足が速くなくてはならない。僕は走った。そして学校で一番足の速い男になった。でもまだ強い男とは言えない。強い男はきっと勉強もいっぱいできる。僕は一生懸命勉強した。そして学校で一番勉強できる男になった。でも、全然学校でウンコができる気がしない。きっと心も強くなくてはならないんだと僕は思った。だから僕はお寺で座禅を組んだ。毎日毎日お坊さんと一緒に修行した。そして僕は、いや私は、とうとうその境地に辿り着いた。

 気が付けば、一年という歳月を費やしていた。しかし私は、学校で排便という行為に及べる自信を身に付けていた。

 そしてその時は突然訪れた。給食が終わり昼の時間を迎えると、唐突に便意を催したのだ。私は意気揚々とトイレへと向かった。

 しかし、トイレに入り、数人の同級生を目にした瞬間、私の脳裏にはウンコマンという言葉がよぎり、それと同時に心が無理だと叫ぶのを聞いた。私は断念してしまった。私はまだまだ強い男には成れていなかったのだ。

 そして学校での排便。それは私が考えるより遥かに困難で高い壁だと認識した。しかし私は諦めなかった。 学校で排便する事を諦める、それは学校で排便する事を愚弄する輩に屈するという事だからだ。それからの私は前以上に鍛錬を重ねた。


 一年。井の中の蛙でしかなかった己を知り、六道全てを渡り歩くつもりで鍛錬を重ねた。その歳月が私を()に変えた。

 この一年、余は過酷ともいえる幾多の修練と鍛錬を重ね、天道に通ずる成長を遂げた。天はそんな余に、その成果を試す機を与え(たも)うた。

 帰りの会が終わり、下校を迎えた時分(じぶん)強烈な便意に襲われたのだ。

 余は早々と(かわや)(おもむ)いた。厠には前回と同様に数名の同志が居た。しかし余は同志の目に臆することなく便座のある個室に入り閉扉し、錠を掛け、ズボンとパンツを下ろし、便座に腰を下ろした。

 扉の向こうでは、同志達がよもや余が排便するのでは、と(ざわ)めき(いなな)いている。

 しかしその(うれ)いも今日で終わる。余が忌まわしき風習を根絶し、新たな夜明け、そう誰もが心置きなく、学校という学び舎で存分に排便できるという時代を迎えるのだから。

 だが、いざ排便しようとした矢先、余に予期せぬ事態が訪れた。それは、同志達が扉の前から離れないのだ。

 もしこのまま余が排便を行えば、ブーという放屁(ほうひ)の音を聞かれてしまう。いくら同志と言えど、それは耐え難い苦痛だ。余は叫んだ。

「音を聞かれたくない故、離れて(たも)う!」

 しかし同志達はこう返す。

「お前ウンコしてんの? お前ウンコマンだな!」

 この上ない愚弄だ。学校でウンコができないのは、彼のような下賤(げせん)の者がいるからだ。

「余はウンコマンじゃない!」

 余は叫んだ。余をウンコマンと呼ぶことは断じて許せん! しかし彼が悪いわけではない事を余は理解している。この学校のトイレという魔境が人をそう(いざな)うのである。

 これは余の両親、祖父母、いやもっと前、学び舎に厠というものができたときから、すでにそうだったからだ。故に余は彼を責めることは無い。この戦いはすでにトイレの神との戦いなのだ。

 無論、神の攻撃は激しさを増してゆく。扉を幾度も叩く罵声と威嚇。噂を聞きつけ集まる雑兵(ぞうひょう)の群れ。これほどまでの攻勢に、流石の余も断念せざるを得ない。だが最大の敵はそこにはいなかった。なんと便が肛門という城門の眼前に迫っていたのだ。

 余は丹田(たんでん)に力を込め、肛門を固く閉ざした。しかし便という名の兵が、物凄い力でそれを押し開けようと攻め込む。四面楚歌(しめんそか)とは正にこの事だろう。

 余は腹を押さえ、汗をかきながら必死に堪えた。だが攻撃の手は休まる事は無い。

 そうこうしていると、集まった野次馬の中から女子の声まで聞こえて来た。神は学校でウンコをする余を許してはくれぬようだ。

 必死に耐え抜く余であったが、僅かな間隙(かんげき)を縫い、便が肛門をすり抜けた。すると、ブーという放屁の大きな関が響き、それと同時に同志達の笑い声がトイレ全体を包んだ。

「ウンコマン! ウンコマン!」

 神の傀儡(かいらい)と化した同志達が、嬉しそうに叫ぶ。神というのはなんと傲慢で無慈悲な存在なのだろう。だがこれで余に覚悟が出来た。 

 例えこの身が朽ちようとも、今こそ全てを解き放ち、神の支配から皆を解放する! そして、この先学校でウンコをした者が蔑まれない世を!

 傀儡達はそんな余の覚悟も知らず、攻勢を強めた。扉の向こうでは男子たちがウンコマンコールを皆で合唱し、遠くからは女子たちの笑い声が聞こえ、ついには扉の上部に手を掛け覗こうとする傀儡(くぐつ)まで現れ始めた。

 絶体絶命に追い込まれ、余の心の臓は(かつ)て無いほど高鳴り、死を覚悟した。すると不思議と心が落ち着いた。死に直面という危機が、余をさらに成長させたのだ。

 余はこの切迫した状況の中で静かに目を閉じ、今までの積み重ねた鍛錬を思い出した。

 僅か二年。人生ではとても短い時間かもしれない。ただ余にとってはとても長く貴重な時間であった。そして、そこで出会った多くの師と、そこから学んだ全ての事に感謝し、全てを解き放った。


 ブー、ブリブリ……プ~。


 その音は、神に捧げる讃美歌(さんびか)と化し世界を包み込んだ。そしてその歌は、余の心さえも癒し、まるで神の言葉のようにある教えを授けた。

 生き物は全て、他の命を糧とし生き、奪われた命は便として排泄され地に戻る。そして再びそこで生を受け新たな命となる。神は一切学校でウンコをする事を禁じてはいない。ウンコを拒むのは人間の弱い心だと。

 それを悟った刹那(せつな)、余は我となり、我は知ってしまった。命とは循環なのだと。命とはそれぞれが一である、だがその全てが集まり初めて一となる。これを否定する神などいない。トイレでウンコをする者を、傀儡まで利用し陥れるのは、悪魔だと!


 我が尻を拭く紙はもはや神の手となり、我を優しく清め、便を流す便器は神器となった。

 循環。それは世の理。全ての者は破壊と創造を経て今に至る。人智では知る事さえ叶わぬ途方も無い輪の中では、我の存在など無に等しい。しかし、限りない無が無を有に変え、有が有を無に変える。すなわち無限。

 天地創造、神羅万象、盛者必衰。

 我は今、神の子としてその責を果たし、パンツとズボンを穿き、門を開いた。

 すると今まで騒がしかった傀儡達は、すでに悪魔の支配を脱し、いつもの友に戻っていた。

 友と我との間に言葉はもやは要らず、我は黙って手を清めトイレを後にした。



 その後、我の学校では、ウンコをした者を責めるような輩は現れる事は無かった。だが、トイレに潜む悪魔は他の学校にも存在するだろう。汝の学校でウンコをする者を愚弄する者はいるか? もしいるのなら、それは悪魔の仕業だ。では汝の学校に悪魔が居たら汝はどうする? 汝も悪魔の傀儡となり、ウンコをする友を愚弄するのか? 否、悪魔と戦うのか? それは汝が決する事。我には其れを選ぶ権利は無い。ただそれが正しいかどうかは我にも分からない。だから汝に訊きたい、汝は我を何と呼ぶ?




 この作品は、書き貯めしていた作品の一つでした。自分でもこれを読み返したとき、何かに取り憑かれていたのではと思いました。ですが、その時は笑いなど一切なく作っていました。結果的に自分でも何のジャンルなのか分からないものになってしまいましたが、最後までお読み下さり、誠にありがとうございました。そして、主人公が少しでも陽の目を浴びれた事に感謝します。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  いつの間にやら雰囲気も文体も変わっていく中、ただならぬ緊張感を次々に追加するのは驚きました。  本当に気づかないうちに神話のようになるのですもの。  あと、前半でさらっと文武両道トップ…
2018/10/08 08:19 退会済み
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