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檸檬の木

作者: せれな

変な夢を見た。真っ暗な中に自分1人で立っている夢。けれど、起きた時には何も覚えていなかった。

今日は金曜日。明日になれば休みだと気合を入れて家を出た。

まだ外は暑くて蝉もよく鳴いている。いつもの道を歩いていると、涼しい風と一緒に爽やかな香りが運ばれてきた。柑橘系の匂いだ。この時期に食べる塩レモン飴は美味しい。足が無意識に風の吹いてきた方へ向かう。このまま行けば遅刻するはずなのに、あと5分は大丈夫だと何の根拠もない思考が頭を支配した。

我に返ってみると、目の前に細い木があった。葉は1枚もないけど、柑橘の匂いはこの木からしているようだ。枯れているのかも分からないけど、まだ生きていると勘が働く。幹に手を当てて目を閉じ、頑張れと何となく念じてみた。

ふと時計を見ると遅刻寸前。慌ててそこから立ち去ろうとすると、風が吹いて頭が真っ白になった。ここがどこなのか分からず、自分が今まで何をしていたのか、何をしようとしていたのか、何も分からなくなっていたんだ。持っていたバッグを見て目的を思い出して足を動かすと、風と共に蝉の声がなくなる。恐怖でまた目的を忘れてバッグを落とす。その拍子に飛び出した塩レモン飴を見て、とりあえず落ち着こうと飴だけを拾い包装を開けて口に放り込んだ。無心で飴を転がす。そしてやめる。何の味も感じない。無味。口に飴がある感触はあるのに、味だけが分からない。そこで初めて気づいた。蝉の声がなくなったわけじゃなく、全ての音が消えたことに。

恐怖が増して膝から崩れて尻餅をつく。次は何が無くなるのかと目を凝らして周りを見て利き手で反対の腕を掻き毟った。血が出ても痛みがあることに安堵する。その瞬間一陣の風が吹いた。今までで一番強く、乾いた地面の砂を巻き上げて体に当ててくる。目を守るため反射的に瞼を閉じれば風はすぐに止んだ。はっと思い目を開けた時にはもう遅く、視界は黒に染まっていて恐怖が頂点に達した。聞こえない大声を上げて激しく腕を掻き毟る。手が血に塗れる感触と腕に走る痛みに縋るように。

すると突然何かに両足首を掴まれた気がして手が止まる。それは気のせいではなく、確実に自分を引っ張りどこかへ連れて行こうとしているようだった。掴んでいるのが何なのか。誰が。どこへ。何のために。何も分からない恐怖。両手を地面につけ爪を立ててしがみつきながら足をばたつかせる。けれど静かに吹いた風と共に精神は限界を迎えて気絶した。


目を開けるとさっきと変わらない景色。腕を見れば傷はなく、蝉の声も耳に届いていた。見上げると細い木に生える青々とした葉と小さな白い花が風に揺れている。


「次の13日はいつかな」


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