1月15日
旧成人の日の今日は、俺じゃなく雪女にとって祝う日だった。
午前九時、いつもなら会社に着くころに目を覚ました。
大丈夫。有給休暇を取っている。
なぜならめでたいからだ。
昨日の晩に作っておいた五目ちらしを食卓に並べていると雪女が起きてきた。
「あけましておめでと~」
「おめでとう」
「わ~、ちらしだ。慣れたものだね。最初は卵とかつながってたのに」
ちらし寿司にかける卵焼きは、包丁よりも鋏のほうが切りやすいと二度目当たりで学んだ。
「いいから。さっさと食べるぞ」
そう言った後、彼女が何かを言う前に俺は口にお吸い物を入れた。
食後のデザートはあずきバーだ。
俺も彼女も赤飯があまり好きじゃなかった為か『あずきならなんでも良いんじゃない?』という発言の末にあずきバーを食べる風習が生まれた。
「食べたら歯を磨いて寝るぞ」
「ねぇ、一緒に寝よ?」
「なんでだ?」
「さっき、怖い夢を見ちゃった、とか?」
「まあいいけれど、お前が上だからな。お前が下だったら俺が死ぬから!!」
めでたい日だからいいか。
しかし彼女は冷たいから首を掴まれたり、背中にくっついたりされたら、夏場に暑いからと言った理由で氷枕を使いご臨終になった人みたいになるから。ダメ絶対。
首は温めようね。
午後三時、ほのかに感じる冷たさで目を覚ました。
胸元に雪女の顔が押し付けられていた。
いつもなら浴衣で寝る彼女だが今日はパジャマで寝ていた。
洋物はあまり好まない彼女が持っているパジャマは二つ。ベイビーブルー色の生地に小さい雪の結晶が無数に配置されてるものと、ペルーアクア色の生地に小さな木や家が配置せてるものの二つだ。今日は前者を着ていた。
彼女がパジャマを着ているせいか、いつもよりも冷たく感じなかった。
午後四時半、俺も彼女も支度を終えた。
彼女は銀色の装飾が施された白い着物を身に着けていた。
この日はいつものことなのだが見飽きることはなかった。
俺はまあ無難に紺のスーツにコートを重ねている。
はぐれないように手をつなぐ、俺が。
石階段を何段か上ったあたりで、暮れる太陽が彼女を照らす。
彼女は紅く橙く輝いて、俺はまた彼女に惚れた。
さっきまで紅かった太陽もいなくなり、もう夜の帳が下りていた。
もう少しすると月が出てくるだろう。
俺たちは、氷酒やぬるいビールを片手に見て過ごす。
この他の誰かが入ってこないこの場所で、朝まで。
雪女に付き合える主人公も妖怪な気が……。