1月7日
帰り道、雪女からメールが届いた。
『七草買ってきて』
日本には一番古い和歌集、万葉集というものがある。
大半が、中学高校の国語の授業で触れたと思う。
その万葉集、秋の七草は多く歌われたが、春の七草は1つしか歌われなかったという。
メールを見てそんな話を思い出した。
「ただいまー。ほい買って来たぞ」
そう言って彼女に買い物袋を渡す。
「はぁ? なにこれ?」
「何って、七草」
俺が買ったのは、この時期になると売られている七草セットだ。
単品では絶対といってもいいほど売られていないので、時間、金銭、労力、三点セットでお得である。
芹、薺、御形、繁縷、仏の座、菘、蘿蔔の七品目。
「あんたアホなの? これは春の七草でしょ。人の間では邪気を払うとか言われてるみたいだけれど。
草じゃん。私が欲しかったのは冬の七草です」
彼女は怒涛の勢いで言葉を並べた後、七草セットをゴールにシュートした。
明日のお弁当が決まった瞬間でもある。
明日は一人寂しく屋上かな。寒いけれど。
「冬の七草って、冬至に食べるものだろ?」
「それは人の都合でしょ。まだ冬なんだから草よりもよっぽど英気を養えます~。」
七草って次の季節に備えるものじゃ……ああ、人の都合か。
「うどんは作ってあるからさっさと他のもの買ってきて」
さすがに季節外れというべきか、すっごく高かった。
特に銀杏と金柑が相当な値段をした。
さすがにカボチャやレンコン、ニンジンは抑制栽培や輸入がある今、値段の上下はなかった。
寒天は家に粉寒天が残っているはず。
残っていなかったら凍らされそうだな。
「はい、注文の品。寒天は戸棚に入っているから」
「うん。テレビでも見て待ってて」
「手伝わなくて大丈夫か? その、火とか」
「何言ってるの? 私が来た時にあなたがオール電化に変えてくれたじゃない」
そういえばそうだった。なんかガスだと色々と不安だったから一新したのだ。
雪女が作ったのは冬の七草に、豚肉を加えた肉うどんだった。
反発し合うと思っていたがそれもなかった。
以外にも金柑の酸味が後味によく病みつきになりそうだった。
当然彼女はうどんを冷やして食べていた。
双方の食器が空になると、彼女はそれを持ち台所に消えていった。
まあ、すぐに戻ってきたが、デザートを携えて。
デザートはただの寒天だった。
見たかぎり、湯に溶いてから固めただけにも見える。
味付けはないのだが、今まで食べてきた寒天とは違った。
舌の上でスッと溶け、喉元に染み込んでいく。
夏場に飲む冷えた発泡酒の最初の一杯の感覚だ。
「どうやったの? これ」
「ふふふ。秘密」
彼女なりの製法があるのかもしれないな。
この時、冷やし方だけは、どんなグラシエにも負けないな、と思った。
諸説あります。ごめんなさい。