プロローグ(後編)
『まぁこれを見たからといって君達全員に全てを信じてもらおうとは思ってないよ。でもね、元の世界から人間を一人召喚するだけで、魔力があるこの世界に順応させる為に、体を作り替えたりスキルを追加して与えたりするのにかかるマギナの消費は君達が思うより多いんだ。どのくらいかっていうと、今回君達全員の魂を写した時の方が幾分少ないくらいさ。
元の世界は魔力が無かったから慣れない魔法のあるこの世界でやっていけるように、魔力の成長をサービスしておいてもね。』
サービスしてくれるのか。ワタリさんマジありがとう。
『それによってこちらで普通に生まれた人間よりも強くなれるだろう。でもそれより遙かに多くのマギナが必要な召喚者はそれに比例して数段強くなれる。まぁ封印を弱めるリスクを負ってまで召喚者を何人か揃えても、きっと邪神を倒せないと思う。奴には眷族もいてそいつらも厄介だからね。
それでも一つだけ絶対に信じてもらえる方法はある。それはもしもこの世界に元の世界の自分が召喚された場合だ。先程プリスバルが言ったように同じ世界にもし同じ魂が存在した場合、今の魂に馴染み切らないままだったら、君達の魂は元々の魂の存在に耐えられず消えるだろう。それだけが確実に今の君達に証明できる方法だ。』
うん、証明は結構です。僕は信じます。しかしこの話の中でいくつか重要ワード出ました。要確認ですね。
「いくつか確認させて下さい。この世界には魔法があるんですね?さらに異世界召喚もある事はあるのですね」
『えぇ、この世界には魔法の元である魔素がありますから。でも魔素は魔法というメリットだけではなく妖魔や魔獣といったものも生み出すのでデメリットも多いです。だから元の世界には魔素は無くしてありますがこの様な事態ではやっぱり魔法は便利ですね。
ついでに魔法以外の違いと言えばスキルがあります。うまく身に着けられれば君達にとって大きな助けになるでしょうね。
それと召喚や送喚ですが先程話した通り存在します。この先君達が生きていく事で傷ついた魂と馴染めば完全に別の存在に成るので、もし元の自分が召喚されても消える事は無くなりますが、それにはそれなりの時間や経験が必要でしょう。
今回君達を写す為にこの世界と繋げた結果、君達の学校は召喚対象に成りやすい可能性がありますので、なるべく召喚の儀式をされないようにした方がいいでしょう』
ワタリさん、嫌フラグ立たないで欲しかったよ。
『それについては我が神の信徒達にお告げとして伝えるので心配しなくても大丈夫だ。』
そうプリシバルがフォローしてくれたけど、大丈夫?フラグ回避してる?
『もしもこの世界も邪神に滅ぼされる事になったら、次は隣り合う君達の元の世界か他に協力してもらった別の二つの世界に邪神が向かうと思われる。そうならないために何としてでも被害を抑えて奴を滅ぼさなくてはならん。このような事に巻き込んで申し訳ないが、君達がこちらで生きていけるよう力を尽くすので、協力をお願いしたい』
「解りました。プリシバル様こちらこそお力添えをよろしくお願いします。
早速ですが、具体的にどういった事をして貰えるのでしょうか?」
『うむ、出来ることなら君達一人一人と相談したい所だか生憎と他の2つの世界から来た者達は君達より人数が多く、地上へ送り出す為の人手も時間も足りないのが現状でな。出来れば君達は全員同じ力や希望を叶えるという事にしてもらいたい。無理を言う代わりにまとめてくれるなら3つの希望を最大限叶えよう。どうかな?』
「こちらより多いって何人ぐらいなんですか?」
『2つの世界から各5万人程だ。魔法がある世界で戦いなれた者とその者達の生活を支える事ができる者達をある程度纏めてこちらに写させてもらった。彼の者達は邪神討伐に専念してもらいたいし、その為にも調整が必要でね。何とかお願いできないだろうか。』
「うーん、流石にそれは僕一人が決められる事ではないと思いますのでみんなと相談してもいいでしょうか?」
『ああそれで結構だ。無理を言って申し訳ないな、では纏めてくれた場合は3つ、個別が良いという者は2つという事で、続きはワタリにお願いしても大丈夫か?実は先程から他の世界を見ている神から応援を頼まれているのだ。』
この重大な所で丸投げって神様って凄いな、なんて感心している場合じゃなく、下手をすれば僕が文句の集中攻撃の標的になりそうだな
『仕方あるまい、こちらは何とかやっておくが後で文句は言うなよプリシバル。』
『あぁ、結界に使っていない予備のマギナの一部を渡すので後はよろしく頼む。』
そういってプリシバルが消えた。その後突然体が動くようになった周りのみんながまた騒ぎ始めた。無双できるスキルにしろとか、亜空間収納は必須でしょとか、魔剣がどうとかもう収拾が付かなくなりそうになってきた時
「はい、みんな静かにして。マジ大事な所だから、騒ぎたいなら覚悟してね。」
そう言いながら壇上についに前生徒会長が登ってきた。さすがカリスマと熱意だけで生徒会運営したような人だけにみんなが注目して静かになった。さっきは目を逸らしてたけど流石に手伝ってくれるのか。助かった。
「初めましてワタリさん、前生徒会長なんて肩書に意味があるかは解らないけど彼の前に生徒会長をしていた神崎朱里といいます。みんなが能力や希望を選ぶ前にいくつか質問をいいかしら?」
『大丈夫ですよ。』
「では最初に、我が校745人のうち、今ここに何人いるのですか?」
『詳細は省くけど、いじめや他の問題で呼ぶに値しないと思われた者が6名いたので残り739名になるね』
「少し前まで会長だった私の力不足の結果に思えるので、ゼロで無い以上褒められても素直に喜べませんね。まぁこれを後悔しても今更どうしようもないので、気を取り直して次の質問をさせて下さい。
こちらの世界の人と話をするとか文字を読み書きする為にはこの希望の1つを使わないといけませんか?
コミュニケーションの手段は必須だと思うのですか?」
『この世界の言葉を理解出来る能力と最低限の衣食住については希望の枠外で提供しよう。』
先代の癖にいい質問だ。詳細をちょっと聞いてみよう。
「ワタリさん、最低限の提供っていうのを具体的に教えてください。」
『話す事や読み書きが出来ないとどうしようもないし、今からでは時間の無駄なのでこの世界の言語は日本語同様に読み書きできるようにしておきます。
次にこちらの一般的な服装と初期装備程度の武器や防具や回復薬、食については保存食の丸薬を3か月ぐらいと野菜の種子、それと寝泊りが出来るぐらいの拠点を用意しようと思っています。
今この世界は邪神が出現して混乱しているのでお金や装備の質等で、人間同士の諍いの原因になる恐れもあるのであまり過剰にサービスはしない方が君達にとっても良いと思います。
まぁこれ以上の物が必要なら希望の1枠を使ってください。』
まぁ贅沢言い過ぎだと後で困りそうだから、このぐらい保障されていればいいかな。
ではそろそろ肝心の希望について話し合おうと思ってワタリさんに一言断ってから、先代の時と現在の生徒会役員と各クラスの委員長を集めて相談して決まった事をワタリさんに告げた。
「お待たせしました。今決まりましたのでこちらでお願いします。
1つ目はこの場所でしばらくこの世界の事や生活に必要な事、戦いや魔法について等可能な限り最高の状況で学べる環境を用意して下さい。
2つ目はこの世界に適した容姿や体格を変えられるようにして下さい。
3つ目は先の2つを行った後に自分に合ったスキルを下さい。
難しいかもしれませんがこれでどうでしょうか?」
『中々興味深い希望を出してきたね。参考までにどういった理由でこれにしたのか教えてくれないか?』
「はい、前提として貴方達は僕達を邪神と戦う為では無く、この世界で生きていく事を望んでいるとおっしゃいました。
それを踏まえ、まず1つ目の理由はどちらの理由であれこの世界で必要な知識や技術の習得をしなければ話になりません。当然ですが僕達が平和な日本で今まで学んだ事はこちらではあまり役に立ちそうにありませんから。食べ物を得る為に農業や狩り、お金を稼ぐ方法のどれかを身に付ける事は必要です。
ここは先程プリシバルが神域と言っていました。だからなのかそれなりの時間が経ったはずですが疲れや空腹感等を感じた人がいません。本来なら神域に僕達が長くいるべきではないと思いますが、ここでなら敵に襲われる心配も無いでしょうし、戦いや魔法の訓練は難しいのかもしれませんが知識を付ける事については相当効率良く学ぶ事が出来ると思えます。
2つ目は僕達の容姿がこちらの人間とあまりに違う場合には、不用意に目立ち過ぎたり、排斥される恐れがあります。あなた達には些細な違いに見える事でも人間同士だと、どうしても相容れないものもあるかもしれません。また戦う事や身に着けたい技術について体格や性別で有利不利があるかも知れません。
3つ目は僕達は元の世界でやりたい夢や希望がありました。元の世界に元の自分がいると言われても、この世界の僕達にとっては慰めになりません。ならせめてこの世界でやりたい事についてこの世界で生まれた同年代の人と競えるぐらいにはしてもらいたいと思います。」
『成程、悪くない選択だ。まとめるとこういう事だね?
ここに君達の学校を用意する。そこで学んだ事や身に着けた事に合わせた身体や能力を持って地上に行く訳だ。』
「それでいいと思います。」
『解った。教師や学び方についてはこちらで良いものを提供しよう。それと残りの2つについてだが、君達のモチベーションを上げる為に、身に着けた知識や技術の習得度合に応じて当初予定していた以上のスキルを選べるよう。これはサービスだ。』
サービス大好き。ありがとうワタリさん
「それで結構です。では個別に希望がある人の対応をお願いします。希望者は手を挙げて下さい。」
そう言って生徒の皆の方を見たけど希望者はどうやらいないようだ。
まぁこれまでの話でいきなりこの世界に行くっていうのは無謀だろう。色々勉強しないとね。
そんな事で異世界に来たのにまだしばらく僕達は学生のようだ。
とりあえず続きを頑張ります。




