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チョイメカ・バトル 其の三

 知らず知らずのうちに、ゲームの世界に馴染んでいる。

 今までも、こう過ごしてきたかのような自然な感じ。

 自分の居場所はここだと言わんばかりの心地よさ。

 頭がボーっとしてくる。

 すると一つの疑問が浮かんだ。


 オレはゲームの世界に行くと覚悟して来たのだから、この状況に動じたりはしない。

 なら、他の十五人はどうなのだろうか?

久留間さんや整備場の女子高生は日常にでもいるかのようだった。

 自らの意思で来たのなら、それで構わない。

帰る気もないオレと同じだろうから。


 だが二人ともゲーム好きとは思えなかった。

もし此処に来た理由や経緯が違ったとしたら……。


 《それでは一回戦、第四試合。ハスターVSジョーカーを開始します。レディー、ゴ―!》


 頭がクラクラしてきた。

 ボーっとしたのは、強い光を見続けたというバカな理由だった。

 頭を二・三回素早く振ると、とにかく勝ち進めなければ話にならないと勝負に集中した。


 金網内側のリングでは相手のチョイメカが迫ってくる。

 ゲームでもオートガードだったので、相手のパンチを自動でガードしてくれていた。

 思わず耳を塞ぎたくなるほどの金属同士がぶつかり合う音が、強烈な攻撃を物語らせる。


敵の武装は分からないがCタイプだ。

 それでも、この迫力。

 ボディの破片が飛び散り、油のしぶきが宙を舞う。

 俄然楽しくなるのはオレが男だからかもしれない。


 ロボットにはロマンがある。

 それも自分が好きなゲームのキャラが、等身大で激しく戦っている。

 人形になったままで悪いが本人もたのしそうなので、暫くオレも楽しませてもらう。


 コントローラーは昔ながらの、十字キーにA・B・スタート・セレクトの四ボタン。

 まずは想像のつくAとBボタンから試す。

 モーションは立体と平面の違いはあれど、変わりはしない。

 オレは軽快にAボタンを三回押した。

 パンチはジャブ・ジャブ・ストレートの三連撃。

 そして、ストレートには僅かにタメが入る。

 オレならこの僅かな隙を狙って、ジャブでカウンターをとれる。

 相手が二発目の左ジャブを引くと同時に、オレがAボタンを押す。

 シビアなタイミングを物にしたオレのチョイメカは、見事に相手の胸に一撃お見舞いする。


 普通ならこのまま追撃するのだが、敢えてしない。

 一試合目は操作方法を確かめる準備運動にしたいからだ。

 この時のオレは無意識に笑っていたに違いない。


 《おーっと! 一方的に攻められていたジョーカーが、とうとう反撃を開始するー!》


 すまない、反撃はしないんだ。


 ゲームと同じくAがパンチなら、Bはキック。

 これは自信があった。

 だが十字キーに関しては、全く分からない。

 オレは取り敢えず右を押してみた。


 すると相手を中心に、距離を均等に保ちながら右に移動する。

 どうやら3D格闘ゲームと似たような動きをするようだ。

 案の定、上を押すと前進、下を押すと後退した。


 なら、粗方分かったも当然。

 伊達に長年ゲーム人生を送ってきた訳ではない。

 あと必要な動作は、武装の使用とジャンプだけ。

 流石にスタートでポーズは出来ないだろう。

 自分以外の時を止めれるとしても、ラスボスか主人公くらいだ。


 そうなると、用途不明のボタンはスタート・セレクトの二つ。

 ゲーマーの誰しもが持つイメージとしては、スタートの方が重要ながら余り押さないボタン。

 つまり武装だ。

 なので、押さないでおく。


 《おーっと! さきほど絶好の機会をみすみす逃したジョーカー! 今度は、ハスターの回りをウロウロしたり、ジャンプしたりと落ち着かない様子。まるで大人をおちょくる子供のようだー!》


 思った通り、セレクトがジャンプだった。

 必然的にスタートが武装。

 これで確認は終了だ。


 ゲームが始まって先ずする事は、原作と同じ個所・違う箇所を見極める事のようだ。

 これが分かっていないと、折角のゲーム知識も宝の持ち腐れになってしまう。

 ちなみに実況はこの世界のオリジナル要素だ。

 今では当たり前の対戦を盛り上げる実況、もはやなくてはならない。


 うん、こんなものかな。

 後は、さっさと片付けよう。


 《おー! 今までの動きは、やはりおちょくっていただけだ! 一転、劣勢なのはハスター! 何も出来ません! 成す術がありませーん!》


相手は初プレイだと疑う余地のないほどの腕前。

 優しく言えば素人、酷い言い方をすればザコだ。

 オレが負ける要素はなく、よりにもよって武装がガンと一発逆転の可能性すらない。

 まあ、遠目から判断するに同い年くらいだろう。

 だったら自分が生まれるか、生まれないかくらいに発売されたソフトを知っているオレの方が可笑しいのかもしれないな。


 《圧倒的! まさに圧倒的! 反撃を開始して数秒! ハスター戦闘不能。勝者ジョーカー!》


 とにかく楽勝で一回戦を勝ち抜いた。

 他の選手に観戦が許されていない以上、勿論スタートを押して武装が使えるかも確認済み。

 次の相手について一切情報がないのは痛いが、こっちの情報も掴ませないのは大きい。

 一長一短、どっちもどっちだ。


 オレは元来た道を戻り、扉に手をかけようとした。

 しかし、また違和感を察知する。

 後ろを振り向き、走って金網を掴む。


オレはガッシャーンっと音を鳴らしながら、必死で辺りを見回す。

 大きく見開いた血走った眼になっていたに違いない。

 見つけたいものが二つあった。


 どちらか見えなければならないのだが、どちらも見つけられない。

 金網しかなく、邪魔になって隠れているはずはないのだ。

 どちらも故意に隠さない限り、絶対にここからでも見える。

 絶対にどこかに。


 《二回戦第一試合を始めます。ジョーカーは早く控室に戻ってください》


 警告音と共にアナウンスが流れると警備ロボットが現れる。

 流石にロボット科学が主流の世界。

 小型のチョイメカに力で対抗できる訳もなく、オレは強制退場させられてしまった。


 警備ロボットに両脇から持ち上げられたオレは、控室で待機している三人の視線を集める。

 ベンチに優しくオレを座らせ、警備ロボットは何事もなかったかのように定位置に帰っていった。

 クスクスと堪えきれない笑い声が聞こえ、恥ずかしくて真正面を直視しつづけるしかなかった。


「はっはっはー! 興奮しすぎて、ハジけたか! 普段は喋りながらゲームしてるだろ。そんなだから、はしゃぎ過ぎて補導されちゃうんだぞ」

「そんなんじゃないです。調べものしてたら、排除されただけです」

「排除って! 調べものしてただけで、怒られる訳ないっ! おっ! おいおい。おーい!」


 オレをからかった久留間さんは、警備ロボットに強制的にリングへ連れて行かれた。

 この件に関しては次の対戦相手である、先ほどの女性も冷笑だった。


 仕方ない、静かになったので、整理してみよう。

 勝った人は歩いてここまで戻ってくる。

 では負けた人は、どこへ行くのだろうか?

 オレが探していたのは負けた相手。

 もしくは、負けた相手が出ていった場所だ。


 人影もなく、他の出口も確認出来なかった。

 そもそもオレは負けた時の事を一切気にしていなかった。

それもそのはず、一生ゲームをしにきただけなのだから。


 ニュースで神隠しの報道は沢山見たが、戻ってきたと言うニュースは知らない。

それは楽しくて戻ってこないだけだと考えていた。

いや、思い込んでいた。


 ここには何人くらい、いるのだろうか?

 外に出られた人は、いるのだろうか?

 そして、クリアできなかったら、どうなってしまうのだろうか?

 改めて考察してみると疑問が止めどなく溢れてくる。

 疑問が増えるにつれ不安も大きくなる。

 震えが止まらない。

 もしかして死んでしまうのではと考えるようになっていた。

 一気に死を身近に感じた事で、体が思うように動いてくれなくなった。


「おーい。終わったぞー」


 久留間さんが戻ってきた。

 負けた人はどうなった?

 お姉さんは控室から消えている。

 オレの対戦相手は既にリングに向かったようだ。

 なぜ、そんな簡単に歩き出せる。

 何も考えていないのか?

 バカなのか?


 ここはまるで、地上三千メートルのように感じる。

 歩く床は今にも崩れそうで、一歩も踏み出せない。

 動かない事が最善だとハッキリ分かる。

 リアルにその光景が、ここにあった。


 オレにしか感知できない情景。

 誰も見れない光景。

 オレの前にいつの間にか立っていた警備ロボットが悪魔と重なる。

 悪魔に両脇を抱えられ、地獄へ落とされるのか。

 試合会場の歓声も、地から湧き上がるようなオドロオドロシイ声。

 連れてこられた今立っている場所は死刑台だ。

 負けたら殺され、地獄に叩き落される。

 オレは自ら招いた疑問によって、異常な精神状態で二回戦を迎えてしまった。

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