二ノ果実 《高校生活開始!》
ダダダダダダ
バタンッ!!
「オラァ起きんかボケェ!!」
―zzzz
4月になり、私たちの高校生活は始まった。
新生活の始まりのはずだけれど、朝の生活は今までと何ら変わらなかった。
中学の頃からの日課、谷原を叩き起こす役割は継続なのだ。
「ジャンピーングアタッ~ク!!」
ドフッ!!
「うッ!!」
海崎は谷原の腹部にめがけてジャンプしてのしかかった。
「ほら、起きんか!朝練遅刻するよ。」
「お、おめーよ・・・どいてくれ・・・」
苦しそうに訴える谷原
「起きたわね。とにかく早くご飯食べちゃいなよ。」
「おう。ありがと。」
谷原の両親と姉は、谷原が中学になってすぐ仕事の都合で海外に行っている。
谷原はどうしても日本で野球をやりたいといってダダをこねまくり残った。
海崎家と谷原家は親同士が同級生の為、谷原の面倒を見ることをかってでた。
朝と夜ごはんは海崎家で食べ、それ以外は大体自分の家で過ごしていたのだが高校生になり、部活の朝練と放課後の練習が遅い事もあって最近は海崎家に入り浸っている。
ガチャ
「楓は起きた?」
「うん。今来るよ。」
「雫、もっと優しく起こせないのかい?」
「お父さん、優しくなんて起こしてもあいつ起きないから。」
父と母は谷原を私の弟のように考えている。
「おはよー。」
「おはよう楓。」
「おはよう、さぁごはん食べちゃいなさい。」
「うん♪いっただきまーす!」
特に違和感のない光景。
「つーか、お母さん達が谷原起こせば良くない?」
「なんで?」
目をパチクリさせる母
「なんでって・・・いつもお母さんがあたしを起こす理由はこいつを起こしなさいじゃん。あたしじゃなくて直接谷原を起こせばいいじゃん。」
テーブルに肘を付き、谷原がご飯を食べる姿をボケっと見つめながら言う。
「バーカ。」
谷原が箸を止めて海崎に言った。
「は?」
「俺、おばさんとおじさんにめっちゃ世話になってんだよ、起こしてもらう事までしてもらったらわりぃだろ!」
「はぁ!!!意味わかんないんですけどぉーーー!!だったら自力で起きろボケっ〈怒〉」
立ち上がり拳を握り怒る
「無理。だから海崎が起こしてくれればそれで丸くおさまる。うん。ベストな選択だな♪」
「あのねぇ〈怒〉」
「ちょっと、雫朝から怒鳴らないの。」
「そーだぞ、それに楓は世話になってるなんて思わなくていいんだぞぉ。俺の息子同然なんだから。」
「あ、マジ♪そっか~アハハ~♪」
(たく・・・何なのこの家族・・・。)
海崎はうな垂れながら洗面所へ向かった。
《一時間後》
ピンポーン
「今行く~。行って来まーす」
ガチャ
「おはよ。」
「おはよー駿河。」
私と駿河は同じ高校だから、毎朝一緒に登校している。電車で一駅先の名東高校まで。
「あいつそんな事言ってんの。マジうけるな、バカっていいよな。」
「そうなんだよ、あたしよりあたしの家族って感じ。」
「まぁあいつらしいよ。」
「そうだね。」
《名東高校》
「じゃ、また帰り。」
「うん。」
ガラガラ
「美咲おはよー。」
「おはよー雫。」
千葉美咲は高校に入って仲良くなった友達。可愛い系の見た目だけど、ぶりっ子タイプではない感じで気が合う。
「ねーねー、部活決めた?」
「部活?美咲部活入るの?」
「うん・・・え?知らないの雫?」
「何を?」
「うち文武両道の精神とやらで、入学して3か月以内に必ず何かの部活に所属しなきゃいけないんだよ。」
笑顔で説明する美咲
「マジか。知らなかったぁ~どーしよ。」
「中学何部?」
「中学は女バス。」
「じゃあ高校もバスケ部かぁ。」
「イヤイヤ、高校では部活やらないつもりだったから!」
「じゃあ一緒にマネージャーやらない?」
意気揚々とした様子で海崎の肩に両手を置く
「ま、マネージャー・・・?あたしが?」
口角を引き攣らせながら聞き返す
「うわぁ何かチョー嫌そうな顔!ぶっさいくだよ~」
「あんたね。」
「いいじゃん、男子バスケのマネージャー♪やろうよぁ」
(男バス・・!?)
「どうかした?」
「いや、何で男子バスケ?あ、あたしはマネとかやらないけど興味本位で聞いとくわ。」
「何それつーか全然興味ありそうな顔してませんよあなた。」
「そう?」
「まぁいいや~これ聞いたらやる気でるかも!うちの男子バスケ部はレベル高いのよ♪」
「そんな強いの?」
「ちがーう!!顔よ顔!イケメン多し♪」
「・・・で。」
「でって・・え?興味・・・無い系?」
「無い。」
「嘘でしょ!何?え?彼氏持ち?」
「いない。」
「じゃあなんでぇ!?」
(何でって聞かれても・・・つーか意外とパンピーなのね美咲・・)
「はぁ・・なーんだ、ちょっとショック~。」
美咲は残念そうな顔で口を尖らせた。
「ショック?何で?」
「だってさぁ、高校生になったら友達といっぱい恋バナして泣いたり笑ったりなんて夢あるじゃん。」
「そうなの?別に話は聞くよ。」
「違うのっお互いを高め合うってゆーかぁ~」
「恋ねぇ。そーいや初恋もまだしたことないな。あたし。」
薄ら笑いを浮かべて斜め上に視線を送る海崎
「今年入部する一年のバスケ部も結構イケメン多いらしくてすでに情報出回ってるんだよ~。」
「情報が出回る?」
「うん、学内情報部ってのがあって~イケメン情報から美女情報、カップル破局情報とか取り扱ってんの♪すごくない?」
(うわぁ~・・・なんだその部・・・情報漏えい甚だしい・・・。)
「で、これ見て!」
美咲は手作り小冊子を海崎の目の前に出した。
「何?」
「これは、バスケ部イケメン情報!今年入部予定者もバッチリ載ってます!」
海崎は冊子を手に取り表紙を見た
(名東男子バスケットボール部情報紙・・・500円・・・って金とんのかよっ〈汗〉)
ページをめくるとそこには、部員のインタビュー記事から生年月日、趣味などが記載されていた。
「すごくない!」
「あーすごーい。なんだろタレント名鑑みたいね。」
「感情こもって無いな、次のページから今年の部員。」
美咲がページをめくると
(うっわっ〈驚〉)
「この三人が一押しなんだよ~♪かっこいいよね~!」
美咲がキャッキャしている脇で固まる海崎
そのページの三人の中に駿河がいたのだ
「あれ?なんで固まってんの?」
(駿河の写真・・・しかもどう見ても盗撮じみてる・・・プロフィール調査中・・って)
「あれ、千葉さんそれバスケ部の情報紙?」
「え?」
ふいに後ろから声をかけてきた男子
「見せて♪」
(キャー・・バスケ部一年一押しの3人のうちの一人、黒瀬充~!)
目を輝かせる美咲
(あ・・・こいつこの写真の・・。)
冷めた目でみる海崎
「すげーこんな風に載るんだ。」
「く、黒崎くんインタビュー受けたの?」
「あぁ、インタビューってゆーか何か嵐が来て去って行ったって感じ・・〈苦笑〉」
(うわぁ傍迷惑な部だな・・ほんと・・。)
「そうなんだぁ~でもすごいね、注目の3人に入ってる!」
「あ~・・何だろかなり恥ずかしいよなこーゆーの・・・先輩たちは慣れたとか言ってたけど・・・」
参ったといった顔で冊子を見る
「実際迷惑でしょうね、勝手に盗撮されて個人情報流されるなんてさ・・。ご愁傷さま。」
憐れむように黒瀬の目を見つめる海崎
「アハハ、海崎さんだっけ?ほんとその通りだよ。」
「えー女子にとっては大事な情報だけどね~我慢してよ~。」
美咲があっけらかんとした口ぶりで2人に言った。
「だそーだ、我慢するしかないね黒丸君。」
「いや、黒瀬だから俺。わざとか?」
「・・・じゃ、わざとって事にしといて。」
「うわー適当だね雫・・・。」
アハハハ
《放課後》
「じゃあたし帰るね。あ、今日あの冊子かしてくれない?」
「バスケ部の?」
「うん。」
「何?もしかして黒瀬くんに胸キュンしちゃったとか?」
「ハハ・・違うよ、コレあたしの幼馴染みなの。」
海崎は駿河の載っているページを開き指をさした。
「えーーー〈驚〉」
目を見開いて驚愕する美咲
「見せてやろうと思って。」
「何それー!イケメンと幼馴染み!?はぁ?ずるーーい」
「はいはい。ずるい意味がわからんけど、じゃあね。」
「ちょっと~!!」
(はぁ・・・高校生ってみんなあんなもんなのかな?)
海崎は教室を出て、駿河と待ち合わせしている昇降口へ
(あ・・いた。あれ?誰かと話して・・・黒・・丸・・じゃなく、黒瀬くんだ)
「あ、おせーよ海崎。」
「ごめんごめん。」
「おう、海崎さん」
「黒瀬くん、駿河と知り合いだったの?」
靴を履き替え、2人の元へ歩みよった
「あぁ、体験入部んときに知り合った。」
「へぇ。」
「お前ら同じクラスか。」
「そーだよ、まぁ今日初めて話したに近いけどね。」
「あ、別にナンパとかじゃねーよ!安心してくれ!」
急にオドオドする黒瀬
「は?」海崎&駿河
「え?だって、彼女口説いたみたいに勘違いされたら困るから。」
「ごめん、うちら別に付き合ってないよ。ただの幼馴染みだから。」
「そーなの!?」
「あぁ。」
「なーんだ焦ったぁ~〈笑〉」
「あ、駿河にこれ見せようと思って。」
海崎は少し悪い顔をしてニヤついた
(なんか怖い顔してますけど・・・〈汗〉)
「あ、それ〈苦笑〉」
「何これ・・バスケ部の情報紙?」
「まぁいいからこのページ・・ほら。」
「・・・・・・は?何だコレ〈怒〉」
一瞬して駿河の目が凍り付いた
「ヤバいっしょ、盗撮〈笑〉」
「お前も載ってるぞ・・んだよコレ・・・。」
「あぁ、恥ずかしよなマジ・・。」
「良かったねー駿河♪花の高校生活送れるよ~〈笑〉」
バコンッ
「ったぁ~・・・」
「お前が悪い。」
「駿河~女をカバンで叩くなよ〈汗〉」
「気にすんな黒瀬、他の女は殴らんから。」
「殴れやっ!」
「いや、それ違うだろ海崎さん!」
「お前谷原のバカが移ったんじゃね?」
(谷原?)
「ふざけないでよ、一緒にすんな!」
「でもまぁお前らほんと仲いいんだな。」
のほほんとした空気感で言う黒瀬
「そうかな?普通だけど。」
「俺には幼馴染みなんていないから、ちょっとおもしれぇ。」
(おもしろい?)
「何でもいいけど、黒瀬入部届の話だけど来週あたりにしねぇ?」
「あぁ、そーだないいよ。」
「じゃそーゆーことで。」
「あぁ。」
「帰るぞ、海崎。」
「うん、じゃあね~黒瀬くん。」
「おう、じゃあな駿河と海崎さん。」
帰ろうと黒瀬に背を向けたが、すぐに振り返り、黒瀬へ歩みよる海崎。
「あ、おい海崎?」
スタスタ
(え・・・)
「あのさ、もう友達だし海崎って呼び捨てでいいよ、あたしも黒瀬って呼ぶから。じゃあバイバイ黒瀬。」
「え・・・あぁ・・。」
すぐにまた背を向け駿河の元へ
「お前、強引すぎね?」
「なんで?呼び方決めるのに強引とかなくない?」
「それ以前に友達になったのか?」
「えっ違うの?」
「しらねーよ。」
何の違和感も無く歩き去ってゆく2人の姿を呆然と目で追う黒瀬
(・・・なんか・・・面白い子だな・・海崎って。)
自然と顔が微笑んでいた。