表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

エピローグ

 扉をノックする音がする。

 マリはうきうきとした様子で玄関の扉を開けた。

 そこには、笑顔のジンがいた。

「アキにプレゼントを買ってきたんだ」

 マリは微笑んだまま、玄関の扉を閉めた。念入りに鍵も閉める。

「いい加減許してやってくれないかなあ」

 リビングのテーブルについていたシホが、頬杖をついて言う。

「もう少し苛めておいたら、拗ねて旅に行っちゃうでしょう」

 マリは淡々とした口調で言う。

「まあ、実際そうなんだけど。そうなんだけどね」

 シホは困り顔だ。

「……ジンだって、自分の欲の為に旅をしてるわけじゃないんだよ? 過去に行く魔法陣が見つからないと、歴史そのものが変わっちゃうじゃない」

「けど、今更和解しようなんて気にもならなくって。散々罵倒しあった仲だからねえ私達は」

 どこかとぼけた口調でマリは言う。

「……案外、根にもつね」

「可哀想じゃない。たまにしか会えない上に、いつ死ぬかわかんないお父さんなんて」

「逆に、いつ死ぬかわかんないお父さんだから会わせてあげるべきじゃないかな」

「うーん、考え方の問題だよね」

「とかとぼけて、会わせる気ないんだよね?」

「うん、ない」

 マリは断言して、シホは苦い顔になる。

「色々話せるうちに話して決めておくべきだと思うなあ、私は。話せなくなった時に辛くなる」

「……そうだねえ」

「森で死にかけた時は素直になったのにね」

「……毎回戦地にいたら、素直に話し合えるようになるのかもねえ」

 マリは自分自身に呆れたような口調で、苦笑交じりに言った。

 港町は平和を取り戻している。

 残っていた魔物達も、アリシラの死と共に消滅してしまった。

 その功労者がジンなので、王都での脱走劇の罪はうやむやになってしまった。うやむやにしてもらった、と言うべきだろうか。

 それに伴い、調律者に関する情報交換が大陸各国で行なわれているようだ。

 世界は少し変わった、と言うべきかもしれない。

「今頃、どうしてるかなあ、イチヨウ君」

 呟くように、シホは言う。

「ああ、シホとジン宛に手紙来てるって言ってたよ。イチヨウ君からじゃないかな」

「じゃあ、ちょっと読んで来るとしますかね」

 立ち上がって、シホは家の外へと出て行った。そして、ふとあるものに気が付いて足を止めた。

「ジンったら、おもちゃ置きっぱなしだ」

「……おもちゃに罪はないから受け取るよ」

 苦笑交じりのマリの声が聞こえた。


 冒険が終わった後、イチヨウは、村の台座に覇者の剣を納めた。それ以来、その剣が再び抜けたことはない。

 イチヨウは平和な村の暮らしを享受していた。

 ヨツバなどは、その様変わりように喜んだものだ。

「よほど旅で痛い目を見たみたいね」

「ああ、見たぞ。両腕が切断されたこともあった」

「またほらが始まった。両腕が切断されたら、神術でも完全に治るわけないじゃない」

「それが世界有数の神術師がいてだな」

「イチヨウのほらには付き合いきれないよ」

 そう言って、ヨツバは笑う。

 世界を回って調律者の正体の語り部になるなんて話、自分にはそもそも無理だったのだなとイチヨウは思わざるをえない。

 その時、イチヨウは我慢できずに、思わず欠伸をした。

「なんか眠そうだね、イチヨウ」

 ヨツバは興味深げに言う。

 事実、イチヨウは眠たかった。

「夢を見てなー……」

「例の、ハクって女の子の夢?」

「そ」

 短くイチヨウは答える。

 ハクはたまに、イチヨウの夢にやってくる。そして、一晩中話をして、去っていくのだ。場所はいつも、冒険の途中で立ち寄った山の花畑。二人が初めてキスをした場所。

 そんな夜が明けると、イチヨウは常に眠気に襲われる。まるで、眠ってなどいなかったかのように。

 ハクの話は様々だった。あの町は凄かったと興奮して語ることもあれば、あの町の誰々は話をまったく聞かないと拗ねてみせることもあった。自分の夢が神託だと騒がれて宗教が起きたと誇らしげに語ったこともある。

 今日も彼女は、世界のどこかを旅しているのだろう。まるで、空飛ぶ竜のような高さから。

 そして、歴史が繰り返さないようにと働き続けるのだ。

「振られた女の夢を見るなんて、未練がましいね」

 ヨツバは苦い顔で言う。

「振られたわけじゃない」

 イチヨウも、苦い顔で言う。

「じゃあ、村に連れて来てみなさいよ」

「そのうち来るよ」

 確信めいた口調に、ヨツバが戸惑ったような表情になる。

「そのうち戻って来るって、約束した」

「体よく振られたんじゃない」

「ちげーっての」

 イチヨウは苦笑するしかない。

 ハクは今だって律儀に夢に出てきてくれる。ならば、イチヨウは待つだけだ。彼女がやるだけやりきって戻ってきてくれる日を。

 イチヨウは、待ち続ける。自然の中で生活を送りながら。

 旅で使った剣は、家の片隅で埃を被っていた。

 けれども、三日月を模った髪飾りは、棚の上で綺麗に飾られている。

 最後には良い思い出になるように願っている、と師は言った。髪飾りを見るたびに、その言葉を思い出すイチヨウだった。


 また、イチヨウは夢を見た。

 場所は、いつもの花畑。

 イチヨウの隣には、微笑んでいるハクがいる。

 ハクの今回の冒険の話が、粗方終わろうとする時のことだった。

 寂しいよ、とイチヨウは言った。

 必ず戻るよ、とハクは言った。

 二人は掌と掌を重ね、切なげに微笑みあった。

稚作ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました。

そのうち『余りものでショータイム』内にて余談を上げるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ