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友葉学園シリーズ

【友葉学園】モグラと太陽

作者: 田中 友仁葉

主人公は鏡 裕くん。鈍感根暗系男子です。

2-Aの騒がしい教室の中、どこのグループにも属せずに一人で本を読んでいる。それが僕、(かがみ) (ゆた)である。


世間一般には「ネクラ」という部類に属するだろうけど、僕自身、別に人と話すのが苦手だとかそういうわけではない。

とかいって「孤独が美徳」とかそんな中二的な考えを持っているわけでもないし、噂の3年の先輩みたいに普段から悪態をついているわけでもない。


僕は単純に読書が好きなため一人で放って欲しいだけなのだ。


まあその結果、グループを作ることに出遅れて一人になってしまったが……グループを作ったところで結果は変わらなかったと思う。


「うわぁっ! 榎田さん、また引き出しにラブレターが!」


「そ、そんな大声で言わないでよ!」


昨晩の残りを読み終えたところでそんな声が聞こえて来た。


榎田(えのだ) 可憐(かれん)さんは、クラスというよりも学年中から注目を浴びている……所謂学園のマドンナの一人である。

文武両道、頭脳明晰、温厚篤実、さらにクラス委員を務めるという正に重箱の隅をつっついてもゴミ一つ出ないような完璧な女子生徒で男女ともに人気がある。

しかも、美人の上にスタイルやセンスもいいため人気読書モデルもしているという。


まあ、僕とは大空を照らす鳳凰と泥にまみれながらミミズを貪るモグラくらいの差があるから関わることはまずない。というか榎田さんには僕の姿が見えてないと思うこともある程である。


そんな日の放課後、僕はクラスの人に掃除を押し付けられた。


というよりも、他の掃除当番が我先と帰って行ったために必然的な僕が一人で行うということがクラスでは当たり前になってきているのである。


とはいえ、僕がそれが嫌なわけではない。

いや、寧ろこの時間を気に入っている。


別にこれは皮肉を言っているわけではない。


「いつも掃除任せてるけど、嫌じゃないか?」


僕に掃除を任せてる人は決まってこう心配をしてくれる。

つまり断ろうと思えば断ることも出来るのだ。


断らない理由の第一に、騒がしかったクラスを斜陽が照らし、動から静にガラリと変わるこの時間(前に読んだ本によると「マジカルアワー」というらしい)が好きなのである。


また、掃除を終わらせた後の教室で本を読むというのも乙なものだ。


しかし、今日に限っては持ってきた本を全て読み終えてしまった。


別に文芸部や図書室(個人的には図書館と呼んでいる)に行けば本くらい手に入れることができる。


しかし、なんというか今日はそこまでして読みたいという気が起こらない。


そこで僕はふと黒板を見た。

掃除した後の綺麗な黒板である。


(……そう言えば小学生の頃はよく黒板に落書きしてたなぁ)


そんな童心が湧き、折角なので誰も居ない教室で黙々とチョークを走らせ始めた。


テーマはそうだな……普通だが「夕暮れ」でいいかな。展覧会でもあるまいし、凝ったテーマなどいらないだろう。


…………

……


気がつけば30分経っていた。

夢中になって完成した落書きに僕は満足すると足早に帰ることを決めた。


******


外はまだ比較的明るかった。

暗くなる前に帰れるのは帰宅部の特権だろう。


……しかし、そんな時間だからこそ、特殊イベントも起こりうるのだろうか。


「ひっく……ひっく……」


電柱の横で偶然にも泣いている女の子を見つけた。

捨て子はあり得ないだろうし、多分迷子だろう。

僕とは関係ないがもうすぐ暗くなるし放っておくわけにもいかない。


「……えっと、どうしたの?」


「ひっく……かえりみち、わからなくなったの……」


少女は僕の質問にシャックリをしながらも応えてくれた。


「そっか……じゃあ、お兄ちゃんも手伝うよ」


「……しらないひと」


……あー。


「うーん……でもそうしたら僕、案内出来なくなるよ?」


「……わかった、おにいちゃんとついていく」


長い説得になると思った僕はホッとした。

そうして少女は立ち上がろうとするが……


「いたっ……」


「……怪我してたの?


「……うん」


…………

……


とりあえず少女の怪我を消毒するために、近くの公園の水飲み場で傷口を洗い、ベンチで休ませることにした。


「はい。絆創膏ペタ〜」


「ぺたー」


普段から絆創膏は持ち歩いていたが初めて役に立った気がする。


「痛くない?」


「うん。ナナはつよいの」


ナナ……それが彼女の名前らしい。


ついでに、怪我したときに破れたのだと思われるスカートを常備しているソーイングセットでソーイングする。


……遠目に見られると幼女のスカートをサワサワしてるように思われそうなので迅速かつ慎重に。


「……とりあえず、交番に行こうか」


「……ダメ」


「……? なんで?」


幼女ながらも前科持ちなのだろうか。


「……パパにおこられる」


あー、なるほどね。


「……そっか……じゃあ家の近くに目立つ建物とかない?」


「ベランダからスカイツリーがみえるよ」


「……」


ここからでも見える。


「……うーん、そうだなぁ。……あっ! もしかして、幼稚園生?」


「うん、ともはようちえん」


******


というわけで友葉幼稚園まで来てみた。


「ここからどうやって帰ったとか分かる?」


「……うん! おもいだした! こっちだよ」


このあとは簡単だった。

ナナちゃんが景色で道を覚えていたので、僕は付き添うだけでよかったのである。


…………

……


「あれがわたしのいえ!」


家が見えたので、ここで別れることにする。これ以上着いて行って、家族と顔を合わすことはないだろう。


「そっか、じゃあもう帰れるね?」


「うん! おにいちゃんありがとう!」


「うん、バイバイ」


そう言うと元気にナナちゃんは家へ走って行った。

あと迷子の理由は初めてのおつかいだったらしい。ナナちゃん偉いね。


周りはすっかり日が落ちてしまっていた。


「さて帰るかな」


そう呟きポケットに手を突っ込むと、なにやら硬いものが手に当たった。


引き抜いてみると、それは袋に可愛らしいシールが貼られた飴玉だった。

いつの間に入れられたのかと苦笑しながら、その飴を口に入れた。


「あっイチゴだ」


******


翌日


学校に来ると、消し忘れた黒板の落書きで話題が持ちきりだった。


「すげぇな……これ」

「芸術作品レベルだろ……」

「一体誰が描いたのかしら」

「というか本当にこのクラスの誰かがが描いたのかな?」


……だいたいこんな感じ。

そんなに大それたものかと思いながらも犯人である僕は席に着くや否やパターン化された動きで本を読む。


「もしかしてさ、榎田さんじゃない?」


「それはあり得るな!」


……少し考えてみれば僕と分かることなのだが、まあ確かにその方が話に華がある、というか面白い。そういうことにしておこう。


「あっ! 榎田さん!」


「ねえねえ、この黒板の絵描いたの榎田さんでしょ?」


「ええっ!? 私じゃないよぉ」


榎田さんが否定すると周りの人は謙遜だ遠慮だといい、さらなる賑わいを見せていた。


苦笑する榎田さんは正しく「困惑」の二文字がピッタリだった。


「おーいお前ら、席につけ〜……って何だこれ、凄いな。誰が描いたんだ?」


「榎田さんですよー」


「へえー、榎田。お前、本当になんでも出来るんだな」


「い、いえ、これは本当に違うんですけど……」


困惑する榎田さんに先生は苦笑する。


「しかしな、先生のノートである以上消さなきゃならないんだ。許してくれよ」


そういい、先生は黒板の方を向く。


……そして硬直。


「……先生? どうしたんすか?」


生徒の誰かが聞く。


「……これを消すのは……凄い勇気がいるな」


そういい先生は黒板消しで黒板をサッとなぞる。


拭き終わった先生の目には涙が浮かんでいた。


******


昼食の時間になった。

ぼっち飯にも慣れたものだ。


(ゆうた)くん」


突然かけられた声に顔を上げる。

そこにはなんと、榎田さんの姿があった。


「ねえねえ一緒にお昼食べない? (ゆうた)くんいつも一人だからさ」


「……えっと、榎田さん?」


「うん!」


「……僕、(ゆた)です」


朗らかに告げる僕に榎田さんは驚愕の表情を見せていた。


「ねえねえ、榎田さんお弁当食べよう?」


「え! ……ゆ、裕くんも」


「ううん。邪魔しちゃ悪いし、僕は弁当じゃないから」


「そ、そうなんだ……」


そう言うと、惜しそうに榎田さんは友達と机を合わせた。


僕は「弁当」ではなく「購買のパン」を手に取るとカフェテリアで食べることにした。


しかし、榎田さん偉いなぁ。


クラス委員だから、ぼっちである僕を弁当に誘ってくれるなんて。


******


放課後になり、いつもの掃除に取り掛かる。


「榎田さん帰ろー!」


「え、えっと、ごめんね。今日はちょっと用事があるの」


「そっか……まあ仕方ないね。うん、じゃあバイバイ」


「バイバイ」


生徒が帰り、教室が広くなると早速掃除に取り掛かる。


「……さて、始めますかね」


「ゆ、裕くん!」


「ん? 榎田さん?」


「……て、手伝うよ」


そう言うと、榎田さんは箒を手に床を掃きはじめた。


「……そっか、ありがとう」


まあクラス委員だから教室の掃除をするのは当たり前なのかもしれないな。


僕は深く考えずに、黒板消しを手にした。


…………

……


「……えっと、裕くん」


「……榎田さん。苗字忘れてるなら遠慮せずに言っても怒らないよ?」


下の名前を学園のマドンナに呼ばれるのは擽ったいものがある。……とはいえ、当の榎田さんはそんなこと意識してないだろうけど。


「ち、違うよう! ……苗字の方がいい?」


「……出来れば」


「……えっ?」


なにやらショックを受けたように見えたのは、ご都合主義だろうが一応弁明する。


「……榎田さんみたいな綺麗な人に下の名前で呼ばれるのは、少し恥ずかしいかな」


「そ、そんなことないよ! それから綺麗なんて恥ずかしいこと言わないでよ……」


「え? 榎田さん人気者だし言われ慣れてるでしょ。頭いいし、優しいし、それに大人っぽくて綺麗だし」


あと口には出さないけど、スタイルもいいし。


「も、もうっ! お、おこ、怒るよおおっ!?」


「ええ〜」


褒めたら怒られた。

わけがわからない。


*****


「終わったぁっ!」


「そうだね。お疲れ様」


僕は道具を片付けると本を手に、窓縁に腰掛けた。


「……えっと、裕く……鏡くんは帰らないの?」


「……うん、すぐにはね。いつも少し本読んでる」


「……そうなんだ」


暫しの沈黙。

僕はブックマークを外すと、ページに指を挟み続きから読み始めた。


「……榎田さん? どうしたの」


「あ、あのさ鏡くん……鏡くんは……大丈夫なの?」


「なにが?」


「え、えっと……その……鏡くんって……なんていうか」


口ごもる榎田さんに僕は少し考える時間を要した。


「ネクラ?」


「あっ、ち、違うよう……なんていうか、浮いているっていうか……」


「……別にハブられてるわけじゃないよ? 確かにボッチにみえるかもしれないけど、それは本が好きだと仕方ないことだろうし」


「……そうなんだ」


僕は会話をしながら次のページをめくる。


「あ、あのね……鏡くん」


「うん?」


「か、鏡くんって……彼女いるの?」


「……」


……どこまで読んだっけ。


「あ、あー……うん」


クラス委員だし、クラスの状態を知るためだろう。とりあえず応える。


「いるのっ!? 名前は?」


「え? ……あー、うんと、高嶺……さん」


「高嶺……? そんな子いたっけ? 何組?」


本気で考える榎田さんに申し訳なくなり正直に告げる。


「……ごめん、それ恋愛ゲームの話。本当はいないよ」


「え? ……あ、なーんだ。ハハハ……」


しかし恋愛ゲームといえばまだマシだけど、本当はただのギャルゲーだからなぁ……


「じゃ、じゃあ今は鏡くん彼女いないんだよね」


「……そういうことストレートに言われるのはキツいかな」


「あっ、ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど……」


しかし、彼女の有無など必要な情報かな。考えてみればおかしいよな。


……もしかして僕の横を狙ってるとか?


……戯けが。モグラと鳳凰だぞ、あり得ないな。


******


30分くらい経ったので帰ることにする。


「あっ、読み終わったの?」


「なっ!? え、榎田さん! まだ帰ってなかったの!?」


「うん」


普段クラスのみんなを明るくする太陽のような笑顔でなんなく言う榎田さんに僕は……


僕は……


……


なんだか申し訳なく思う。


「……凄いね……委員の仕事なのに僕をここまで待つなんて」


「えっ!? い、委員? 違うよう!」


「え? 何が?」


「あ、いや……な、なんでもない」


……?


どうしたんだろうか。


******


「ね、ねえ! 鏡くん、私と帰る方向一緒だよね! 一緒に帰ろう?」


「あ、うん」


よく僕の家なんか知ってるなぁ。

やっぱクラス委員って大変なんだろうな。


「……鏡くん」


「うん?」


「鏡くんって……好きな人いるの?」


おー、学生間の何気ない会話第一位か。


……好きな人ねぇ。

特にはいないけど、榎田さんのことを含めることがいいのであれば……


「まあいるかな」


「なぁっ!?」


「ど、どうしたのっ!? 変な声出して!」


「えっ! へ、変じゃないよ!? わ、わた、私、変じゃないよね!」


焦った榎田さんは大きな膨らみに付けた胸ポケットから生徒手帳を落とした。


気づいてない様子なので、僕が代わりに拾う。


「落としたよ」


「えっ? あ、ありがとう……」


渡すときに、微かに手が触れ合う。

冷たいけど、少し汗ばんでる様子だ。


「ひあああああああっ!!?」


「ど、どうしたの!?」


「て、手が触れたぁ……」


……そんなに汚らわしいか。

仕方ないよな……低俗な僕が高尚な榎田さんに触れるなど言語道断だろう。


「……ごめんね。今度から手袋はめることにするよ」


「え……。ああああっ!? そ、そんなんじゃないよ!? わ、私、びっくりしちゃっただけで……」


「ううん、仕方ないよ」


「そ、そんなんじゃないんだよぉ……」


半泣きになる榎田さんに、再び申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。


「……そ、そうだ。待たせてしまったお詫びにジュース奢るよ」


僕は自販機に向かい財布を開ける。

本を買うしか使ってない財布は図書カードとポイントカードでいっぱいである。


「そ、そんなのもらえないって」


「……だよね。僕みたいなプランクトンが榎田さんに飲み物あげるなんて衛生的に悪いもんね」


「も、貰うよ! っていうか是非欲しいかな!?」


急にテンションが上がる榎田さんは何故か汗ばんでいた。


******


さらに翌日、今度は朝から榎田さんは僕に絡んできた。


「……え、えっと鏡くんて好きなタイプどんなのかな」


「急にどうして?」


「そ、そのさ……な、なんでもいいじゃん!?」


僕は榎田さんに宿る何かの迫力に押されてしまい、仕方なく追求するのをやめた。


「そうだなぁ……まず、ポニーテールかな。あとは優しくて背が高くて……うん、榎田さんみたいな人じゃないかな」


「い、いやあああああああっ!?」


嫌がられた。


「ご、ごめん……僕みたいな汚れた口が過ぎたことを」


「ち、違うよう!? ……わ、私こそごめんね」


「ううん、気を使うことないよ」


なんだかネガティブになりそうだなぁ。

しかし、普通ならここで聞きかえしなのだろうけど僕みたいな屑が聞いてもいいのだろうか?


「……」


「……」


なんか期待の眼差し。

……! そうか、これは僕を試しているのか。

きちんとコミュニケーションを取れるか僕をテストしてるんだろう。

なら期待に添えないとならないな。


「榎田さんはどんな人が好きなの?」


「そ、そう! ……えっと……その……」


自分から待っていたのに口ごもる榎田さん。答えの準備を忘れていたのだろうか。


「……鏡くん、みたいな人かな」


あ、答えの策が尽きて、適当に答えたか。


「そっか……」


「……え、えっと。うん」


「榎田さんってダメ男好きなんだ?」


「そ、そんな卑下しないでよ!」


しまった。榎田さんに怒られてしまった。


「ご、ごめんね。榎田さんのこと馬鹿にしたわけじゃなくて……」


「うーっ! もういいっ!」


あー怒らせてしまった。

榎田さんは可愛らしくプリプリ怒りながら席に戻って行った。


「……あいつ榎田さんに何言ったんだ?」

「ひでぇなあいつ、あの榎田さんをイライラさせるなんて」


……まあこうなるわな。


「うるさいっ!!」


「「す、すいません!」」


そこに榎田さんの一喝。本当に申し訳ない。


******


昼休み


「か、鏡くん、朝はごめんね? えっとさご飯食べよう?」


「ううん、今日は持ってきてないんだ」


というか本を読むしかしてないから、消費エネルギーが少ないし昼になってもお腹空かないんだよな。

カロメで十分。


「というか僕こそごめん」


「う、ううん、気にしてないから」


「いや、こうして榎田さんに気を使われたり、謝罪されると僕なんかに勿体無くて」


「……」


すると、榎田さんはゴツンと強引に机を合わせてきた。


「榎田さん、食べよー」


「ごめん! また今度ね!」


「え……あ、うん」


誘ってきた友だちも、その勢いで薙ぎ払う。


「えっと……」


「鏡くん! お弁当食べよう! 私の分けるから!」


「ええええっ!? も、もらえないよ!?」


そんな高貴な物、食べるなんてだけでも罰が当たる。


「ほら! 口開けて! たべて! 食べなさい!」


「あがががが」


「ほら、口閉じて! 噛んで! 味わって! 呑み込んで! 感想!」


「勿体無いです」


そう言うと、榎田さんはガチ切れして胸ぐらを掴んで来た。


「か〜が〜み〜く〜ん〜!!!!」


「だってその僕なんかが榎田さんのお弁当という高貴なものを食べるなんて割りに合わないですし本当に申し訳ない気持ちしか湧かなくて味も意識できなくてというかなんというか本当ごめんなさい僕みたいな虫けらが榎田さんみたいなマドンナと話してごめんなさい」


「もう……なんでそう卑下するのよぉ……」


榎田さんはそう呟くと力抜く崩れた。


「え、榎田さん大丈夫!?」


もしかして僕と食べたことで本当に食当たりに!?


……酷い話だけど、仕方ない。


「だ、誰か保健室に連れて行かないと……」


「榎田さん大丈夫!?」

「今、行くからね」


あ、大丈夫そうだ。

皆、僕を無視して保健室に連れて行ってくれるらしい。これなら安心である。


******


放課後、榎田さんはいなかった。


「……まあこれが普通だよな」


そういいながら臨時暇つぶしの絵を描く。


「……おー、今日もよく描けたかな」


テーマは「太陽」。

榎田さんのイメージが強いから、絵の女の子が榎田さんに似てしまったけど、まあいいかな。


「か、鏡くん……」


「うわっ!? ……え、榎田さん……」


気まずい……というか絵を見られた。

普通にマズイ。


「前描いたのも鏡くんの絵だよね」


「ご、ごめん。すぐ消すよ」


「待って消さないで!?」


「え……あ……」


そう言うと榎田さんは携帯を出すと黒板を写メした。


「……」


「……えっと」


「……鏡くん、なんで言わなかったの?」


純粋に問われてしまい、僕は目を逸らす。


「……鏡くんがこのこと言えば、あっという間に友達できたのに」


「……」


こんなこと言ったらよくないかもしれないけど、答えは出ている。


必要ないからだ。


「……鏡くん、本当は優しいのに。この前も迷子の女の子助けてたでしょ?」


「うぇっ!? 見られてたの?」


「……うん、ごめんね」


苦笑する榎田さんの目には……少し反省の色が見えた。


「私ね、最初鏡くんのことが心配だったの。……クラスからも浮いた存在で、友達を作らずに一人で本読んでて……だから、鏡くんのこと観察してたの。どうしたら溶け込めるようになるかなって」


「……」


「余計なお世話かもしれないけど、私は純粋に心配だったの。 それでその日、尾行させてもらって鏡くんが絵を描いてるのを見たの。私びっくりしちゃった。私の友達は皆得意なこと好きなことの話をするんだけど、鏡くんの才能はそんなレベルじゃないもん」


「そんなこと……」


僕が否定しようとすると、榎田さんは素早く反応した。


「そんなことあるよ。それにその日の帰り道も女の子助けてて……優しくて、物静かで、本当は人恋しいんじゃないかなって」


「……それは」


「私は、鏡くんのことが好きだよ。先に行っておくけど、クラス委員としてのライクじゃなくてラブだからね」


突然の告白に頭が真っ白になる。


……太陽(えのださん)が?

……土竜(ぼく)を?


「……は、ははは。冗談はやめてよ。誰が僕みたいな奴と……ましてや学園のマドンナの榎田さんがだなんて」


「……鏡くん……裕くんはどうしてそんなに自分を下に見るの?」


「それは……僕は榎田さんみたいに誰からも好かれるような人間じゃないから」


「ダメだよ!」


榎田さんは半泣きになり、僕の胸ぐらを掴んで、そのまま押し倒した。


「うわっ!? え、榎田さんっ!?」


「なんで! なんで気づかないの!? 私は裕くんが好きなのに! どうしてこの気持ちを……なんで!」


榎田さんの流す涙が一つ、僕の制服にポタリと落ちる。


「……なんでそんなに自分を卑下するの?」


「……」


「……どうして、そんなに優しいのよ……」


泣き崩れた顔を隠すため、両手で顔を覆う榎田さんは、本当に悲痛な声をあげていた。


「うわぁぁぁぁん……」


「僕は……僕は……」











どうすればいいんだ?


…………

……


榎田さんが泣き終わる頃には外は真っ暗になっていた。


「……ごめんね、鏡くん。長い間待たせちゃって」


「…………」


「……えっと、今日のことは忘れて? 私も鏡くんのこと、もう気にしないことにするから……出来るか分からないけどね。ハハハ……」


苦笑しながら、僕の前を行く榎田さんは彼女の家の方向へ足を向ける。


そして、僕はその腕をキュッと掴んだ。


「!?……鏡……くん?」


「……ごめん、ちょっと寄り道したいところがあるんだ」


******


僕は榎田さんを引き連れると少し学校から近いところにあるマンションにきた。


「? ここ、鏡くんの家じゃないよね」


「うん、いいから。屋上だよ」


そう言いながらエレベーターで屋上まで行く。


…………

……


「ほらここだよ」


「……!?」


そこから見えるのは夜景だった。

遠くには海も見え、船の明かりが反射しているのがよく分かる。


「一応覚えていてよかったよ。花火とか妄想とかに便利だからね」


「……綺麗」


苦笑する僕を他所に、榎田さんは目を見開いて景色を見ていた。


「……榎田さん!」


「……?」


「こういうのは男の方から言いたいものなんだよ……。……僕なんかでいいなら……付き合ってください」


「っ!?」


榎田さんは顔を赤くする僕の顔を優しく撫でると微笑んで告げた。


「こちらこそお願いします」


彼女は一礼をすると、こちらを見て微笑んだ。


「……それから、また自分を卑下しないでよね」


「あっ……ごめん」


謝ると、榎田さんはクスリと笑ってモジモジしながら話した。


「ごめんの代わりにさ……ほら、こんなロマンチックな場所だし……」


「……?」


「……んもう! 鈍ちん!!」


そう言うと可憐さんは僕の頬に唇を寄せ付けた。

キャラ出せなかった……

まあモブ出せたしいいか。

一応ヒロイン目線も書いてもらえると嬉しいです。


ヒロインは苦労ヒロイン系女子の榎田 可憐です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 榎田さん目線書いてる人いらっしゃいますか? いらっしゃらなかったらやってみようと思います
[一言] どうやって美術の時間とかやり過ごしてたんだろ?
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