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巨大ロボット兵器が有るなんて聞いてませんよ

 どうしてこうなった?

僕の周りには、見目麗しい女の子達があられもない姿で屍累々と横たわっている。

そのふっくらとしたお尻や胸や、白いスベスベとした二の腕や太腿などを撫でたい衝動に駆られるが、それは大事な物を失ってしまいそうなので今更では有るがグッと堪える。


 事の起こりは、ルーに洗浄ルームに引き摺られて戻ってからの事だ。

やたらと艶めかしく絡んでくるこのお姉さんに僕は「酔わせて寝かしてしまおう」と閃いたのだ。いや、その時は素晴らしい閃きだと思っていた。

アルバイトの先輩に、「店で出す物の味ぐらい知っておけ」と色々なお酒を未成年にも関わらず飲まされたのだが、それが役に立った。立ったのだろうか?


 風呂上りにはビールかとも思ったが、お湯に浸かっていた訳では無い。しかも、僕の味覚よりこの世界の人達はかなり敏感な味覚をしていると思う。

だから、甘目の爽やかカクテルを「疲れが取れると思いますよ?」とルーに差し出した。所長さんと呼ぶと怒り、ルーと呼ぶ事を強制されている。

その強引さが酔っ払いを思い出し閃いたと言うのも有る。だが、ルーの反応は、予想に反して強烈な興味を引き出していた。


「これはっ!もしかしてアルコールか?」

「え、えぇそうですけど」


「そうか、これがそうか! サラ、ミリエル、カヌン、マーナ、お前達も来るんだ」

「え?」


 1分もしないうちに4人が僕の部屋に入って来る。待機していたのか?

何時もと違うのは、4人共白く薄いインナーの上に、白衣の短い上着を羽織っただけだと言う事だ。

つい先程も全裸のルーを筆頭に、裸の美女美少女達を洗浄ルームで散々見た後なのだが、やはり慣れない気恥ずかしさが有る。

そして、以前と言うか昼間には僕の出した物に難色を示したばかりの彼女達は、ルーに勧められて恐る恐るお酒の入ったグラスを傾けたのだ。


「こ、これはっ!」


 第一声を上げたのはサヤだ。

他の者達は、じっとグラスを見た後に一口舐めると、各々が行動を起こしていた。


「残っている者は、全員貴賓室に来なさい! 今すぐです!」

「連絡の取れる者を貴賓室に。現作業の中断を許可します。迅速に寄越して」

「残って居る者に声を掛けて今すぐ貴賓室に来させて下さいな。作業? 構いませんわ。全員ですわよ」


 どこの非常事態だと思う程の勢いで、マーナ、カヌン、ミルリエが部下らしき者達に指示を飛ばす。

マーナ達の言葉に、ここは貴賓室だったのか、などと思っていたのだがそこから入って来た人達を見て僕は仰け反ってしまう。

優に30人を超えていたのだ。それでも狭く感じないところに、この部屋って思ったより広かったんだなぁなどと、またも現実逃避をしていた。


「ユーマさん、先程の物を12個お願いできますか?」

「あ、うん、良いよ」


「こっちも9個」

「わたくしにも13個お願いしますわ」


 マーナに言われて用意していると、カヌンとミルリエも要求してくる。

量を作るのは苦では無い。数を指定すれば勝手に出してくれるからだ。僕の出した物をそれぞれが呼び出した者達に配っている。


「どう言う事?」

「この世界でアルコールは、口にする唯一の嗜好品と言えるのだ」


 僕の言葉に答えたルーは、カランと音のするグラスをグッと差し出してる。お代わりと言う事なのだろう。

周りの者達は、僕の出した物を一口飲んでは、自分で再現させようとしているのだが、皆首を捻っている。


「ルーも自分で再現出来るんじゃないの?」

「無理だな。我々の普段飲むアルコールとは、これなのだよ」


 そう言ってルーが出した物は、スピリタスかよと思う程の薬用アルコール臭い物だった。思わず顔を顰めてしまう。


「味だけなら再現出来る。だが君と我々ではアルコールと言う物に対する根本的な組成原理が違うのだと思う」

「こう言うのも有りますよ?」


 僕は、普段こんなに強いアルコールを飲んでいるのならと、コニャックを出してみた。

勿論、掌で回せるブランデーグラスもどきでだ。


「こうやって、手で温めて飲む物らしいです」


 当然、最初から5つ出している。物欲しそうに見ていたサヤは、一口舐めて幸せそうな顔になっている。

ほんのり頬や素肌が紅潮しており、色っぽさが3割増しだ。こちらに来たマーナ、カヌン、ミルリエにも頷くと、其々が手に取り元の場所に戻って行った。


 僕自身お酒に詳しい訳では無い。だけど、ルーとサヤは僕の知っている事だけでもと色々と尋ねて来て、僕は答えられる範囲で答えていた。

何度かマーナ達からもお代わりを要求され、僕は、コーラを飲みながらルーとサヤの相手をしていて、気が付いたらこの状態だったのだ。


 最初は皆制服姿だったはずなのだが、何時の間にか皆インナー姿になっている。寝てしまうと外装は自然に解けてしまうのかも知れない。

中にはインナーすら肌蹴て豊満な胸を惜しげもなく晒している子まで居た。


「仕方ないなぁ」


 僕は肌掛けを出して、寝ている子達に掛けていく。解けた外装だけだと短くて全身を覆えなかったからだ。


「優しいのだな」


 一通り掛け終わった所でサヤが呟いた。寝言かと思ったら、サヤはしっかりとこちらを見ている。


「起きていたのですか」

「いや、ウトウトしていた」


 そう言って、自分で出した水を飲んでいる。グッと一息で飲んだグラスは、その場で消えてなくなる。便利な事だ。


「ん? どうした?」

「いや、便利だけど、どうなってるのかな? って思っただけです」


 どうやら僕はは、サヤをじっと見ていたらしい。ちょっと照れてしまい言い訳をするが、それをサヤは不信にも思わなかった様だ。


「ふむ、難しい話は明日にしてくれ。流石に今日は頭が回らない」

「解りました」


 フッと油断した隙に僕はサヤに掴まれて、サヤの横に座らされる。何を? と思ったらサヤは僕の膝に頭を乗せて寝息をたて始めた。

全くこれだから酔っぱらいは、と思ったがまぁ許容範囲だし嫌じゃない。僕はサヤの綺麗な髪を撫でながら、インタフェースでまた色々と調べているうちに眠ってしまったようだ。




 翌日、目が醒めると僕はしっかりとマットの上に寝ていた。目覚めた僕の鼻孔をハーブの匂いが刺激する。


「おはよう。よく眠れたようだな」

「あ、おはよう御座います」


 そこには、紅茶を飲みながら優しく微笑むサヤと、仏頂面をしたミルリエがテーブルを挟んで椅子に腰掛けて居る。

僕は、クンクンと匂いの元を辿ると、それはサヤ達が飲んでいる物だと解る。二人共インナーに外装を羽織っただけの姿だ。

目に毒だと思ったのだが、制服になられても今度は下着が覗きそうなミニスカートのため、どっちもどっちだと思い直して、サヤの飲んでいる物を尋ねる事にした。


「それは?」

「うむ、ちょっと癖になったようだ。慣れるとこの香りと味は結構良い物だな」


 とサヤは言うがミルリエの顔は、そうは思っていない様に見える。だが、僕的に敢えて藪蛇を突く気はない。

高飛車に突っ掛かられるのはごめんだ。


「今日は、お二人が?」

「あぁ、マーナとカヌンは、君の記憶からの情報解析と情報整理で、今日は大忙しだ。どちらかと言うと張り切っていると言う方が正しいがな。私達では不満か?」


「いや、不満とかじゃなくて、お二人もお忙しいんじゃないかな? って思って」

「暇では無いが、こちらに来てまだ2日しか経ってない君を放って置く程、我々は無責任では無いつもりだ」


「そうですか。有難う御座います」

「うむ、顔でも洗って来ると良い」


 僕は、その言葉に頷いて外装を羽織り、インタフェースを操作して洗顔ルームを開く。相変わらずこの洗顔用のスチームも便利だ。

鏡を出して顔を見る。髭が濃くなくて良かったと安堵した。僕の年でもやたら髭が濃い奴とか居るからね。


「相変わらず凄い匂いですわね」

「嫌ならここに居なければ良いじゃないですか」


 朝食にと今日は、トーストとハムエッグを出して見た。飲み物はホットコーヒーだ。我ながら庶民的だと思う。

僕は自分で料理をするなんて事は、殆ど家では行わなかった。食事はアルバイト先の賄いで済ませ、朝食だけがこの様にパンと簡単な物を作っていた程度だ。

飲食店のバイトも経験していたので、作れと言われれば作れない事もないけれど、一人分を作るのは結構非経済的だったのだ。


「ミルリエ」

「べ、別に嫌だと言っているわけでは、ありませんわ」


 サヤがミルリエを窘めているが、既に僕はどうでも良い。

生卵は多分出せないと思うけれど、卵掛けご飯は出せるんだろうか? 等と考えていた。

刺身やお寿司が出せるのだから、割った状態の生卵なら出せるのかも知れない。食べるのが前提で、多分本来の組成とは違うのだろうけど。


「今日は、街に行ってみないか?」

「街に?」


「あぁ、この部屋に閉じ篭っていたのでは、気が滅入るだろ? 気分転換だ」

「そうですね。見てみたいです」


 露骨にサヤが話題を変えたが、僕は、それに乗っかる事にする。険悪な雰囲気は僕も望む所でもない。

ミルリエは、有りがちなツンデレなのかも知れないが、そんな面倒なのは御免だ。まだ何か言いたそうだが、敢えて蒸し返す必要もないだろう。


 漸く3日目だと言うのに、もう何週間も此処に居る様な気分だ。それだけ1日が濃いのだろうが、確かに僕は最初の部屋とこの部屋しか知らない。

サヤの申し出は、今の僕には渡りに船と言うところだろう。




 サヤ達に連れられて通路を歩いていると、すれ違う女の子達がサヤ達に敬礼した後、僕にウィンクをしたり小さく手を振ったりしてくれる。

多分、昨夜僕の部屋に来ていた子達なのだろう。僕も軽く会釈したり、小さく手を振り返したりしている。

いくら僕が人嫌いで極力他人との交流を避けていたからと言って、可愛い女の子に挨拶されたらそれは返礼ぐらいすると言う物だ。


 人の本質は、中々変わらない。僕の本質も人を避けては居るが、実のところ寂しがり屋だと言う事だ。

だからこういう風に好意を寄せられている様に感じると、浮き足立ってしまう。要は勘違い野郎と言う事だろう。この世界に男が居ないから珍しいだけに違いない。

そんな事をツラツラと考えながら歩いていると、一際明るい場所に出た。


 後ろを振り返るとドーム型の建物が有る。中に居ると解らなかったが、その巨大さに少し驚愕した。

目の前には石畳の様な地面と空が見える。石畳と言っても、平な石に溝を付けたと言った方が良いぐらい、平で綺麗に並んでいる。

外に出たのだと思うが、何となく違和感が有った。空との間になにか壁の様な物が有るような、膜が有る様なそんな感じだ。


「ん? どうした?」

「いや、ここって外ですよね?」


「外と言えば外だな。勿論、周りの空間からは遮断されているぞ。ここは高高度だからな。本当の意味で外に出ると気圧も低いし、気温も低いからこんな格好では出れないぞ?」

「あ、成る程」


 全く自分の愚かさ加減に呆れてしまう。サヤに言われて、初めて当たり前の事に気が付いた。

ラノベやアニメなんかでよく間抜けな主人公達に、何でそんな事も気が付かないんだよ、普通に気付くだろ? なんて思っていた自分が恥しい。

現実的にその場その場で的確な状況判断が出来ると言うのは、それなりに優秀な人間だと言う事だ。そして僕は、ただの凡人でそんな優秀な人間では無い。


 目を凝らして見ると街までは、緑の中に一本走る透明なチューブの様な物で繋がっている。真ん中に黒い線が走っているのだが、それが何かは解らない。

ただ、光りの加減でその黒い線の上を何かが動いている様に見える。周りにもチラホラと黒い点が見えるのは人だろうか。

その疑問は、そのチューブに見えた場所に到着して解明された。


「これに乗るのですか?」

「あぁ、その通りだ」


 近づくとチューブの様な膜は見えない。単純に空が見えているだけだ。材質が何かまでは解らないが、とてつもなく大きなチューブ状の膜だと言う事が解る。

ただ一本の黒い線に見えた物は、まるでスキー場のリフトの様な物が行き来していた。それも物凄いスピードで。

乗り場では、そのリフトは止まっていて座るのに問題は無い。どうやら4人掛けの様だが、僕は真ん中に座らされる。

フードの様な透明なシールドが降りてきて、ジェットコースターの様な、座席に固定されるバーが身体を押さえつける。

スキー場のリフトと違うのは、完全に外と遮断されると言う事ぐらいだ。


 ガタンと言う音と共に動き出すと、急激なGに背凭れに張り付かされる。

周りを歩いている人が視認出来ない程のスピードに一気に上り詰め、暫く息が出来ない。

漸く慣性運動に入ったのか、息が出来る様になると、周りを流れる景色がその速さを実感させてくれる。

一体何キロ出てるんだと思ったら、ご丁寧にインタフェースが560kmと教えてくれた。僕の解る速度に翻訳してくれているのが恨めしい。


 流石に周りが歩いているところで、ソニックウェーブを起こす程の速度は出して居なかったらしい。

それでも地上で動く交通機関としては、僕の知る限りこんなスピードで動く物は無かったはずだ。

一体どんな原理で動かしているんだよと思うと、「理力」とインタフェースが教えてくれる。


 この理力と言うのが、僕の知識にないエネルギーであると言うところまでは、インタフェースが教えてくれていた。

この世界では、元の世界の電力に代わる物がこの理力、ことわりの力だと言う事だ。

簡単に言えば思いの力で、人で言えば意思の力だと言う事らしく、人に限らず世界に満ちている力と言う事だったが、超能力の様な物では決して無い。

それを溜めたり放出したりしているのがディーヴァで、それらはインタフェースを通じて供給される。

この辺りは、詳しく調べていくと量子力学の様な世界に入って行ったので、未だ僕の中では消化出来ていない。

追々、マーナにでも講義して貰おうと思っている。


 そして、これが最初に皆が僕に謝罪を受け入れてくれと言っていた事に繋がるらしい。

つまり僕が謝罪を受け入れない事は、僕の意識が負に傾くと言う事らしく、それはこの世界では一番問題視される事だったのだ。

男は強さを求める。強さは諍いを産む。諍いは容易に意識を負に傾けさせる。この世界が早々に男性体を排除した理由だった。


「そろそろ着きますわ」


 かなり離れて居たと思ったのだが、あっという間だった。流石に560kmの速度だ。

外に出てから初めてミルリエの声を聞いた気がする。向こうも僕の事を好ましくは思っていない様だから、事務的に接してくれるのは有難い事だ・。

出発の時と違い到着の時は、酷く穏やかに減速されて行った。目の前に不思議な形をした高層ビル群が近づいて来る。速度が緩やかになるにつれ、周りを歩いている人達も目に映る。

そこは、幻想的な未来都市と形容するしかないような街だった。




 街は、幻想的な高層の建物以外は、公園の様に芝生みたいな緑と、最初のやけに平たく精巧な石畳だけだ。

車なんて物は走っていないし、そもそも休日のオフィス街の様に、人自体が疎らだ。

異世界召喚で、中世の街並みで馬車が走っていて活気が有って、猫耳の獣人が居てなんていう妄想とは程遠いが、こちらはこちらでかなり幻想的では有る。


「あまり人が歩いて居ないんですね」

「外に出る必要性が、あまり無いからな」


 周りをキョロキョロしながら僕は、サヤとミルリエに付いていった。

この世界には産業と呼べる物が無い。衣食についてはディーヴァが賄ってくれるためであり、住については最初から割り当てられている様な物だからだ。

広大な土地は有るが、殆どが植物でありそれは酸素供給のためディーヴァに管理されている。人口についても管理されており極端な増加や減少は無い。


 従ってこの世界での仕事と呼べる物は、主に人の育成と、この浮遊大陸の維持管理、そして研究だ。

維持管理と研究を行なっているのが、ラボと呼ばれる僕が出て来た場所に集約されている。人の育成を行なっているのが、主にこの街と言う事だ。

総人口は、きっかり100万。僕が来たから100万1に成っているはずだが、そこは入れ替わり時の誤差程度なので問題無いらしい。


 産業は無いが娯楽は有る。ただ、アートや音楽などについても創っている者は、研究者にカテゴライズされている。

安らぐ音楽とかやる気の出る音楽の研究とかである。争いを好まないこの世界では、音楽や雰囲気を以ってモチベーションを上げる事が重要な課題らしい。

それらが産業に成らない理由は、ディーヴァに有る。誰かが作って公表したものは、全てディーヴァによりインタフェースで誰もが再現出来るからだ。

では、誰も働かないじゃないかと思うが、そこは教育による意識付けで、皆が社会に貢献しようとしていると言う事だ。

逆に言えば、閉塞したこの浮遊大陸で何もしないで過ごす方が、精神衛生上負担なのかも知れない。


「シャヤ~」

「ミュリュリュエ~」


 幼い子供達が沢山居る保育所の様なところに到着すると、子供達がサヤ達に駆け寄って来た。

二人共目尻を下げて子供達の相手をしている。しゃがんで子供達の視線と同じ高さで相手をしている事から、子供の扱いにかなり慣れている様だ。

奥の方から落ち着いた感じの女の人が出てきて、サヤ達と話をしている。何となく蚊帳の外だが、それは仕方ないだろう。


「随分、子供達に懐かれてるんですね」

「ん? まぁ、我々はそこそこ有名では有るからな」


 保育園の様なところを出て、歩きながら僕が尋ねると、サヤの回答は不可思議な物だった。


「有名?」

「この大陸では、わたくしたちが皆の憧れと言うことですわ」


 なんかミルリエが言うと「あっそ」って言う感じになるが、その言葉は飲み込んだ。

なんとなく口にしてしまったら沸騰する彼女が想像出来てしまったのだ。触らぬ神に祟りなしである。


 そうして歩いていると、今度は学校の運動場の様な場所に出た。周りに有るのは四角いブロックの様な校舎では無いが、全てがガラス張りの様な中が見える建物で、中には大学の講堂の様に段差になった机に沢山の同じ服装をした人達が座っているのが見える。

前では誰かが講義をしているようなので、やはりここは学校の様なところなのだろう。


「先程の所で2000日を過ごした後、こちらの教育機関で7000日を経て、其々の進路へ進むのが我々の過程だ」


 この世界では年と言う概念が無い。過去には有ったらしいが、浮遊大陸となり過ごしやすい気候を延々と続けるため、年と言う考え方が無くなったと言う事だ。

その事を確認した時は、女性に年を聞いていはいけないと言う言葉が僕の脳裏を過ぎった。だから年と言う概念を無くしたなんて事は無いと思うが。

2000日と言う事は、約6年と言う事だから大体小学校に入る年だろう。7000日と言う事は、約20年と言うことだ。かなり長い。医大生がインターンを終えるぐらいだろうか。


 この世界の寿命は大体50000日と言うことだから120年以上だ。それだけ医療が優れていると言うより、環境調整が優れているらしい。

卵子だけで子供を作るくらいだから遺伝子操作もお手の物で、人の身体は全盛期の身体を寿命まで維持するそうだ。故に皆若く見える。

その調整もインナーが行なっているとの事だ。そうするとサヤ達が実質何歳なのか、考えるのが怖く成って来た。

少なくとも26歳以上だし、そこから各組織の責任者になるなら、かなりの年月を経ている事になる。


 そしてグラウンドだろうか? そこで運動をしている人達を見て僕は目が点になってなしまった。

皆、インナー姿なのだ。なんと言うか、白い競泳水着でグランドを走り回っている様な感じだ。


「な、なんで皆インナーだけなんですか?」

「ん? インナーには色々な身体に対する機能が有るからな。あれは脱げないのだよ」


「いや、基本全裸ですか!」

「そう言う訳ではないが、外装は運動をするには邪魔だからな。戦闘訓練の時は、外装を着けるぞ?」


「戦闘訓練って、そんなのも教育内容に入っているんですか?」

「勿論、将来そう言う職を選ぶ者の専攻だけだ。例えばミルリエみたいにな」


 どうりで、皆インナー姿になるのを気にしないわけだ。と言うより、僕が気にし過ぎなのかも知れない。

女風呂で女の人は堂々としていると聞いた事があるし、女子校などでは下着が見えたからとどうと言う事もないのだろう。


 話の流れで僕が戦闘訓練に興味が有ると思われたのか、体育館の様なところに連れて行かれた。

そこでは、僕の予想していた格好ではなく、両手に剣やハンマーの様な物を持っている子や、剣と盾を持っている子達が戦い合っていた。

肩や腕や脛にガードらしきものが付いているので、あれが外装なのかと尋ねたら、剣や盾なんかの武器を含めて外装だと言われた。

もっと剣道やフェンシングの様な物を想像していたのだが、そこでの戦闘はどちらかと言うと中世の騎士の決闘の様に激しい物だった。


「随分と原始的で好戦的な戦闘なんですね?」

「まぁ、身体を使うのは、装甲機を使うための基礎の様な物だからな」


「装甲機?」


 僕は、また知らない単語が出てきたので、インタフェースで検索する。

すると、中央に人が入って操縦する、10メータ程のロボットが表示された。アーマースーツとかそんな感じの物だ。


「こんな物が有ったんだ」

「興味が有るのか? 乗るには適正が必要なのだが、見たいならラボに戻ればミルリエが案内してくれるぞ?」


 ミルリエの方を見るとニヤリと嘲笑った気がした。僕の偏見なのだろうが、これはちょっと予想外だ。

何と言うか、男の浪漫を感じる。ミルリエは気に入らないのだが、ここは実を取るべきだろう。


「あ、じゃ、じゃぁ、戻ったら見せて貰えますか?」

「構いませんわよ」


 なんか勝ち誇られている気がするが、ここは我慢だ。普段なら「じゃぁ、良いです」って言ってしまいそうだが、これは見たい。

休憩時間に入ったのか、生徒達が集まって来る。僕は押しのけられて、サヤとミルリエは皆に囲まれていた。

本当に有名人の様だ。集まって来る女の子達は、外装を脱いでインナー姿だ。どういう材質か解らないが、あのインナーは汗を吸って透けるなんて事はない。

それでも身体にピッタリと張り付いて、後ろから見ればお尻の割れ目まで食い込んでいる姿は、目の毒と言えば良いのか眼福と言えばよいのか。

サヤ達の周りに集まっている子達も皆スタイルは良いし、可愛い。これは無いだろうと言う子を今まで目にしていない。遺伝子操作をするくらいなので、これが標準なのだろう。


 それから大学の授業の様な風景や、研究室の様なところを案内される。こちらの方は皆お固いが、ミニスカートの制服姿と言う感じだった。

僕が最初にこの世界に来た時と同じ様に、インナーに白衣だけと言う者は居なかった。少なくとも教育を受けていると立場の場合は、あの格好はしないそうだ。


 何故こんな教育機関を案内するのかと言えば、街に住んで居る者は、教育を受ける者か教育を行う者しか居ないからだ。

建物の修理なんかどうするのだろうと思っていたら、それもディーヴァが殆ど行うらしい。どうしても物理的な作業が必要な時は、実働班に依頼が来るそうだ。


「どうだった?」

「そうですね。文明レベルや科学技術が進んでいるのは解ってましたけど、本当に女の子しか居ないんですね。まるで女子校の案内を受けているみたいでしたよ」


「女子校とはなんだ?」

「僕の世界で、女の子しか居ない教育機関? ですかね」


「ほぅ、そんな物があるのか」

「当然、僕は男ですので、内情は全く知りませんけどね」


 帰路でサヤの質問に当たり障りの無い受け答えをしていたが、僕の心は装甲機と言う物に飛んでいた。

だが、変なプライドでそれが見たくて見たくて仕方ないと言う態度は、極力抑えていたつもりだが、見透かされていないかは甚だ疑問だ。


 帰りのリフトを降りたところには、マーナとカヌンが待ち受けていた。

腕を組んで仁王立ちなのは、何の示威行為なのか。


「やっと帰って来た」

「待っていたのですよ~ユーマさん」


「ちょ、ちょ、な、何?」

「いいから、早く来て下さい」


 僕は、マーナとカヌンに両脇を固められて、引き摺られて行く。

そんな生暖かい目で見てないで助けて下さいサヤさん。ミルリエは、助ける気なんて全くないだろうなと思っていた。


「お待ちになって下さいな」


 マーナとカヌンが立ち止まり、ギギギッと音がするんじゃないかと思う動作で振り返る。


「これから、わたくしと装甲機を見に行く予定になっていますの」

「装甲機なんて明日でも見せる事は出来ますよ」


 ミルリエの無駄に威厳のある、大股仁王立ちに屈する事なく、マーナは反論する。


「ミルリエは、昨夜のアルコールは要らないのね」

「そ、それは重要ですわね」


 あっさり寝返るなよ。一瞬、ミルリエの評価を上げた僕が馬鹿だった。

そもそも、この強引な連行は酒かよと、情けない気分で僕は二人に連行される。


「おい、お前達。本人の意思を尊重しろ」


 やっぱり隊長と言うだけある。サヤは至極真っ当な事を言ってくれた。お陰で僕を引き摺って行こうとする足が止まる。

しかし、こうなる前に言って欲しかった。既にミルリエもあっち側の気がするし、僕の腕を胸の間に挟んで、こちらを上目遣いで見るマーナの目線も痛い。

だが、ここで負けてはいけない。


「え、えと、先に装甲機って言うのを、見てみ・た・い………か・な?」

「解りましたわ」


 なんとあっさりミルリエが了承した。そしてマーナとカヌンを押しのけて、僕の腕を掴んで引っ張っていく。

うん、選択間違ったかな? マーナとカヌンの恨めしそうな眼が怖い。そんな二人の肩を抱いて、後ろから付いてくるサヤが天使に見えた。

僕ってチョロインだ。




 これは反則だ。この世界に何故こんな物が必要なんだ? 

コンコンと手で叩くと金属の様な陶器の様な音がする。見るからにロボットと言う風体だが、洗練されたフォルムは鋭角的な物だ。

そんな物が数百体並んでいるのは、壮観と言う以外に何と言えば良いのか解らない。


「こ、これ動くんですか?」

「動かして見せますわ。換装」


 ミルリエがそう言うと、ミルリエの外装が形を変えまるで粘菌の様に、ミルリエの瞳と同じ碧い装甲機に接続される。

そのままインナー姿のミルリエは、ゴムが縮むかの様に装甲機に引きつけられると、まるで手と足から溶け込む様に装甲機の腹部へと埋没して行った。

外側から見る分には、全くの金属としか見えない所に吸い込まれていく様は、スライムに溶かされて行く様な感じだ。


 無骨な金属音などせず、スムーズに腕が上がると、左腕に盾、右手に剣が装備される。

何のポーズが解らないがギリシャの彫像の様に、無駄に格好良いポーズを取るミルリエ。


「如何ですか?」

「す、凄い」


 それ以外の言葉が出なかった。外部スピーカーなのか、普通にミルリエの声が聞こえる。元の立ち位置に戻ると、盾と剣が消える。

ミルリエがビデオの逆再生の様に装甲機の中から出てくる。胸から出てくる姿は、幻想的だ。ミルリエを地上に下ろした外装は、元の制服姿に戻る。

外装がこんな役目も持っているとは知らなかった。


「時間があれば模擬戦でもお見せしたかったですわね」

「あ、明日でも良いから見せて!」


 僕は、思わずミルリエの両手を取ってお願いしていた。


「わ、解りましたわ」

「絶対だよ!」


 ミルリエが顔を紅くして頷く。

僕は、かなり興奮していたようだ。慌ててミルリエの手を離すが、ミルリエの手は柔らかかった。

関わらないリストに載っていたミルリエが、ここに来て一気に急上昇だ。僕って現金だ。


 それから修理工場と言うところに連れて行って貰った。

今は、次に入っていくる人達の為に新しい機体を製作中だと言う事で、同じ大きさのマネキンの下半身に見える物を見せて貰った。

制作方法は3Dプリンターの様に行われるらしい。ただ精密な構成になっているため時間が掛かるとの事だっった。

それで今は下半身だけの様だ。実際マネキンの様な物が出来上がって、後は搭乗者が決まったら其々の趣味に合わせて外観が作られると言う事だ。


「だけど、一体何と戦う為に作られているんですか?」

「元々は、戦略兵器だったのだが、今では作業用に使われる事が多い。それでも鍛錬は怠っていないと言う事だ」


 僕の質問に答えてくれたのは、サヤだった。マーナかミルリエが答えると思ったんだけどね。


「あれって僕も乗れますかね?」

「何だ、乗りたいのか?」


「え? いや、やっぱりああ言うのって男の子の憧れって言うか、なんというか」

「そう言う物なのか? 解った。ミルリエ、明日適正検査の準備もしておけ」


 そうだった。ここは女の子しか居ないから、男の子の憧れって言っても通じないんだった。

本当、僕は間抜けだ。しかし、結構インタフェースでこの世界の事を調べていたのに、こんな物全く気付かなかった。

いや、有ると解っていないから検索内容に引っ掛からなかったのだろう。これは迂闊だった。


「解りましたわ。でも適正が無くても落ち込まないで下さいな」

「そ、それは、うん。解ってる」


 確かに適正が無い可能性の方が高いかも知れない。僕は訓練してきた訳でも何でもないから。

ちょっと興奮していた気分に冷水を被された気持だ。それでもガチでロボット大戦が見れると言うのは高揚する。


「もう良い?」

「あ、うん」


 カヌンは待ちきれない様だ。そんなにお酒好きなのかな?

マーナの「あっ先越された」と言う声を聞きながら、僕はカヌンに引き摺っれて行った。

しかし、連れられた先は、初日に僕に与えられた部屋だ。そしてカヌンからから掛けられた言葉は、思いも寄らない物だった。


「貴方の楽しかった思い出を見せて」

「へ?」


「貴方の記憶を一通り見させて貰った。けれども楽しいと感じている記憶が見当たらなかった。それが貴方の世界の通常?」

「いや、違うと思うけど」


 そう言われると僕は楽しいと感じて過ごした事が無い。

家族の団欒なんて感じた事が無いし、親に甘えた記憶も無い。誕生日を祝って貰った事も無いし、どこかに連れて行って貰った記憶もない。


「これは何?」


 どうやら楽しい事楽しい事と考えていたら、秋葉原の風景を思い描いていた様だ。

そこでは、猫耳ミニスカメイドコスのお嬢さん方が、溢れかえっている。はっきり言って頭を抱えたくなった。

現実の記憶ではなく、僕の妄想が表示されていると言う事だ。


「な、なんで僕が考えている事が見えるのさ!」

「ユーマの思考に直結させている。ユーマの描いている映像をこちらでも見れる」


 そう言ってカヌンは壁に指を指し、そこに僕の妄想を表示してくれた。


「えと、それは何と言うか、コスプレ?」

「コスプレ? これが楽しかった事? 確かに視線が低いから子供の頃?」


 いや、それは妄想だからアングルが下からなだけだと思う。

女の子のニーソとミニスカの絶対領域や、チラリと見えるお尻なんかが表示されている。恥しいから消したいのだが、意識すればするほど鮮明に表示されていく。

猫耳じゃない単に露出が激しい子とか、ちょっと動いたら胸見えちゃいそうな子とか。

これじゃ駄目だ、他の物、他の物って考えていると、画面がこの世界に来てからの洗浄ルームになってしまった。


「これも楽しかったの?」

「はい、すみません」


 恥しい。これじゃ単なるスケベ野郎じゃないか。

これは記憶を見ても良いと言ったが、早まってしまった様だ。今更ながら反故に出来ないかと思ったがきっと無理だろう。


「ユーマさん、これが何か教えて欲しいんだけど」


 僕が打ち拉がれていると何時の間にかマーナが来ていた。

マーナが教えて欲しいと言ったのは温泉だ。それも、屋内に有る物では無く、露天風呂と言われている物だ。

自慢じゃないが、僕は温泉に行った事がない。テレビの温泉紹介番組で見て、行きたいなぁと思っていたのが記憶に残っていたらしい。

既にカヌンは、自分の思考に入っているらしく、映像を見ながらブツブツと言っている。


「これは温泉ですね。天然のお湯に浸かると言う物です」

「天然のお湯?」


「えぇっと、詳しい事は知らないのですが、地熱によって温められた地下水が湧きだした物ですね」

「地下水かぁ、浮遊大陸では望めない事ね。地熱って言うのも火山とかが有ると言う事?」


「それで有ってると思いますよ」

「う~ん、こう言うのって、普通に有るの?」


「そうですね。僕の住んでいた地域では、少し山の方に行くと結構有りましたね」

「随分水が豊富な地域だったのね」


 その夜も、何故か僕の部屋で宴会になり、何故かコスプレ映像を見て、皆その格好の再現をして遊んでいた。

目の保養には成るのだが、なんか僕がスケベ野郎だとだと皆に言われている様で居た堪れない。

その後、この世界で猫耳がブームになったのは、また別な話である。


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