3 先輩
エルクロス学園女子寮。
学園と同じレンガ造りになっているこの寮には二百人以上の候補生が共同生活している。
入寮の時期は自由なのでアルダは入学する前日から自分のアパートからここへ引っ越すことにした。
部屋に着くと同じ部屋に住む2年生のハンナが迎えてくれた。
「私の名前はハンナ=ファーソン。分からないことがあったら私になんでも聞いてね」
ハンナはアルダの手を優しく握った。
身長はアルダの方が高いので自然にハンナは上目遣いにアルダを見た。
「それが貴方の武器?」
ハンナはアルダの腰に提げたホルダーを指差した。
ホルダーには一丁の銃が入っている。
アルダはそれを取り出して彼女に見せた。
「白い銃?こんな銃見たことないわ」
「これは一匹の悪魔用です」
脳裏によぎる赤髪の悪魔。
たくさんの死体
母親が泣き叫ぶ声
背中に受けた衝撃波
「絶対に、許さない」
アルダの目が怒りで染まっていくのをハンナは静かに見ていた。
ムニッ「!?」
突然頬を掴まれた。
「怖い顔してる」
ハンナの手は頬から離れ腰に移動した。
「うわ、くすぐったです!!」
そのまま抱きしめられる。
彼女の長い銀髪がアルダの背中に垂れた。
「無理しないで……」
「先輩……?」
彼女の表情をこちらから伺うことはできない。
「ネーティスみたいに……」
ネーティス?人の名前だらうか。アルダには何も分からない。
「おーい」
外から誰かの声が聞こえる。
アルダは彼女の身体をやんわりと離して外へ向かった。
ドアを開くとそこに立っていたのはかのA級祓魔師チェルシー=ファリアントその人であった。
思いも寄らぬ訪問者にアルダは口をパクパクしていた。
「ハンナ!!明日の事なんだけど……」
どうやらチェルシー先輩の目的はハンナ先輩のようだ。
A級祓魔師はアルダを気にせずにずかすがと入ってくる。
彼女の胸に輝くブローチ。
それは強き者だけが身につけることを許されている。
自分にそれが許される日はくるのだろうか。
ブローチの光はまだアルダには眩しすぎた。
こちらからの視線に気づいたチェルシーが振り向いた。
「君、新入生?」
「は、はい!!」
背は自分の方が高いはずなのに、彼女の存在はとても大きかった。
「私からA級の称号を簡単に奪えるなんて思わないことね」
チェルシーの唇が弧を描いた。
自分の考えを見透かされていたようで思わず赤面する。
チェルシーはハンナに一言二言言うと出ていった。
怒涛の一日が過ぎていった。