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1-6 メール

 家に帰っても特にすることはない。

 いつもならぼんやりと何かを考えているのだが、今日は、今朝の出来事のせいで浮き足立っているため、思考もまとまらない。

 インスタントラーメンで空腹を満たし、寝転がって天井を見上げる。

 いつまでそうしていただろうか、突然携帯から電子音がこぼれてきた。


 メール>>九条


 ディスプレイの表示を見て跳ね起きる。

 画面をスクロールさせると、こう書いてあった。


『父から事件の情報をもらった』


 思ったより早い。正確には九条父が娘に言いくるめられる時間が。

『被害者は田辺久道(35)。死因は刺殺。凶器刃渡り10cmのナイフで後ろから胸を一突きだそうだ』

 後ろから刺されて死ぬ、というのは自分が死んだということをちゃんと理解する前に死んだのだろうか。はたしてそれが幸せなのかは分からないが、個人的にはあまりこういった死に方はしたくないと改めて思う。

 ナイフ、ということはやはり計画的な犯行だろうか。もっともそこら辺に人を刺し殺せるようなものが転がっているはずもないから、突発的な犯行とは元から思えなかったが。

『第一発見者は篠房学園高等部2年生、天城浩司(16)。これは不要だったかな。午前7時に現場に通りかかった所、うつ伏せに倒れた死体を発見。警察に通報する。……立っていた件は書かれていないようだな』

 とはいっても書かれていたらいたでおかしいとも思う。常識的に死体は立たない。

『犯行時刻は発見時刻の直前、それこそ君が犯人と入れ違ったといってもいいほどらしい』

 すると、やはり犯人はあの時すぐ側にいたのだろうか。何とも運の悪い犯人だ。最悪の場合、口封じに死体となっていたのは俺かもしれないから、不運なのは俺の方かもしれないが。

『胸の刺し傷は凶器を一度刺した後、引き抜くためか上下左右に広がっていたが、凶器は再び刺されていた』

 傷が広がっていた……つまり凶器を引きぬく時に大量に出血したのだろう。

『死体の下の血痕は二つの円になっていて、片方は胸の下に小さな円、足元に大きな円を描いていた』

 ……………。

 あれ?

 現場で見た時、俺達は大きな血痕が胸元にあったと思っていたが違ったようだ。

 被害者が刺され、前のめりに倒れる。そして犯人が死体から凶器を抜こうと力任せに引っ張り、結果として大量に出血したのだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。

 では、その後死体が立ち上がり、その姿を見せた後に倒れ、犯人が再び死体に凶器を刺した、という推論は間違っているのだろうか。

 そもそも死体が立ち上がっていることが前提である時点でおかしいが。

『警察は被害者が死後間もないことを確認してすぐに辺りに警官を配備したが、不審者は見つからなかったらしい』

 そう簡単に捕まるわけはないだろうが、それでも犯人はその場付近にいてもおかしくない――恐らくは出社中の会社員やウォーキングをする人々に混じっても違和感のない人物だということは分かった。

『情報は以上だ』

 最後はそんなそっけない文で締めくくられていた。九条はメールを文字通り情報伝達手段としてしか見ていない。顔文字など使ったことはないだろう。

『ありがとう。少し考えてみる』

 俺はそう打って送信ボタンを押した。


 さて、情報は揃った。


 死体は何故立っていたのか。

 犯人は何故凶器を再び死体に刺したのか。


 俺が頭を捻って考えようとした時――再び電子音が鳴った。今度は電話だ。


 着信>>九条


 また何か新しい情報が入ったのか、と思いながら通話ボタンを押すと、九条は開口一番こう言った。


『謎が解けた。今から出てきてくれるか』



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