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第8話 六花の導きッ!

さて、お二人と一緒に『ブル・ボア』を倒しに行くことになりました。


そこで最初にしたことは互いのレベルとスキルの確認です。


ディアナさんとリンさんは13レベルとトッププレイヤーたちには一歩及ばないものの、5レベルの僕に比べれば十分に高レベルでした。


そこでまずは僕のレベル上げをすることになったのですが、5レベルで取得できる特技をまだ選んでいないことを思い出した僕が九柱神殿に戻ろうとしたところ、


「わざわざ戻らなくても『遠見の水晶球』から九柱神殿にアクセスできるわよ」


とのことなのでお願いすることにしました。


「ん、これでいいわ。キャラネームとアクセスキーを打ち込んでね」


 映し出された投影型キーボードにアクセスキーを打ち込む間、ディアナさんとリンさんが後ろを向いてくれていて、たとえゲームであってもこういうさり気無い気遣いをしっかりとしてくださるのがありがたいです。


「あれ?」


 特技取得の画面を開き、選ぼうとしているとなにやら見なれない特技が表示されています。

 

「えっと……六花の導き(りっかのみちびき)?」


「ん? どうかしたの?」


 僕の呟きを聞き、リンさんが振り向きました。


「ええと、初めて見る特技が表示されていまして。なんでしょうか……これ?」


 僕が指さす特技取得画面には【六花の導き:?】との表記があります。


 通常右側には特技の効果が表示されているのですが、 ? となっていてどんな効果があるのかわかりません……というか、そもそも初めて見る特技です。


 ディアナさんもモニターを覗き込み、3人で首を傾げます。


「六花は雪の結晶のことよね、それで導き……」


「……あ! あれか?」


なにか思い当ったらしいディアナさんの呟きに反応したのはリンさんでした。


お二人ともなにか気付いたのですか?


「あれってなんのことです……って、あっ!」


 と、素早くディアナさんが先ほどの僕と狼王の映像を呼び出しました。


 さすがにそこで気付きました。


「狼王さんが崖を飛び越えたときの!」


「ええ、たぶんアレじゃないかしら?」


「それはありそうね、ネームドモンスターを倒して固有特技覚えるってのβテストでもあったし」


「取得条件は分からないけど、なんらかの条件を満たしたことで取得前提が整ったんだと思うわ」


 なるほど~、アレが出来るのかと思うとちょっと楽しそうです……うんそうですね。


「そうする氷系魔法の才能とかかな?」


「うーん、そうなるとユーノくんが取得しても無駄になるわね……って、ユーノくん? どうかしたの?」


「あ、とりあえず取得しました」


「「 え? 」」


 試してみればどんなものかわかりますし、お二人をあまり待たせたくもないのでさっさと取得したのです……けど……なんで二人して唖然としてるのでしょう?


 あれ?



 さて、なんだかんだで時間は流れ現在午後1時、場所は『雑貨の店 玉屋(たまや)』の前です。


 午前中は僕のレベル上げをしつつ戦い方やその他ゲーム内知識のレクチャーが行われ、現在の僕はレベル9に、ディアナさんとリンさんも14レベルに成長しました。

 

 レベルが高くなるにつれ必要経験値が多くなるので、こんなに早くレベルアップ出来るとは思っていませんでしたが、『守り手ネットワーク』への依頼を達成することで得られる『シナリオクリア経験点』が思ったよりも多く、正午前には9レベルになれました。


 それで午後1時までなにをしていたのかというと、現実で食事を取る為に一度ログアウトして一時間の休憩を挟んだのでした。


 僕は健康第一、お二人も美容の為に規則正しい食事を崩したくはないとのことで初めから予定していたわけです。


 さて、そうして合流したわけですが……今日のオムライスはなかなかでしたね、やっぱり僕は半熟とろとろオムライスよりもちゃんと包んであるオムライスの方が好きです……て、そんな話じゃありません。


 えっと、そう! 僕が連れてこられたのはプレイヤーが開いているお店でした。


 始まりの広場で多くの露天が軒を連ねる一角にそのお店もありました。


 簡易なテーブルに武器や薬草などの雑多なアイテムを、後ろのゴザの上に各種鎧を並べたお店の店主はドワーフの女性でした。


 身長は140cm程度で頭の上で赤茶色の髪を結び花が咲いているような髪型をしています。


 身長が低いこともあり年齢が若干分かりづらいのですが、おそらく20歳は過ぎているんじゃないかと見てとれます。


名前は「ターマ・コ」さん、お二人がβテストで懇意にしていた生産系プレイヤーだそうです。


「やっほ~、タマさん」


「タマさん、こんにちは」


「えっと、こんにちはです」


「おや、ディアナちゃんとリンちゃん。いらっしゃい」


 タマさんはニカッと笑って挨拶を返すと、マジマジと僕を見つめ……再び笑顔になりました。


「アンタがユーノだね、二人から話しは聞いてるよ。よろしくね」


 ディアナさんとリンネさんは昨夜のジャイアントウォーカー退治の報酬で、タマさんに欲しい装備を探してくれるように頼んでいたそうで、うまいこと入手したとの連絡が午前中にあり、それを受け取りに来たわけです。


「おお~、結構モノが集まってるみたいじゃない」


 そう言って武器に手を伸ばすリンネさんを余所に、ディアナさんとタマさんは早速取引をしています。


 プレイヤー同士での物品の購入は『トレード画面』を開き、互いに交換するものを自分の所持品から選択、決定することで行います。


 今回はお金とアイテムの交換という形ですね。


 金額なども既に話がついていたらしく、取引は淀みなく終わったようです。


 ディアナさんが受け取った品物の確認をしている間、僕はリンさんタマサンとアイテムについて色々と教わっておきます。


「しかし、ディアナちゃんは相変わらずガメツイね。次はリンちゃん一人で来ておくれよ」


「いやいや、ガメツイのはタマさんもでしょ。アタシじゃあっと言う間にスカンピンにされちゃうじゃない」


「かー、なんて言い草だい。人聞きの悪い……ユーノちゃん、アンタはこんなのの言うことを信じちゃだめだよ?」


「え? あの!?」


 突然話が脱線してあたふたしていると、リンさんが僕を抱え込むようにして反論します。


「ちょっと、人聞きが悪いのはどっちよ! ユーノ、こんなおばちゃんの言うことを信じるなよ」


「ちょっと!? 誰がおばちゃんだって! アタシはまだ20代だよ!」


「へへーん、四捨五入すれば30でしょ! 10代のユーノから見れば十分おばちゃんよ! ほら、おばちゃんって行ってやんな、ユーノ!」


「え!? そんなこと……」


「かー! 若者を悪の道に誘うんじゃないよ! ほら、こっちに来なユーノちゃん!」


 えっ、と思う間もなく今度はタマさんに引っ張られ、抱え込まれました。


 うわっ、ドワーフって凄い力なんですね!?


 ってそれどころじゃありません、なんかリンさんも僕を掴んで二人で引っ張り合いに……ガーディアンズ内では痛覚は鈍くなっているんですけど、あれ、それでも痛い? いやいやいや、なんかほんと痛い!?


「ほら、ユーノちゃんが痛がってるじゃないか、離しなよ」


「なに言ってんのさ、離すならそっちでしょ! お・ば・さ・ん」


 いやいやいや、ほんと痛くなってきましたって、しかも人が集まってきちゃったし!?


 ちょっ、誰か助けてください!?


 というか僕を挟んで喧嘩しないでください~!


「……いいかげんにしなさいっ」


 その時、二人を叱りつける鋭い声が響きました。


 いえ、けっして大きな声ではなかったのですが、その声は周囲の喧騒すらも突き抜けてその場に静寂をもたらしました。


「二人とも、良い大人がなにをしているの?」


「うっ、つき……ディアナ……」


「だってだって、ディアナちゃん。リンちゃんったら酷いのよ~」


「お二人がじゃれ合おうが喧嘩しようが構いませんが、他人に迷惑をかけてはいけないわ……そうでしょ?」


 うろたえるリンさんとタマさんに優しく言い聞かせるディアナさんです。


 ……うん、優しいです凄く……にこやかな笑顔ですし……。


 リンさんもタマさんも……顔を青くしてブンブン頷いていますね。


「わかってもらえて……嬉しいわ」


 …………ディアナさん、満面の笑顔ですね、はい……うわっ、怖ッ……。


「……ユーノくん? そんなに耳を伏せて……怖かったのね、もう大丈夫よ」


 そう言って、ディアナさんがやさしく微笑んでくれたんですが……。


「あ、はい……ごめんなさい」


 なんとなく謝ってしまいました……だって、しょうがないですよ!

まだまだ話は進みませんよ!

……すみません……。

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