第21話 戦い終わってッ!
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ちゃらっちゃ~ちゃちゃん♪
さて、獣神の使いツクモがお送りする本日の『TODAY‘S YGGDRASIL』、最後にお送りするのは『今週の好プレー・第1位』だ。
多くのご支持の下、日本サーバーだけでも10万人を突破したプレイヤーの頂点に立ったのは誰か?
日本サーバーで初のレアクエスト。それも3パーティー合同の大規模戦闘を成功させた守り手達の雄姿を、ぜひ皆の目で確かめてくれ。
参加パーティーは『匿名希望』『ギルド:Tea Party』『ギルド:赤蜻蛉』。
今週の好プレ―第1位「レアクエスト:邪神教団との戦い」、お送りする。
◇
きゃぁああああああ!
うぉおおおおおおお!
壁一面に映し出された『TODAY‘S YGGDRASIL』で着物姿の美男子が甘さのない機械的な口調で第1位の参加プレイヤーのギルド名を発表した瞬間、各ギルドから歓声があがりました。前者がTea partyのメンバーで後者が赤蜻蛉のメンバーなのですが……前者の黄色い歓声に比べて後者の野太い歓声がなんとも哀愁を誘うと思うのは僕だけでしょうか?
「いやはや、なんとも対照的な光景ね~」
タマさんが笑いを含んだ声で呟きました。うん、やっぱりそう思いますよね。
「イサムちゃんたちにはご愁傷様って感じだけど~……ユーノちゃんには関係ないわよね。美女3人に囲まれてるんだから!」
って、独り言じゃなかったんですか!? 急にこちらに振り向いたタマさんは握った両拳を口元に当てると小首を傾げて僕を見つめてきました。……いや、可愛らしい動作なんですけど何といいますか……。
「ちょっとタマさんやめてよ、その年でぶりっこは流石に痛々しいって」
「そうです、ユーノくんもちょっと引いてますよ?」
「ちょっ、ヒドイわね! そんなことないわ、ユーノちゃんは私の魅力にドギマギしているはずよ!」
う、こっちを見られても……えっと……似合ってないわけじゃないんですよ? ただほら、流石にタマさんがやるとあざと過ぎと言いますか、普段の言動との差が……。
「ユーノちゃんまで困った顔をするなんて……ちぇー、初めて会った時のウブな可愛さが薄れちゃってお姉さん悲しい」
よよよっ、と泣き崩れるタマさん。見た目的には絵になっているんですが、喋っている内容がなんだかなぁって感じです。まあ、いつもよりもテンションが上がってるんだとは思いますし、その気持ちは僕にもわかります。でも僕の尻尾を抱きしめて泣き真似するのはやめてください、くすぐったいような気もち良いような微妙な感じが凄く微妙なんです!
「タマさん、尻尾を」
「なによう、尻尾くらい良いじゃないのよう……」
尻尾を離してもらおうと引っ張ったんですが、タマさんに阻止されました。というかどうやら本気で拗ねてるみたいです。あはは、タマさん可愛いです。
ディアナさんとリンさんと顔を見合わせて苦笑した僕は改めてこの場を見渡しました。
あの日から三日、今日は正式サービススタートから丁度1週間目です。
『邪神教団との戦い』こと『誘拐事件』クエストの報酬を始め、さまざまなボス討伐を行ったTea Partyが大枚を叩いて早くも取得したギルドホームに集まったのは20名のTea Partyメンバーと11名の赤蜻蛉メンバー、そしてディアナさんリンさんタマさんと僕の合計35名。VRゲーム全盛の現在、女性プレイヤーかつてに比べて格段に増えているのですが、この場にいる18名の女性プレイヤーの内15人はTea Partyのメンバーであり、赤蜻蛉は0人。ギルドホームに入ってきた時の赤蜻蛉の方々の羨ましそうな顔と青騎士さんたちへの抑えきれない敵意は仕方のないことでしょう。
それは「そんなに楽しいものじゃないよ」と苦笑気味に呟いた青騎士さんの言葉にかなりの実感がこもっていたとしても、です。
その時のことを思い出してクスッと笑いをもらすと、不意にリンさんが後ろから抱きついてきて、肩口から顔を出してきました。
「なーに1人で笑っているのさ? もしかしてホントに青騎士のおっさん達が羨ましかった? 言ってくれればアタシらもサービスしてやるぞ~」
「いや、あの!? ちょっと、近いです近い!」
ウリウリッ、と頬ずりしてくるリンさん。うわっ、なんか頬に肩に腕に背中に柔らかいものが! そしてなんか良い匂いが!
「……すごいなぁ」
「……俺は決めたぜ、2ndキャラは犬っ子にする」
「……つーかぶん殴りてぇ」
「……異議はない」
「……ここが戦闘禁止区域でさえなければな」
「小僧め! 私のリンになんてことを!」
赤蜻蛉の人たちの視線が冷たいです、怖いです。そして特にジェイドさんの視線が怖い。だってあの人ホントに本気っぽいんですもの。
「あの、他の人も見ていますし」
「そう、それじゃあ誰も見ていないところでしっぽりと……ね?」
「いやいやいや、そういうことではないですよ?!」
「あら、それなら……ふふっ、見せつけてあげよ~ね、ユーノ?」
……わかっててやってますね。わかっててやってるんですね!
くうっ、僕だって男です。本気で嫌なわけではないですよ?
でもほら、こういうのって困っちゃうじゃないですか。恥ずかしいじゃないですか。それなのにリンさんは全くそういう感じがしません。むう、男として見られていないのでしょうか。そう考えるとそれはそれでちょっとモヤモヤしますね。
「ほらほら、じゃれるのも良いけど冷める前に食べましょうね」
「あ! ディアナさん!」
そうですよ、いつもリンさんを止めてくれるのはディアナさんです。僕は期待を込めて鍋を取りわけているディアナさんを見つめます。
「はい、それじゃユーノくん……あーん」
取り皿から箸で取り上げた鳥肉に息を吹きかけて醒ましたディアナさんは、僕の口元にそれを持ってくると、「あーん」と言いました。
これってもしかして?
「はい?」
「だから……あーん」
「あ、あーん?」
再び僕の口元に鳥肉を運び「あーん」と言うディアナさん、まさかと思いつつも美味しそうな匂いとその他色々なものが入り混じった感情に促され口を開けるとそこに鳥肉がそっと置かれました。
「あ、これ美味しい」
ほぼ条件反射でもぐもぐと噛みしめると柔らかくって口の中でホロリと肉がほどけます。鳥肉の良い香りが口の中いっぱいに広がって、程良い塩味とゆずの風味がなんとも旨味を引きたてています。
「昨日倒したジャイアントウォーカーを塩ちゃんこに入れてみたのよ。なかなか美味しいでしょ?」
「はい、美味しいです」
あの美味しいのですが、いつもならここでディアナさんがリンさんを引きはがしてくれる所の筈なんです。あれ、なんで普通に鍋を食べるモードになっているのでしょう?
「あ、ユーノばっかりズルイぞ。ディアナ~、私にもちょうだい~」
「はいはい、それじゃあ、あーん」
「あーん」
おおっ? 何時になくディアナさんがリンさんに優しい!? なんでしょうこれ?
「ちょっとリアルであったの……ごめんね、付き合ってあげて?」
僕が困惑しているとディアナさんが耳元で囁きました。
なるほど、それでディアナさんや僕に甘えているわけですね。うん、そういうことなら恥ずかしいけど僕も我慢しましょう。
なんだか痛い視線の他にTea Partyの人たちからの冷やかし混じりの視線も混じってきたのですが、この際それは無視です。
「…………えろユーノ」
「ほえっ!?」
っていつの間に直ぐ横に来たのですか、ラビちゃん!?
ニヤリと口だけで笑うのはやめてください、目が笑っていませんよ?
そしてそのまま戻っちゃうんですね、今のを言う為だけに来たのですか? あ、頷いていますね。あれ? 心を読まれましたか?
再び困惑しているとディアナさんがくすくすと笑われてしまいました。
「ふふっ、ラビちゃんもすっかりユーノくんに打ちとけたみたいだわ」
「えっ?」
あれで打ち解けているのですか? ちゃんと会話が続いた記憶がないのですが。
「気に入らない相手は完全に無視する娘だもの」
「そうなんですか?」
「ええ、あれで恥ずかしがり屋なのよ」
うーん、そういうものなのでしょうか。確かにそう言われればそうなのかな、とも思えなくもない、ような気がしないでもないですが。うーん?
「ほらほら、そんなに考えてないで……あーん」
「あ、はい。あーん」
「ディアナ~」
「はいはい、あーん」
「あー、私も~、あーん」
「あ~ん」
僕がディアナさんに食べさせてもらっているとリンさんも欲しがり、それを見てタマさんも復活してきました。
そしてなぜか皆でディアナさんに食べさせてもらう不思議空間が。
あれ、なんでこんなことになったんでしょう。
うーん?
「はい、ユーノくん。あーん」
「あーん」
うん、まあ鍋は美味しいしなんか楽しくなってきましたし、なんでも良いですよね
皆で楽しむのが一番です!
ども、お久しぶり&はじめまして、ひとつです。
およそ一月ぶりでこれかい! との声が聞こえてきそうですが、まあこんなものです。
そして、今回で一区切りとさせていただきます。
こんな幕間みたいな回で終わりというのもどうなんだろうと思いますが、まあそんなものです。
もともと一人称の勉強のつもりで書き始めた今作ですが、三人称のが書きやすいことを再認識することになり、お見苦しい文章が多かったことを改めてお詫びしておきます。
その上で、少しでも楽しんでくださったよという方向けのお話です。
一応、この話の続きは考えています。副題は『眠れる森の美女』。
ジャンルとしては流行りのAIにクローズアップした話になると思います。
つーか皆考えることはおんなじなんだなあと……いえ、私の発想が貧相なだけですね。
まあ、それはともかく。
その為、完結ではあっても第一部終了ということにさせていただきます。
ひとまずは書きたい話がありますので、そちらを書いた後になるでしょうが、もしよろしければ気長にお待ちください。
そんな奇特な方がいてくださるとうれしいなッと。
最後に。
長々と駄文失礼しました。
またの機会がありましたならぜひご贔屓ください。
ありがとうございました。




