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第20話 夜の太陽ッ!

 少女達への集中攻撃は、それまで劣勢とはいえ拮抗を保っていた黒法衣達に大きな隙を生み出す結果となりました。そして、プレイヤー達はその隙を見逃すほど甘くはありません。一気に攻勢に出た『Tea party』は次々に黒法衣を倒し、『赤蜻蛉』も2階を制圧しています。


 そして、広間の中央では最後の戦いも佳境に入っていました。


「ええい、邪魔だどけぇい!」


 赤い水晶の嵌った杖でリンさんと切り結ぶ邪神官が叫びと共に黒渦を召喚、ディアナさんへ向かって放ちますが、リンさんが黒渦に盾を叩きつけそれを防ぎます。ディアナさんは自分が安全だと確信していたかのように呪文を唱え続けていました。


「よそ見してる暇はないわよ!」


 黒渦の直撃を受け腐ったように崩れ始めた盾を捨て長剣を両手で構えたディアナさんは、踊るようにステップを踏み邪神官の前後左右へと素早く移動しつつ攻撃を続けます。時に強く叩きつけ、時に切りかかると見せて攻撃を仕掛けない。杖を握る右腕を狙うと見せて剣を翻し足に切りかかったかと思えば、大きく振りかぶっった力づくの斬撃を一直線に振り下ろす。


 なんというか……綺麗でした。


 戦いの興奮に赤みを増す頬には笑みが浮かび、獲物を狙う両目は鋭く、空を舞う金髪が松明の明かりを受け輝くその姿には……そうですね、『戦女神』とでも呼びたくなる美しさがありました。


 無論、見るべきところは他にもあります。


 リンさんは強い。ほんとうに驚くほど強いです。いつもは自分のことで精いっぱいでじっくりと見たことはなかったのですが、こうして傍から見ていると良くわかります。細かいステップで常に自分に有利な位置をとり、時にフェイントを交えた剣撃にはシステムアシストに頼らない確かな実力が見てとれます。格闘技を習ったこともなく僕が見ても分かるほど、その動きは洗練されていました。


 僕はこんな凄い人と一緒に居たんですね……場所にそぐわずしみじみとそんなことを考えていると……あれ? ディアナさんとリンさんがアイコンタクトをとったように見えましたが……。


「そろそろ終わりよ」


 僕を抱きかかえてポーションで回復してくれていたタマさんがニヤリと笑いました。


「え? それって……」


 タマさんに聞きかえそうとした時……突然に耳と尻尾の毛が逆立ち、強烈な圧力を感じました。その先にいるのは……ディアナさん!?


「太陽神の名の下にディアナが命じる、光よ集いて我が掌に『夜の太陽』を……」


 陰陽術は九柱の神々や精霊の助力を得る魔法(マジックアーツ)です。そしてディアナさんもっとも得意としているのは太陽神と月神の力。実際に何度もディアナさんの陰陽術は見ているのですが……今目の前で繰り広げられている光景は桁が違いました。


 呪文を唱え終えたディアナさんは長杖を持った左手を後ろにし、右手は開いて邪神官に向かって伸ばしており、足元はしっかりと地面を踏みしめて吹き飛ばされるのを耐えているようにも見えます。


 そして……驚くべき現象が起こりました。開いた右手の先の空間にほんの小さな光が現れたと思った瞬間、ディアナさんの周囲の明かりが……いえ、周囲にあるあらゆる物が引っ張られるように小さな光へと集い、見る間に直径5mほどの光の射さない真っ暗な空間が出来あがりました。黒い闇が支配するその場所にはディアナさんとその手の先に浮かぶ一抱えほどの白く燃え盛る光球『夜の太陽』があるだけで、光球に照らされる凛とした表情のディアナさんは近寄りがたいほどに神々しく、そして目が離せないほどの美しさでした。


「これで終わりよ、喰らいな!」

「『夜の太陽』彼の者を焼き尽くしなさい!」


 一際強く剣を邪神官に叩きつけたリンさんがすかさず退避した瞬間、タイミングを待っていたディアナさんが『夜の太陽』を打ち出すと、それはあっと言う間に邪神官の下に辿り着き……彼の全てを飲み込み、燃やしつくしました。


 おそらく防ごうとしたのでしょう。黒魔法使いが使う防護魔法『マジックシールド』のようなものが一瞬現れたのですが、それはなんの障害になることもなく消失、『夜の太陽』の中央に輝く光球に邪神官が触れたと思った時には、すでにその姿が燃え上がり消失していました。そして、『夜の太陽』が消えた後に残るのはディアナさんと邪神官が存在していたはずの場所まで続く丸く抉れた床だけでした。


「…………」


 つい先ほどまでの喧騒もなんのその、広間に静寂が広がっています。


 ……誰かがツバを飲み込む音が、ため息を吐く音が大きく響き渡り……沈黙を破ったのはリンさんでした。


「なんともまあ……エゲツナイわね。……まったく、ディアナらしいわ」


それはなんともしみじみとした言葉でした。あの……なんていうか実感が籠りすぎですよ、リンさん?


「そうね。この容赦の無さ……ディアナらしいわね」


 えっと、タマさん? なんでそんな楽しげに?


「そうだね。ディアナくんらしいな」


 青騎士さん、爽やかに言ってもちょっと笑い入ってます。


「そうねえ、ディアナちゃんってそういうとこあるわよね?」


 マリアさん、小首を傾げてかわいく言ってもダメです。


「……叩きつぶした、グッジョブ」

 

 ラビちゃん、無表情にでもそこはのるんですね?


「おう、やっぱ怖えなぁ。ディアナは」


 イサムさん、倒置法ですね……というかストレート過ぎです。


「ふう、リンの美しさは留まる所を知りませんね」


 ジェイドさんは相変わらず我が道を行っていますね、皆がスルーする気持ちが分かってきました。


「って、ちょっと!?」


 あ、唖然としていたディアナさんが集中砲火を浴びて流石に動きだしたようです。


「私だって流石にこれは予想していませんでした! というか私ってどんな風に思われていたんですか!?」


 う~ん、真っ赤になって怒っているのか恥ずかしがっているのか微妙な感じですが……。


「どう思われてるかって? そりゃあ決まってるでしょ? ほら、ユーノちゃん、どう思ってるのか言ってあげなさい」


 リンさん?! なんでこっちに振るんですか!?


 う、ディアナさんがこっちを見ています、これは何か言わないといけませんが……何と言えば良いのでしょう……えっと、えっと……。


「あの……」

「ええ……」

「えっと……」

「はい……」


 おおお、ディアナさんが頬を染めて上目遣いにこちらを見ています……うわ、こういう顔もするんですね!


「その……恥じらってるディアナさんも可愛いですよ」

「え?」


 ……あれ? なんかテンパってオカシナことをいったような気が……うわ、思ったまま口に出してしまいました! ほら、ディアナさんもますます赤くなっています。


「あの……ありがと」

「あ、いえいえ」


 うっわあ、気まずいです、助けを求めてリンさんに視線を向けますが……なぜアッカンベーをするのでしょう。というか、なんで皆して「やれやれ」みたいな感じになっているんですか? ちょっと、なんかフォローしてください、フォローを。


 というわけで、最後はなんだかよくわからない内に、今回の作戦は終わったのでした……いや、ほんとなんなんですか、これ?!


 ◇


『【レアクエスト:誘拐事件:最終話 邪神教団との戦い:CLEAR!! 】』


描写力不足で『夜の太陽』がよくわからないものに……。

そして戦闘終了まで主人公は延々と倒れたままタマさんに抱かれていました。

これ、なんとかなんなかったのかなぁ?

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