第14話 巫女と神殿騎士ッ!
説明回再び……まあ飛ばし読みしてくださいな。
『クエスト』とはなんらかの達成条件を果たすことで経験点や金銭・アイテムなどの報酬を得られるシステムで、『ノーマルクエスト』『イベントクエスト』『レアクエスト』の3種類があります。
『ノーマルクエスト』は九柱神殿やその傘下にある『守り手の宿屋』で依頼として受けることが出来て、内容は『討伐依頼:草原でスパイクブッシュを5匹倒せ』や『採取依頼:森で採れる薬草を10株持ち帰れ』などシンプルなものがほとんどです。
『イベントクエスト』は所定の場所や時間などのなんらかの条件が揃ったところで運営から通知されるクエストで、現在公表されているものはボスモンスターの情報を集めて生息地域に行くことで発生する『エリアボス戦』や職種レベル20以上から受けることが出来る『称号取得クエスト』、街や村などをモンスターから守る『防衛戦』などがあります。
そして『レアクエスト』はプレイヤーがクエスト開始ポイントに偶然居合わせた時に、発生条件を見つけることで開始することが出来ると言われているもので、βテスト中には実装されておらず発生条件も内容も公表されているものはありません。
まあようするにとても珍しくてめったに出会えないクエストに僕らは遭遇できたわけで……さらに言えば内容も気に入りました、こういう人の役に立つ感じのクエストはヤル気が出るというものです!
「せっかくだしこのまま続けるでいいわね?」
「私は大丈夫だけど、ユーノくんは眠くない?」
「すこし昼寝しましたし、ダイジョブですよ~。と言いますか、ぜひやりたいです!」
結果、全員一致でこのクエスト『人身売買組織との戦い』を続けることになりました。
さて、継続を決定した後は、今回の後始末です。
投降した戦士に『捕虜コマンド』を使うと、空間からにじみ出るように現れた巨大な石版が戦士を吸い込み、見る間に小さくなるとトランプのような1枚のカードになりました。
カードには戦士の絵柄が書かれていて、戦士の知っている情報を確認したり賞金首ならばカードと引き換えに報奨金を受け取ることも出来ます。
他にもモンスターを捕まえた時に使う『捕獲コマンド』もあり、この2個のコマンドはプレイヤーならば誰でも使うことが出来ますが、普通は倒してしまうことが多いのでこのコマンドを使っているのは初めて見ました。
「捕まえた奴を縛ったり連れまわしたりってのは面倒だから、βテスト中にプレイヤーから要望を出したら運営が実装してくれたのよ」
「なるほど、便利ですね~」
「でしょ? さて、こいつはこれで良いとして……そっちはどう?」
カードをアイテムボックスに入れたリンさんが振り向いた先では、ディアナさんが女の子を介抱しています。
「ん、怪我はないみたい……大丈夫? 話せるかしら?」
「あ、はい」
助けた少女は12歳くらいでしょうか? 緩いウェーブのある栗色の髪を手櫛で整える仕草は気品があり、通常の町娘などに比べて仕立ての良い白い服を着ており、『神殿の巫女:ビエータ』という名前持ちのようです。
「私はビエータ、九柱神殿で巫女をしています。この度は危ないところを助けていただきありがとうございます」
「いえ、当然のことです。あっ、僕はユーノ、守り手の盗賊です」
「よろしくお願いします」と頭を下げると、ビエータちゃんは戸惑った様子でしたが「あの、こちらこそ……」と礼を返してくれました。
「NPCにもちゃんと自己紹介するのね」
「NPCと言ってもAI制御のはほとんど人と変わらないもの、気持ちはわかるわ」
「まあねぇ」
あれ? ディアナさんはかばってくれましたが、リンさんは呆れた風です……おかしかったのでしょうか?
「まあいいわ、それでこの後だけど……」
「あっ、何か来ます!」
首を捻って考えている僕に変わってリンさんがビエータちゃんに本題を聞こうと声をかけたその時、わずかに地面が揺れ多数の馬が走る音がしました。
咄嗟に僕は皆に注意を促しますが、すぐにディアナさんとリンさんも気付いたらしく音のする方向を向き、なにかあっても良いように厳しい表情で備えています。
「後ろ、警戒します」
前方は2人に任せることにして、僕は後ろに注意をむけることにしました。
いまだ夕陽で赤く染まっている草原にはなにもなさそうですが、無駄な警戒になればそれはそれで問題ありませんしね。
後方を警戒しつつビエータちゃんをかばえるように位置を整えていると、すぐに10頭近い馬が駆けてくるのが見えます。
乗っているのは揃いの鎧を着た男達で、その内の1騎が進み出てきました。
◇
「いやはや、ビエータ様を御救い頂き改めてお礼を申し上げます」
神殿の一室、簡素ながらも清潔に保たれた客室のソファセットに座った僕らの向かい側で、鎧姿の男が深々と頭を上げました。
彼は『神殿騎士Lv20:マイオス』、20代半ばで浅黒い肌と短く刈り込んだ金髪をもち、神妙にしていても妙に愛嬌のある人です。
あの時やってきた騎馬たちは九柱神殿所属の騎士団で、新しくゴルドアの地下迷宮の神殿へ派遣される途中に攫われた巫女を奪還するために派遣された一隊でした。
さいわい隊長のマイオスさんは察しの良い方で、すぐに状況を理解してくれたので彼らに保護されて地下迷宮へとやってきました。
ビエータちゃんは疲れていたのでそのまま休むことになり、僕らは頼みたいことがあるというマイオスさんと話す為に神殿の一室に招かれたところです。
「実はここのところ地下迷宮近辺で少女が誘拐される事件が多数発生していましてね。その捜査の協力をお願いしたいんです」
「捜査の協力……ですか、具体的にはどう行ったことをすれば?」
お願いの内容は僕らの想像していたもののようですね、受けるということで意志統一はしていますので、ディアナさんがすぐに細部の話しへと進めます。
「実はすでに一か所、連中のアジトを見つけていまして、今討伐隊を編成している所です。ただ……何処かにもう一か所アジトがあるようでして。一網打尽にする為にもそちらを見つけて欲しいんですが、どうでしょう? もちろん報酬も用意しましょう」
「なるほど、私達としても乗りかかった船ですし、お受けしたいと思います」
「そうですか、ありがとうございます。いや~何処から情報が漏れるかも分からないので滅多な相手には依頼できませんし、かといって人手は足らないしで困っていてね、助かりますよ」
そうして捜索対象の組織の情報の交換などを行うと……なるほど、どうやら討伐隊と神殿に残す警備で本当に人がギリギリのようです。
「人手が足りないんなら、討伐の手助けもするわよ?」
「おや、それはありがたい……そうですね、それならばいっそアナタがた以外にも2パーティーほど信用のおける方を紹介していただけますか? その方々とでもう一つのアジトの討伐をお願いしたいと思いますが……」
リンさんの提案を受けて一考したマイオスさんは、1つ頷きそう返答しました。
お、これってもしかして第3話に続ける為のヒントですかね?
「お、話しが分かるじゃない。良いんじゃない、ディアナ?」
嬉しそうにリンさんがディアナさんに確認します。
「ええ、それでお願いします。あとは報酬なんですが……」
どうやら話はこれでまとまりそうですね。
さて、まずは敵のアジトの捜索ですが……はて、どうやれば良いんですかね?
報酬交渉をしているディアナさんリンさんの横で僕はボケっとそんなことを考えていました。
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