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自治省の悪臣  作者: 雪 柳
31/52

第八章 自治省のロマンス その3 

視察を終えて王府に帰還したリアンがようやくキリルと再会します。


章のタイトルを裏切らず、ようやく二人のロマンスが・・・!


少し(かなり?)いろいろ公爵サマの方向性が間違っていると思われ

ますが、彼も頑張っているのです。

「ばっかな奴」とか「やっぱりヘンタ~イ」などと冷たい目を向けず

応援してあげてください。


旧カリン宮最上階。自治省の長官というよりはミルケーネ公爵のためだけに

整えられた豪華執務室(サロン)

王宮時代の建築様式と調度品が最もよく保存され、かつ冷暖房装置や

防音装置などに工部省のものとは異なる最新式が装備されている。


夜明けとともに一筋の光が長官室に届く。

その光は朝霧を抜け、厚い窓掛(カーテン)けの僅かの隙間をも抜けて、

キリルの元まで届いた。

長卓(テーブル)から顔を上げた公爵は、そのまま立ち上がると窓辺に寄った。

今日が何の日か忘れるはずはない。

彼のリアンが視察先から戻ってくる日だ。


しかし、幾らなんでも来るのが早すぎるだろう。

そう思いつつ、なぜか前庭から目が離せない。

小さな人影が動いていた。霧の中でもキリルが見間違うはずがない。


(どれだけ仕事好きなんだ…)

相手がこちらを見上げた気がして、反射的に身を隠してしまう。

金茶の髪と黄緑(ペリドット)の瞳を見つけたい気持ちと、

自分の存在を見つけられたくない気持ち。

二つの気持ちがせめぎ合って、公爵サマは結局後者を優先した。

まさか、一刻も早く彼女の帰還を確かめたくて自治省に泊まり込んでいた

などと知られたくないではないか。


たまらなくリアンに会いたかった。

自分の瞳に彼女の姿を映したい。

自分の手で、彼女の髪に、頬に触れたい。

唇を合わせて、彼女の熱と甘さを感じたい。

そして、抱きしめて、もう二度と離したくない。


このままでは、絶対暴走する。

その自覚があって、キリルはリアンを避けるしか道がなかった。

自治省長官が自治省次官に会わないわけにはいかないが、

今はそれをできるだけ先延ばししたい心境であった。


「…お前、何をやっているんだ?」

午後になって、長官室にふらりと現れたのは、自分よりずっと年上の甥。

国軍大将であるワグナ殿下こと、王弟ベリルである。


「殿下こそ、こちらで何をなさっているんです?」


長官は表面上だけでも歓迎する素振りを示さなかった。

二人とも“王妃様のお茶会”に招ばれていたはずだが。


自治省に居るということは敢えて茶会に欠席したということで。

キリルはと言えば、リアンが次官室を不在にすると知って、

わざわざ入れ違いになるよう長官室へ戻ってきたのである。


「イェイルが視察報告に来るから、お前の所のクロンと一括で

 済ませようと思ってな」

内務省派遣のシャイン子爵クロンと国軍派遣の近衛騎士イェイルは、

非公式ながら親子の関係だ。しかも、内務省次官の叔父と従弟にあたる。

内容的に異なる報告はあまり期待できないので、一緒に済ませた方が

確かに時間の節約になる。


「何を読んでいるんだ?」

ベリルはキリルが手にしていた分厚い本を覗き込んだ。

表紙には『古ファネ王朝実録記』と金文字で打ってあったが、

中身が異なることを王弟は元より承知していた。


「ここ数年の記録を読み直しているのです。

 どの辺の理解が不足していたのか

 …内容の暗記には自信があったのですが」


(どの辺が、ではなくて、最初から理解不足だろ~が)

ワグナ殿下は内心毒づいたが、キリルを一睨みしただけで

口には出さなかった。

永久に回転(トレッド)遊具(ミル)で堂々巡りしていれば良いのだ。

天が崩れようと地が割れようと、自分がキリルの恋を応援することはない。


「う~ん、ラウザとの出会いと別れの部分は何度も読み直していますし、

 あまり重視していなかった、ベツレムとの接触箇所も再度抽出して確認

 しましたし…何がいけなかったのでしょう」


(何もかもダメだろ~が)

それでもやはり、ベリルは沈黙を守った。


キリルがここ数日、熱心に読みふけっているのは「歴史書」と言えば

言えないこともないが

…王国の、でも、王家の、でもなく、彼の最愛の娘の、であった。


即ち、『古ファネ王朝実録記』百十数巻の中身は

『リアン報告日誌』なのだ。

ミルケーネ公爵が私的に複数の密偵を放って作成させているもので

(注:現在形である)、その中身は、リアンの日々の服装から、

3食(+おやつ)の中身、交友関係、勉強内容、仕事内容など

ほぼ全てを網羅する。


本人以上に、本人のことを知っていると自信を持っていた

公爵サマであったが、結果は惨めなものであった。


次官不在の間、秘書官の前では、黙々と執務をこなすフリをして、

キリルが最も時間を割いていたのは、

この『リアン報告日誌』の点検であった。


ベリルが長椅子に座って勝手に寛ぐ間にも、ミシェラが新たな書類を

運んでくる。それに右手で署名、左手で押印と、機械的処理を施している。

どこまできちんと中身を確認しているか、非常に怪しく

…ワグナ殿下は試しに、「果樹採取用の梅園建設」案を混ぜ込んでみたが、

そのまま承認されてしまった。

もちろん、後ほど大いに活用させてもらうつもりである。


国軍大将と内務省長官はその後、時間通りに来室したクロンとイェイルから

地方視察の報告を受けた。両人ともさして熱心には聞いていなかった。

ベリルもキリルもそれぞれに密偵を放っており、視察中の動向は

だいたい把握していたからだ。


リアンの側には、キタラ、ヴァンサラン、モムルと精鋭揃いであったし、

それでもなお心配ある時は、危険分子が動き出す前に闇へ葬ってもいた。


「はぁ…肩凝ったな」

報告を終えて長官室を一歩出るや、クロンは両手を上げて伸びをした。

「ワグナ殿下と公爵閣下が並ぶと、威圧感ありますよね」

「これだから王家の奴は…」

アギール家駆け落ち騒動の余波をもろに被り、イロイロ苛められた

過去のあるシャイン子爵である。王家嫌いの気持ちは一際(ひときわ)強い。


「まぁ、いいさ。帰宅したらまたリアンに肩揉みしてもらうから」

「姉上の肩揉みは素晴らしいですよね。

 イサで短期()就労(イト)していたというのも 頷けます」

「いろいろ小技があって、どこに行っても仕事には困らなそう…

 どわぁああ!」

階段の途中で、クロンが突然叫んで飛び跳ねた。

丁度、踊り場から折り返す地点で

…二人は見てしまったのだ。階上に立つミルケーネ公爵を!


「リアンが、肩揉み…」

「あの、長官、それはですね…」

イェイルが慌てて父を庇おうとしたが、上手い弁解が見つからない。


「隣国で短期()就労(イト)…ウメエ酒造り以外にもやっていたのですか…」

けして、けして、怪しい仕事ではなく、お年寄り向けの無料(ボラン)奉仕(ティア)に近い

ものだと、聞いているのだが、クロンもとっさに説明ができない。

「…どこに行っても?どこかに行く予定でもあるのですか?」

だんだんとキリルの顔が強張るのを、

クロンとイェイルは恐怖とともに見つめるしかなかった。

全力で走って逃げたい…けれども、凍土(ツンドラ)の出現によって彼らの足は

動かなかった。


親子の生命を救ったのは、皮肉にも外から響いてきた銃声であった。

クロンとイェイルは顔を見合わせ、

キリルは部屋から飛び出してきたベリルと互いを責める視線を交わした。


王府内、それも旧カリン宮前庭で銃声。

ありえない、というのが4人の共通する感想だ。

しかし、階下からもたらされた緊急連絡に、彼らは一斉に走り出す。


「申し上げます、次官殿が襲撃されました!」


軍人としての訓練を積んでいるベリルとイェイル。

密偵としての訓練を積んでいるクロン。

そして、その両方の訓練を父イランサ王から受けているキリル。

4人の中で一番動きが鈍かったのは…キリルであった。

受けた衝撃(ショック)があまりにも大きくて、自治省長官は完全に出遅れた。

最愛の姫、唯一の(ひと)にもしものことがあれば…彼は生きていけない。


王家の血を引く公爵は簡単に死を選べない。

けれども、リアンを喪うことになれば…彼の心は生きていけない。


生きていけないのだ。


*** *** *** *** *** 


旧カリン宮1階の広間(ホール)は大騒ぎになっていた。

銃声を聞きつけた役人が次々と様子を見に来ている。

自治省で狙われるとしたら、王族出身の長官よりも、

何かと話題の(問題の、ではない)多い次官の方だろう

…そう予想した者は皆、必死になってリアンの金茶の頭を探した。


キリルが正面玄関まで降りた時には、既に自治省の半分近くの役人が

集結していて、何重もの人垣ができていた。


「被害状況は?」

自分の声がどう響いているのか分からないまま、長官は道を開けさせた。

その先に血塗れの姿が横たわっていたら、どうすればよいのだろう。

息をしていない唇に、固く閉じられた瞼を見なければならないとしたら…

どうなってしまうか分からない。

いいや、彼女を喪ってしまったのなら、後はどうなっても構わない。


「長官!」

その時、救いの声が耳に届いた。彼を生かす、愛する(ひと)の声が。

キリルは一気に距離を詰めて、次官の前に飛び出した。


「リアン、生きているのですか?」

「生きていますよっ!」

元気な声だった。勝気な黄緑(ペリドット)の瞳が自分に向けられていた。

「ちょっとボロくなっていますけど、弾には当たっていません」


次官に向けられた銃弾は、地面に転がった瞬間に頭の上を飛んで行った。

他の銃声は彼女に付けられた影の護衛たち

…どうも国軍と内務省とアギール家からそれぞれ張り付いていたらしい

…が、敵を倒した際のものだ。


髪は乱れ、服には土埃が付き、右手の甲と左頬に小さな引っ掻き傷を

作ったが、逆を言えばそれだけのことで…リアンは元気一杯だった。

「皆様、お騒がせしました」

とひたすら謝りながら、自治省の仲間たちを元の場所へ返し、

イェイルに命じて“三匹の子羊亭”女主人を送ってもらう。


次官の無事を確認したベリルとクロンはその場にぐずぐずせず、

捕えた刺客の尋問のために内務省へ赴いた。


キリルだけがリアンの目の前で動けないでいた。

半歩分距離を空けて、きびきびと指示を出すリアンを黙って見つめている。

何度か手を伸ばすも、そのために躊躇われて、触れることが叶わない。


彼自身は認めていなかったけれど、恐れていたのだ。

リアンが無事だというのか、都合の良い夢なのではないかと思って。

触れて、抱きしめたら、砂のように崩れてしまうのではないかと思って。


「長官?」

「本物の、リアンですよね?」

キリルの間抜けな質問に次官はまたも声を荒げた。

「私の複製(コピー)なんているんですか?

 長官、しばらく会わない内に惚けましたか?」

惚けは惚けでも色惚けなのだが、リアンには伝わっていない。

小刻みに震えた白絹の手が、ようやくリアンの頬に触れた。


長官の手が驚くほど冷たかった。


「ご心配をおかけしました…キリル」

自然と、名前が出てきた。相手は「長官」ではなく、一人の(ひと)だ。

長官の右手にリアンは自分の左手を重ねた。

そして、その瞬間に二人の心も重なった。


「えっ…長官?…って、長官!!!」

覆いかぶさってきたキリルに身構えつつ…あれっ?と思ったリアンだが、

その後、全力を尽くすことになった。

ミルケーネ公爵がばったりと倒れてしまったので、

彼の身体を支えなければならなかったのだ。


「何で、長官が倒れるんですか…?!」

リアンの抗議は、キリルの耳に届かなかった。


*** *** *** *** *** 


外傷は一切ないにも関わらず、自治省長官が覚醒する気配はなかった。

ヴァンサラン補佐官らに手伝ってもらって、

最上階に運び込み、寝台に横たえる。

息をしているのかと心配になるほど、生気が乏しく、

リアンは不安にかられた。


「ただの過労だ。寝かせとけば治るだろう」

と、ヴァンサラン補佐官は取り合わない。

本当は、ただの「過労」ではなく、ただの「恋煩い」なのだが、

(あるじ)殿(どの)の名誉のために敢えて真相を誤魔化した。


けれども、次官は納得できない。長官は普通の身体ではないのだ。

異常な回復力を有する彼が昏睡状態というのは、

かなり深刻な事態なのではなかろうか。

思い余って、リアンは長官の生母である太王太后イルーネの元へ

使いをやった。

キリルの不思議な力は巫女姫であった母から受け継いだものだ。

医者では分からないことも、太王太后なら分かるだろう、

と期待したのである。


「…ただの過労ね。寝かせておけば直に回復するわ」

息子を心配して自治省へやって来たイルーネは、

しかし、ヴァンサランとほぼ同じことを言うだけだった。


「で、でも、名前を呼んでも、揺すっても起きないんですよ?」

「そういう時は、接吻(キス)して起こすものじゃなくて?」

「イルーネ様!」

さらりと凄いことを提案されて、次官は真っ赤になった。

王家最長老はリアンが心構えをしていない時に限って、直球を投げてくる。


「貴女が自分の所に帰ってきてくれて安心したのでしょう。

 とても…深い所で眠っているわ。

 自然に目覚めるまで放っておいて大丈夫よ」

そう言って、太王太后は小さな子どもにするようにリアンの頭を撫でると、

長居はせずに帰ってしまった。


公爵サマの綺麗な、でも少しやつれてしまったような寝顔。

ぼーっと眺めていても仕方ないので、

後のことは公爵家専属の侍女と調理師に任せようかと思ったリアンだが、

なぜか最上階から使用人たちの姿が忽然と消えていた。


時々様子を見に来ればいいや、と思って階下に降りようとしたところ、

山ほどの書類を抱えた、フェイのアイルがやって上がって来た。

「それって長官に?」

起き抜けにやらせろと言うのだろうか。ちょっと酷ではなかろうか。


「いいえ、次官殿に、です」

フェイが生真面目な顔で答える。

「え?これから次官室に戻るよ?わざわざ上に持って来なくても…」

そこでアイルが、信じられないという顔をした。

「長官殿の側に付いていてあげないんですか?」

何でだか責められているような感じがする。

「ヴァンサランも、イルーネ様も心配ないと言っているのよ?

 私が側に貼り付いていても仕方ないじゃない?」

「とんでもない!」

秘書官の二人は声を合わせた。

「長官が目覚めて最初に目にするのが次官殿でなければダメです」

「自治省の安寧秩序のために、どうか長官室を出ないでください」

「ええ?」

意味不明であったが、書類の山を抱えた二人に押し戻される形で

リアンは室内に戻された。


フェイとアイルは長官の眠る寝台のすぐ横に小卓を移動し、その上に

テキパキと持参した決裁書類を並べてゆく。ほとんど音も立てずに。

「次官室のことはご心配なく。キタラとモムルが視察関係の書類を

 整えてくれています」

「でも、アイル…」

「他の案件も居残り組が滞りなく進めておりますので、ご心配なく」

「でもでも、皆に任せきりではいけないと思うのだけど、フェイ…」

「お任せください!」「必要なものは全てこちらに運びます!」

全く、素晴らしい連携(チーム)作業(ワーク)である。

二人は言うべき台詞の分担まで決めているかのようであった。

そうしてあっという間にリアンは長官室に取り残されてしまった。


8人の秘書官は「自治省の安寧秩序」を建前にして、その実、自分たちの

ささやかな平和を守るために次官を生贄に捧げたのであるが

…当の本人はそんなことちっとも気が付いていないが。


かくしてリアンは、書類を30枚仕上げては、長官の顔色と呼吸を

確認するという作業を繰り返した。


長く見つめることはできなかった。

心臓が変にドキドキして呼吸が苦しくなるから。

そして、何だか体温も上昇するようで、身体全体が熱くなる。

人差し指一本だけで、長官の白絹の手にそっと触れてみるのだが、

それだけで信じられないくらいワタワタしてしまう。

(言おう。長官にもう一度きちんと言いたいことを言おう)

フッサール伯爵夫妻のことが思い出されて、リアンは決意を新たにする。


そうして一日が終わってゆくのだが、

何となくアギール家に帰宅できないままに、

夜が更けてゆき、いつ間にか寝台に突っ伏すように眠ってしまった。

視察の疲れはないと思っていたのに、長官が昏々と眠る様子を見て、

いつしか自分も夢の中へと引きずり込まれてしまったのである。


*** *** *** *** *** 


窓から差し込んだのは月の光だった。9の月の光は冴え冴えと美しい。

満月が近づいていて、灯りがなくとも、物の形が分かるほどだ。

静寂の中、藍の双眸がゆっくりと開かれる。


最初に映ったのは、見慣れた自分の執務室の天井で、次の瞬間に映ったのは

自分が恋い焦がれる娘の穏やかな横顔だった。

寝台の隅っこに、申し訳なさそうに小さくなって、頭を埋めて眠っている。

キリルは白絹の手を伸ばした。

リアンの感触がする。彼女の存在がすぐ側に在った。


指先に金茶の髪を絡めてみる。唇でそっと手に、額に、頬に触れてみる。

足りない…全然足りない。欲心は限りなく、

リアンの身も心も全て自分の元に縛ってしまいたいと思ってしまう。

過去は無理だとしても、

リアンの現在と未来の時間を全て奪ってしまいたいと思ってしまう。

彼女に会うことで、人を愛することを知ったが、

彼女に会うことで、自分がどれほど孤独な人間かを知ってしまった。


「リアン、貴女を愛しています」

キリルは寝台から滑り出ると、愛する(ひと)を両手で掬い上げて抱きしめた。

「う…ううん」

リアンが目を覚ます素振りを見せた。瞼と唇が小さく動く。


黄緑(ペリドット)の瞳が(あらわ)れるかという瞬間。ほとんど無意識の内に

キリルは母イルーネから受け継いだ力を初めて違う方向に用いてしまった。

自分への回復能力ではなく、相手への治癒能力ではなく…

公爵サマは手をかざすだけで相手の意識を奪ってしまったのである。

自分にそんなことができるとは考えていなかったし、いつでもできること

でもないのかもしれない。


アギール家の伯爵令嬢は今や公爵の腕の中で深い眠りについていた。

その仄かに開いた唇に優しく口付けを落とす。

束の間、キリルは愛する姫を抱きかかえたまま、月を見上げた。

ほんの少しだけ欠けた、けれども明るく冴えわたった月を。


それから決心した。


「どちらに行かれるのですか?(あるじ)殿(どの)


長官室を一歩出たところで、ヴァンサランに呼び止められる。

赤毛の大男は、次官付補佐官ということになっているが、その実、キリルの

腹心の部下でもある。公爵に膝を屈する前は大盗賊の首魁でもあった。

その彼が意識のないリアンを抱え込んだキリルを不安げに見つめている。


「“王家の塔”へ行く。誰も追うな」


ヴァンサランに一瞥もくれることなく、命令を下す。


“王家の塔”

ソランサ国王がくれてやるといった幽閉の塔に、キリルはリアンと共に

足を踏み入れる決心をしたのであった。


とうことでキリルはリアンと二人きりで“王家の塔”に籠ることになります。


この後、待ち受けるは、

A:キリル暴走 B:リアン逆切れ C:意外に上手くいく

のいずれかですが、作者はだいたいの方向を決めています。


ただ、「後書き」を書いている時点で次篇は4分の1しか終わっていないので

主人公たちが自己主張を始めると…作者でもどうなるか分かりません。



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