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まだ青い

作者: 朝雛みか

〜短編2作目〜

―――君は大人になって僕から離れる。



僕はまだヤンチャな中1の寺川純(テラカワ ジュン)

そして恋した彼女は、中2の橋本千夏(ハシモト チカ)


なんで、僕がいっこも年上の奴を好きになったかというと、なんというか成り行きだった。


お隣さんとして、ずっと仲が良かった僕と千夏は、所謂幼なじみってやつだ。


毎日のように外で遊んでは泥んこになってた。

そんなふたりの世界がある日を境に消えていった。


それは、寒さの中で少しの暖かさを感じる春の風が、予兆させた。


予兆があったはずなのに、二年前の僕にはまだ気付かなかった。ただの春風。


―――僕はまだ青かったんだ。それは、僕がまだ小5で千夏が小6を卒業した後のこと。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


今日は、いつもより長く遊んだ。僕は大好きな千夏といっぱい遊べて嬉しかった。

ただただテンションが上がって、多分何も見えてなかったんだと思う。


千夏の悲しそうな顔や寂しそうな顔。


僕が見た時はいつも一緒に笑ってるから、気づけって方がおかしいだろう。


手をつないで商店街を歩いたり、

広いお店の中で追いかけっこしたり、

川に行って足まで入ったけど冷たくて一緒になって川から飛び出したり、

公園の砂場で砂のお城を作ったり、

全部が楽しかった。

誰かとやるからじゃなくて、千夏とやるから楽しかった。日も落ちて夜空に星が並んだ頃、そろそろ帰ろうという話になった時。

僕はもっと遊びたくて駄々をこねた。


「やだやだやだ。もっと遊びたい!」


すると千夏は


「そうだね。じゃあもうちょっとだけ遊ぼ。」


と、意外にも了解してくれた。

今は、家の近くにある公園のブランコにいる。僕は立ちコギでギャーギャー騒いでて、千夏はそれを隣のブランコに座って見ていた。


「千夏見て!こんなに高くこげるんだよ!!

すごい?ねぇすごい?!」


「うん!すごいよ、純は。

うち怖くてそんなに高くこげないもん。」


「そうなの?でも、楽しいよ。千夏もやってみなよ。」


「うちは、、いい。」あ、なんか、寂しそう。って思った僕は、「ブランコ出来ないからかな?」

なんて思ったんだ。だから、


「じゃあ、僕こぐよ!」


無邪気に笑って、二つ並んであるブランコの千夏のいるほうに跨って、立ちコギしだした。

千夏は楽しんでると思ったから、僕はどんどんブランコを加速させて、ものすごい速くこいだ。


そして今までで一番高く上がった瞬間、足に違和感を感じた。


でも、もう止められない。

そして、ブランコは固定された鉄の棒を軸に一回転した。


次第に、速度を落としていくブランコ。僕がこぐのをやめたからだ。

一回転する寸前に気が付いた。千夏が、俺の足に縋って怯えて、泣いていることに。ブランコが止まると同時に急いで降りて、千夏の前に立った。


「ごめんなさい!」


一回転したことで、膝がガクガクわらっていて、いつの間にか千夏の前でカクンと立て膝になっていた。

すると顔の高さが千夏と同じぐらいになって、千夏は僕を抱きしめた。


僕の左肩にはワラワラ震えて泣いている、千夏の顔があった。

僕も手を伸ばして、千夏を抱きしめて、小さく「ごめん。」と呟いた。


何分かが過ぎた。だんだんと、千夏の小刻みだった震えが、荒々しくなってきたと思ったとき、


「ハハハハハハハハハハ。」


と笑い声が聞こえてきた。当然僕は、「え?」って言って驚いた顔をする。

そして、抱きついていた千夏がガバッと離れて僕の顔を見て、ニコッと笑った。


「うん。楽しいかもね。ちょっと怖かったけど。」


さっきの笑いもこの言葉も、彼女なりのフォローだったのかもしれない。

その言葉に、俺は泣きじゃくって、


「ち〜か〜〜〜〜。」


と叫んだ。そして、また抱きしめられる。今度は優しい温かさを含んで。


僕たちは家に帰った。

楽しくて嬉しい2人だけの思い出。僕は一生忘れないだろう。楽しかった思い出。




それから千夏に会わずに3日が過ぎた。今日は中学の入学式みたいだ。

窓から、制服姿の千夏が見えた。

今まで感じたことのない感情が、僕を襲った。急いで、パジャマのまま家を飛び出す。


「千夏!」


振り向いた千夏は、おそらく僕が聞きたくなかった事を口に出した。


「純、見て。大人っぽいでしょ?」


―――大人、、


千夏と僕に大きくて、分厚い壁ができた気がした。


千夏はわかってたんだ。仕立てたあの制服を見て、今までの僕達でいられないことを。壁ができるだろうことを。

だから、最後に遊んだあの日、寂しそうにしてて、いつもなら聞かない僕の我が儘を聞いてくれて、、。


それがわかった途端、泣きそうになった。

でも、それを遮るように千夏は


「いってきます。」


って言ってきた。僕は堪えても、出てきてしまう涙を拭こうともせず、右手を挙げて、

「いってらっしゃい。」


と返した。

千夏は頷き学校に向かった。千夏が向こうを向くとき、涙が見えた気がした。

自分の目は涙で溢れて前なんか見えないくせに。


急いで自分の部屋に駆け込んで、ひたすら泣いた。一気に遠くなってしまった距離に、失恋したような感覚に。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あれから、一年が過ぎて僕は中1になっていた。

不思議なことに、千夏を好きという気持ちは消えていなかった。

でも、千夏には彼氏ができたようだった。優しそうで、でも引っ張っていってくれるような奴だった。


それでも好きなんだから、しょうがないもがいてみるか。


廊下で見かけた千夏と彼氏。

僕は大声で叫ぶ。


「ちか〜!」


千夏は振り向いて笑う。


僕達には、まだ壁がある。

僕はまだ、まだまだ青い。やんちゃな中1。



―――大人になるにはあと何年?

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