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神霊幽明通信  作者: チーム奇人・変人
第一幕 少女人形は月下に踊る
1/1

序幕 惨劇のメリーゴーランド

挿絵(By みてみん)


 それは、月のキレイな夜のことだった──。


「メルヘンチックな雰囲気だな」


 仮眠明けの眠い目を天上に向け、瞬(しばた)かせながら、駅前派出所に勤務する警察官の一ノ瀬が軽い冗談を口にした。


「そうですか? 僕なんか、逆にホラーの世界に見えちゃいますけどね」


 今年配属されたばかりの新人警察官、亘理(わたり)は、やや及び腰になりながらそう返した。


 駅前から少し離れた丘の上に、『ハイランドパーク』という遊園地がある。


 その日の営業を終え、とっくに閉園したはずの娯楽施設は、眩い月光に照らされ、夜の闇の中に独特の雰囲気を浮かび上がらせていた。


 しかし、そこを照らしているのは月明かりだけではなかった。


「確かに、あそこだけ照明が点いているな。あれは……メリーゴーランドか?」


 まるで舞台をスポットライトで照らしているかのように、煌々(こうこう)と輝きを放つ場所へと、二人は歩を進めた。


「それにしても、何でここだけ電気が点いてるんですかね?」


 動くことのない木馬を見やりながら、一ノ瀬は惚(ほう)けた口調で呟いた。


「消し忘れじゃないんですか?」


「それは無い、ってさっき管理人と警備員が言ってただろう。それに、消し忘れだったらもっと早く誰かが気づいて、通報もこんな深夜にはならなかったはずだ」


「ですよねー」


 亘理は肩を竦(すく)め、苦笑する。


「まあ、システム的なトラブルだろうな。それを今、管理人と警備員が調べているんだから、すぐに──」


 すぐに解決する。


 そう言いかけた一ノ瀬の口が、ピタリと止まった。


 突然、メルヘンチックな音楽がその場に流れ始めた。


 同時に、静止していたはずの木馬が、ゆっくりと廻り出す。


「な、何だ? 設備点検か何かか?」


 上下運動を繰り返しながら、異様なまでにゆっくりと円を描く木馬。


 二人は、ただ呆然とそれを見つめていた。


「せ、先輩! あそこ……」


 亘理が震える声で指を差す。


「真ん中の支柱に、何か見えませんでしたか?」


「あ、ああ。たしかに……」


 一ノ瀬も目を凝らした。


 メリーゴーランドの支柱に、それとは明らかに異質な何かが見える。


 だが、緩やかな回転とともに、それは二人の視界から消えてしまった。


 二人は無意識のうちに息を殺し、じっと目を凝らす。


 そして、再びそれが姿を現すのを待った。


 やがて、メリーゴーランドがグルリと一周する。


 回転する支柱とともに現れたのは──。


 ワイヤーのようなものが身体に巻きつき、そこにがっちりと磔(はりつけ)にされた──


 ゴシック様式の黒いドレスに身を包んだ──


 首から上を欠損した──


 人間なのか。


 人形なのか。


 それとも、ただ黒いドレスだけが磔にされているのか。


 二人には判別することのできない、異様なモノだった。


「「うわァァァァァァァァァァッ‼」」


 二人は思わず悲鳴を上げ、その場に尻もちをついた。


 やがて、メルヘンチックだった音楽が、壊れたレコードのように歪み始める。


 そこへ支柱から発せられる、


 ギギギギギ……。


 という不快な金属音が重なった。


 音楽と金属音は混ざり合い、やがて耳を塞ぎたくなるような不協和音へと変貌していく。


 ──アレは一体何なんだ⁉


 ──首……首が……。


 ──人形……なのか?


 一ノ瀬は眼前で繰り広げられるダークメルヘンを前に、少しずつ正常な思考を失っていった。


 天上に浮かぶ、瞳のような満月。


 その下で、舞台の中央に磔にされた首のないモノが、木馬とともに哀れな観客の前で静かな円舞(ロンド)を刻み続けている。


 まるで、それが当然のことであるかのように──。


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