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僕の人生最後の戦線にて  作者: クラムボン美少女化概念
3/3

episode3

「先輩……、怒ってるすか?」


早朝、後ろを歩くトラちゃんがそんなことを聞いてきた


現在僕らは隣国であるミュース王国に来ているのだ

もちろん観光ではなく不法入国、スパイみたいなものだ


ちなみに大尉とシロは現在別行動だ


「別に怒ってないよ、たださっきもちょこっと言ったけど先輩や上司の命令を聞けない人間は軍にはいないよ、その理由がわかる?」


本当に怒ってない

ただちょっとむかついた部分もあったが特段引き摺るようなものでもない


「……軍が合わなくてやめるからすか?」


「違うよ、真っ先に死ぬからだ」


トラちゃんは確か十五歳、獣人は確か十三歳から訓令生になれるはずだから長くても二年は軍にいることになる

なら先輩から聞いてそうでもあるがどうやら知らなかったらしい


「他人の言うことが普段から聞けない奴は咄嗟の“伏せろ!“に反応できない

それに戦時下なら軍の風紀を乱す奴、士気を下げるやつは即刻処刑、よくて最前線送りだ、その上一人全体行動ができない奴がいると部隊全体の生存確率も下がる、そういう奴は乱戦時に真っ先に後頭部に穴が開くことになる」


「……本当にすみません」


自分の後頭部をちょっと触りながら謝るトラちゃん

別に気にしていないが素直に謝れるのは美徳だ


「……そういえば先輩って軍にどれくらいいるんすか?耳長族って老けにくいからいくつかもわかりにくいんですし、ていうか先輩ってシャルルって言うんですね?

自己紹介の機会がなかったから知らなかったっす」


言われてみればそうだ

確かに自分から名乗ったことはないし、今のところ周囲でシャルルと呼ぶのは大尉だけだ

それにトラちゃんは先輩、シロは耳長と呼ぶから困ることもなかった


「軍には……八年かな、いや正確には軍人教育を受け始めたのが十年前だけど」


「戦時下じゃないですか!……なら先輩って結構年上なんすね」


「ん〜、まぁそれは秘密ってことで」


怒涛の質問ラッシュだ

まるで尋問されている気持ちになる


「先輩って戦えるんすね、あんまり前線でないから知らなかったっす、先輩の天秤ってどんな能力なんすか?よくわかんなかったんすけど…」

「秘密、言いふらしても良いことないし」


大体の察しはついてそうだけどわざわざ確信に至らすこともない

必要になったら共有するつもりだけどそうじゃないならわざわざ自分の能力を言いふらしたりはしないつもりだ

それにわざわざ敵地でする話では確実にない、幸い早朝だから人通りは少ないけどリスクは少ないほうが良い


「ならそのチョーカーは?大尉からの贈り物なんすよね?恋仲だったんですか?」

「それも秘密、けど訂正するなら大尉が僕に渡しただけで大尉からの贈り物ではない」

「……?そうなんすか…」


いまいちわかってないらしいけど僕もこの辺の事情は複雑だから完璧に理解はできていないと思う


「先輩は秘密主義者っすね〜、……なんか話題ないすか?」

「気まずくなってるじゃんか…」


無言が続く、合流地点までまだ結構歩かないといけないため気まずい時間が続く

そんなおりにトラちゃんが思い出したかのとうに話題を降ってきた

まぁ実際たった今捻り出したのだろうけど


「あっ!八年前って軍警のエリカ憲兵少佐と同期か先輩後輩の仲っすよね?

面識ありますか?“憤怒の暴風“エリカ・ラングレイと」


「……ッ!?……知ってるんだ、まぁ同期だよ、昔は彼女も軍にいたからね」


彼女は気づいたら軍警察になっていた

そしていつの間にか少佐まで昇進していた、曹長の僕と比べるとどえらい出世である


「じゃ、じゃあ手合わせしたことあるすか!?彼女の天秤“憤怒の暴風”を見たことは!?」


トラちゃんが今まで見たことないほど興奮して僕を捲し立ててくる

なぜ一介の将校にそこまで興味があるのか不思議だ


「私小さい頃彼女に助けられたことがあるんですよ!こう…自分と二つしか変わらない年齢の彼女に命を救われて…!それが本当に格好良くて…!憧れて軍に入ったんですよ!」


「へぇ〜、世の中どこで繋がってるかわからないもんだね、まぁ手合わせはしたことあるよ、少し仲が良かったから確か……

徒手格闘は五分、武器ありなら僕、射撃は彼女だったな

天秤は僕のが手加減できる奴じゃないからやってない

今だと…わからないな、多分普通に負けると思う」


彼女の天秤は汎用性抜群な上に大規模破壊も可能、僕のは殺傷能力特化な上に力を発揮するには下準備や環境が影響してくる

勝敗をつけるなら本当にどちらかが死ぬまでやるしかない


「当たり前ですよ!なんたって英雄ですよ!」

「失礼だな……」


そこはもう少し自分の先輩を応援して欲しい気持ちが強い


「ご機嫌だなシャルル、どうした?」

「早朝の散歩は体に良いですからね」


集合場所の橋の下に行くと一般人に変装した大尉とシロが座って待っていた

手元には書類があるためどうやら現地の情報部から最新の情報を受け取れたらしい


「耳長族は健康によく気を使ってるな

果物ばっか食べてるし、やっぱり種族柄か?」


「果物を好むのは昔からの文化らしいっすね」


確か昔は森の中で自給自足の生活をしていたから果物を好む体に進化したとかなんとか、けど僕は肉も好きだ、他の耳長族は賛否が分かれる、野蛮だとかなんだとかで


「話を戻そうか、……上層部の懸念が正しかった」

「……つまり?」


今回僕らは王国にあるとある企業について動いている


「製薬会社クローバーが東で確保した寄生生物の死体を使って人工的にレベル三の寄生生物の生成に成功していた

これは由々しき事態だ、この技術を使えば容易にテロ行為が可能である上に西側諸国も東のように寄生虫によって国土が本格的に飲み込まれる可能性がある

幸いまだ実用段階に至っていないがすでにクローバーの上層部はこの技術を使って生物兵器を量産し売り捌く計画を立てている

ウィング隊の仕事はシンプル、研究所を見つけ出しこのプロジェクトに関わった研究者の始末、そして技術の根絶だ、失敗は決して許されないミッションだ」


戦争の火種、それを摘むのが今回の仕事だ




ーー帝国について

ユーリアクス帝国は今では西の列強国の一つに数えられる魔道先進国です

しかし昔は少し違った風景が見られました

今のような国になったきっかけは二十五年前に起きた第一次寄生生物氾濫、三十年前に起きた産業革命の影響です

それまでの帝国は美しい街並み、自然豊かな河川、魔法が信じられており精霊を祀っていました


しかし国は変化します

革命後から三年後、帝国は騎士団を帝国軍と改名し武装の近代化を図りました

文化的な美しい街並みには人が効率だけを追い求めて死人のように働く工場が作られ、革命前と革命後の建物が一緒に並ぶその光景はどこか異質なものが感じられました


さらに二年後、悲劇が始まります

戦争です、隣国のミュース王国との戦争が始まりました

両国とも列強に数えられる近代化の進んだ国です、銃という簡単に人を殺せる道具の影響で死人がたくさん出るようになりました


そして歴史的に大きな転換点になったのが戦争が始まってから一年後

国は魔導国家資産法を発令しました

その内容をざっくりまとめると

“国が規定した魔力総量の基準を満たした人間は軍人として五年の奉仕を命ずる”

“天秤者は国の財産である、軍の魔力総量の基準に満ちた時点から軍所属となり以後国の許可がない限り退役が認められない”

の二つでした、他にも“天秤持ちを産めばその一家に遊んで暮らせる金が支給される”などもありました 


その後戦争は一度終わりましたが今から十年前、また戦争が始まりました

キリーテ橋事件から戦争が始まりそこから終戦のきっかけとなった“モスティナルの悲劇“まで五年間もの間両国は戦い続け、国家総動員法まで発令されることとなりました

最終的には帝国有利の和平条約が結ばれることで両国の戦争は一旦終わりましたが王国では反帝国運動が年に一度のペースで起きるそうです


今では魔導国家資産法はすっかり形骸化し、軍に縛られる人間はほとんどいなくなり、天秤者の生活も完全とは言い難いですが守られているらしいです

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