episode1
基本的に後書きに設定や小ネタみたいなものを書いています
肺いっぱいに大きく息を吸い込んだら甘い紫陽花とハーブの風味を持った水の味を感じる、ナイトテーブルに昨晩置いた裏面に写真が入った袂時計、それを見ずとも肌着の裾から首元にかけて肌を撫でる風の冷たさがまだ朝早いという事実を教えてくれた
バスケットの新鮮な林檎を果物ナイフで八等分にしてから皿に重ならないように均等に並べ上から蜂蜜をかける
少し温いコップ一杯の水を一気に飲み干してから果物ナイフを使って蜂蜜林檎を口に運んでいく
三つ食べたところで口直しのためにハーブティーを作ろうとベランダで育てている自家製のミントの出番かと思った
葉を三枚ほど摘んだところでこの寒さでアイスは無いなと言うことに気づき手に持ったミントを一枚口に入れ、あとは風に流した
結局生姜と蜂蜜のハーブティーで体を温めつつベランダで手すりの外を眺めながら蜂蜜林檎を楽しむことにした
雨、昔は好きだったが今はそうでもない
けど小雨の後の雨上がりは今でも好きだ、そして雨上がりが早朝の少し肌寒い時間帯に重なるともっと良い
(あぁ…!なんて素晴らしき我が人生!)
素晴らしい一日が始まる、そんな予感がしてならない朝
–−だった
バイクの音に嫌な予感がしてアパートの正面の道路をカーテン越しに見る
(……なんで?)
本来見るはずもない、休日には見たくもない顔
なぜか今日は休みのはずなのに軍服をきた虎の耳がアイデンティティの不機嫌そうな女が明らかに僕の部屋を睨みつけていた
「え、本当になんで?い、いや先に服だな」
バイクを道路の脇に停めた彼女が玄関を叩く前に急いで人と会える準備をする
(やばいやばいやばい……!!)
戸を叩く音に急かされながら洗濯して取り込んでから行方不明の軍服を探す
「––あった!」
結局ベットの足元に畳んでおいていた軍服を見つけ出した、その瞬間に玄関の方から何かが壊れた音がした
「……おはよう、合鍵渡してたっけ?トラちゃん…」
「グッモーニン、先輩…
本当にグットな朝を過ごしていたみたいっすね、そう、まるで休日みたいな」
部屋の中をひとしきり見渡した後に不敵に笑う彼女
そして当たり前のように許可なく棚からマグカップを出してハーブティーを注ぎ椅子に座ってラジオを付けて音楽を流した
「––アチュッ!?……ふぅ〜、ふぅ〜……なに見てるんすか?」
口を大きく開けて舌を冷やし、両手で持ったマグカップに小さく息を吹き込んで覚ましていた彼女、僕の視線に気づいたらしく尻尾で肘置きを叩く
そして僕の手元から落ちた軍服を見ながら「拾いなよ…」と呆れた顔をする
しかしそんなことよりも先ほど彼女が聞き逃せないことを言ったような気がした
「……トラちゃん、今日ってもしかしなくても光の日だよね?」
ただの確認だ、もちろん今日は光の日であるのは確実だし、今日までは僕は休みのはずだ
しかし僕の問いを聞いて彼女はなんというか
怒りを通り越して呆れてため息しか出ない、まさにそんな感じの反応をした
「はぁ…やっぱり先輩はダメダメっすね…耳長族の時間感覚がズレてるのは今更すか
光の日は昨日です、なら当然今日は火の日だし先輩の休暇は昨日まで、当然今日は訓練…でした」
過去形、嫌な予感がする
「さっさと着替えてください、今日のお昼は国民の血税でステーキとロブスターっす」
ステーキが種族柄大好物な彼女も喜んで良いのか微妙な顔をしていた
ーー
寄生汚染下を含む過酷な環境下において少数精鋭による作戦実行を旨とした部隊
圧倒的高倍率の選抜試験を潜り抜けたエリートのみで構成されており、その実力は一個師団に値すると上層部が判断した精鋭集団
それが『ウィング』という隊だ
難しいことを言ってはいるが簡単にまとめると基本的に獣人で構成されたたった四人の部隊だ
基本的に獣人で構成される理由はもちろん優れているから、比較的力の弱い獣人でも人の三倍以上の膂力、圧倒的な五感、そして頑丈な肉体加え闘争心に戦闘センス
そのため獣人に生まれれば仕事に困ることはない、そう言われるほど優れた種族だ
全く羨ましいことこの上ない
「美味しぃ〜!」
「……無くなった」
正面でステーキを美味しそうに食べる虎の獣人とその隣で僕のステーキとと食べ終わった自分の皿を交互に見てお腹を鳴らす白狼の獣人
「あぁ…食べる?シロ」
「––ありがとう耳長ッ!!」
食べるの“べ“辺りで僕のステーキにフォークを指して自分の皿に移したのを見て少し笑いがこぼれた、正直エビみたいなやつだけでお腹いっぱいだったため彼の存在は非常に助かる
さっきの続きだ
そしてこれまた基本的に部隊長はニンゲンが多い
獣人は基本的に我が強い、同じ組織内で自分と違う種類の獣人がトップになれば圧倒的な実力差がない限りまず揉める
そんな時に協力、同調という言葉が大好きなニンゲンの出番だ
他人に合わせるのが得意なニンゲンが潤滑油的な役割を担うことで組織は初めて機能する
そして僕の右隣で食後のタバコ休憩に入っているのがウィング隊隊長を務めている僕らの一応上司的立ち位置
彼女もニンゲンだ、階級は大尉
特殊部隊において階級というものがさほど作用しないとはいえ、何も犬猫のヒューマンエラーを防ぐためだけに選ばれた人材というわけではない
「どうした?」
当然実力も折り紙付き、戦闘に応用できるレベルの探知系の天秤を所持しているらしいけどそれ以上の情報はない
ただここに来る前は魔道飛行戦に置いて帝国最強と名高い軍第三師団にいたらしい
「いえ、なにも」
「そうか、日付が変わった頃には国境だ、まだ詳しくは言えんが……帰れるかはわからんかもしれんぞ」
心臓に悪いことを言う大尉にニコリと笑みだけを返しておく
そして僕の種族、耳長族
簡単に表すと社会不適合者の集まりだ、強いて良いところを上げるならニンゲンよりも二十年から三十年ほど寿命が長いこと、知能指数が高い傾向にあること、魔力総量が多い傾向にあるくらいだ
けど基本的に時間感覚がズレてる、力はニンゲンと同じかそれ以下、無駄に頭がいいせいで他人を見下す、互助の精神と他人への関心が低い、耳が少し尖っているけど聴力が高いわけじゃない、純血主義の排斥思考
などといった明らか地雷な特徴を持っているのが耳長族だ
「あぁ?何見てんだよ」
「は?シロはお前のことなんか見ていないが?弱い猫ほどよく騒ぐ」
なんでわざわざこんなことをおさらいしているのかは自分を落ち着かせるためだ
少数精鋭のエリート部隊を謳うウィング隊
そのはずなのに急に喧嘩を始める後輩と新人、この問題だけでどうしたものかと三日悩めると思うほどだ
「食い意地の張った薄汚い野良犬が、風呂にはちゃんと入ってるか?みんなお前の隣を通り時は息を止めてるの知ってた?」
「はぁ!?ドブネズミでも獲って食ってろ!猫女!」
確かに目の前の二人は純粋な戦闘員、求められるのは兵士としての強さだ
訓練を見ても優秀な部類だと思う。射撃、魔道飛行に格闘術、データ上や訓練上は非常に優秀、しかしやはり二人はそれ以前の問題だと僕は思う
無から突然喧嘩を始める二人、兵士云々より前に人として何か欠けている部分がある
ルーティーンみたいなものだ、上の判断だから何も文句は言えないけど人間性の欠けている仲間と共に命をかけないといけないのだ
自分を落ち着かせるために何か考えておかないと不安になる
「殺すッ!お前のはらわたを引き摺り出して豚の餌にしてやる!!」
「腐肉に沸いた蛆虫風情が、騒ぐなよ」
取っ組みあってる状態から勢いよく席を立つ二人
食堂という公共の場所だというのに完全にカッとなったじゃ済まない興奮具合だ
「“我、汝に求めるは贖罪“」
「“孤高の白銀”ッ!!」
(わぁお、お互いに殺す気じゃん…)
電気を身に纏ったトラちゃんと銀色の狼の使い魔?みたいなのを出したシロ
隣に視線を向けると少し笑みが溢れている僕らの頼れるリーダーが目に入った
(……笑えねぇ〜……)
人として何か欠けた連中しかこの場にはいなかったらしい
ーー平均寿命について
種族図鑑(人間の不思議)より、“人間の寿命”
耳長族 おおよそ120年〜(魔力総量に比例)
妖精族(純絶滅危惧種) おおよそ120年〜(魔力総量に比例)
獣人族(亀) おおよそ110年〜(魔力総量に比例)
鬼人族 おおとそ100年〜115年
獣人族(その他) おおよそ80年〜100年
ニンゲン(正式名称只人族) おおよそ75年〜100年
戸籍登録より “各種族の平均寿命”
獣人族 おおよそ80年
鬼人族 おおよそ80年
ニンゲン おおよそ65年
耳長族 おおよそ60年
妖精族 不明
帝国軍 種族別 従軍経験のある人間の平均寿命と殉職率(母数降順)
獣人族 おおよそ60歳(15%)
ニンゲン おおよそ45歳(24%)
鬼人族 おおよそ70歳(5%)
耳長族 おおよそ30歳(75%)
妖精族 不明(不明)※母数の少なさから測定不能




