圧倒的屈辱
154対300
それは、まぎれもない完敗だった。
五か月間毎週通い詰めて着々と記録を伸ばしてきた私が、三年ぶりにボウリングをした同じクラスの子にぼろ負けした。途中から始まった天才素人のワンマンショーに、私ができたことは休憩時間を提供するだけだった。
満足したのか残り四ゲームをすべて放棄し、千二百円だけおいて去っていった。
常連のおじいさんおばあさんが、上方のスコアが表示されているスクリーンをまじまじと見つめている。隣で見届けた偉業に、七フレーム目から一つも投げずにゲームを見届けていた。
会うたびにマイボール片手で二〇〇スコアを叩き出している達人が、魂が抜けたように微動だにしない。
私たちの試合を見届けていた店員さんは「スゲェ……」と接客業にはあるまじき砕けた言葉を漏らし、マイクでほかのスタッフにも伝えていた。苦笑いを浮かべながら私に対して「すごい人が来ましたね」と
言葉を掛けてきたが、それに対して私は「あ、はい……」と答えるのが精いっぱいだった。
集まってきたほかの店員さん。各々のリアクションは三様だった。写真を撮る人、試合の状況を細かく聞いている人、大声で「すごい逸材やな‼」と嬉々として喜んでいる人。
手元の小さなスクリーンは、『次のゲームに行きますか?』と聞いている。
アホか。今の精神状態でどうしろっていうんだ。このまま続けたところで一〇〇もいかない。
屈辱や、恥ずかしさでとても形容することが出来ない。ボウリングを極めていた時から目標だったパーフェクトゲーム。それをいとも簡単に成し遂げられたことによる嫉妬、怒り。そして復讐心。
今すぐに追いかけて、あいつの後頭部めがけて一二ポンドのボールをぶつけてやりたい。それほどのぐちゅぐちゅした粘っこく淫らな思いが、全身を駆け巡っていた。
ゲーム清算のボタンを押して、強制的に終わらせた。事前申告制のため、本来五ゲームのはずが一ゲームで終わっても値段は変わらず一〇〇〇円ぶんどられる。
それでもよかった。私は早くこの場から去って、あいつをとにかくぶん殴りたくて仕方がなかった。
「ありがとうごじました。またいらっしゃいませ~」
気の抜けた受付のお姉さんの挨拶が言い終わる前ぐらいに、私は階段を下りて駅の方向へ走り出した。




