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ダンジョン配信に憑りつかれた男の娘~何万回死んでも潜り続ける、そこにダンジョンがあるから~  作者: プラン9


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第58話:死に疲れ

「ちょっとA、大丈夫……?」

「つかれた」

「……こんなA、始めて見る」


 自室でAは、ウルタールにもたれかかりながら、まるで溶けるように力を抜いていた。抱きしめている大きな猫のぬいぐるみがぐにゃっと歪んでいる。

 転移魔法の試作実験は、あれから配信内外問わず繰り返されてきた。もはや試作魔法のナンバリングが『.45』になるくらい死に続けたといえば、その死亡数も察せられるというもの。


 毎日平均3回も死ぬのは、さしものAにとっても中々に疲れの貯まる作業であったのだった。


「最新の魔法を使える分にはいいんだけどさあ、蘇生費用で結構持っていかれる分そこまでお賃金よくもないし、流石に僕も死んで生き返るのがノーダメージって訳じゃないし……流石に足を段差にぶつけたくらいのショックはあるからね」

「いやそのくらいのショックしかないのか」

「……Aがなんでこうも頻繁に潜れるか、なんとなくわかった気がするわね」


 疲れに疲れてだれているAの頭を撫でながら、Aの中にある価値観に感嘆した。

 死んで生き返るショックというのは、誰しも大きなもの。それこそ引退後どころか少しの日数休憩しただけでPTSDを発症してもおかしくはないものだ。一週間に一度死んだだけで普通はそうなるもの。


 だがAは1日に何度死んでも、日常のちょっと痛かった出来事程度にしか感じない。それが決して強がりではないということは、今までの様子や今の状態から容易に察せられる。


 つまりは、Aは精神性が常人と違いすぎる化け物なのである。

 そして、そんな化け物のような精神性を持つAですら疲弊するほど殺されたということに、ウルタールは「自分も実験に参加する」等と口を滑らせなくてよかったと心の底から安堵した。


「……それで、テレポート魔法はどれくらい完成したの?」

「うーん……一応、ボス部屋までひとっ飛びできるようにはなったかなー」


 Aの話に、先ほどまで犬をあやすような笑顔を浮かべていたウルタールの顔が、冒険者の表情になった。

 ボス部屋まで飛べる。ということは、三日ある渡りの工程を一気に省略できるようになったということに他ならない。


 単純計算一層ごとに三日の日数節約。現状、ギルド側が攻略を把握している階層だけで数えても24階層、これまでは最短三日で探索できると仮定して単純計算約二か月分の時間短縮が可能になったということ。


 この時間短縮はもはや革命とも言える。偉業と言えるだろう。

 ただ、とウルタールの膝に頭を落として、Aは言う。


「はっきりとテレポート地点を想像できないと空中に放り出されたり、足が埋まっちゃったりして死ぬね」

「……あの事故り方はちょっと嫌ね」


 空中高くに転移してしまい、重力によって地面にたたきつけられるA。地中に両足を転移させてしまい、少し動こうとしただけでまるでクッキーのようにぼきっと両足を折ってしまうA。


 転移魔法実験の際、Aは実に多種多様な死に方を見せてくれた。冒険者という職業が産まれて久しいが、その歴史を加味しても尚普段の配信では決して見る事の出来ない死に様。実に見ごたえはあったが、あんなものを経験するのは御免被るというもの。


 それだけに、何度も死んで生き返って冒険ができるAのことを、ウルタールはリスペクトしているのだ。


「要するに、目的地をはっきり想像できない場所にはテレポートが出来ないか……となると、結局のところ七階層以降のは不安定ということになるな」

「まあねー。現状の精度だと、一度行った程度だったら確実に失敗するかな」

「……結構不便ね」


 目的地に到達できるかが記憶力による、しかもはっきり覚えているかどうかというのは自分では中々判断が付きづらいところ……頻繁に訪れる場所であったらいいのだが、一度二度行けた程度では無事にたどり着けるかどうかの確率は五分五分といえる。


 探索速度が飛躍的向上したとはいえ、悪い五分を引くと死んでしまうと考えると、実に分の悪いギャンブルだ。


「まあ、そう何もかも都合がいいように動きはしないもんだよ。良いも悪いもどっちともある、後は積み重ねていくしかないのさ。……魔法として売り出すにはちょっと不安が残るけど」

「失敗した際のリスクをもう少し軽くしないと売れなさそうよね」


 一般の冒険者という魔法製作のアマチュアが作る分ならば問題は無い。アマチュアが作る魔法というのは不安定、そういったリスクも織り込み済みで扱うものだから。


 だが現代魔法研究所が出すとなると、そうは問屋が卸さない。魔法製作・販売の老舗という看板は、中途半端で使用にリスクのある魔法を許さない。

 安心・安全・確実性のある魔法でなければ販売許可が下りることはない。大手というブランドの看板が、そのリスクを許容できないのだ。


 かといってAが出そうにも、転移魔法の特許は現代魔法研究所が所有している。個人が出す分なら問題ないとはいえ、製作したのはAではなく現代魔法研究所だから当然ではあるが、それが結果として世に出回らない足かせとなってしまっているのだ。


 最も、転移魔法を失敗してしまったAの様を見て購入したいと思う人間がどれほどいるかは甚だ疑問ではあるが。


「ウルタールならどうだ? 失敗する危険性を加味して、使えそうか?」

「無理ね。痛み、死の恐怖ってのは早々打ち消せるものじゃないもの。もしAみたいな失敗を一度でも体験したら最後、私が使うことは無くなるでしょうね」

「……そうか」


 ウルタールの返答に、チチェロが残念そうな表情をした。

 死んでほしいのかこいつは、と一瞬思ったものの、チチェロの中身はAと何ら変わらない、死んでも気にせずダンジョンに潜れる異常者側の思考の持ち主だったことを思い出した。


 そうだ。このパーティーはAが実質二人もいるのだ。ウルタールのような、普通の人間が死の恐怖に頑張って抗っているものは他にはいない。


 それだけにチチェロが羨ましく感じられた。ウルタールではどれだけ頑張ってもそちら側に建つことは不可能だから。

 Aと同じ思考を、Aと同じ景色を見る事ができないから。


「……あら、寝ちゃった?」

「よほど疲れていたみたいだな」


 相当疲れていたのだろう、ウルタールの膝の上で、いつの間にかAはすやすやと寝息を立てていた。


 チチェロが、Aの頬を爪の丸みを帯びた部分で突っつく。

 何度も死線を潜り抜け、死んで生き返った歴戦の人間とは思えないあどけない寝顔に、柔らかい頬。


 豊満な胸のせいでその顔を見られないウルタールは、自分の大きな胸を呪った。

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