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ダンジョン配信に憑りつかれた男の娘~何万回死んでも潜り続ける、そこにダンジョンがあるから~  作者: プラン9


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第55話:ダンジョン探索のメフィストフェレス

 新たなスキルに関しての議論をしていたAに声をかけたのは、少年のように目を輝かせた老人であった。

 羽織っている白衣は薄汚れており、シャツはほつれ所々破れ、染みが目立つ。ズボンもパジャマのようなラフなもので、白衣と全く合っていない。

 年季の入った皺だらけの頬を狂喜に歪ませ、呼吸をするたびに黄ばんだ歯が露出する。


 突然の乱入者に、Aとウルタールは顔を見合わせる。


「ねぇ、A……知ってる人?」

「いやぁ……全く知らない、かなぁ」


 ウルタールの問いに、Aはぶんぶんと首を振り否定する。


 Aの交友関係はお世辞にも広いとは言い難い。というよりぶっちゃけて言うとかなり狭い。

 それだけに一度知り合った人の顔はしっかりと覚えているものなのだが……少なくとも、Aの記憶にこの老人は存在していなかった。


 かたかたと下駄で床を叩きながら、老人が近づいてくる。


「短縮したいんじゃろう、探索時間を。それなら良いものがあるぞ、お主にうってつけのな」


 かたかた、けらけら。黄ばんだ歯を見せながら笑う老人の言葉。

 なんとも心惹かれる誘惑文ではあるが、Aがその老人に抱いたのは不信感であった。

 あからさまに怪しい……というより、お近づきになりたくない、というのが本音であった。


「あははっ、えっと……そのー、ちょっと次の機会に……」

「おじいちゃん、それ以上近付かないで。Aが困ってるじゃない」

「ここでの殺しは厳禁だが、叩きのめすくらいなら黙認されている」


 曖昧な笑みで誤魔化そうとするAを守る様に、ウルタールとチチェロが立ち塞がる。

 Aのコミュ力はあまり高い方ではない。というより、かなり低い方である。故に老人にぐいぐい来られると、多少……というより、かなり戸惑う人間なのだ。


 その様子を察したのか、老人はその場で足を止めた。そしてくたびれにくたびれたズボンのポケットから、くしゃくしゃになった名刺を取り出した。


「ああ悪い悪い、私はこういうもんじゃ。知らぬ者ではあるまい?」


 老人から差し出された名刺を、チチェロが受け取り、ウルタールに読ませる。


「現代魔法研究所主任、長谷川 正勝……現代魔法研究所の主任!?」

「なんだっけそれ?」

「Aが開発した爆発魔法とか、私たち冒険者が作り上げた魔法を魔法紙として保管・流通させる技術を作り上げた場所よ! それの主任となると──」

「おう、私凄い人間なんじゃよ」

「──とんでもない奇人として名をはせているわ」

「なんでじゃ!? お主らと比べ物にならんくらいわし凄い人間なんじゃが!?」


 誰も知らぬ者はいない偉業を成し遂げた偉人といっても差し支えない肩書を持っているというのに、あんまりな物言いに老人、長谷川正勝は抗議の声を上げた。


 実際、彼の功績はすさまじいものばかりなのだが……同時に、色々と狂った噂もセットで流れてくる人物である。そういった評価を受けるのもまた仕方のないこと、としか言えない。


「凄い人ではあるのよ。ただ……元に戻したとはいえ実の家族を合成獣(キメラ)にしたり、死霊操作術(ネクロマンシー)テストの為に土葬の国に突入して国際問題に発展させたりした問題のある人でもあるのよね」

「……下手な魔物より無法者じゃないか、こいつ」

「下らん倫理観なんぞのせいで研究の邪魔をされてたまるか」


 ウルタールが述べた勝正の噂を否定することなく、むしろ探求者として当然といった風に言ってのける。

 その言葉にチチェロはかなりドン引きしていたが、そのお陰でどういった人間かというのを知る事ができた。


 要するに、Aの魔法版である。


「なるほど。なら……ちょっと話を聞こうか?」

「……いいのか?」


 であれば、声をかけられて応じた方がメリットが大きい、とAの中の思考回路が切り替わった。

 一本筋の通った狂人というのは騙しはすれども嘘をつかない。声を掛けてきたということは、必ず何かしらの要求と、報酬がある。異様なほどに誠実なのが研究肌の狂人の特徴である。


「ぎっひっひっひっ、やはりな……お主は話の分かる人間だと思うておったわ」

「で、僕に話をもちかけてきた理由は何かな? 早く本題に入ってほしいんだけど」

「そう慌てるな。せっかちなのは老いてからで十分じゃろうて……お主がダンジョンでエンカウントした例の魔物、リビングアーマー……じゃったかな、お主が奴にかけられた魔法を覚えておるか?」

「うん、覚えてるよ」


 リビングアーマー、よく覚えている。ナイフでは相手にならなくなった魔物、チチェロとの出会いのきっかけとなった魔物……そして直近では、スタンピードを指揮し、Aを生き返ることができなくなるかもしれない状態まで追い込んだ魔物だ。忘れられる筈がない。


 その言葉に勝正は頷き、言葉を続ける。


「奴と初めて会敵した際に、お主がかけられた転移魔法……あれの映像のお陰で、長らく停滞していたワープ魔法の開発が一気に進んでのう……XYZ座標の組み込みに階層指定必要魔力量魔方陣円周数魔道円回転率といったものが今までは転移魔法という不完全不確定な映像からしか確認できなかったんじゃがお主のお陰でその全貌が──」

「専門的なのはいいから」

「さっぱりわからない……ウルタール」

「私に振らないで、私も専門的なところまでは分からないんだから」


 何がどう作用するのか、Aの映像がどれだけ革新的なものを収めた瞬間だったかを勝正は狂気に満ちた笑みで語り始めるが、当然のことながら三人にはさっぱり分からない。


 興奮して垂れたよだれを腕でふき取り、一息つくために白衣の内ポケットから取り出したウィスキーを一杯呷る。

 ごきゅっ、ごきゅっ、と喉を鳴らしながら胃の中に酒というガソリンを注ぎ込み終えると、酒臭い息を吐き出した。


「すまんすまん、お主らじゃあわしらがどれだけ素晴らしいものを見つけたか理解してもらえなんだわな。……とにかく、転移魔法の技術研究がかなり進んだ、ということだけ理解できればそれでいいわい」

「……なんか、私達馬鹿にされてない?」

「実際魔法に関してはこの老人のが詳しいから何とも言えない」

「で、そこからなぜ僕に声をかけることになったのかな、まさか、わざわざ僕にありがとうって感謝を言う為だけに来たわけじゃないよね?」

「当然じゃろう。そんなことの為に時間を費やすほど暇じゃないわい」


 Aの言葉に赤ら顔でカッカッカッと笑う勝正。

 暇じゃない……長年の研究の功労者といってもいいAにその態度は無いのではと思うも、抗議したところで全く聞きはしないだろうからとウルタールは言葉を飲み込み、代わりににらみつける。


 すべてを見下しているような男だ。服装もそうだが、どうも好きになれない。仮に身ぎれいにされたとしても好きになることは無いだろう。


 だが、次に勝正が言った言葉には、ウルタールですらも興味を抱かずにはいられなかった。


「階層転移魔法の試作魔法(プロトタイプ)が出来た、と言ったらどうする?」

ちょっと週4投稿に切り替えます

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