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ダンジョン配信に憑りつかれた男の娘~何万回死んでも潜り続ける、そこにダンジョンがあるから~  作者: プラン9


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第54話:新しいスキルの使い心地という情報共有

「……A、もう帰ってきたのか?」


 獣のような腕だというのに器用に指でスティックを挟んでフランクフルトを食べながら、ダンジョン帰りのAをチチェロが出迎えた。

 その隣から、弾かれたように飛び出たウルタールが半ば泣きながらAに抱き着いた。


「A! もう! 心配したのよ!?」

「……別にそんな心配しなくてもいいんじゃ」

「配信を見ていたが、あの腕の変形は正直心配になる」


 チチェロの言葉に、Aは「あー」と、変形させた右腕を動かす。

 ウルタールの前に右手を出し、指を動かす。グーとパーを交互に開いて閉じて、手首を回し可動域に問題が無いことを伝えると、ようやくウルタールは安心したのか、力が抜けてへたへたと座り込んだ。


「……手や腕に異常なかったりしないか?」

「うーん……変形終わった後もちょっと痛むかなって感じ」

能力(スキル)発動するとき凄い声あげてたけど……もう大丈夫なの?」

「今はちょっと痛むくらいで……多分大丈夫かな?」


 Aが右腕を揉みながら、あははと笑う。

 ウルタールはその返答に「大丈夫じゃないわよそれ!?」と不安そうな顔になって騒ぎ出すが、その背後でチチェロが一人、Aの腕を見て考え込んでいた。


「どうかしたの?」

「……A、少し手を見せて」


 チチェロに促されるがまま、手を差し出すA。

 手の甲がもふもふの肉球に包まれ、皮膚が少し爪に引っ掛かって少し血が出るが……このくらいは誰も気にしない。

 そのまま手から腕に、とぷにぷにの肉球の手が上がっていく。


 Aの手と腕を、触覚も含めて数分、チチェロは目を凝らす。

 そして、Aの目を真っ直ぐと見ながら、口を開いた。


「二度とあのスキルは使わない方が良い」

「発動するとき馬鹿みたいに痛かったし使うつもりはなかったけど……どういうこと?」

「骨格変形型の強化スキルは使用するたびに元の骨格すらも徐々に変形していく、リスクの高い技。しかもスキルの強度的に、蘇生時も回復しないタイプと見える」

「骨格変形型……?」

「聞いたことのない区分ね」


 聞き慣れないスキルの区分に、Aは思わず聞き返した。

 冒険者を始めてかなり長いAではあるが、全く聞いたことのない名称のスキル区分だ。


 ウルタールもAと同じく聞き慣れない総称だったようで、Aと同期するように首をかしげている。

 まだ地上の人類がそこまで進んでいない、ということに気付いたチチェロが説明のため口を開く。


「骨格そのもの、もしくは含めて変形させるのを代償に威力を飛躍的に向上させられる。……これでも代償が軽い方」

「えっこれで軽い方なの……? 骨と肉全部雑巾搾りしながら折られてるみたいな痛みあったんだけど。しかも手に痺れめっちゃ残ってるんだけど」

「A、もう絶対使っちゃ駄目よ」


 チチェロの説明に、Aは己が手に入れたスキルの恐ろしさにおののく。あきらか一層でお試しにと使っていいようなものではなかった。……性能が不明であった以上、そうしなければどのようなものか理解できなかったので、必要な痛みではあったのだが。


「というか、よく正気でいられたわね……そんな痛み感じて」

「なんだかんだ、死ぬことに慣れていた経験が活きたのかなー? 正直一番痛かったのに比べたらまだ我慢できる範疇ではあったし? こう、爪と指の間に針をぐっと」「やめて聞きたくない!!」


 今まで死んで来たAが自分の経験の中でのベストペイン賞を説明しようとすると、ウルタールは耳を塞いだ。

 ウルタールとて既にベテランの域に達している冒険者ではあるが、死ぬバリエーションはAには遠く及ばない……及ばないというのにAが出してきた話が、想像が容易にできる生々しいものだったので耐えられなくなったのだ。


 実際、食べられたり穴だらけに刺されたりといった死に方よりも、肉を徐々に食べられたり爪をめくられたり歯が砕けたりといった、即死に繋がる訳ではない死に方をした冒険者の方が復帰する速度は遅かったりする。

 即死よりも生きたままのが怖い、というのは全冒険者の共通認識であるのだ。Aは全くそんな素振りを見せたりはしないが。


「全く……で、Aの言うしびれって取れそうなものなのかしら?」

「死んでも不可能。未来永劫付きまとうもの」

「死後も続くってことか……なるほど、厄介な呪いだねぇ」

「もう使わないでよA」

「わかってるって……」


 ウルタールの問いに即座に答えたチチェロの言葉に、Aはぞっとするような気持ちだった。

 呪い、と呼ばれるステータス異常、というより能力(スキル)と言った方が正しいだろうか。大いなる力を得させる代わりに、大いなる代償を与える代物。えてしてそれにより得られる力は大きく、また失うものも大きい。


 Aは、ゴブリンキング相手にスキル『異形の螺旋:奇形黒龍』を使用した際の状況を思い出す。

 倍増という言葉では到底足らない火力の強化。コントロールできない威力。想像を絶する痛み。未だ残る手の痺れ……なるほど、呪いという代償持ちの強化としては妥当も妥当といえる。


「……にしてもA、配信見てたけど移動速度が凄い速くなっていたわよね。それこそ私でも追いつけないくらい」

「そう、神様がアップデートしてくれたみたいで、お陰でソロなら簡単にボス部屋までたどり着くことができるようになったんだけど……」


 そこでAは言葉を濁すようにトーンダウンさせ、はあとため息を吐いた。

 そしてウルタールを見上げ、首をかしげる。


「僕についてこれそう?」


 Aの疑問に、ウルタールは言葉を詰まらせた。

 ダンジョンを一日足らずでボス部屋まで到達させられる速度、なるほど確かに凄まじい。探索効率が大幅に上昇するだろう。


 だがそれが一人だけなら話は別だ。一番遅い者に速度を合わせなければならない、ということはつまり……Aの移動速度がいくら早くなろうが、探索速度にそれほど影響は出ないということ。


「……すでに踏破したダンジョンくらいは最速で駆け抜けたいものだけど、ウルタールの様子を見た感じ難しそうだね。チチェロはどう? ダンジョンを一階層半日くらいの速度で駆け抜けられる?」

「不可能ではないが……移動だけで大きくエネルギーを消耗してしまう」

「んじゃウルタールを背負ったら」

「まず使い物にならなくなる」


 ウルタールはまずAの速度についてこれない。ならばチチェロに運んでもらおうという算段だったのだが、それもご破算となってしまった。

 となるとAの能力変化は、戦闘時以外は完全に死にステータスとなってしまった。そしてダンジョン探索というものは、魔物との戦闘の比率は三割程度といってもいい。それ以外は移動と食事に時間を費やす。


 キャンプ地とする場合の斥候として使えなくはないが、それも探知魔法があるので実用性はほぼ無く、そして戦闘が早くなるとはいえそもそもがAとウルタールのコンビニ愛艇になる魔物なぞ存在せず、つまりはAの能力は完全に死にステータスとなったといっても過言ではない。


「……そろそろ、潜る予定の箇所まで時間をかけずに行けるようになりたいんだけどなあ」

「ならばよい物があるぞぉ、Aくぅん」

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