第51話:生き返ったもの
アンダーナイト、深紅の剣、魔女の一撃……そして、Aチームという誰もが一度は聞いたことのある名の知れたパーティーの連合作戦、同時視聴数100万以上、その配信において飛んだスパチャの額200万以上の超大型配信。
それを見ていた者たちは、画面に映されたAの惨状を目撃した際に、ある者は息を飲んだ。そしてある者達……冒険者やギルド職員といった、死と蘇生に関わる者達は、誰もがそれを嘆いた。
ああ、未来溢れる道を探求する無謀者が一人、戻らなかったと。
死んでも何度も生き返ることのできるが、それはあくまで体の大部分が消滅、欠損していない場合の話。あまりに原形をとどめていないミンチのような状態や、体の80%が失われた状態であれば、その蘇生成功率は格段に下がる。
そしてAの負った負傷、殺された際の損失率は数字にして約87%。肉体の大部分が欠損してしまっている状態。この状態になると蘇生は絶望的だ。
故に、深紅の剣リーダーであるマコトは目を疑った。
ウルタールが恥も外聞もなく抱き着き、チチェロもまた無表情ながら抱きしめているその人物……Aの姿があったからだ。
死体を動かしている訳ではない。二人の頭を撫でる手にはしっかりと温もりがあり、その頬はしっかりと血が通った赤みを帯びている。
「よかった……よがっだよぉ~~~~!! A~~~~!!!!」
「いやなんで生き返ってるんですか!?」
Aが生き返ることができたのはめでたい。追放したとはいえ元パーティー、そして追放後も何度も肩を並べて戦った経験があるから。
だが、それはそれとして……目の前の奇跡を受け入れることができない。
あの破損は、どう考えても、どう見繕ても生き返ることができない破損だったのだから。
「……神様がコインを入れ忘れなかったみたいだねぇ」
「神なんていませんよ……全く」
おちゃらけた様子でそう笑ったAに、マコトはため息を吐いた。
あきらかに異常なのであるが、当の本人はまったく気にした様子が無いからだ。
ウルタールがAに抱き着きながら、マコトの発言に非難の目を向けてきた。「なんで生き返ってるんですか?」がウルタールの忌諱に触れたようだ。
「何よ、Aが生き返ったのに文句あるって言うの?」
「いえいえ、そんな……チカさんじゃあるまいし、思いませんよ。僕にとっても大事な戦友ですから」
ウルタール程度の実力ではどうとでも御せるのだが、争う意思はないと両手を上げておく。
負ける相手ではないのだが、争ってもメリットはない。人気が下がる危険性しかない喧嘩は御免だ。
とはいえ、とマコトは言葉を続ける。
「A、今の貴方の状況は、貴方が思っているより大変なことになっているんですよ」
「……僕の状況が、僕が思ってるより? どういうこと?」
「やはり無自覚でしたか……」
偉業というより異業、ともいえる状態だというのに、Aは全く無頓着。自分に起きた鬼籍に全く興味を持っていない様子だ。
とはいえそれも当然だろう。数多の冒険者を助けてきはしたが、Aはウルタールとチチェロというメンバーが加わるまでの数年間、ずっとソロで活動してきた。
当然、パーティーメンバーが生き返らないという経験をしたことなんて無い。
何よりAは人の命に無頓着な人間である。それは自分も他人も変わらない。誰が死のうが自分が死のうが興味を持たないのがAだ。
どれだけ欠損したら生き返らないかに興味を持つことはない。生き返らない死体を機械的に鬼還の腕輪でギルドへ転送し続けて、生き返るかもしれない死体を送るための腕輪が残っていなかった……なんてことも過去にはあった。
そんな男が、今自信の身に起きている奇跡がどれほどのものなのか、自覚する訳が無かった。
「良いですか。Aの死は今や世界中に知れ渡っている、といっても過言ではありません。そして同時に、あれほど欠損しては生き返らないというのが大勢の主流な見方です」
「えー……大げさじゃない?」
「残念ながら……大げさじゃないのよ」
Aの疑問の言葉を、ウルタールが、マコトの言葉を補強するように否定する。
それでもAは納得いってない様子だが、一端はマコトの言葉を全て聞く体勢に移ったようだ。
マコトが言葉を続ける。
「あのような負傷で生き返った前例はない。冒険者やギルド職員が映像越しに見たとしても無理と判断するくらいの欠損率でした。だのに生き返った……これがただの偶然なのか、はたまたあれ程の欠損をしても生き返るだけの理由があるのか。これは誇張無しに、ダンジョンが誕生し人間が生き返るようになったのと同じくらい世界をひっくり返す発見になるかもしれません。……そして」
「……そういうことね。今回起きたのがただの偶然か、それとも必然に出来るか、それを調べる為にAが拉致され、研究対象とされる可能性がある。……おまけに、チチェロというダンジョン研究者からしたら垂涎ものの生命体もいるもの。科学者からしたら、こんなにも未知に溢れた素材はないわ」
「解剖されるのは面倒」
「嫌って訳じゃないんですね……いやチチェロ君を捕まえられる人間がいるとは思えませんが」
当然のように勝つ口調のチチェロに、マコトは戸惑うも頷くしかなかった。
あのスタンピード掃討作戦の解決を見ていれば嫌でも理解できるからだ。チチェロという存在は、トップレベルの冒険者とも隔絶した強さを持っていると。
そんな存在からすれば、刺客を送られてこようと『勝てない』ではなく『面倒』の一言で片づけられてしまうのだ。
もしチチェロを殺したいのであれば、検体として欲しいのであれば、十三階層のスタンピードレベルの質と物量の集団が必要となる。そんなものは不可能だ。
「とにかく、伝えたいことは伝え終えました。くれぐれも気を付けてくださいね、A。貴方達を欲しがる組織はいくらでもいるのですから」
「気を付けるよ、ありがとねマコト」
「……本当にわかってるんですかね、A」
にっこりと笑いながら頷くAの様子に一抹の不安を抱くマコト。
ウルタールとアイコンタクトで「頼みましたよ」と送るも、何も反応が返ってこないので不安が増すばかり。
まあチチェロがいるし大丈夫だろう、と自分を納得させることにした。
「……そういえば、話はこれだけなの?」
「……あっ、そうですそうです。忘れてました」
そう言ってマコトは急いでスマホを取り出し、アプリを起動させる。
ダンジョン探索冒険者用の口座管理アプリ。アプリ名もわかりやすいようそのまんまの名称になっている。
広告を30秒待ってから、マコトは口座画面から受け渡しを選び、Aのポケットに入っているスマホに向けて送信。
「この前のライブ配信で得られた収益の分配です。結構な額になりましたよ、A」
「おっ、ありがとー!!」




