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ダンジョン配信に憑りつかれた男の娘~何万回死んでも潜り続ける、そこにダンジョンがあるから~  作者: プラン9


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第49話:助からなかった者

 抱えていた借金、蘇生費用を返し終えたひとりの女性、一条奏は一人、ギルドに隣接された食堂で一人、座り尽くしていた。

 向かいの席には誰もいないというのに、焼き魚、ご飯、お味噌汁と、一人分の食事が揃ったトレーがほぼ手つかずの状態で置かれている。


 一条奏、配信者名『カナ』。かつて『百花リトルフラワー』のリーダーを務めていた女性。

 そう、務めて”いた”……今や百花リトルフラワーの姿はもう無い。


 それなりの深度を攻略できていた期待の新星だったが、テッポウムシと飴猿の襲撃、本来ならあの階層にいなかったイレギュラーモンスターの乱入、それらによりパーティーは壊滅した。


 仲間のうち二人、無事に生き残ったメンバー二人は、「もうあのようなものを思い出すのも嫌だ」と、借金を返した瞬間に冒険者の引退を発表。カナは手切れ金として入金された口座残高を見る。


 それなりに奮発したBランク装備であっただけあり、中古品で多少安くなっているというのに数年は働かずに遊んで暮らせるくらいの額。それが二人分、カナの口座に振り込まれている。


 残高ですらも見たくない、思い出したくない……深いトラウマを植え付けてしまったようだ。カナは後悔のため息を吐く。


「……ごめんね、マイ、アリス」


 かつてのパーティーメンバー、マイ。アリス。ハンドルネームしか知らないが、それなりに打ち解けた仲だと思っていた。思っていたのだが……またメンバーを集めてあの階層、十二階層にアタックしたい、と提案した時の恐怖の顔。「あんた、頭おかしいよ」「あんたみたいなのとやっていけない」という言葉が脳内で何度も繰り返し再生される。


 その言葉に、カナは何一つ反論できなかった。


 死んだのはあれが初めてという訳ではない。だが二人もパーティーメンバーが生き返らなかったのは、あれが初めてだ。

 どのような探索をしても鬼還の腕輪を装備しておけば生き返らせてくれる、という驕り。それが最悪な形で牙を剥いたのだった……思えば、犠牲になった内の一人はマイと恋人関係だった、ような気がする。色恋沙汰にはあまり首を突っ込まないと決めていた為うろ覚えではあるが。


「はあー……これからどうしよう。ソロで冒険するのは……Aじゃないしなあ」


 全く口を付けていない、マイが残した定食を自分のおぼんに移し、焼き魚の身をほぐしながらぼやく。


 パーティー壊滅。うち二人は死亡二人は離脱。正直状況は最悪と言ってもいいだろう。カナは自分の事をよく知っている。Aに憧れて死ぬことに多少慣れてはいるものの、低階層だけだろうとAのように単独で潜ることができるような実力も、度胸も持ち合わせていないということを。


 自分がAより先に進むことができたのは、五人のパーティーを組むことが出来たからに他ならない、と。


「魔女の一撃に入る……のは無理よねー。あたし魔法全然使えないし。んじゃアンダーナイト? ……いや流石にあのブラックグループに入るのは……」


 抜けた二人と死んだ二人の事を気に病みながらも、次にどう動くべきかと未来を考える。

 悲しい、悔しいという気持ちはあれども、いつまでもそれを引きずっていては先に進めない。死んだメンバーの事を思うと少し薄情にも見えるが、カナが昔彼氏にフラれた際に学んだ経験則だ。


 考えたって仕方のないものはいったん思考から排除する。これもAの配信から学んだこと。


「……いっそのこと、Aのパーティーに入れてもらう?」


 と気の迷いで口に呟いてみたが、すぐに否定の渇いた笑いが出た。

 アンダーナイト以上に地獄なシフトが自分にこなせるとは決して思えない。あれは、AとAに病的に憧れたウルタールだからこそ成せる頻度なのだ。カナはAに憧れてこそいるが、Aと同じになれるとは微塵も思っていない。


 それに、あのメンバーは全員が全員距離が近すぎる。絶対肉体関係あっただろ三人に。流石にあの中に混ざって適合できる気はしない。


 つまるところ、ソロ冒険者か適当なパーティーに入るくらいしか打つ手なしといった感じだ。

 ため息の代わりに、マイが残した魚の身を食べる。すっかり冷めてしまっている。まるで今のカナの心情を現しているようだ。また気分が落ち込んだ。


「……あたしはこの魚なんだ……」


 そんな弱音が出た。

 ちびちびとマイが残した定食を食べながら、ふとスマホを取り出し開く。チャンネル登録しているAの配信……の関連から飛んで、マコトが代表をして行っている配信。A、マコトとチカちゃん、エリス、そして全体の俯瞰という四窓で展開される、十三階層スタンピード退治の様子。


 あの救出された日以来見る事ができていなかった、Aの配信。


「……やっぱり、Aは凄いなあ」


 Aの画面だけを見ながら、定食を片付けていく。少々マナーは悪いが知った事ではない。神の摂理というマナーを踏みにじっているのが冒険者なのだ、今更そのようなものを気にしてどうする。


 画面には、Aが所せましと動き回り、魔物達をバッタバッタと切り殺していく様子が映されていた。カナが報酬としてあげたロングソードが活躍しているというのに、頬が緩む。


 やがてマイが残した定食を全てたいらげた。流石に二人前を一気に食べるのは、カナにとっては少々キツい。口直しに水を飲む。

 いつの間にか食べるのに夢中になっていた。おぼんにスマホを乗せて配信を見ながら、食器を返却しようと立ち上がった。


 その瞬間……まばゆい光が画面を飲み込んだ。配信では光量がある程度カットされているとはいえ、目が潰れるのではないかという明るさ。轟音。何かが爆発する音。


 やがて光が収まり、画面を見ると……カナはおぼんを落とした。

 皿に残っていた汁が飛び散り、床を広げ汚していく。カナのお気に入りの靴にしみこんでいく。飛び散った汁がズボンを汚す。スマホの画面にひびが入る。


 だがどれも、それどころではなかった。カナにとっては、些事に等しい出来事であった。


「嘘……」


 ズボンが汚れるのも忘れ、その場に座り込むカナ。茫然と見下ろす、割れた画面には……下半身が丸々吹き飛び、内臓を辺り一面に飛び散らせた、体も半身しか残っていない……百花リトルフラワーの生き返らなかったメンバーより悲惨な状態になった、Aの姿が映っていた。

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