第17話:パーティーは最低三人
ギルド食堂にて、チチェロと共にダンジョン鹿のステーキを食べながらAはふと物思いにふける。
「……どうしたものかなー」
チチェロがダンジョンにおいてどれくらい通用するかを試し終えたAであったが、その実力は想像以上のものであった。
正直、Aの見立てではチチェロが加わることで十階層……否、まだ未開拓である十一階層まで潜れるだけの実力はあるだろう。
だが難点がある。ダンジョン協会、冒険者ギルドによるギルド規約。七階層以降に潜る場合、最低でも三人のグループを作るべし。これを遵守しなければ、ギルドポイントは没収されギルド生活を送れなくなってしまう。
「……どうした?」
「ちょーっと、今後の身の振り方をちょっと考えててねー」
先の見通しがつかない。未開拓のマップを埋めるのもいいが、浅い階層でずっと探索し続けるというのもAのモチベーション安定上あまりよろしくない。
だが深い階層に潜るということはイコール死ぬ危険性が高まるということの証左でもある。
そんな死の恐怖を味わう危険を承知で潜ってくれる者というのは、相当な変わり者だ。
そしてダンジョンの奥深くまで潜りたい、神秘を究明したいという変わり者の冒険者は、既に上位パーティーに籍を置いているのが現状だ。
つまりは、Aのような少数かつ出遅れたパーティーに入ってくれるような人材は残っていないのだ。
「深く潜るにはどうすればいいか。うぅん……戦力的にはこれで十分なんだけど、できれば死んでもそこまで引きずらない人……」
「……おい、A」
暗雲立ち込める計画に頭を悩ませているAに、チチェロがダンジョン鹿のステーキをフォークで刺して差し出す。
Aはごく当然のように、チチェロから差し出されたステーキを食べた。
野生動物である為やはり硬く、弾力がある。噛むたびに味が染み出る。しっかりと熟成された味だ。
「必ず三人以上必要なのか?」
「まあね……ギルドの規約上、こればっかりは守らなきゃいけないから。そうでないと食いっぱぐれちゃう」
ごくりとAが飲み込んだところで、チチェロが訪ねてきた疑問に答える。
冒険者の安全性を考慮して、新人冒険者が突貫で深い階層に潜らないようにという処置である。七層以降はソロや少人数で潜った場合、まず確実に死ぬと言われている。
「それに、見張りがいないと帰還も睡眠も取れないしね」
現に、転送罠を踏んで深い階層に潜ることを至上とするサークル『もぐもぐダンジョン隊』は深い階層に潜る度に死ぬのならまだしも、メンバーがしょっちゅう行方不明となっている。
鬼還の腕輪を付けていた腕が斬られたり、食べられたりといったもので……その約四割は、就寝時に襲撃してきた魔物によるものだ。
見張りさえいれば防げた自体が、小人数では防ぐことは難しい……一人の場合は絶対不可能、ということでこういった処置を取られてしまっているのだ。
「なら早く新しいメンバーを見つけて入れてしまえばいい。数さえ揃えば、七層以降の探索もひとまずは問題ないのだろう?」
「そうなんだけどねえ……問題は僕が僕だってこと」
チチェロがの言葉に、Aがため息を吐いて首を振った。
チチェロの言うように、新しいメンバーを雇うのが急務なのであるが……問題は、AがAだということだ。
当然のように、息をするように死に、そしてあまり間を置かず再度探索に向かう。Aは既に死ぬことはイコールトイレに行くようなものくらい死ぬ感覚に慣れてしまっているのだが、これは他の冒険者から見たら狂気の沙汰に他ならない。
当然、一度死んだら恐ろしさのあまり探索が怖くなる……というのが普通の冒険者の感覚である、というのはAもよく知っているが、それはそれとして合わせようとは全く思わないのである。何故ならこっちの方が効率がいいから。
「要するに、Aと同じように死んでも気にしない、頭のおかしい冒険者が必要ということか」
「流石に僕と同じくらいの人はいないと思うけどね」
「普通の冒険者は、一度死んだらどのくらいの感覚を空けるものなのだ?」
「一週間くらいかな? 一週間ってのは七日のことね」
「七日か、長いな」
チチェロの返答に、Aは満面の笑みを浮かべながら一口サイズに切り分けたステーキを食べた。
A好みの返答、A好みの思考。そしてとてつもなく強い。このような最良物件を取り込むことができた、というのは大金はたいたかいがあったというもの。なんならお釣りすら来るレベルだ。
七階層に行けないのは少々消化不良な感じだが、六階層までの探索が安全になるだけでもかなり大きな利益を上げられる。とりあえずは、消えた貯金分くらいは稼いでおきたいところだ。
「……そういえば、チチェロは死んで生き返ることに慣れてるの?」
「まあな。そういった実験に使うのも被検体の仕事だし」
「被検体?」
「スラムの子供の事だ。魔物合成実験に使える労働力とならない人間もそう多くは無い、スラムの人口を減らし過ぎても全員の生活に支障が出る為、再利用をしなければならなかった」
「ふーん……大変だったんだねぇ」
Aとチチェロの周囲に座っていた冒険者達は「もうちょい感想あるだろ!!」とツッコミたかったが、その気持ちを食事と共に飲み込んだ。つい言いたくなるくらい、チチェロの過去を聞いたAの反応は軽い、淡泊なものだったからだ。
Aとしてはチチェロの過去に興味を持っていない。スラム街、と言った事からスラムっぽい街の階層があったら案内をお願いしよう、と記憶に書き記したくらいなものだ。
チチェロも特に気にしていないのか、食事が再開される。
ステーキを噛む音。ステーキを切る音、ステーキを刺す音だけが鳴る。
やがてステーキの副菜にフォークを刺した瞬間、一人の女性がAとチチェロの席へ座った。
「相席良い?」
「どうぞ」
「構わない」
「ありがと」
座っても尚視界を隠してしまうほど大きい黒の帽子、その下に覗くはふわり、というよりぼさりとした黒い髪に、長い前髪から覗く赤い切れ長の瞳が特徴的の女性だった。
メニューはA定食。味付けが馬鹿みたいに薄い、チチェロが食べようとは思わないメニューだ。
「……もっといいものあるのに」
「ダイエットには最適なのよ、この定食って」
「ダイエットじゃなくて探索者の身体づくりの為の食事なんだけど……」
「それ目的だと気力が補給できないわね」
Aのぼやきにクスクスと笑いながら、言葉を返す。チチェロはその言葉にうんうん頷いていた。味方がいないようでAは降参のポーズを取った。
ひとしきり笑った後、女性はフォークを手に取り、塩コショウでシンプルに味付けされたサラダチキンを一口サイズに切り分けていく。
全部のチキンを切り分け、副菜のブロッコリーも小さく切り分け、チキンの上に乗せ一緒に突き刺す。
女性がチキンとブロッコリーを一緒に口に入れ、飲み込んだ瞬間、Aは疑問を投げかけた。
「で、なんでまた僕たちの席に? 空いてる席なんて他にもいっぱいあるでしょ?」
「話がしたいから、ってのと……そうねぇ」
女性はチキン、ブロッコリー、そしてミニトマトをフォークで突き刺し、黒い口紅を弧に歪ませて言った。
「あなた達の仲間になりたいから、かしら?」




