第9話「再会、そしてプロポーズ」
――日曜の昼、都内・静かな住宅街の一角。
「本日休業」の札がぶら下がる玄関先で、ふたりの影が並んでいた。
「これって……何か月ぶりの“完全オフ”?」
「うん。朝まで寝られるだけで幸せだよね……」
安川姉妹。
かつては同じ部屋で眠り、同じ時間に朝ごはんを食べていた。
いつからか、家は「交差点」になり、ふたりはすれ違っていた。
今日はようやく訪れた、ふたりだけの休日だった。
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■Scene1:昼下がりの食卓
理恵が中華鍋でチャーハンを炒め、知恵はダイニングテーブルで野菜を切っていた。
「……なんかさ」
「ん?」
「今が一番、“姉妹やってる”って気がする。
お互い、ちゃんと一人で頑張っててさ。でも、ちゃんと戻れる場所もある」
知恵は少しだけ笑った。
「理恵がセンターになる日が来るなんて、想像してなかったな。
……私が最初の“選抜落ち”で泣いてたとき、あんた後ろから背中さすってくれたの、覚えてる?」
「……覚えてるよ。
“お姉ちゃんが泣くなら、みんな泣いていいんだ”って思った」
「でも今はもう、泣かないよ」
そう言って知恵は、冷蔵庫から小さな箱を取り出す。
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■Scene2:ふたりだけのプロポーズ
「……え? それ、何?」
「ちょっと待って。開けるね」
理恵の前に置かれたのは、小さな指輪ケース。
中には、シンプルなプラチナリングがひとつ。
「これ……」
「理恵じゃないよ。……私、自分に“プロポーズ”するの。
“私は一生、麻雀と生きていく”って。
誰かのためじゃなく、自分のために――やっと言えるから」
理恵は一瞬、驚いた表情を浮かべた後、頷いた。
「……かっこいいね、それ。
じゃあ私も、ちゃんと自分に言おうかな。
“私は、私の夢をちゃんと叶える”って」
ふたりは同時に、指を軽く合わせて小さな拍手をした。
「……お姉ちゃんの人生に、また惚れ直したかも」
「私も。あんたの強さ、ちゃんとわかった気がするよ」
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■Scene3:夜、父と母からの手紙
夜。
ふたりで片づけをしていると、実家からの郵便が届く。
中には、父・誠二と母からの手紙。
「お前たち姉妹がそれぞれの場所で頑張ってること、
ちゃんと地元でも噂になってるよ。
プロ雀士とセンター――安川の名前を誇らしく思う。
無理せず、でも誇りを忘れずに」
そこには、理恵が幼いころ書いた似顔絵も同封されていた。
知恵は微笑みながら言った。
「……ねぇ、理恵。
いつか、実家の近くで“姉妹対談”とか、やってみる?」
「いいね。青森でも“スター姉妹”って言われたいかも」
ふたりは久々に、声を上げて笑い合った。
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■ラストシーン:夜の窓辺、未来へ
ベランダに出たふたりは、夜風に髪をなびかせながら空を見上げた。
「お姉ちゃん、次の試合いつ?」
「来月、名古屋。でもその前に……あんたのライブ、観に行くから」
「え……ステージ、見に来てくれるの?」
「もちろん。“あんたの夢が叶う瞬間”は、私の目で見なきゃ」
理恵は照れながらも、真剣に頷いた。
「じゃあ、最高のセンター姿、見せるよ」
知恵も、真っすぐに答えた。
「こっちも、最高の勝ち方、見せる」
空に並ぶふたつの星のように――
ふたりの夢は、確かに交差していた。