第8話「メディアと静寂、姉妹の距離」
――ある朝。
知恵が目覚めると、キッチンには理恵の置き手紙があった。
「朝イチでテレビ収録、夜はトーク番組の打ち合わせ。
ごはんは冷蔵庫に入ってるね!行ってきます」
(……最近、会話してないかも)
理恵の写真集は発売初週で5万部突破。
GRT史上初の“ソロ・ナチュラルグラビア”として話題となり、各誌から取材が殺到していた。
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■Scene1:知恵に届いた“CM契約書”
その日、知恵のもとに大手食品会社から「キムチ」のCM出演オファーが届く。
テーマは“勝負めし”。彼女の強さと美しさを活かした企画だった。
「安川さん、あの勝負の後の表情がすごく反響ありまして。
“気迫の瞳”って、SNSでトレンドになったんですよ」
だが知恵は一瞬、表情を曇らせた。
「……私、麻雀以外で“映る顔”にまだ自信ないんです」
マネージャーは答える。
「その言葉すら、“芯がある”ってことです。
でも、無理にとは言いません。じっくり考えてください」
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■Scene2:理恵、収録現場にて
テレビ局のバラエティ番組。
「センターとしての重圧って、ありますか?」
理恵は笑顔で答えた。
「“居場所を守る”っていうより、“意味をつくる”ことが一番大事かなって。
私がここに立ってる理由を、ちゃんと毎回見せたいんです」
共演者から拍手が起きた。
その様子が翌日、ワイドショーに取り上げられ、
『コメント力すごい』『芯の強さが顔に出てる』とSNSで話題に。
だが、理恵は帰宅後ひとり、鏡を見つめていた。
「……ちゃんと“自分”で話せてるのかな」
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■Scene3:姉妹のすれ違い
夜23時すぎ。
理恵が帰宅すると、知恵は既に眠っていた。
一方、知恵が夜食を温めながら、ふとカレンダーを見る。
(……明日、理恵の新CM発表会見か)
「会いたいって思っても、忙しさに流されるんだよね、こういうのって」
言葉に出しても、返事はない。
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■Scene4:静かな朝、交わらぬ時間
次の日の朝。
珍しく知恵が早起きし、朝食を用意した。
だが、理恵は収録のために早朝に家を出ていた。
テーブルの上には、理恵の走り書きメモ。
「ごはんありがとう!帰ったら食べるね!」
知恵は小さく笑い、スマホでメッセージを送る。
「一緒にごはん食べる時間、またつくろうね。
たまには、麻雀もやろ」
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■ラストシーン:インタビュー記事、それぞれの言葉
その週、ふたりそれぞれのインタビュー記事が公開された。
◇知恵の記事(プロ雀士専門誌):
「勝った後こそ、静かでいい。勝負の世界は、“うるさい言葉”がないほうが冴えるから」
◇理恵の記事(エンタメ週刊誌):
「今の私は、ステージの光を借りて生きてる。
でも、いつかは“光をつくる人”になりたい」
ふたりの名前は、別々のジャンルで輝き始めていた。
交わらぬ時間のなかで、それでも確かに“つながっている”姉妹として。