第7話「二つの決戦、交差する運命」
――3月中旬、朝。
安川姉妹は、それぞれの荷物を持って、玄関で立ち止まった。
「京都、行ってくるね。……今回は“マネージャーの姉”は置いてくから」
「私も、決勝行ってくる。……“妹の応援”は、ちょっと遠くでしてて」
目を合わせ、拳を軽く合わせて笑うふたり。
それはいつかの握手会よりも、ずっと強い「約束」だった。
•
■Scene1:知恵、タイトル戦決勝の舞台へ
全国タイトル戦・決勝会場。
対局は四人打ち、全16局・完全実況付きで全国配信される。
対戦者には、かつて「知恵が憧れた」伝説の女流雀士・藤原麗子の名も。
実況スレッドは開幕前から爆発していた。
「元アイドルVS伝説雀士!?」
「今日で決まる、今年の顔」
「安川知恵、マジでここまで来たか…」
知恵は席に着くと、ゆっくり牌に手を添えた。
(もう誰の影でもない。私は、私として打つ)
•
■Scene2:理恵、京都の静かな風景
その頃――京都・嵐山。
理恵は白無垢風の衣装を着て、古民家で撮影に臨んでいた。
今回は“和と凛”をテーマにした、初のソロ写真集。
「理恵さん、もう少し肩を落として。目線は…そう、遠くを」
カメラマンの声に、彼女はしっかり応えた。
かつての“人の後ろに立っていた自分”は、もういない。
「今日、知恵ちゃん決勝だね」
「理恵ちゃんも、顔つき変わってきた」
「この姉妹、ほんとに強い」
SNSには、撮影中に公開されたメイキング映像の告知が出回り始め、瞬く間にトレンド入り。
•
■Scene3:決勝、知恵の読みの極地
南二局。
知恵は、二位をキープしつつも配牌に苦しんでいた。
(無理に攻めれば、相手に流れが渡る。でも……)
ここで彼女は“見”を選ぶ――敢えて勝負を避け、他家に自滅を促す戦略。
結果、場を流し、ラス目の選手が親を飛ばされる。
この瞬間、実況席がざわめく。
「これ……知恵ちゃん、流れを“止めた”んですよ。
勝負を“動かさない”ことで勝つ。……これが、彼女の強さです」
•
■Scene4:理恵の“強さ”の表現
午後の撮影、舞台は祇園の町並みへ。
淡い桜色の振袖に着替えた理恵が、ゆっくりと路地を歩く。
通りすがりの観光客が彼女に気づき、振り返る。
「……あの子、GRTの……」
理恵は微笑むだけで、真っ直ぐカメラに目線を向けた。
(お姉ちゃんが“目の前の勝負”に向き合ってるなら、
私は“未来の夢”を切り開く表情を見せなきゃ)
•
■Scene5:勝利、そして同時の到着
対局終了。
結果――安川知恵、全国タイトル初優勝。
拍手が鳴り止まない配信スタジオの中、知恵は深く息を吐き、天井を見上げた。
「……やっと、ここまで来た」
その頃――京都駅。
理恵の写真集撮影が終わり、帰京のため新幹線に乗る。
車内のモニターに偶然、速報が映る。
《安川知恵、全国タイトル優勝。プロ雀士5年目の快挙》
理恵の目に涙が浮かぶ。
「……お姉ちゃん、おめでとう」
•
■ラストシーン:帰宅、ふたりの勝者
夜、玄関。
先に帰宅していた知恵が、ソファでうたた寝している。
理恵は、そっと写真集の見本をリビングに置く。
知恵のスマホが鳴る。
目を覚ました彼女が見ると、妹からのメッセージ。
「私も、“光”になれたと思う。
次は、ふたりで“同じ舞台”に立ちたいね」
知恵は笑って、返信を打った。
「次の勝負は、どこにする? 卓上? ステージ?」