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『人気アイドル雀士』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
『人気アイドル雀士 ―交錯する夢と牌の道―』
2/35

第0話「姉妹と、麻雀牌と、あの過去」


シーズン1スタートです。




部屋には、麻雀牌の乾いた音が響いていた。

夜の帳が下りた東京の片隅、築40年の小さなマンションの一室。

テーブルの上には、夕食の残りと、知恵がこしらえた鯖の味噌煮。

そして、その横に――電子麻雀卓。


「また……お姉ちゃんのツモ勝ち。ずるいってば」


「ずるいじゃなくて、読みが甘いのよ。まだまだだな、理恵」


姉の知恵が涼しい顔で言い放つと、妹の理恵は頬を膨らませて座布団に寝転がる。


この家は、ふたりの“秘密基地”だった。

両親は青森に住んでおり、今はプロを引退して静かな暮らし。

東京にいるのは、GRT48の現役アイドルとして活動する妹・理恵と、そのマネージャー兼姉・知恵のふたりだけ。


「ねえ、お姉ちゃん。やっぱりさ、もう一回ステージ……戻る気はないの?」


知恵はその言葉に、箸を止めた。


アイドルだった頃の記憶。

ステージに立ち、ファンの歓声を浴びていた日々。

でも、あの世界は華やかであると同時に、残酷だった。


「……戻る理由、あんまりないでしょ。今は理恵が輝いてるから」


「でも、お姉ちゃん……アイドル辞めた後も、麻雀ではずっとすごいんだよ?『人気アイドル雀士』って、今でも呼ばれてるし」


「“過去の呼び名”だよ」


静かに笑いながら、知恵は牌を片付け始めた。


だが、心の奥ではわかっていた。

麻雀卓の上では、まだ自分は負けていない。

どんな勝負でも、「大切な人を守る」ために戦える。

――それが、彼女の生き方だった。


その夜。

部屋の窓から見える夜景を、姉妹は並んで眺めていた。


「……今度、GRTの新曲イベントがあるんだけどさ。ゲストに“アイドル経験者でプロ雀士”の人呼びたいって、運営が言ってて」


「……それ、私でしょ」


「うん。だから、ちょっと……もう一回だけ、ステージに立ってほしいな」


しばらく沈黙が続いたあと、知恵はひとことだけ答えた。


「……考えておく」


この夜、静かに刻まれた“新たな勝負”の始まり。

それは、彼女がもう一度“名前”を取り戻す物語の予感だった――。


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