第6話「覚醒のセンター、勝負の準決勝」
――2025年春。日本武道館。
ステージ袖に立つ安川理恵。
5万人を超える観客が客席を埋め尽くし、開演前のざわめきが天井を震わせていた。
理恵は深呼吸を繰り返しながら、衣装の裾を握りしめた。
過去にセンターを辞退し、涙を流した場所――
今日は、堂々とその“真ん中”に立つために来た。
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■Scene1:一方その頃――準決勝の対局卓上
同時刻。都内・麻雀スタジオ。
全国タイトル戦準決勝。
安川知恵の対局相手は、昨年の王者・広瀬俊真。
「元アイドル雀士が、ここまで来るとはね」
「プロになって5年です。アイドルは、5年前に辞めました」
そう言い放った知恵の目に、迷いはなかった。
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■Scene2:武道館ライブ、開演
「それでは――GRT48、武道館スペシャルライブ! 開演です!」
爆音とともに幕が上がり、スポットライトがセンターに射す。
その中央に立つのは、理恵。
白と青を基調にした衣装が、揺れる。
1曲目『鼓動のフラッシュライト』。
力強いビートに合わせ、センターが一歩前へ出る。
(逃げない。怖くても、歌う。
だって、“私を見てる人”がいるから)
客席のペンライトが、理恵の動きに呼応して揺れた。
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■Scene3:準決勝、知恵の一打
南二局、広瀬がリーチ。
河には目立った危険牌がないが――
(これは、ダマテンで誘ってきてる。しかも、私の打点読みを逆手に取ってる)
知恵は“逆読み”をかけた。
――通ってない中張牌。
読みを信じて、切る。
瞬間、広瀬が言った。
「……チー」
(引っかけてきたな)
が、そこから広瀬の手は崩れ、知恵が鳴きを挟んでテンパイへ持ち込む。
「ロン。8000点」
実況席の女流雀士・坂上瑠衣が言う。
「これは凄い。“相手の信頼感”を崩す読み打ち。
安川知恵、間違いなく“今年の主役”候補ですね」
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■Scene4:武道館、理恵の覚醒
アンコール曲前。
理恵の目には涙が浮かんでいた。
(今なら言える。私、センターになってよかったって)
最終曲『未来へ、走れ』。
サビでマイクを手放し、生歌で叫んだ。
「ありがとう!!」
その声に、観客が総立ちになる。
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■Scene5:勝利と、誓い
準決勝終了。
知恵、トップ通過。決勝進出決定。
控室のスマホに、事務所マネージャーから連絡。
「理恵ちゃん、ライブ大成功。
アーカイブ配信で泣いてるファン、続出だって!」
知恵は笑いながら、返信を打った。
「私も、対局で泣かせたわ。多分、広瀬さんをね」
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■ラストシーン:帰宅後、ふたり
夜のマンション。
ライブ後で声が枯れた理恵と、静かな余韻に浸る知恵が並んで座る。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「私ね、もう“あんたの妹”って呼ばれても平気。
だって今は、自分の足で立ててるから」
知恵はゆっくりと頷いた。
「そして私も、“理恵の姉”って言われても嬉しい。
……あんたのこと、誇らしいよ」