第5話「センターの重圧、卓上の孤独」
――深夜。都内のマンション。
理恵は、事務所から届けられたファンレターの束をソファに広げていた。
その中に、一通だけ封筒が異質なものがあった。
宛名も署名もない。
恐る恐る開いたその中には――
「センターなんか向いてない」
「お姉ちゃんの七光りだけで前に出るな」
「GRTの顔を汚すな」
打ち込まれた文字と、乱暴に書かれた落書き。
理恵の手が震える。
(……どうして?)
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■Scene1:知恵、スポンサー打診の場で
その頃、知恵は都内の制作会社にいた。
全国タイトル戦の活躍を受けて、映像化・番組タイアップの企画が動き始めていた。
「実力は申し分ありません。ただ……視聴率と数字を取るには、
“かつてのアイドル”という肩書きも、積極的に押し出したい」
そう話す広告代理店の男に、知恵ははっきりと言った。
「それは過去です。今はプロ雀士として勝負しています。
“アイドルの看板”に戻る気はありません」
会議室が静まり返る。
だがプロデューサーが口を開いた。
「……いいですね。芯がある。
“打ち筋と人間味”、両方持ってる雀士は希少です」
知恵は静かに頭を下げた。
(私は、私の打ち方で認めてもらう)
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■Scene2:理恵、姉に打ち明ける
帰宅後、ソファに座る知恵に、理恵がおずおずと差し出した封筒。
「……見たくないならいい。
でも、読んでほしくて。お姉ちゃんが見たら、どう思うのか」
知恵は無言で手紙を読み終えた。
数秒の沈黙の後、口を開く。
「……悔しいよね」
理恵の目が潤む。
「うん。でも一番悔しいのは、
“あたしが読んで泣いたこと”だと思った」
知恵は静かに、妹の肩に手を置く。
「私も昔、SNSで言われた。“顔だけ”とか“踊れないのに前に出るな”とか。
でも、そういう言葉って、“見てるから出てくる”んだよ」
「見てるから、出てくる……?」
「そう。目に入るから、言いたくなる。
それって、逆に言えば“届いてる証拠”。
あとは、何に届くか――“好き”に届くか、“憎しみ”に届くか、それだけ」
理恵は小さく笑って、姉に頭を預けた。
「お姉ちゃん、すごいな。全部わかってる感じ」
「違うよ。……あたしも、“泣きながら覚えた”だけ」
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■Scene3:ネットの声、そして光
SNSでは、あるファンのポストが拡散されていた。
「理恵ちゃん、今日も笑顔でステージ立ってたけど……
あの子、たぶんすごくがんばってると思うんだよね。
“姉が有名だから”じゃなくて、“自分も負けないように”って」
それに対し、GRTメンバーや他のファンが続々と返信。
「あの子の真剣なダンス、私も大好き」
「誰かの光になれるなら、きっと大丈夫」
「理恵、君は君のままでいい」
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■ラストシーン:夜の卓上
その夜、久々にふたりで麻雀を打つ姉妹。
「負けた方が、晩ごはん作りね!」
「え、じゃあ今日は“プロ雀士”として打つよ?」
牌を配りながら、知恵がふと呟く。
「……あの手紙のこと、もう気にしてない?」
「うん。だって、私にはお姉ちゃんがいるし。
それに、あたしも少しずつ、“自分の言葉”で返せるようになりたいから」
知恵は微笑む。
「じゃあ今日はその練習だ。“牌”で返してきな」