第4話「表紙と本戦、二人の光」
――ある朝。
理恵はいつものようにマネージャーの知恵と朝食を取っていた。
テレビには自身が出演した音楽番組の再放送が映る。
「……お姉ちゃん、実はね……今日、これが発売されるの」
そう言って理恵が差し出したのは――
週刊ガールズグラビア誌『Flash Pure』の最新号。
その表紙に写っていたのは、
鮮やかな春色の衣装に身を包んだ、妹・安川理恵。
《センター就任記念グラビア! GRT48 安川理恵 単独表紙》
知恵は数秒、黙ったまま見つめてから、ぽつりとつぶやいた。
「……あんた、本当に“センターの顔”になったんだね」
理恵は照れたように笑う。
「でも、いつも私の中には“マネージャーのお姉ちゃん”がいるから、
気が抜けないんだよ? 見られてる気がして」
知恵はコーヒーをひとくち飲んで微笑んだ。
「なら今日は、マネージャーじゃなく“ライバル”として見るわよ。
私、本戦出場かけて打ってくるから」
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■Scene1:本戦ブロック決勝――対局開始
本戦進出をかけた最後の対局。
対戦相手は、昨年のベスト4に残った元女流タイトルホルダー・瀬川麻耶。
「また“アイドル雀士”と当たるとはね……名前だけじゃないって、証明してくれる?」
「“名前”で勝ってないから、ここにいるんです」
静かに卓に着いた知恵は、呼吸を整えた。
(勝つ。今度こそ、“実力だけ”で)
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■Scene2:ファンとネットの熱狂
SNS上には、またも熱が戻る。
「えっ、姉が本戦進出かけてるって!?」
「妹は表紙で姉は麻雀、ほんとにスゴい姉妹」
「推しててよかった……安川姉妹、時代来たぞ」
麻雀配信サイトでは実況スレッドが1万コメントを超え、
ファンの間でも“この日だけは両方見たい”とトレンド入り。
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■Scene3:南場、女流VSアイドル雀士
南三局。
点差はわずか――瀬川が微差でリード。
知恵はリーチ棒1本を前に置き、手牌を整える。
(この一局、決めにいく)
役は純チャン三色。
難度は高いが、場に見せ牌は少なく、勝負手になる。
ツモ――「5萬」。
その瞬間、和了。
「ツモ。満貫、3000・6000です」
逆転トップ。
瀬川が小さく肩をすくめる。
「あなた……麻雀の顔になれるかもしれないね。
見くびってごめんなさい」
知恵は一礼しながら答えた。
「いえ。そう言ってもらえるのが、一番嬉しいです」
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■Scene4:姉妹の帰り道
夜、マンションの玄関。
知恵が玄関を開けると、ソファで雑誌を見ながら寝てしまった理恵の姿。
(あんた……自分の表紙、どれだけ見てるのよ)
そっと毛布をかけて、知恵も横に座る。
そしてスマホを開き、自分の対局のアーカイブ映像を再生した。
その視聴ページに、こんなコメントがついていた。
「安川知恵――ただのアイドル雀士じゃない。“魅せる雀士”だ」
「表紙の妹、卓上の姉。今、一番眩しいふたり」
知恵は、妹の寝顔を見ながら小さく笑った。
「……あんたに負けないくらい、輝いてやる」