第3話「センターの決意、舞台袖の涙」
――GRT48 音楽番組出演当日。
テレビ局の第3スタジオ。
舞台袖、理恵は自分の胸に手を当てていた。
(大丈夫。私は……“このポジション”を受け取ったんだ)
数十人のメンバーの中心。照明の真下に立つ覚悟。
それは、夢のようで――現実でもあった。
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■Scene1:リハーサルでの“つまずき”
「はい、Bメロ入ります。理恵さん、そのままセンターキープで」
ダンスのフォーメーションが変わり、センターで歌いながらターンする振り付け。
理恵の足が、わずかにもつれた。
その瞬間、左足首に“ピキッ”という痛み。
「……っ!」
(やばい、これ……)
スタッフが駆け寄る。
「大丈夫ですか? 一旦座りましょう」
理恵は笑顔で首を振った。
「大丈夫です。たぶん、緊張でバランス崩しただけなので……もう一度お願いします」
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■Scene2:知恵の対局、精密な“3段構え”
同時刻、都内雀荘スタジオ――全国タイトル戦 予選ブロック2回戦。
東三局、知恵は3巡目テンパイ。
待ちは「2-5索」。
相手の捨て牌に2索が一枚、5索は山に3枚残っていると読んだ。
だが、あえて即リーチをかけない。
(ここは、“泳がせる”)
その読みは的中し、8巡目。相手の中堅雀士・山岡が不用意に5索を切る。
「ロン。2600」
この一局、知恵の真意は“リズムの支配”にあった。
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■戦術解説:
知恵はこの対局で「三段構え」の戦術を採っていた。
1)第1段:速攻系テンパイで流れを掴む(3巡目テンパイ)
→ あえてリーチを避けて警戒心を逸らす。
2)第2段:相手の打ち筋を崩す“手変わり”待ち
→ 相手の焦りを誘い、狙い牌を打たせる。
3)第3段:牌譜では読めない“人間の癖”を読む
→ 足を組み替える癖、ツモ切りのタイミング、手を組む速さなどを判断材料に。
プロ雀士・坂上瑠衣が実況席で解説する。
「知恵ちゃんの麻雀は、“理論8割・感覚2割”じゃないんです。
“理論4割・相手6割”。つまり、“読み”じゃなく“対話”なんですよ」
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■Scene3:SNS、舞台裏の熱狂
番組が生放送で始まる。
理恵の初センター披露曲『夜明けフラッシュ』。
スタジオの照明が落ち、イントロが流れ出す。
カメラがセンターに寄る。
“あの日、センターを辞退した少女”――今、そこに立っている。
SNSは瞬時にざわつく。
「あれ、センター理恵じゃない!?」
「え、えぐ…表情完璧。キラキラしてる」
「前回辞退した子だよね?泣きそうなんだけど」
その中に、知恵の公式アカウントからのリポストが表示される。
「全力の妹、見てください。
ステージって、誰かの未来になるって信じてるから」
―@chie_yasukawa
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■Scene4:理恵の涙、でも止まらない
Cメロ、両手を広げて一歩前に出るフォーメーション。
(痛い。でも、笑って)
痛む足首をかばいながら、それでも前へ進む。
目線をカメラに合わせて、最後の決めポーズ――
その瞬間、観客席からの大きな歓声。
パフォーマンス終了と同時に、理恵の頬に一筋の涙がこぼれた。
(……私、ここに立ってよかった)
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■ラスト:モニター越しの姉妹
休憩中の控室。
対局の合間にスマホで妹のパフォーマンスを観ていた知恵は、
思わず笑っていた。
「……バカね。
でも、ほんとに――綺麗だったよ、あんた」