第9話「理恵の涙、舞台裏の姉妹」
――同日、夜。
GRT48の定期公演ステージ裏。
控室では、アンコールを終えたばかりのメンバーたちが歓声の余韻に包まれていた。
「理恵、お疲れ〜!センター、すごく良かったよ!」
「えへへ、ありがとう。でもちょっとミスっちゃったかも…」
笑顔で返す理恵だったが、笑みはどこかぎこちない。
それを察した先輩のメンバーが、少し心配そうに見つめていた。
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公演終了後、深夜0時を回った頃。
都内のマンションに帰宅した理恵は、ドアを開けた瞬間、
リビングに座っていた姉――知恵の姿を見つけた。
「……おかえり」
「……お姉ちゃん……」
その声を聞いた途端、理恵は――
膝から崩れ落ちた。
「うぇっ……ぐすっ……っぅ、やだ……もう、むり、なの……」
抑えていた感情が、一気に溢れ出す。
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■Scene:姉妹の夜
「……理恵?」
「……今日、ステージで足を滑らせちゃって。
笑顔でごまかしたけど、ファンの掲示板で叩かれてる。
『なにこのドジ』『もう下がって』『姉のコネでセンターかよ』って……っ」
知恵は静かに、妹の手を取った。
「……言ってくれればよかったのに」
「……だって、お姉ちゃんは昇段戦だったでしょ?
あんなに大事な日だったのに、私なんかのことで……」
「“私なんか”って、言わないで」
その言葉が、少し強くなった。
「私が麻雀を本気でやってるのはね、
理恵がいつも笑って、“頑張ってるから”なんだよ。
妹としてじゃなくて、“一人のアイドル”として。
あなたが一生懸命やってるの、私は誰よりも知ってる」
理恵は、その言葉に、ただただ泣きながら頷いた。
「……苦しいんだよ、ほんとは。
毎日キラキラしてなきゃいけないし、
歌もダンスも、自分の魅せ方も、全部“数字”で見られる。
でも……負けたくないの。お姉ちゃんにも、ファンにも、自分にも」
知恵は、妹を優しく抱き寄せた。
「なら、泣いていいよ。
泣いたって、明日も“ステージ”はある。
……それって、“麻雀”と同じだよ」
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翌朝――
理恵は目を腫らしながらも、
いつも通りの時間に起きて、アイロンをかけた制服衣装を手に取った。
そしてリビングで朝食を食べる知恵に、少しだけ照れくさそうに言った。
「……私、もうちょっと、粘ってみる。
たとえ次の選抜に落ちても、“理恵は理恵”で勝負する」
「うん。それでいい。
私も、“知恵は知恵”で戦うから」
姉妹は、小さく拳を合わせた。
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■ラストシーン
その夜。
理恵のステージ写真が、公式SNSに投稿された。
センターで微笑むその表情には――
泣いた後の、確かな強さがにじんでいた。
そしてコメント欄の一角に、
こんなメッセージがひっそりと寄せられていた。
「妹さん、素敵ですね。きっと、いい家族に支えられてるんだろうな」
――坂上瑠衣