連合軍の企み
オルキの宣戦布告とも取れる発言に、その場の空気が一瞬で凍り付いた。動じていないのはオルキ国の2人と1匹のみ。
「お、オルキ国王?」
「参戦するとなれば、我々は貴国と交流を持つわけにいかないのですが」
「参戦? 何を言っておる。我が国はもうとっくの昔に連合軍の侵攻を受けておるのだ。奴らは深夜に武器を持ち島に忍び込み、国民を危険に晒したのだぞ」
「ついこの間も、連合軍はオルキ国に砲撃を加えました。レノンもメインランドも良く知っているはずです」
「それは、そうですが」
「フェイン王国奪還はあくまでもついでだ。我々は侵攻を受け多分の怨を返したまで。今回の侵攻についても我々はまだ侵攻を受け多分を返しておらぬ。参戦? 攻撃され被害を受け、やり返さず黙っておるのが正義か」
「シール諸島は応戦しましたよね。戦っていないとは言えません。オルキ国はただ、やられたらやり返すだけです。こちらから攻撃しようなんて事はありません」
今ではアリヤも立派に主張を通せるようになった。皆がそれでも防衛と仕返しの攻撃に行くのは違うと主張する。アリヤはそれを笑顔で否定した。
「1000歩譲ってオルキ国の仕返しを糾弾されるのは受け入れましょう。ですが友好国となったフェイン王国やそのフェイン王国の船を護衛してくれたレノン共和国には、何を言われようと礼を尽くします」
アリヤが毅然とした態度で言い切り、一緒にシール諸島を回っていた皆もそれ以上続けられなかった。
「オルキ国の船を守るため動いてくれたレノン共和国のためです。オルキ国は手を貸します。他人に代わりに戦ってもらい、自分達は不戦を掲げて安泰に暮らすなんて恥ずべき事です。私も戦線に出る覚悟です」
「アリヤよ。貴様の出る幕などないぞ。民は国王に忠誠を誓うものだ。王は民を従えるに足る存在として国を守る。1人たりとも傷つけさせぬわ」
「島長、船の操舵には人が必要だろ? まあ島長だけで何とかしようと思わないでくれよ」
その場にいた各国の要人達は、オルキ国が敵国でなくて良かったと安堵した。
反論を伝えたからと言って無礼だと払いのけない。決して理性の利かない国ではない。
国交を結び友好国となったなら、その有事に駆け付けるのは当たり前だとする勇敢で気概のある姿勢。
国民を犠牲にせず自らが問題解決に動くと言い切れる自信と覚悟。
一方、国民は数十人で戦艦もたった2隻。その戦艦に載っていた戦闘機を飛ばす滑走路も甲板の上だけ。
長閑で典型的な田舎の自給自足暮らしを基本とする国なのに、オルキ国の王は実際に連合国を開戦から20年経ってようやく大被害にまで追い込んだ。
こんな国を仲間にこそすれ、敵にするつもりはない。
「言ったはずだ。吾輩は神に代わる存在となり、真の力を取り戻す。吾輩を崇拝する民のたった数十人も守り抜けずに神の影響力など引きはがせるものか」
人間の理論や理想とはやや違うとしても、オルキは自国と自分を理解し信じてくれる全ての者のために動くのは当然だと説いて聞かせた。
参戦していないから、関係ないからと他国の危機を見て見ぬふりしていた小国よりも、世界のために戦う事を決めたレノンやガーデ・オースタンの方がオルキの考えに近いかもしれない。
「……力がある国なら、その自信と決意を持てたのでしょうね」
「はぁー、まーったく貴様ら揃いも揃って何を聞いていた。吾輩と国交を結び、互いに誠意をもって交流すると誓ったばかりであろう。オルキ国が貴様らの力となるのだから、自信も決意もお替りし放題だろうに」
「オルキ国がなければ存続できないとなれば、それはもはや依存ですから。国として成り立つ以上、自立した国家でありたいのです」
「そのために他国との友好関係を築くのでしょう? とにかく、オルキ国はこういう国ですから。自立だの依存だのと渋った所でどうにもなりません。諦めて潔く誇り高く生きて下さい」
「アイザスも北の島でじっと怯えて暮らすのに疲れてきました。幸いにもオルキ国は隣国で、貿易も始まりました。互いのメリットを見つけてお互いに幸せになれる、そんな未来はもう訪れ始めた所です」
自力でどうにもならない時は助ける。助けて欲しくないならそう言え。オルキ国側からのそんなメッセージに、ついにはレノンまでもが頼らせてもらいますよと固い握手を交わす。
機械仕掛けをどこまで極めたのかと呆れる程精巧な時計台の装飾が、それぞれ少しずつ動いて人形劇を見せ始めた時、フェアアイル島の全域に知らせるような鐘の音が鳴り響いた。
正午を告げるその重厚で澄み渡った心地良い響きの中、皆が青空から再び町並みへと視線を戻す。
その瞬間、路地の裏から機械駆動車が猛スピードで現れ、目の前で止まった。
「何だ!?」
要職ばかりのため、警護の者も大勢いる。悪党が襲いに来たとしてもそう簡単にはいかない。
そう思いながら全員が身構えている中、運転席から1人の男が血相を変えたまま降りてきた。
「大統領! 大変でがす!」
「まあベベル補佐官? わらわらとしてなじょしたの、あげいしょもおだれてまあほんと」
それはアイザスの大統領補佐官を務めている男だった。
「ハァ、ハァ、おどげでねごと、で、がす、ハァ、ハァ……連合国が、オルキ国さ、攻めて」
「えっ!?」
オルキ国を攻めてという言葉は皆にハッキリと届いた。
連合国はオルキ国が島嶼防衛会議に出ると知り、オルキがいない間にオルキ国を目指して侵攻を始めたというのだ。
オルキ達が島を出てもう数日経つ。そろそろオルキ国にも到着し、攻撃を始めている頃だろう。もしかするとすでに上陸戦が始まっているかもしれない。
「あばぐづあげでわがんねですよ! ぐずらもずらしてねで、ちゃっちゃとすたぐしさいん!」
「何故その情報が入った」
「あ、はい! 定期船が島を離れて間もなくの所で、遥か沖に連合軍の大艦隊が見えたとの事でして。アイザス方面に進路を変え、荒波の中を全速力で報告に向かったんです! 暫くして無線が繋がり、アイザスに連絡が付きました」
「その無線は、恐らく連合国側にも探知されているでしょう。オルキ王、早く帰国を」
「……そうしよう。各国の長よ、中座を詫びよう」
オルキ達は港までの機械駆動車に乗り込み、すぐに乗って来た船で出発しようとする。そこへレノンの大使が駆け寄って来た。
「電話を借り、直ちに戦闘機をシール諸島へ回すよう手配しました。船よりも早く帰れるはずです」
「それは助かる。だが我が島には着陸用の滑走路がない」
「レノンと同じく連合軍から戦艦を1隻奪取しましたよね。アレスティングワイヤーを備えているのは確認済みです。特に改造していないのならワイヤー位置もそのままで使えるはず」
「あー、ワイヤーをひっかけて止めるあれか! ケヴィンが気付いてくれりゃ、なんとかなる、か。最悪はパラシュート降下だ」
「……帰りましょう。皆さま、慌ただしく退席する事をお許し下さい。きっとまた国際会議でお会いしましょう」
「アリヤ様、ちつけでいってがい」
「有難うございます。皆さま、ごきげんよう!」
可能性を考えなかった訳ではないが、万全の備えを済ませて出てきたわけではない。
メインランドに戻って荷物を整理し終えた頃、1機の戦闘機が着陸し、既に給油を始めていた。
「オルキ国の方々ですか!」
「そうです!」
「先月は兄が戦艦でお邪魔したらしく、一度行ってみたいと思っていたのです。こんな事態ではありますが、任務に就けたことを光栄に思います」
「感謝する。大変な時期だというのに貴重な戦闘機とパイロットを借りる事になってしまった。この恩は必ず倍にして返す」
「無事に送り届けてから、ゆっくりと。さあ、行きましょう!」
長距離飛行に耐えられる戦闘機に乗り込み、レノン共和国の戦闘機が青空へと飛び立った。
久しぶりの戦闘機を大勢の野次馬が見送る中、オルキは自身が不在となった島を案じ、柄にもなく焦りを感じていた。




